「交まち団体」シリーズ第5弾。海外4類型の最終回として、既存の団体・自治体を会員としてねる国際フェデレーション・政策インスティテュート型を検討する。反戦運動としての自転車人道支援から出発したITDPと、欧州40カ国70団体をねるEuropean Cyclists’ Federation。個人ではなく組織同士を橋渡しする「二次的な橋渡し」という論理を、これまでの4類型と対比しながら読み解く。

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はじめに

本稿は「交まち団体」シリーズの第5回として、国際フェデレーション・政策インスティテュート型に分類される二つの団体、米国発の国際政策インスティテュートInstitute for Transportation and Development Policy(ITDP)と、欧州の自転車推進団体をねるフェデレーションEuropean Cyclists’ Federation(ECF)を検討する。これまでの4回(XCT01〜XCT04)で扱った団体が、いずれも単一の都市・国を主たる活動基盤としていたのに対し、本稿で扱う二団体は、既に存在する国内・地域の団体や自治体を「会員」としてねる、いわば「組織のネットワーク」としての性格を持つ点で、これまでとは異なる組織設計上の課題に直面している。すなわち、個々の住民を直接に動員するのではなく、既に動員を終えた組織体を、いかにして一段上位のネットワークへと接続するかという課題である。

ITDP:反戦運動から出発した国際政策インスティテュート

沿革:マイケル・レプログルと「爆弾ではなく自転車を」

ITDPの起源は、1984年に持続可能な交通の専門家マイケル・レプログルが着想した「Bikes Not Bombs(爆弾ではなく自転車を)」というキャンペーンにさかのぼる。これは、米国政府によるニカラグア爆撃への対応として、農村部で働く教師や医療従事者に移動手段としての自転車を人道支援として送るという発想であった[1]。レプログル自身の回顧によれば、「自転車クラブや教会を組織して中古自転車の寄付を募ることで、自国政府の行動を止められないと感じていた一般の米国市民に力を与える手段とすると同時に、基礎的な移動手段がいかに生活の質を大きく改善しうるかを示す方法でもあった」という[1]。このキャンペーンを通じて1万台の自転車がニカラグアの教師・医療従事者に届けられた[2]。翌1985年、この活動枠組みを制度化する形でInstitute for Transportation and Development Policyが法人として設立された[1]。レプログルは1985年から1992年、および1998年から2009年まで同団体の会長を務め、2009年から2015年までは政策担当マネージングディレクターを務めた[2]。レプログルが1987年に発表した論文は「持続可能な交通(sustainable transport)」という用語を初めて定義したものとされる[2]。

世界銀行への働きかけと途上国BRTの推進

設立から最初の10年間、ITDP世界銀行をはじめとする多国間開発金融機関の融資活動を、道路建設に偏重した姿勢から、多様な交通手段を組み合わせた解決策へと方向転換させるための働きかけに注力した[1]。あわせて、ハイチ、ニカラグア、モザンビーク、南アフリカ、西アフリカ各地における自転車産業の育成支援も行った[2]。その後の活動の重心は、バス高速輸送システム(BRT)の整備、自転車・徒歩交通の推進、そして途上国における自転車・リキシャ産業の強化へと移っていった[3]。設立30周年を迎えた2015年前後には、インドのスマートシティ構想への参画、ナイロビでの新事務所開設、チェンナイ・コインバトールでのカーフリーデーの実現、メキシコシティへのVision Zero導入への関与、中国宜昌とインド・プネーにおけるBRTシステムの整備など、活動が地理的にも政策領域的にも拡大していったことが記録されている[4]。

Cycling Cities Campaign:2021年以降の国際連携キャンペーン

2021年、ITDPCOP26(グラスゴー)において「Cycling Cities Campaign」を開始した。同キャンペーンは、国連環境計画、European Cyclists’ Federation、PeopleForBikes、UN-Habitatを含む30以上の国際機関・団体との連携のもとで運営されており、2025年までに2,500万人に安全な自転車インフラへのアクセスを提供するという数値目標を掲げている[5]。対象は主にグローバルサウスの34都市のコホートであり、開始1年目にはUN-Habitatとの共催による「Riding into a New Urban Agenda」イベント、ボゴタ・ニュータウンコルカタ(包摂的な自転車利用)、メキシコシティ(自転車シェアリング)、グラスゴー(自転車ネットワーク計画)、ジャカルタ、キスムを対象とするベストプラクティス共有シリーズ、都市計画者・実務者向けのオンライン講座「Mastering the Cycling City Course」が展開された[6]。2年目にはインドのニュータウンコルカタにおける「Streets for People Program」が公共間活用の事例として紹介されている[7]。2025年の振り返り記事では、ブルームバーグ・イニシアチブ(自転車インフラ整備支援)、オランダ政府による世界銀行「Global Facility to Decarbonize Transport」への50万ユーロの拠出、2026年開始予定の「国連持続可能な交通の10年」、「インクルーシブで公正なモビリティのためのハンブルク憲章」への署名など、同キャンペーンが国際的な気候・開発政策の枠組みとの接続を強めていることが報告されている[8]。

資金・人材モデル

ITDPの資金構造は、財団助成を中心とする共同出資型のキャンペーン運営に特徴がある。Cycling Cities Campaignのような大規模な国際連携キャンペーンでは、ITDP単独が全資金を調達するのではなく、UCI(国際自転車競技連合)をはじめとする参加団体それぞれが自らの資金・専門知を持ち寄る「共同出資」の形式が採られている[5]。人材確保の面では、専門職スタッフを雇用する一方、グローバルサウスの各都市に現地のパートナー団体を発掘し、コホート形式で毎年支援対象を選定・育成する体制を採っている。

主要先行研究

ITDP 公式サイト「History」ページ[1]、Wikipedia「Institute for Transportation and Development Policy」項目、Wikipedia「Michael Replogle」項目[2]、LinkedIn「Institute for Transportation and Development Policy」掲載紹介文[3]、ITDP Indonesia「History」ページ[4]、UCI「New Cycling Cities Campaign aims to benefit millions of people worldwide」掲載記事[5]、ITDP公式ブログ「Pedaling On: Celebrating One Year of ITDP’s Cycling Cities Campaign」[6]、ITDP公式ブログ「Two Years In, ITDP’s Cycling Cities Campaign Continues to Make Moves」[7]、ITDP公式ブログ「Riding into 2025, We Face a Pivotal Moment for Urban Cycling」[8]

European Cyclists’ Federation:国内団体を束ねるフェデレーション

沿革と組織構造

European Cyclists’ Federation(ECF)は1983年、ブリュッセルを拠点として設立された非営利団体であり、自らを「欧州における自転車利用の質と量を高めることに専心する独立した非営利団体」、かつ「汎欧州レベルにおいて欧州の自転車推進運動を統一する唯一の市民社会の声」と位置づけている[9]。2026年時点で40カ国70以上の加盟団体を擁し、世界最大かつ最も広く知られた自転車推進団体であるとされる[9]。この組織構造は、個人会員を直接勧誘するのではなく、既に各国・地域で活動している自転車推進団体をそのまま会員として迎え入れる、いわば「団体の団体」というフェデレーション型のガバナンスを特徴とする。

Cities & Regions for Cyclistsという自治体ネットワーク

ECFは、個人・団体会員とは別建てで、自治体を会員とするネットワーク「Cities & Regions for Cyclists(CRC)」を運営している。2026年6月時点でCRCは60以上の地方・広域自治体で構成されており、同年にはクロアチアのヴァラジュディン市、カナダのケベックシティが新規加盟している[10]。ECFはこのほか、汎欧州自転車ルート網EuroVeloの調整主体を務め、持続可能な観光を推進する国際団体Global Sustainable Tourism Council(GSTC)とEuroVeloに関する協力覚書を締結し、欧州委員会が2026年10月に公表を予定する初の「EU持続可能な観光戦略」に対する提言活動も行っている[10]。雇用主向けの認証制度「Cycle-Friendly Employer(CFE)」の運用や、食品配送大手Woltとの協働による配送用電動自転車・貨物自転車の普及促進など、政策提言にとどまらない実務的な事業も展開している[10][11]。

資金・人材モデル

ECFの資金構造は、加盟団体からの会費、EUプロジェクト助成、そしてCRCの自治体会員からの参加料を組み合わせたものである。2025年11月には、EU都市モビリティの研究・実装を担う機関EIT Urban Mobilityとの間で、2026年から2028年までの協力覚書を更新しており、知識交流、政策提言、共同プロジェクト、データ協働等の分野での連携を強化するとしている[11]。この協定は、ECF会長ヘンク・スワルトーとEIT Urban Mobility最高経営責任者マルク・ローゼンダールによって、2026年のバルセロナで開催されたTomorrow.Mobility World Congressにおいて正式に署名された[11]。人材確保の面では、各国の既存自転車推進団体をそのまま加盟員とすることで、新規に専門人材を一から育成するコストをかけずに、欧州全域にまたがる専門人材プールをそのまま継承できる点が最大の特徴である。同団体は2022年からECF Awardsを実施しており、2026年時点で5回目の受賞者を選出している[12]。

主要先行研究

European Cyclists’ Federation 公式サイト「EIT Urban Mobility and European Cyclists’ Federation renew partnership」掲載記事[9]、ECF 公式サイト「News & Events」ページ[10]、ECF 公式サイト「EIT Urban Mobility and European Cyclists’ Federation renew partnership to accelerate the shift to sustainable urban mobility」掲載記事[11]、ECF 公式サイト「News & Events」ページ(ECF Awards関連)[12]

両団体の理論的位置づけの比較

組織制度同型化論(DiMaggio and Powell, 1983)[13]の観点からは、ITDPECFはいずれも規範的同型化(専門職集団の規範を通じた均質化)の担い手として機能している側面が強い。ITDPのCycling Cities Campaignが提供する「Mastering the Cycling City Course」のような教育プログラムや、ECFのCycle-Friendly Employer認証制度は、いずれも参加する都市・団体・企業に対して、一定の標準化された実践規範を提供するものであり、両団体の主たる機能が個々の住民の動員よりも、既存の実務者・組織間の規範共有にあることを示している。

資源依存理論(Pfeffer and Salancik, 1978)[14]の観点からは、両団体の資金構造にも共通の特徴が見られる。ITDPの共同出資型キャンペーン運営、ECFの加盟団体会費とEUプロジェクト助成の組み合わせは、いずれも単一の資金提供者への依存を避け、複数の主体から資源を調達する設計になっている。ただし、ECFの場合、EU機関との協力覚書(EIT Urban Mobility等)が資金・活動双方の面で大きな比重を占めており、欧州連合という単一の政治的枠組みへの依存度は、ITDPが多様な財団・多国間機関から資金を調達する構造と比較すると、相対的に高いと考えられる(【推論】)。

社会関係資本論(Putnam, 2000)[15]の観点からは、両団体は個々の住民の橋渡しではなく、既に橋渡しを終えた組織同士のさらなる橋渡し、いわば「二次的な橋渡し」を担っていると位置づけられる。この二次的な橋渡しの機能は、本シリーズがこれまで検討してきた他の団体(XCT01〜XCT04)がいずれも個人・地域コミュニティを直接の対象としていたのとは異なる、より上位のネットワーク形成の論理である。この違いは、日本における交通まちづくりネットワークの発展段階を考えるうえでも示唆的であり、個々の地域活動が一定程度成熟した後の段階で、地域間・団体間の連合体を形成するという時間的な順序を示唆している(【推論】)。

比較表:ITDPとEuropean Cyclists’ Federation

項目 ITDP European Cyclists’ Federation
設立年・場所 1985年、米国(前身のBikes Not Bombsキャンペーンは1984年) 1983年、ベルギー・ブリュッセル
組織形態 専門職スタッフを擁する国際政策インスティテュート 40カ国70以上の団体を会員とするフェデレーション
巻き込みの型 グローバルサウス都市コホートを対象とした共同出資型キャンペーン 既存の国内・地域団体、および自治体ネットワーク(CRC)の会員化
資金調達 財団助成中心の共同出資型キャンペーン運営 加盟団体会費、EUプロジェクト助成、自治体会員料、EU機関との協力覚書
人材確保 専門職スタッフの雇用とグローバルサウス都市のコホート育成 各国既存団体をそのまま加盟員とする専門人材プールの継承

おわりに

本稿では、国際フェデレーション・政策インスティテュート型に分類される二団体、ITDPEuropean Cyclists’ Federationを検討した。両団体はいずれも個々の住民を直接動員するのではなく、既存の組織・自治体を会員としてねる「組織のネットワーク」という設計を採っており、これは本シリーズがこれまで検討してきた地域密着型の団体とは異なる組織論理に基づいている。ITDPの起源が反戦運動としての人道支援キャンペーンにあったという事実は、交通に関する国際的な政策インスティテュートが、必ずしも交通政策そのものへの関心から出発するとは限らないことを示す興味深い事例である。

本稿をもって、海外4類型(XCT02〜XCT05)の個別検討を終える。次回(XCT06、最終回)では、これまでの検討を踏まえ、国内類似活動(ソトノバ、グラウンドワーク三島、地域鉄道存続支援団体、全国路面電車ネットワーク/RACDA)との比較を行い、日本における交通まちづくりネットワーク立ち上げの具体的な設計を提示する。

参考資料一覧

  1. ITDP. 公式サイト「History of ITDP」ページ。
  2. Wikipedia.「Institute for Transportation and Development Policy」項目、「Michael Replogle」項目。
  3. LinkedIn.「Institute for Transportation and Development Policy」掲載紹介文。
  4. ITDP Indonesia. 公式サイト「History」ページ。
  5. UCI(国際自転車競技連合).「New Cycling Cities Campaign aims to benefit millions of people worldwide」掲載記事。
  6. ITDP. 公式ブログ「Pedaling On: Celebrating One Year of ITDP’s Cycling Cities Campaign」。
  7. ITDP. 公式ブログ「Two Years In, ITDP’s Cycling Cities Campaign Continues to Make Moves」。
  8. ITDP. 公式ブログ「Riding into 2025, We Face a Pivotal Moment for Urban Cycling」。
  9. European Cyclists’ Federation. 公式サイト「EIT Urban Mobility and European Cyclists’ Federation renew partnership to accelerate the shift to sustainable urban mobility」掲載記事。
  10. European Cyclists’ Federation. 公式サイト「News & Events」ページ。
  11. European Cyclists’ Federation. 公式サイト「EIT Urban Mobility and European Cyclists’ Federation renew partnership」掲載記事(協定署名詳細)。
  12. European Cyclists’ Federation. 公式サイト「News & Events」ページ(ECF Awards関連)。
  13. DiMaggio, P. J. and Powell, W. W. (1983). The Iron Cage Revisited: Institutional Isomorphism and Collective Rationality in Organizational Fields. American Sociological Review, 48(2), 147-160.
  14. Pfeffer, J. and Salancik, G. (1978). The External Control of Organizations: A Resource Dependence Perspective. Harper & Row.
  15. Putnam, R. D. (2000). Bowling Alone: The Collapse and Revival of American Community. Simon & Schuster.

年表

  • 1984年 ― レプログルがBikes Not Bombsキャンペーンを開始、1万台の自転車をニカラグアへ
  • 1985年ITDPが法人として設立
  • 1985年 ― レプログルがITDP初代会長に就任(1985〜1992年)
  • 1987年 ― レプログルが「持続可能な交通」の語を初めて定義する論文を発表
  • 1992年 ― レプログルが会長職を一時退任
  • 1998年 ― レプログルがITDP会長に再任(1998〜2009年)
  • 2009年 ― レプログルが政策担当マネージングディレクターに就任(2009〜2015年)
  • 2015年ITDPが設立30周年を迎え、ナイロビに新事務所を開設
  • 2022年ECF Awardsの実施が開始
  • 2022年4月ITDPUN-Habitatと共催で「Riding into a New Urban Agenda」イベントを開催
  • 2023年 ― インド・ニュータウンコルカタで「Streets for People Program」を実施
  • 2025年1月ITDPがブルームバーグ・イニシアチブ等の進捗を総括する記事を公表
  • 2025年11月5日ECFとEIT Urban Mobilityが2026〜2028年の協力覚書を更新
  • 2026年 ― 「国連持続可能な交通の10年」が開始予定
  • 2026年 ― オランダ政府が世界銀行Global Facility to Decarbonize Transportへ50万ユーロを拠出
  • 2026年 ― クロアチア・ヴァラジュディン市とカナダ・ケベックシティがCRCに新規加盟
  • 2026年ECFがWoltと協働し配送用電動自転車・貨物自転車の普及を推進
  • 2026年ECF会長ヘンク・スワルトーとEIT Urban Mobility CEOマルク・ローゼンダールがバルセロナで協定に署名
  • 2026年9月30日〜10月2日ECF年次会議がオランダ・ユトレヒトで開催
  • 2026年10月欧州委員会EU持続可能な観光戦略を公表予定

用語集

  • Cycling Cities Campaign, サイクリング・シティーズ・キャンペーン:ITDPが2021年のCOP26で開始した、主にグローバルサウス都市を対象とする自転車インフラ普及の国際連携キャンペーン
  • Cities & Regions for Cyclists (CRC), シティーズ・アンド・リージョンズ・フォー・サイクリスツ:ECFが運営する、自転車推進に取り組む自治体を会員とするネットワーク
  • EuroVelo, ユーロベロ:ECFが調整主体を務める汎欧州自転車ルート網
  • Cycle-Friendly Employer (CFE), サイクル・フレンドリー・エンプロイヤー:従業員の自転車通勤を推進する企業に対するECFの認証制度
  • Bikes Not Bombs, バイクス・ノット・ボムズ:1984年にマイケル・レプログルが着想した、中古自転車をニカラグアへ人道支援として送るキャンペーン(ITDP設立の前身)

Claude ログ

Citation整合性を確認しました(1〜15が本文初出順・参考資料一覧15件と一致)。## 正式タイトル

【XCT05】交まち団体 国際フェデレーション・政策インスティテュート型:ITDPEuropean Cyclists’ Federation

SNSリード文(198字)

「交まち団体」シリーズ第5弾。海外4類型の最終回として、既存の団体・自治体を会員としてねる国際フェデレーション・政策インスティテュート型を検討する。反戦運動としての自転車人道支援から出発したITDPと、欧州40カ国70団体をねるEuropean Cyclists’ Federation。個人ではなく組織同士を橋渡しする「二次的な橋渡し」という論理を、これまでの4類型と対比しながら読み解く。

これで海外4類型(XCT02〜XCT05)の個別検討が完了しました。次回はいよいよ最終回のXCT06(国内類似活動との比較と日本での交通まちづくりネットワーク立ち上げ設計)に進めます。