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目次
はじめに
PEC01では交通管理・運用制御工学という分野の学問的位置づけを整理した。本稿はその第二回として交通流理論の基礎方程式とボトルネック分析を扱う。グリーンシールズ・モデルの完全な導出からLWRモデルという保存則、複数の基本図モデル、そして衝撃波理論による渋滞の形成と解消のメカニズムまでを、具体的な数式と数値例を通じて検討する。
グリーンシールズ・モデルの完全な導出
速度・密度関係式
PEC01で確認した通り、グリーンシールズは1934年に速度と密度の間に線形の関係が成り立つことを発見した。この関係は次の式で表される[1]。
v(ρ) = vf × (1 - ρ/ρm)
ここでvfは自由流速度、すなわち交通量がゼロに近い状態での車両の平均速度を表す。ρmは渋滞密度、すなわち車両が完全に停止しそれ以上詰め込むことができない状態での密度を表す。密度ρがゼロに近づくほど速度vはvfに近づき、密度ρが渋滞密度ρmに近づくほど速度vはゼロに近づく。
交通量・密度関係式——放物線の導出
q = v × ρ
この式に先の速度・密度関係式を代入すると、交通量は密度の関数として次のように表される[2]。
q(ρ) = vf × ρ × (1 - ρ/ρm)
この式を展開するとq(ρ)=vf×ρ-(vf/ρm)×ρ²となる。これはρについての上に凸な2次関数であり、密度と交通量の関係を放物線として描くことになる。
臨界密度と最大交通量の導出
この放物線が最大値を取る密度、すなわち臨界密度ρcは、q(ρ)をρで微分しゼロと置くことで求められる。微分の結果はvf-(2vf/ρm)×ρとなり、これをゼロと置くと次の関係が得られる[3]。
ρc = ρm/2
すなわちグリーンシールズ・モデルにおいては、臨界密度は渋滞密度のちょうど半分となる。このρc=ρm/2という結果は自由流速度vfの値には依存しない[3]。
この臨界密度を交通量の式に代入すると、最大交通量すなわち容量Cが次のように求められる。
C = q(ρm/2) = vf×(ρm/2)×(1-1/2) = vf×ρm/4
具体的な数値例による容量の計算
ある高速道路区間について、自由流速度vfが100km/時、渋滞密度ρmが200台/kmと観測されたとする。この区間の臨界密度と容量は次のように計算される。
臨界密度 ρc = 200/2 = 100台/km
容量 C = 100×200/4 = 5,000台/時
この区間は密度が100台/kmに達したとき、1時間あたり最大5,000台という交通量を処理できる。このとき速度はv(100)=100×(1-100/200)=50km/時にまで低下している。最大交通量は自由流速度の、ちょうど半分の速度で達成される。
グラフによる、2つの関係の確認
以上の、速度・密度関係、及び交通量・密度関係を、それぞれグラフで確認する。次の図は、先の数値例(vf=100km/時、ρm=200台/km)に基づく、速度・密度関係の直線を示す。
図1 速度・密度関係(線形)
次の図は、同じ数値例に基づく、交通量・密度関係、すなわち、基本図を示す。放物線の頂点が、臨界密度ρc=100台/km、容量C=5,000台/時の位置にあることが、視覚的に確認できる。
LWRモデル——交通流の保存則
1955年、河川流モデルの続編としての起源
グリーンシールズの速度・密度関係式は、単独では交通流の時間的な変化を記述できない。この課題に答えたのが1955年、ライトヒルとホイッタムが提示したLWRモデルである。興味深いことにこの論文は、河川の流れに関する先行論文の続編として発表されたものであった[4]。1956年にはリチャーズが独立に、これと同等のモデルを提案しており、両者の名前をあわせてこのモデルの名称としている[4]。
保存則という偏微分方程式
LWRモデルの核心をなすのが、次の車両の保存則を表す偏微分方程式である[5]。
∂ρ/∂t + ∂q/∂x = 0
この式は、ある地点における密度の時間的な変化率が、その地点における交通量の空間的な変化率の符号を反転した値に等しいことを意味する。直感的には、ある区間への流入が流出を上回れば密度は増加する、ということを表現したものである。この式自体は、密度と交通量との間に何らかの関係が成り立つ限り常に成立する一般的な保存則である[5]。
他の基本図モデル
三角形基本図
グリーンシールズ・モデルは単純で扱いやすい反面、実測データとの適合性という点では限界がある。この限界を補う、代表的な代替モデルが、1994年にダガンゾが体系化した三角形基本図である[6]。この基本図は2本の直線からなる区分的な関数として定義される。
Q(ρ) = min { vf×ρ, w×(ρm-ρ) }
wは渋滞時における衝撃波速度を表す、新たなパラメータである。三角形基本図における臨界密度は、次のようにvfとwの比率に応じて決まる[7]。
ρc = w/(vf+w) × ρm
グリーンシールズ・モデルと異なり、臨界密度は渋滞密度のちょうど半分にはならない。この非対称性こそが、三角形基本図の方が実測データによく適合するとされる理由の一つである[7]。
メイの公式という指数関数モデル
もう一つの代表的な代替モデルが、メイによる指数関数を用いた速度・密度関係式である[8]。
v(ρ) = vf × exp[ -(1/a) × (ρ/ρc)^a ]
このモデルはパラメータaを調整することで、様々な実測データの形状に適合させられる、柔軟性を持つ。
衝撃波理論——渋滞の形成と解消
衝撃波速度の基本公式
道路上のある地点を境に、上流側の交通状態と下流側の交通状態とが異なる場合、この境界すなわち衝撃波は一定の速度で移動する。衝撃波の速度ωは車両の保存則から次の式で求められる[9]。
ω = (q2 - q1) / (k2 - k1)
ωが正であれば衝撃波は下流方向に、負であれば上流方向に移動する。
具体的な数値例——事故による車線閉鎖
ある2車線道路の上流側で、交通量q1が1,800台/時、密度k1が20台/kmで流れていたとする。事故により1車線が閉鎖され、下流側の交通量がq2=900台/時に制限された。渋滞時の密度k2が70台/kmと観測されたとする。このとき衝撃波の速度は次のように計算される[10]。
ω = (900 - 1,800) / (70 - 20) = -900/50 = -18km/時
負の値は、渋滞の先頭が時速18キロメートルで上流方向へ伸びていくことを意味する。事故現場で車両が詰まり続ける限り、渋滞の先頭は後方へ伸び続ける。
渋滞の解消
事故が解消され下流側の交通条件が改善すると、今度は正の値を持つ、別の衝撃波が生じる。この衝撃波は下流方向に移動し、渋滞の末尾を徐々に縮めていく[11]。
時空間図による、衝撃波の伝播の確認
先の数値例における、衝撃波の伝播を、時間(横軸)と、道路上の位置(縦軸)からなる、時空間図で確認する。事故発生時点(t=0)から、衝撃波(渋滞の先頭)が、時速18キロメートルで、上流方向、すなわち、図の下向きに、伸びていく様子が、右下がりの直線として、示される。
図3 事故発生後の、衝撃波の時空間伝播
信号交差点における4つの衝撃波
この考え方は、信号交差点における待ち行列の分析にも応用できる。1回の赤・青のサイクルの中で、次の4種類の衝撃波が順に発生する[12]。第一に赤信号の間、停止線手前で車両が停止することで生じる圧縮衝撃波。第二に青信号後、先頭車両が発進することで生じる発進衝撃波。この波が列の最後尾に追いつくまで待ち行列は伸び続ける。第三に発進衝撃波が最後尾に追いついた瞬間、待ち行列は最大の長さに達する。第四に、その後、待ち行列は先頭から解消衝撃波によって縮小していく。この4つの波の速度を理解することで、待ち行列の正確な長さと解消時刻を予測できる[12]。
ボトルネックにおける容量低下現象
逆λ字型の不連続性
1960年代以来、渋滞がボトルネックで発生すると、実際に処理できる交通量が、渋滞発生前の理論上の容量よりも低い水準に落ち込む現象が観察されてきた[13]。交通量・密度の関係を描いたグラフ上のこの段差は、逆さのラムダ(λ)の形状を描くことから、逆λ字型と呼ばれる[13]。
低下の幅と理論的な説明
複数の実証研究によれば、渋滞発生後の容量の低下幅はおよそ0パーセントから8パーセントの範囲に収まる[14]。この現象の、最も有力な理論的説明は、運転者の加速度に上限があるという仮定である。渋滞から抜け出す車両は瞬時に自由流速度まで加速できず、この遅れがボトルネック直後の、実効的な処理能力の低下をもたらす[15]。
既刊シリーズとの接続
本稿で導出した容量という概念は、既刊PO02で扱ったLOSの判定における、v/c比の分母を直接構成する。また三角形基本図における衝撃波速度wは、既刊P305で扱ったヴィックリーのボトルネック・モデルとも、理論的な系譜を共有している。いずれも、ボトルネックにおける需要と供給の時間的なずれを、分析の中心に据えている【推論】。
おわりに
本稿は、グリーンシールズ・モデルの完全な導出を、100km/時・200台/kmという数値例とともに検討した。1955年のLWRモデル、三角形基本図・メイの公式という代替モデルも確認した。衝撃波理論については、事故による車線閉鎖という数値例、信号交差点における4つの衝撃波、そしてボトルネックにおける容量低下現象を検討した。次稿PEC03では信号制御の理論を扱う。
主要先行研究
Greenshields(1935)、Lighthill & Whitham(1955)、Richards(1956)、Daganzo(1994)[1][4][6]。
年表
- 1934年 グリーンシールズ、速度・密度の線形関係を発見
- 1935年 グリーンシールズ「交通容量の研究」発表
- 1955年 ライトヒル&ホイッタム、LWRモデルを提示
- 1956年 リチャーズ、独立に同等のモデルを提案
- 1960年代 逆λ字型の不連続性、実測データで観察され始める
- 1991年 バンクス、ホール&アジェマン=デュア、容量低下現象の実証研究発表
- 1994年 ダガンゾ、三角形基本図を体系化
参考資料一覧
- 「LQ Control of Traffic Flow Models via Variable Speed Limits」arXiv。https://arxiv.org/pdf/2403.02507。グリーンシールズの速度・密度関係式、臨界密度について。
- 「Discontinuous Galerkin method for macroscopic traffic flow models」arXiv。https://arxiv.org/pdf/2011.10862。交通量・密度関係式の導出について。
- 「A Control-Theoretic Approach for Scalable and Robust Traffic Density Estimation」arXiv。https://arxiv.org/pdf/1812.02128。臨界密度が自由流速度に依存しないことについて。
- 「Transportation Network Analysis, Volume I」arXiv。https://arxiv.org/pdf/2502.05182。1955年の発表経緯、1956年のリチャーズによる独立提案について。
- 「A Fast Lax-Hopf formula to solve the LWR traffic flow model」arXiv。https://arxiv.org/pdf/1802.05391。保存則の偏微分方程式について。
- 「Control of a lane-drop bottleneck through variable speed limits」arXiv。https://arxiv.org/pdf/1310.2658。三角形基本図の定式化について。
- 「Point queue models: a unified approach」arXiv。https://arxiv.org/pdf/1405.7663。三角形基本図における臨界密度の式について。
- 「Ramp metering: modeling, simulations and control issues」arXiv。https://arxiv.org/pdf/2111.06610。メイの公式について。
- 「6.1: Shockwaves」Engineering LibreTexts。https://eng.libretexts.org/Bookshelves/Civil_Engineering/Fundamentals_of_Transportation/06:_Traffice_Control/6.01:_Shockwaves。衝撃波速度の基本公式について。
- 同上。事故による車線閉鎖という数値例の設定について。
- 「73 MUSTANSIRIYAH UNIVERSITY」講義資料。https://uomustansiriyah.edu.iq/media/lectures/5/5_2025_11_14!11_48_00_AM.pdf。渋滞の形成と解消における、衝撃波速度の符号について。
- 「Traffic flow monitoring for intersections with signal controls」USPTO特許。https://image-ppubs.uspto.gov/dirsearch-public/print/downloadPdf/8279086。信号交差点における4つの衝撃波について。
- 「A kinematic wave theory of capacity drop」arXiv。https://arxiv.org/pdf/1310.2660。逆λ字型の不連続性について。
- 「5.3: Queueing and Traffic Flow」Engineering LibreTexts。https://eng.libretexts.org/Bookshelves/Civil_Engineering/Fundamentals_of_Transportation/05:_Traffic/5.03:_Queueing_and_Traffic_Flow。容量低下幅が0から8パーセントであることについて。
- 「Improving Travel Time Reliability with Variable Speed Limits」arXiv。https://arxiv.org/pdf/2505.08059。有界加速度という理論的説明について。
用語集
- 自由流速度, Free-Flow Speed, vf, —: 交通量がゼロに近い状態での車両の平均速度。
- 渋滞密度, Jam Density, ρm, —: 車両が完全に停止し、それ以上詰め込めない状態での密度。
- 臨界密度, Critical Density, ρc, —: 交通量が最大値を取る密度。グリーンシールズ・モデルでは渋滞密度の半分。
- LWRモデル, Lighthill-Whitham-Richards Model, —, —: 車両の保存則を表す偏微分方程式による交通流モデル。
- 衝撃波, Shockwave, —, —: 異なる交通状態の境界が道路上を伝播する現象。
- 容量低下, Capacity Drop, —, —: ボトルネックで渋滞が発生した後、実効的な処理能力が理論上の容量より低下する現象。









