目次
概念の定義
Outcome Mappingとは何か
Outcome Mappingは、社会変化をもたらそうとする開発活動の計画・モニタリング・評価のための手法であり、2001年にIDRCによって開発されましたアウトカム・マッピングは、社会変化をもたらすことを目的とした開発活動を計画・モニタリング・評価するための(現在も発展途上にある)手法であり、2001年に国際開発研究センターによって、人的・社会的・環境的な改善についてプロジェクトやプログラムが何に貢献しようとしているのかを明確化し、その上でモニタリングと評価を、プロジェクトやプログラムの直接の影響範囲内にある要因・アクターに焦点化するために開発されたとされています。
Outcome Mappingの根本的な前提は、状態の変化(Change in State)は、それに対応する行動の変化(Change in Behavior)を伴うものであり、この行動の変化は、継続的な責任が現地の人々・現地の制度に委譲されている場合に最もよく促されるというものですアウトカム・マッピングの根本的な前提は、状態におけるあらゆる変化には、対応する行動における変化があり、それは継続的な責任が現地の人々と現地の制度に委譲されている場合に最もよく促されるというものです。この前提に基づき、Outcome Mappingは、プロジェクトの成果を「開発インパクトの達成」としてではなく、「境界パートナーが果たす開発上の役割への貢献」として捉え直します。
境界パートナー・アウトカム・進捗の目安
Outcome Mappingの中核をなす三つの用語は、境界パートナー、アウトカム、進捗の目安です。境界パートナーとは、プロジェクトが直接相互作用し、変化を働きかけようとする個人・集団・組織であり、プロジェクトが影響を及ぼす機会を見込める相手を指します境界パートナーとは、プロジェクトやプログラムが直接相互作用し、影響を与えようとする個人・集団・組織であるとされています。アウトカムは、境界パートナーの関係・活動・行動・アクションにおける変化であり、プログラムの活動と論理的に結び付けられるものの、必ずしもプログラムによって直接引き起こされるものではないと定義されますアウトカムとは、境界パートナーの関係・活動・行動における変化であり、プログラムの活動と論理的に結び付けることができるものの、必ずしもそれによって直接引き起こされるものではないとされ、これらの変化は、境界パートナーに新しい手段・技術・資源を提供することを通じて、人間と生態系の福祉の特定の側面に貢献することを目指すものであるとされています。進捗の目安(Progress Markers)は、境界パートナーの行動変容の深度・質に着目した、段階的な指標の集合です進捗の目安とは、境界パートナーの行動変容の深度や質に焦点を当てた、段階的な一連の指標であるとされています。
この三者の関係から明らかになるOutcome Mappingの特徴は、プロジェクトが「アウトカムを引き起こす(Cause)」のではなく「アウトカムに寄与する(Contribute)」という立場を取る点ですアウトカム・マッピングを通じて、開発プログラムはアウトカムの達成に対する貢献を主張することができ、開発インパクトの達成を主張することはないとされ、これらのアウトカムは、開発インパクトの可能性を高めるものではあるものの、その関係は必ずしも直接的な因果関係ではないとされています。この立場は、【ZE05-3】で扱ったLogframeが上位目標までの因果関係の主張(Attribution)を志向するのに対し、Outcome Mappingが貢献の主張(Contribution)にとどめる点で、根本的に異なる評価哲学を示しています。
成立の背景と歴史
Outcome Mappingは、開発機関が自らの活動の「インパクト」を示すことを求められる一方で、そのインパクトはしばしば単一の機関の努力だけでは説明できない複数の出来事の結果であり、外部機関の立場から開発インパクトを評価すること自体が本質的に困難であるという問題意識から生まれました開発機関は、自らの活動が意図された受益者の福祉に対して重要かつ持続的な貢献をもたらすことを示さなければならないが、彼らが証拠として挙げるインパクトは、しばしば彼らが現実的に全面的な功績を主張できない一連の出来事の結果であり、そのため、特に外部機関の視点からは、開発インパクトを評価することは困難であるとされています。
この課題に対応するため、IDRCの評価ユニットは、太平洋研究評価研究所(Pacific Institute for Research and Evaluation)のバリー・キベル(Barry Kibel)博士が開発した「Outcome Engineering」というアプローチを、開発協力の文脈に適合させる形で、Outcome Mappingを構築しましたこの課題に対応するため、IDRCは太平洋研究評価研究所のバリー・キベル博士と協力し、彼のOutcome Engineeringアプローチを開発研究の文脈に適合させる作業を進め、西アフリカ農村基金との方法論的な協働と、ナガランド経済開発による人々のエンパワーメントプロジェクトおよび国際モデル森林ネットワーク事務局での試行が、この適合過程に大きな示唆を与えたとされています。この開発の成果は、サラ・アール(Sarah Earl)、フレッド・カーデン(Fred Carden)、テリー・スムティロ(Terry Smutylo)による著作「Outcome Mapping: Building Learning and Reflection into Development Programs」として2001年に公刊されました。
適用範囲
Outcome Mappingは、プロジェクト・プログラム・組織のいずれの水準にも適用可能であり、モニタリングシステムとして用いることも、進行中あるいは完了した活動の評価に用いることもできるとされていますアウトカム・マッピングは、プロジェクト・プログラム・組織のいずれの水準にも適応させて用いることができ、モニタリングシステムとして、あるいは進行中または完了した活動を評価するために用いることができるとされています。とりわけ、量的指標だけでは十分に理解できない結果・成果を伴う開発プログラム――質的で文脈化されたストーリーとしての理解を要する開発プロセス――のモニタリング・評価において、特に価値を発揮するとされていますアウトカム・マッピングは、その結果と達成が量的指標のみでは理解できず、開発過程についての質的で文脈化されたストーリーの、より深い洞察を必要とする開発プログラムのモニタリング・評価において、特に価値があるとされています。
適用にあたっての重要な前提は、Outcome Mappingがプログラムの戦略的方向性そのものを決定する手法ではないという点です。プログラムがすでに戦略的な方向性を選択しており、その目標・パートナー・活動・期待される結果への進捗を明確化したいと望む段階で初めて、適切かつ有用な手法となりますアウトカム・マッピングは、プログラムがプログラミングの優先順位を特定する助けにはならず、プログラムがすでに戦略的方向性を選択しており、その目標・パートナー・活動、そして期待される結果への進捗を明確化したいと望む場合にのみ、適切かつ有用であるとされています。
策定プロセス
Outcome Mappingの策定プロセスは、意図的設計(Intentional Design)、アウトカム・実績のモニタリング(Outcome and Performance Monitoring)、評価計画(Evaluation Planning)という三段階、12のステップから構成されますアウトカム・マッピングの全過程は、意図的設計、アウトカム・実績のモニタリング、評価計画という三つの思考段階から構成されるとされています。策定は通常、この手法に精通したファシリテーターが主導する参加型のワークショップを通じて開始され、可能な限り境界パートナー自身を初期のワークショップに含めることが推奨されていますアウトカム・マッピングは通常、この手法に精通した内部または外部のファシリテーターが主導する参加型ワークショップを通じて開始され、この催しはプログラムを実施する者の視座に合わせて構成され、彼らが支援したいと望む変化の計画と評価に焦点を当てるものであり、プログラムの妥当性・活動・方向性についての意見を得るため、初期のワークショップに境界パートナーを含めることが有用であるとされています。
意図的設計段階:Why・Who・What・Howの四つの問い
意図的設計段階は、なぜ(Why)・誰に対して(Who)・何を(What)・どのように(How)という四つの基本的な問いに答える、七つのステップから構成されます意図的設計段階を構成する四つの基本的な問いは、なぜ?(ビジョンステートメント)、何を?(アウトカム・チャレンジ、進捗の目安)、誰に?(境界パートナー)、どのように?(ミッション、戦略マップ、組織実践)であるとされ、意図的設計の12ステップのうち、ビジョン、ミッション、境界パートナー、アウトカム・チャレンジ、進捗の目安、戦略マップ、組織実践という七つのステップがこの段階に含まれるとされています。
具体的には、まず「なぜ」に対応するビジョン・ステートメント(プログラムが貢献しようとする大規模な経済的・政治的・社会的・環境的変化の記述)を設定します。次に「誰に」に対応する境界パートナーを特定します。境界パートナーが特定された後、「何を」に対応するアウトカム・チャレンジ(当該境界パートナーの行動・関係・活動・アクションについて、プログラムが影響を与えようとする理想的な変化の記述)と、進捗の目安(当該境界パートナーについて、段階的に期待される行動変容の指標群)を、境界パートナーごとに設定しますアウトカム・チャレンジとは、境界パートナーの行動・関係・アクション・活動において、プロジェクトやプログラムが影響を与えようとする理想的な変化の記述であるとされています。最後に「どのように」に対応するミッション(ビジョンの達成をどのように支援するかについての理想的な記述)、戦略マップ(境界パートナーに影響を与えるための戦略の類型)、そして組織実践(プログラム自身が妥当性・革新性・持続可能性を維持するための八つの実践)を定めます。
戦略マップは、六つの戦略類型――境界パートナー個人・集団に向けた「因果的戦略」「説得的戦略」「支援的戦略」と、境界パートナーを取り巻く環境に向けた同三種類の戦略――から構成されるマトリクスとして整理されます戦略マップとは、プロジェクトやプログラムが境界パートナーに影響を与えるために用いる、因果的・説得的・支援的という六つの戦略類型(それぞれが特定の個人・集団、および特定の個人・集団の環境に向けられたもの)を分類するマトリクスであるとされています。組織実践は、新しいアイデア・機会・資源の探索、主要な情報提供者からのフィードバックの取得、上位機関からの支持の獲得、製品・サービス・システム・手続きの評価・再設計、既存の受益者への価値付加の確認、知見の世界への共有、革新を維持するための実験、そして組織的な省察という八つの実践から構成されます組織実践とは、プロジェクトやプログラムが妥当性・革新性・持続可能性・環境とのつながりを維持するための八つの個別の実践であり、新しいアイデア・機会・資源の探索、主要な情報提供者からのフィードバックの取得、上位の権力からの支持の獲得、製品・サービス・システム・手続きの評価と再設計、既存の受益者への価値付加の確認、最良の知見の世界との共有、革新を維持するための実験、そして組織的な省察への従事から構成されるとされています。
アウトカム・実績のモニタリング段階
第二段階は、意図的設計段階で策定された進捗の目安・戦略マップ・組織実践に基づき、境界パートナーの進捗を継続的にモニタリングする段階であり、モニタリング優先順位の設定、アウトカム・ジャーナル、戦略ジャーナル、実績ジャーナルという四つのステップから構成されます。アウトカム・ジャーナルは境界パートナーの行動・関係の変化を、戦略ジャーナルはプログラム自身の戦略・活動を、実績ジャーナルはプログラムを妥当かつ存続可能な状態に保つ組織実践を、それぞれ記録するデータ収集ツールですデータ・情報収集のための三つのツールがあり、境界パートナーの行動・関係を監視するアウトカム・ジャーナル、戦略・活動を監視する戦略ジャーナル、そしてプロジェクトやプログラムを妥当かつ存続可能に保つ組織実践を監視する実績ジャーナルから構成されるとされています。
評価計画段階
第三段階は、限られた評価資源を最も有用な形で振り向けるため、評価の優先順位を設定する段階であり、評価計画という単一のステップから構成されます。この段階は、意図的設計・モニタリング段階が広範な情報を収集するのに対し、特定の戦略・論点・関係性をより深く検証する「戦略的評価」を計画するものです第2段階のモニタリング枠組みが幅広い範囲の情報を収集するのに対し、戦略的評価は特定の戦略・論点・関係性をより深く検証するものであり、第3段階の評価計画は、評価資源と活動を最も有用な場所に向けられるよう、プログラムが評価の優先順位を設定する助けとなるとされています。
収集すべきデータ
境界パートナー特定のためのデータ
境界パートナーを特定する段階では、プログラムが直接相互作用し、影響を及ぼす機会を見込める主体を洗い出すための情報収集が必要です。これには、当該主体が現在果たしている役割、プログラムとの既存の関係性、そして当該主体がプログラムの働きかけに応じて行動を変える見込みについての情報が含まれます。
進捗の目安設定のためのデータ
進捗の目安は、境界パートナーについて「最低限期待する変化(Expect to See)」「望ましい変化(Like to See)」「理想的な変化(Love to See)」という三段階で設定されるのが通例であり、この設定には、当該境界パートナーの現在の行動水準(ベースライン)と、変化が生じうる現実的な範囲についての情報が必要とされます。
ジャーナル記録による継続的データ収集
モニタリング段階では、アウトカム・ジャーナル、戦略ジャーナル、実績ジャーナルという三つのツールを通じて、境界パートナーの行動変容、プログラム自身の戦略実施状況、そして組織実践の遂行状況についてのデータが、プロジェクト期間を通じて継続的に収集されます。これらのデータは、量的な指標だけでなく、行動変容の背景にある文脈や、予期しなかった変化についての逸話的な記述を含むことが特徴です。
質の確認
Outcome Mappingにおける質の確認は、進捗の目安が境界パートナーの行動変容の「深度・質」を適切に段階化できているか、戦略マップに示された戦略が実際に境界パートナーの行動変容を促す上で妥当であるか、そして組織実践が継続的に遂行され、プログラム自身の妥当性・持続可能性が維持されているか、という三つの観点から行われます。Outcome Mappingは参加と反復的学習の原則に基づいており、ステークホルダーの関与を通じて当事者意識と知見の活用を促すことが、質の高い実施の前提とされていますアウトカム・マッピングは参加と反復的学習の原則に基づいており、通常、この手法に精通したファシリテーターが主導する参加型ワークショップを通じて開始されるとされ、プロジェクトやプログラムを実施する者を意図的に設計とデータ・情報収集に含めることで、当事者意識、知見の活用、適応を促すとされています。
公共交通関連政策への適用:ハノイ公共交通改善事業の再検討
本節では、【ZE05-3】で扱ったJICAのハノイ公共交通改善事業(2011〜2015年)を、Outcome Mappingの境界パートナー・進捗の目安という枠組みから再検討します。この再検討を通じて、【ZE05-3】で確認したLogframe上の「垂直の論理のギャップ」という課題に、Outcome Mapping的なアプローチがどのように異なる形で対応しうるかを具体的に示します。参照する一次資料のURLは【ZE05-3】と共通です。
- JICA(2020)Project for Improving Public Transportation in Hanoi(外部事後評価報告書):
https://www2.jica.go.jp/en/evaluation/pdf/2019_1001241_4_f.pdf - Asian Development Bank(2008)Outcome Mapping(Knowledge Solutions):
https://www.adb.org/sites/default/files/publication/27616/outcome-mapping.pdf
境界パートナーの特定
ハノイ事業の実施機関はハノイ運輸局(HDOT)であり、その下部組織であるハノイ都市交通管理運営センター(TRAMOC)、そしてバス運行を担う国有企業TRANSERCO(Transport and Services Corporation)が、事業の実施を通じて能力開発の対象となりましたハノイ市における公共交通利用の促進、特にバス交通の利便性・快適性の向上に中心的に関わる主要な組織は、ハノイ運輸局の下部組織であるTRAMOCと、Transport and Services Corporation(TRANSERCO)であり、TRAMOCはバス路線計画・路線の承認、運賃政策の分析、バス事業者の管理・監督、バス運行への補助金管理、公共交通利用促進のための活動を担当し、TRANSERCOはバス運行サービスを担当する国有企業(ハノイ市人民委員会の下部組織)であるとされています。Outcome Mappingの観点からは、これらHDOT・TRAMOC・TRANSERCOが、事業の境界パートナーとして特定されることになります。これは、Logframeが上位目標として設定していた「公共交通利用者数の増加」という、事業単独では統制できない量的アウトカムとは異なり、事業が直接影響を及ぼせる組織の行動変容に焦点を当てる整理です。
進捗の目安の再構成
実際の事業活動――データベース構築、優先レーン等のパイロット活動の分析、安全運転研修、ICカード導入パイロット事業――を、Outcome Mapping的な進捗の目安として再構成すると、以下のように整理できます。TRAMOCについての「最低限期待する変化」としては、公共交通計画のためのデータベースを構築し、これに基づいてバスネットワーク・運賃政策の分析を実施することが挙げられます。「望ましい変化」としては、この分析能力を用いて、独自にバス停の新設・移設や交差点でのバス優先措置を計画・実施することが挙げられます。「理想的な変化」としては、こうした計画能力が、UMRT整備等の外部の変化にも柔軟に対応し、公共交通全体の統合的なマネジメントへと発展することが挙げられます。
事後評価報告書が示す実績は、この進捗の目安に沿って評価すると異なる評価が可能になります。すなわち、TRAMOCおよびTRANSERCOは、事業終了後もバス停の新設・移設(2016年から2019年前半までに新設1,340か所・移設214か所)、複数交差点でのバス優先措置、歩道改修等を、市独自の取り組みとして継続的に実施しており本事業のもとで分析された各種措置は、ハノイ市の開発計画に組み込まれ、事業完了後も市の取り組みとして実施されており、具体的にはバス乗換えの利便性向上のためのバス停の位置変更・追加(2016年から2019年前半にかけて合計1,340か所のバス停が新設され、合計214か所のバス停が移設された)、市内の複数の交差点でのバス優先、バス路線が多い道路沿いの約26kmの歩道の改修、交通管制による交差点の渋滞削減(渋滞交差点数が2010年の124か所から2018年には33か所に減少)が含まれるとされています、これは「望ましい変化」の水準に相当する行動変容が実現していたと評価できます。この評価は、【ZE05-3】でLogframeの上位目標指標(バス利用者数、バス速度)に基づく限りでは「部分的達成」にとどまっていた同一の事業を、境界パートナーの行動変容という異なる評価軸に立てば、より肯定的に評価しうることを示しています。
戦略マップとしての事業活動の再整理
本事業で実施された活動群は、Outcome Mappingの戦略マップに沿って整理すると、境界パートナー個人・集団に向けた「因果的戦略」(研修・専門家派遣を通じた技術移転)、「支援的戦略」(データベース構築のための機材供与、IC カード導入システムの共同開発)、そして境界パートナーを取り巻く環境に向けた「説得的戦略」(公開討論会の開催、ジャーナリストクラブの設立を通じた世論形成)に分類することができます。この整理は、事業活動を単なる「アウトプットの産出」としてではなく、境界パートナーおよびその環境への働きかけの手段として位置付け直すものです。
本再検討からの示唆
この再検討が示すのは、Logframeが上位目標という単一の因果連鎖の終点に評価の焦点を置くのに対し、Outcome Mappingは、プロジェクトが実際に影響を及ぼせる境界パートナーの行動変容の質・深度を、複数の段階(最低限・望ましい・理想的)で評価するという、異なる評価戦略を提供する点です。ハノイ事業の場合、UMRT整備という外部要因への依存によって上位目標の達成が制約された一方で、境界パートナーであるTRAMOC・TRANSERCOの計画・実施能力そのものは、事業終了後も持続的に発揮されていたことが、事後評価データからも確認できます。この点は、Logframeの垂直の論理だけでは十分に評価しきれない、事業の実質的な貢献を捉え直す視点を提供するものです。
代表文献
- Kibel, B. (1999) Success Stories as Hard Data: An Introduction to Results Mapping. New York: Kluwer Academic/Plenum Publishers.
- Earl, S., Carden, F. and Smutylo, T. (2001) Outcome Mapping: Building Learning and Reflection into Development Programs. Ottawa: International Development Research Centre. https://www.theoryofchange.org/wp-content/uploads/toco_library/pdf/2001_-_Earl_-_Outcome_Mapping-Building_Learning_and_Reflection.pdf
- Smutylo, T. (2005) Outcome Mapping: A Method for Tracking Behavioural Changes in Development Programs. Institutional Learning and Change Brief No. 7.
政府資料・国際機関のガイドライン
- International Development Research Centre (2001) Outcome Mapping: Building Learning and Reflection into Development Programs. Ottawa: IDRC.
- Serrat, O. (2008) Outcome Mapping. Knowledge Solutions. Manila: Asian Development Bank. https://www.adb.org/sites/default/files/publication/27616/outcome-mapping.pdf
- Japan International Cooperation Agency (2020) Project for Improving Public Transportation in Hanoi: Ex-Post Evaluation Report. https://www2.jica.go.jp/en/evaluation/pdf/2019_1001241_4_f.pdf
国際比較
本レポートで参照した資料の範囲では、Outcome Mappingは、【ZE05-3】で扱ったLogframeが米国USAID・欧州委員会という大規模な二国間・多国間援助機関を中心に標準化されてきたのに対し、カナダのIDRCという研究助成機関に由来し、当初から研究能力構築・組織的な行動変容を重視するプログラムとの親和性を持って発展してきたという違いがあります。両手法はいずれも国際協力分野で広く参照されていますが、Logframeが説明責任(Accountability)と因果関係の主張(Attribution)を重視するのに対し、Outcome Mappingは学習(Learning)と貢献の主張(Contribution)を重視するという、評価哲学上の対照性が指摘できます。
代表的論点
説明責任との緊張関係
Outcome Mappingが採用する「貢献の主張」という立場は、資金提供者に対する説明責任を重視する一部のドナー機関にとっては、Logframeが提供するような明確な因果関係の主張に比べて説得力に欠けると受け止められる場合があり、この手法があらゆるドナー機関に受け入れられているわけではないという指摘があります。
逸話的エビデンスへの依存
ジャーナルを通じたデータ収集は、量的な指標だけでなく、逸話的な記述を多く含む傾向があり、これが伝統的な評価手法と比較した際の頑健性の判断を難しくする場合があります。
境界パートナーの選択の妥当性
どの主体を境界パートナーとして選択するかという判断自体が、プログラムの評価範囲を実質的に規定するため、この選択が恣意的になされた場合、都合の良い行動変容のみが評価対象として選ばれるリスクがあります。
限界
本レポートで整理したOutcome Mappingには、いくつかの限界が指摘されています。第一に、意図的設計段階の策定には相応の時間と、手法に精通したファシリテーターの関与が必要であり、資源制約の強いプロジェクトでは実施が難しい場合があります。第二に、進捗の目安の三段階(最低限・望ましい・理想的な変化)の設定は、境界パートナーの現状についての十分な理解を前提とするため、事前調査が不十分な場合、非現実的な目安が設定されるリスクがあります。第三に、本レポートで行ったハノイ事業の再検討は、実際にOutcome Mappingの手順に沿って策定されたものではなく、事後的に同事業の記録をOutcome Mappingの枠組みに当てはめて再整理したものであり、当初からOutcome Mappingとして設計されていた場合とは異なる限界を伴う点に留意が必要です。
まとめとシリーズ内での位置付け
本レポートでは、Outcome Mappingを、①Logframeの硬直性批判への応答として2001年にIDRCが開発したという成立過程、②境界パートナー・アウトカム・進捗の目安という中核概念、③意図的設計・アウトカム実績モニタリング・評価計画という三段階12ステップの策定プロセス、④ハノイ公共交通改善事業を境界パートナーの行動変容という観点から再検討した実例、という観点から整理しました。Outcome Mappingの特徴は、Logframeが重視する上位目標への因果関係の主張から、プロジェクトが直接影響を及ぼせる境界パートナーの行動変容への貢献の主張へと、評価の焦点を転換した点にあります。
次巻【ZE05-6】では、Outcome MappingやLogframeと並んで開発分野で用いられるResults ChainおよびResults Frameworkを取り上げ、組織全体のマネジメント枠組みであるResults-Based Management(RBM)との関係を検討し、【ZE05】シリーズ全体の総括的な位置付けとします。
参考文献
- Kibel, B. (1999) Success Stories as Hard Data: An Introduction to Results Mapping. New York: Kluwer Academic/Plenum Publishers.
- Earl, S., Carden, F. and Smutylo, T. (2001) Outcome Mapping: Building Learning and Reflection into Development Programs. Ottawa: International Development Research Centre. https://www.theoryofchange.org/wp-content/uploads/toco_library/pdf/2001_-_Earl_-_Outcome_Mapping-Building_Learning_and_Reflection.pdf
- Smutylo, T. (2005) Outcome Mapping: A Method for Tracking Behavioural Changes in Development Programs. Institutional Learning and Change Brief No. 7.
- Serrat, O. (2008) Outcome Mapping. Knowledge Solutions. Manila: Asian Development Bank. https://www.adb.org/sites/default/files/publication/27616/outcome-mapping.pdf
- Japan International Cooperation Agency (2020) Project for Improving Public Transportation in Hanoi: Ex-Post Evaluation Report. https://www2.jica.go.jp/en/evaluation/pdf/2019_1001241_4_f.pdf
Claudeログ
【ZE05-5】Outcome Mappingを、同じ方針・様式で執筆しました。
構成:概念の定義(境界パートナー・アウトカム・進捗の目安、「引き起こす」ではなく「貢献する」という評価哲学)、成立の背景・歴史(IDRC、Barry Kibelとの協働、Earl・Carden・Smutylo 2001年著作)、適用範囲、策定プロセス(意図的設計/モニタリング/評価計画の三段階12ステップ、Why・Who・What・Howの4問い、戦略マップ・組織実践)、収集すべきデータ、質の確認、公共交通関連政策への適用、代表文献、政府資料、国際比較、代表的論点、限界、まとめという構成です。
公共交通への適用の工夫:今回は新しい事例を探すのではなく、【ZE05-3】で扱ったJICAハノイ公共交通改善事業を、Outcome Mappingの枠組みで再検討するという構成を取りました。同一データセットを使いながら、Logframeでは「上位目標が部分的達成にとどまった」と評価された事業が、境界パートナー(TRAMOC・TRANSERCO)の行動変容という軸で見ると「望ましい変化」の水準まで到達していた(バス停新設1,340か所、渋滞交差点数の半減以上の減少など)ことを、実データに基づいて示しました。これにより【ZE05-3】との理論的対比が具体的に浮かび上がる構成にしています。
図示:境界パートナーTRAMOCについて、最低限・望ましい・理想的という三段階の進捗の目安を図示しました。









