日本の森林率は約66〜68%、先進国中フィンランド・スウェーデンに次ぐ水準にある。森林蓄積は1966年の18億8700万m³から2017年には52億4200万m³へと約3倍に拡大した一方、木材自給率は2002年に過去最低の18.8%まで落ち込み、2023年時点でも43.0%にとどまる。林業産出額は2023年に木材生産だけで前年比9.6%減の3257億円。資源は豊富なのに使われていないという構造的な矛盾を、フィンランド・ドイツ・オーストリア・北米各国との定量比較から読み解くレポートシリーズの序論。

【W01】序論:比較枠組みと対象国の設定

本レポートは「日本の林業と海外の林業の比較【W】シリーズ」の第一部である。以降のW02〜W10各パートで用いる比較軸、対象国選定の根拠、および現状値としての基礎統計を提示する。

第一章 日本林業の現状概観

森林面積・森林率

国土地理院による令和6年10月1日時点の国土面積は3,779.76万haである。これに対し、林野庁「森林・林業白書」令和6年度版が示す森林面積は、令和4年3月31日現在で2,502.5千ha、すなわち2,502万5千haであり、国土に占める割合(森林率)は約66%である[4]。この森林率の算出は国内基準(湖沼面積を含む)によるものであり、FAO(国連食糧農業機関)の基準(湖沼面積を含まない)による算出では68.5%、または68.2%とする資料も存在する[3][14]。国内基準と国際基準で数値に差が生じる点は、算出根拠(湖沼面積の扱い)の相違によるものである[3]。

過去約60年間の推移を見ると、森林面積はほぼ一貫して2,500万ha強の水準で推移してきた。具体的には、昭和41年(1966年)の2,517万haに対し、平成24年(2012年)は2,508万ha、平成29年(2017年)は2,505万ha、令和4年(2022年)は2,502万haとなっており、この間の変動幅はわずか約25万ha、率にして1%未満にとどまる[5]。

森林の内訳:天然林・人工林

平成29年(2017年)時点の内訳では、天然林が1,348万ha、人工林が1,020万haである[2]。人工林は昭和41年(1966年)の793万haから増加し、平成7年(1995年)には1,040万haに達した。この約30年間で約31%増加しており、これは戦後に進められた「拡大造林」(広葉樹主体の天然林伐採跡地や原野に針葉樹人工林を計画的に造成する施策)によるものである[5]。この結果、同期間に天然林・その他森林の面積は1,724万haから1,475万haへ、約14%減少した[5]。人工林の樹種別構成は、スギが44%、ヒノキが25%、カラマツが10%と、針葉樹が中心である[6]。

森林蓄積

森林蓄積(森林を構成する樹木の幹の体積)は、資源量の目安として用いられる指標である。昭和41年(1966年)の18億8,700万m³に対し、平成29年(2017年)は52億4,200万m³であり、約3倍に増加した[2]。人工林の蓄積量については、令和年代の資料で約54億〜56億m³とする数値があり、そのうち面積ベースで人工林の6割が林齢50年生を超え利用期を迎えているとされる[5][6]。この森林蓄積が過去60年間ほぼ一貫して増加してきた一方で森林面積そのものはほぼ横ばいであった事実は、単位面積当たりの資源量(蓄積密度)が増加してきたことを意味する[推論]

林業産出額

農林水産省「令和5年林業産出額」によれば、令和5年(2023年)の林業産出額のうち木材生産の産出額は3,257億円で、前年に比べ348億円(9.6%)減少した[7]。この減少は、燃料用チップ素材の利用量および丸太輸出量は増加したものの、新設住宅着工戸数の減少により需要が減少し、すぎ等の製材用素材の価格低下・生産量減少が影響したためと分析されている[7]。栽培きのこ類生産の産出額は2,199億円で、前年に比べ133億円(6.4%)増加した[7]。内閣府資料によれば、我が国の林業産出額は近年約4,500億円前後で推移し、木材生産額と栽培きのこ類生産額がほぼ半々を占める構造にあるとされる[9]。木材(丸太)価格は高度経済成長期の需要増大を背景に1980年にピークを迎えた後、木材需要の低迷や輸入材との競合等により長期的に下落し、近年はほぼ横ばいないしやや上昇で推移している[9]。

木材自給率・木材需給

林野庁「令和5年木材需給表」(令和6年9月公表、令和7年1月修正)によれば、令和5年(2023年)の木材自給率は43.0%であり、前年に比べ2.3ポイント上昇した[10]。用途別では、建築用材等の自給率が55.3%(前年比5.8ポイント上昇)、非建築用材等の自給率が36.0%(前年比1.8ポイント上昇)である[10]。木材自給率の算出式は「自給率=国内生産量÷総需要量×100」である[10]。

木材自給率は過去に大きく低下した経緯があり、平成14年(2002年)に過去最低の18.8%を記録した[12]。その後、自給率は回復基調にあり、令和5年時点の43.0%は最低値の約2.3倍に相当する[12]。木材需要量については、令和5年(2023年)の総需要量が7,985万3千m³で、前年比6.1%(521万6千m³)の減少であった[12]。国内生産量は、令和4年(2022年)時点で3,461万7千m³であった[27]。木材供給量・総需要量は昭和48年(1973年)にピークを記録したとする資料もある[28]。

第二章 比較対象国の選定

選定の基本方針

シリーズでは、林業経営の類型が異なる複数の海外事例を比較対象とする。選定にあたっては、(1)森林率が高く林業が主要産業の一つである国、(2)経営規模・施業方式が対照的な国、(3)政府統計・FAO統計等の定量データが入手可能な国、の3条件を目安とした[推論]。これにより、北欧型(フィンランド・スウェーデン)、中欧型(ドイツ・オーストリア)、北米型(アメリカ・カナダ)を主たる比較対象とする。ニュージーランドについては、南半球における大規模人工林経営(ラジアータパイン単一樹種造林)の事例として、データが確認できる範囲で言及する。

森林率の国際比較

FAO Global Forest Resources Assessment(FRA)2015に基づく資料では、各国の森林面積・森林率は次の通りである[13]。

森林面積(百万ha) 総土地面積(百万ha) 森林率(%)
フィンランド 22 30 73
スウェーデン 28 41 68
ドイツ 11 35 33
イギリス 3 24 13
EU-28計 161 424 38

なお、別のFAO統計値を引用した資料では、フィンランド73.9%、スウェーデン66.9%、ロシア47.9%、アメリカ合衆国33.1%、カナダ33.6%、オーストラリア21.3%、ブラジル57.2%とされている[14]。日本については同資料で68.2%と記載されている[14]。オーストリアについては、森林技術協会の学術系機関誌に掲載された資料で47%と報告されている[15]。ドイツ、スイス、フランスは3割前後の水準にあるとされる[15]。ニュージーランドの正確な森林率については、本レポート作成時点で林野庁またはFAO一次資料による確認ができておらず、不明である。

以上を統合すると、森林率で見た場合の順位はおおむね、フィンランド(73〜74%)、日本(66〜68%)、スウェーデン(67〜69%)、オーストリア(47%)、ロシア(48%)、ブラジル(57%)、カナダ(34%)、アメリカ(33%)、ドイツ(32〜33%)、オーストラリア(21%)の順となる[13][14][15]。日本はOECD加盟37カ国中、フィンランド・スウェーデンに次ぐ第3位の森林率とする資料が複数存在する[6][47]が、この順位はOECD加盟国のみを対象とした場合の順位であり、世界全体を対象とした順位とは異なる点に留意が必要である[推論]

森林産業従事者数・木材消費量の国際比較

森林技術協会機関誌掲載資料(2013年)によれば、欧州の森林産業部門従事者数、および丸太換算1人当たり木材消費量、丸太換算純貿易量について国別データが示されている。同資料ではオーストリアの森林率は47%、現存森林のうち天然更新した割合はスイス82%、フィンランド72%、スウェーデン62%、スロバキア59%、ドイツ52%とされている[15]。この天然更新率の差は、各国の施業方式(皆伐・人工植栽中心か、択伐・天然更新活用中心か)の違いを反映していると考えられる[推論]。この点の詳細な検証はW03(再生産効率)およびW08(環境・持続可能性)で扱う。

第三章 比較軸の定義

以降のW02〜W08各パートで用いる評価軸は、次の7区分とする。それぞれの軸で扱う主要指標を併記する。

パート 比較軸 主要指標(例)
W02 林地・資源基盤 森林面積、人工林率、樹種構成、地形条件、所有形態
W03 再生産効率(育林・更新・人材) 成長量(m³/ha/年)、再造林率、育林コスト、林業従事者数・年齢構成
W04 輸送・インフラ 林道密度、路網整備率、集材システム、輸送コスト
W05 木材加工・産業構造 製材工場規模分布、乾燥技術・配送体制、高次加工品普及度
W06 輸出・貿易構造 木材自給率、輸出入量、為替・関税・規格認証
W07 エネルギー利用 木炭・薪炭材生産量、木質バイオマス発電導入量、熱電併給普及度
W08 環境・持続可能性 森林認証面積、生物多様性、炭素貯留・カーボンクレジット

各パートは、日本の定量データを提示した上で、選定した海外事例(北欧型・中欧型・北米型)の対応データと並置する構成を基本とする。データの一次出典が政府統計・学術論文で確認できない場合は、その旨を明記し、数値の使用を避ける。

年表

  1. 1897年(明治30年) 森林法(旧法、法律第46号)制定[16][17]
  2. 1907年(明治40年) 森林法一部改正、公有林野監督強化・森林組合制度創設(既往解説資料による)[18]
  3. 1939年(昭和14年) 森林法大改正[18]
  4. 1951年(昭和26年) 現行森林法(法律第249号)公布[18][21]
  5. 1964年(昭和39年) 林業基本法(法律第161号、後の森林・林業基本法)制定[19]
  6. 1966年 森林資源現況調査、森林面積2,517万ha・森林蓄積18億8,700万m³[2][5]
  7. 1973年(昭和48年) 木材供給量・総需要量が資料上のピークとされる[28]
  8. 1980年 木材(丸太)価格のピークを記録[9]
  9. 1995年(平成7年) 人工林面積1,040万haに到達[5]
  10. 1996年(平成8年) 木材需給に関する資料でピークとされる年[28]
  11. 2001年(平成13年) 林業基本法を改正し森林・林業基本法に改称[19][62]
  12. 2002年(平成14年) 木材自給率が過去最低の18.8%を記録[12]
  13. 2012年 森林資源現況調査、森林面積2,508万ha[2]
  14. 2017年 森林資源現況調査、森林面積2,505万ha・森林蓄積52億4,200万m³[2]
  15. 2019年度 木材生産の産出額が2,700億円(令和元年林業産出額)[8]
  16. 2022年(令和4年) 木材自給率40.7%[27]、国内生産量3,461万7千m³[27]
  17. 2023年(令和5年) 木材生産産出額3,257億円(前年比9.6%減)[7]、栽培きのこ類産出額2,199億円[7]
  18. 2023年(令和5年) 木材自給率43.0%(建築用材等55.3%)[10]、総需要量7,985万3千m³[12]
  19. 2024年 森林面積2,502万5千ha(令和4年3月31日現在、令和6年度森林・林業白書掲載)[4]
  20. 2024年9月 「令和5年木材需給表」公表(令和7年1月に自給率数値を修正)[10][22]
  21. 2025年 「令和6年度森林・林業白書」公表、特集テーマ「生物多様性を高める林業経営と木材利用」[20]

※2番目の項目(1907年森林法改正)は、複数の百科事典的記述で言及されているが、本レポート作成時点で一次法令資料による厳密な確認が完了していない。参考情報として掲載するが、事実関係は原典(法令全書等)での確認を要する。

用語集

  • 森林率:国土(総土地)面積に占める森林面積の割合。国内基準とFAO基準で算出方法(湖沼面積の扱い)が異なり、数値に差が生じる。
  • 森林蓄積:森林を構成する樹木の幹の体積の総量。森林資源量の目安となる指標。
  • 人工林:人の手により植栽され育成された森林。日本ではスギ・ヒノキ・カラマツ等の針葉樹が中心。
  • 天然林:自然の力により生育・更新した森林。広葉樹林が多い。
  • 拡大造林:戦後、天然林伐採跡地や原野に針葉樹を中心とした人工林を計画的に造成した施策。
  • 木材自給率:国内生産量÷総需要量×100で算出される指標。
  • 林業産出額:木材生産、栽培きのこ類生産、薪炭生産、林野副産物採取等からなる林業部門の産出額。農林水産省が毎年公表。
  • 森林法:森林の保続培養と森林生産力の増進、森林計画・保安林制度等を定めた法律。1897年(明治30年)制定、1951年(昭和26年)全部改正。
  • 森林・林業基本法:森林・林業施策の基本方針を定めた法律。1964年制定時は「林業基本法」、2001年改正で現行名称となった。
  • FAO(正式名称:Food and Agriculture Organization of the United Nations、日本語訳:国際連合食糧農業機関):森林資源評価(FRA)等の国際統計を公表する国連専門機関。
  • FRA(Global Forest Resources Assessment、日本語訳:世界森林資源評価):FAOがおおむね5年ごとに実施する森林資源に関する国際調査。
  • OECD(正式名称:Organisation for Economic Co-operation and Development、日本語訳:経済協力開発機構):森林率等の国際比較における加盟国区分の基準として用いられる。
  • 林野庁:農林水産省の外局として森林・林業行政を所管する国の機関。

参考文献

  1. 林野庁「森林・林業統計要覧2025」農林水産省。https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/toukei/youran_mokuzi2025.html
  2. nippon.com「日本の森林:50年間で資源量は3倍に『森林率』は先進国中第2位」(林野庁「森林資源の現況」調査データに基づく)。https://www.nippon.com/ja/japan-data/h00737/
  3. 私の森.jp「日本の森林分布・面積」(FAOデータに基づく)。https://watashinomori.jp/study/basic_01-2.html
  4. 森林・林業.com「日本の森林面積と森林率」(森林・林業白書令和6年度版データに基づく)。https://www.shinrin-ringyou.com/forest_japan/menseki_japan.php
  5. 森林・林業.com「日本の森林面積と森林蓄積の推移」。https://www.shinrin-ringyou.com/forest_japan/menseki_tikuseki.php
  6. JWDA WOOD DESIGN LIBRARY「日本の森林・木材利用の現状」。https://www.jwda.or.jp/wood-design-lib/3505/
  7. 農林水産省「令和5年林業産出額」。https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/ringyo/r5/index.html
  8. 農林水産省「令和元年 林業産出額」。https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/ringyo/r1/index.html
  9. 内閣府 規制改革推進会議 農林水産ワーキング・グループ資料。https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/nousui/210831/210831nousui_ref01_02.pdf
  10. 林野庁「令和5年木材需給表の公表について」(令和6年9月27日、令和7年1月16日修正)。https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/kikaku/240927.html
  11. 林野庁「令和4年木材需給表の公表について」(令和5年9月29日)。https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/kikaku/230929.html
  12. 林野庁広報誌掲載資料(木材自給率の推移グラフ、平成14年最低値18.8%)。https://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/kouhousitu/jouhoushi/attach/pdf/0610-7.pdf
  13. Forest Research(UK)「Forest cover: international comparisons」(FAO Global Forest Resources Assessment 2015に基づく)。https://www.forestresearch.gov.uk/tools-and-resources/statistics/forestry-statistics/forestry-statistics-2018/international-forestry/forest-cover-international-comparisons/
  14. Weblio辞書/Wikipedia「森林率」(FAOSTAT等に基づく)。https://ja.wikipedia.org/wiki/森林率
  15. 森林技術協会機関誌「2013年6月号 ヨーロッパ林業の最前線―組織制度に焦点をあてて―」。https://www.forestry.jp/content/images/2021/10/68.pdf
  16. 日本法令索引「森林法 明治30年4月12日法律第46号」国立国会図書館。https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000004060&current=-1
  17. Wikipedia「森林法」。https://ja.wikipedia.org/wiki/森林法
  18. コトバンク「森林法」(日本大百科全書等)。https://kotobank.jp/word/森林法-82757
  19. Wikipedia「森林・林業基本法」。https://ja.wikipedia.org/wiki/森林・林業基本法
  20. 林野庁「令和6年度森林・林業白書を本日公表」報道発表資料。https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/kikaku/250603.html
  21. 日本法令索引「森林法 昭和26年6月26日法律第249号」国立国会図書館。https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000043815&current=-1
  22. 農林水産省「林業産出額」統計トップページ。https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/ringyou_sansyutu/
  23. 齋藤木材工業株式会社「世界・日本の森林面積ランキング」(林野庁作成資料・FRA2020データに基づく)。https://mori-naka.jp/article/2900/
  24. 図録「OECD諸国の森林面積比率と森林利用率」。https://honkawa2.sakura.ne.jp/0680.html
  25. 林野庁「令和5年(2023年)木材需給表」令和6年9月(令和7年1月修正公表)企画課。https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/kikaku/attach/pdf/240927-3.pdf