なぜ、悪い知らせは、良い知らせより、報道されやすいのか。ガルトゥングが示した12の因子は、英国全国紙3紙、1,276本の記事分析という、2001年の実証研究を経て、著名人性・娯楽性・関連性という、3つの要素の重要性を、あらためて浮き彫りにしました。HMシリーズ第三回です。
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はじめに

HM02では、ニュースバリュー理論が平和研究という学問的文脈から生まれた経緯を検討した。本稿はその第三回として、この理論が示す具体的な因子の中身を、一つずつ丁寧に検討する。ガルトゥングとルーゲが提示した12の因子を、それぞれ具体的な報道の場面を思い浮かべながら確認する。あわせて、2001年のハーカップ&オニールによる更新、そして2016年のさらなる再検証という理論のその後の展開も詳しく追う。

12の因子

頻度

頻度とは、出来事の展開する時間の長さが報道機関のニュースサイクルにどれだけ近いか、という因子である[1]。新聞は毎日発行され、テレビニュースは毎日放送される。このサイクルに、ちょうど収まる長さの出来事は、報道されやすい。突発的な事故や事件は、この因子を強く満たす。発生から結末まで数時間から一日程度で完結するため、翌日の朝刊、あるいは当日の夕方のニュースで扱いやすいからである。これに対し気候変動のように、数十年というはるかに長い時間をかけて進行する変化は、この因子を満たしにくい。変化の速度が報道サイクルに比べてあまりに緩やかであるため、単発の記事として切り取ることが難しいのである。

閾値

閾値とは、出来事の規模やその強度の変化が、ある一定の水準を超えて初めてニュースとして注目される、という因子である[1]。日常的に起きる小さな交通事故は、通常、報道されない。しかし死者の数が一定を超えるような大規模な事故になれば報道される。この閾値は単なる絶対的な規模だけでなく、平常時からの変化の大きさによっても左右される。普段は静かな地域で起きた小さな異変であっても、その地域にとっての落差が大きければ報道価値を持つことがある。

明確性

明確性とは、出来事が単純で解釈の余地が少ないほど報道されやすい、という因子である[2]。原因と結果が、はっきりと結びついた出来事は、記事として組み立てやすい。これに対し複雑な背景を持ち、多義的な解釈が可能な出来事は、報道する側にとって扱いにくい。限られた紙面や放送時間の中で、複雑な事情を正確に伝えることは容易ではないためである。

意味性

意味性とは、文化的な近さ、及び受け手にとっての関連性の高さを表す因子である[3]。自国で起きた出来事や近い文化圏で起きた出来事は、遠く離れた異なる文化圏の出来事よりも報道されやすい。読者や視聴者が、自分の生活と結びつけて理解できる出来事ほど、報道機関にとって価値が高いのである。

一貫性

一貫性とは、受け手があらかじめ持っている予測や期待に沿う出来事ほど報道されやすい、という因子である。この因子は、次に述べる予想外性と、一見すると矛盾するように見える。ガルトゥングとルーゲは、この矛盾について、興味深い整理を行っている。すなわち予想外性は、あくまで一貫性という大きな枠組みを満たす出来事の範囲内において、初めて意味を持つ、というのである[4]。全く予測の手がかりを持たない理解不能な出来事は、たとえそれが驚くべきものであっても報道の対象にはなりにくい。

予想外性

予想外性とは、出来事が驚きを伴うほど報道されやすい、という因子である[4]。先に述べた一貫性という土台があって初めて、この予想外性は機能する。ある程度予測できる範囲の中で、その予測を裏切る出来事こそが最も強い報道価値を持つのである。

継続性

継続性とは、一度報道された出来事は、その後も報道され続けやすい、という因子である[1]。報道機関はある話題について、一度取材体制を組むと、追加の取材費用や労力をかけずに続報を出しやすくなる。この慣性が働くため、既に注目を集めている話題はさらに注目を集めやすい、という循環が生まれる。

構成

構成とは、報道機関が、多様な話題の組み合わせを求めるために働く因子である[1]。ある種類の出来事が、既に紙面や番組の中で多く扱われている場合、同じ種類の別の出来事はその回は見送られやすくなる。逆に、これまで扱っていなかった種類の話題であれば、多少の弱さがあっても構成上の理由から採用されることがある。

エリート国家への言及

この因子は、大国や国際的に有力な国家に関する出来事ほど報道されやすい、というものである[1]。小さな国で起きた出来事よりも、世界的な影響力を持つ国で起きた同程度の出来事の方が、より広く報道される傾向がある。

エリート人物への言及

同様に著名人や権力を持つ人物に関する出来事は報道されやすい[1]。無名の人物に起きた出来事よりも、社会的に知られた人物に起きた同種の出来事の方が、読者の関心を集めやすいためである。

個人化

個人化とは、抽象的な社会構造の説明よりも具体的な個人に焦点をあてた物語の方が報道されやすい、という因子である[1]。統計データの羅列よりも、一人の人物の具体的な体験談の方が、読者にとって理解しやすく感情移入もしやすい。この因子は、後に扱う野村氏の「ドラマ性」という要素と深く関わってくる。

否定性

最後に否定性である。これは悪い知らせが良い知らせよりも報道されやすい、という因子である[1]。事故、事件、災害といった否定的な出来事は、平穏な日常からの逸脱として強い報道価値を持つ。この傾向は後述する通り、2001年の更新研究においてもあらためて確認されている。

2001年、ハーカップ&オニールによる更新

更新が必要とされた背景

ガルトゥングとルーゲの理論は、1965年の発表から40年近くを経る間に、複数の研究者から修正や拡張の提案を受けてきた[5]。当時の国際政治報道を主な対象としていたこの理論は、時代の変化とともに現代の報道内容を十分には説明しきれなくなっていた。

研究の、具体的な方法論

この課題に取り組んだのが、トニー・ハーカップとディアドラ・オニールである。両氏は2001年、独自の実証研究を発表した[6]。この研究は、英国の全国日刊紙3紙に掲載された報道内容を対象とする内容分析であった[7]。分析の対象となった記事の数は、合計で1,276本という、かなりの規模にのぼる[8]。掲載誌は『ジャーナリズム・スタディーズ』誌の第2巻第2号であり、261ページから280ページに、その内容が示されている[6]。

10の新しい因子

この実証分析を経て、ハーカップとオニールが示したのは、次の10の因子である。権力者への言及、著名人、娯楽性、意外性、悪い知らせ、良い知らせ、規模、関連性、続報、そして媒体独自の編集方針である[9]。ガルトゥングとルーゲの原型と比べると、権力者・著名人という因子は、エリート国家・エリート人物という因子の系譜を引き継いでいる。一方、娯楽性という因子は新たに独立した形で明確に位置づけられた。

因子名の、具体的な変更

この研究の興味深い点は、単に新しい因子を付け加えただけでなく、旧来の因子の呼び名そのものも見直している点にある。ガルトゥングとルーゲが示した閾値という概念は、規模というより直接的で分かりやすい呼び名に置き換えられた。同様に予想外性という概念も、意外性という呼び名に置き換えられている[8]。

更新が明らかにした、重要な知見

この実証分析からは、いくつかの重要な知見が得られている。まず著名人性、娯楽性、そして受け手にとっての関連性という3つの要素が、ガルトゥングとルーゲの元の因子群よりも現代の報道においては、より強く働いていることが明らかになった[8]。さらにこの分析は、否定的な報道への強い偏りをあらためて確認する結果となり、ニュースの価値に関する従来の想定に一石を投じるものであった[8]。

なぜ、この更新が必要とされたのか

1965年の理論は主に国際政治のニュースを対象として構築されたため、娯楽性という要素は明示的には扱われていなかった。ハーカップとオニールによる更新は、現代の新聞が扱う芸能、スポーツ、人間ドラマといった、より幅広い話題の領域をより正確に反映するための実務的な試みであったといえる[9]。

2016年、さらなる更新——15年後の再検証

ハーカップとオニール自身は、この2001年の研究にとどまらなかった。両氏は2016年、自らの研究をあらためて更新する新たな論文を発表している[10]。この研究の出発点は、2001年の自らの研究、及びその元となった1965年のガルトゥングとルーゲの理論であった。研究の目的は、ソーシャルメディアの台頭という新たな課題、及び機会を踏まえて、現代の報道におけるニュースバリューの妥当性をあらためて検討することにあった[10]。ソーシャルメディアが普及した結果、報道機関は読者からの反応をより直接的に取り込まざるを得なくなっている。読者を惹きつけ、つなぎとめるようなニュースバリューを意識的に採用する必要に迫られているのである[11]。

既刊シリーズとの接続

本稿で確認した意味性、及び文化的近接性という因子は、既刊H05で扱ったブランド連想という概念とも関連しうる。地域住民にとって身近な話題が報道されやすいという性質は、地域鉄道の話題がまず地元紙において報道されやすいことの理論的な説明になりうる。同じ出来事であっても、その出来事が起きた地域から遠く離れた読者にとっては、意味性が低くなり報道価値も下がってしまうのである。

おわりに

本稿は、ガルトゥングとルーゲが示した12の因子を、それぞれ具体例とともに検討した。2001年のハーカップ&オニールによる更新については、英国全国紙3紙、1,276本という具体的な調査規模、そして閾値から規模へ、予想外性から意外性へという因子名の変更を確認した。著名人性、娯楽性、関連性という3因子がより強く働くことが明らかになったこと、そして2016年、この2001年の研究自体がソーシャルメディアの台頭を踏まえ、さらに更新されたことも確認した。次稿HM04では、これらの学術的な因子と野村氏のす・し・は・ど・こ・さの法則との、具体的な対応関係を検討する。

主要先行研究

Galtung & Ruge(1965)、Harcup & O’Neill(2001、2016)[1][6][10]。

年表

  • 1965年 ガルトゥング&ルーゲ、12の因子を発表
  • 2001年 ハーカップ&オニール、英国全国紙3紙、1,276本の記事分析により10因子を発表
  • 2016年 ハーカップ&オニール、ソーシャルメディアの台頭を踏まえ再度更新

参考資料一覧

  1. Galtung, J., & Ruge, M. H. (1965). The Structure of Foreign News. Journal of Peace Research, 2(1), 64-91.
  2. 「Approaches to News Values in Journalism Studies and Beyond」Reuters Institute。https://reutersinstitute.politics.ox.ac.uk/sites/default/files/2018-01/Delving%20into%20the%20Discourse.pdf。明確性の内容について。
  3. 「105 5 The News: Gates, Agendas and Values」dougslangandlit.blog。https://dougslangandlit.blog/wp-content/uploads/2019/08/the-news-gates-agendas-and-values.pdf。意味性、文化的近接性について。
  4. 「Rehashing the Gate」MIT。http://web.mit.edu/comm-forum/legacy/mit6/papers/Braun.pdf。一貫性と予想外性の関係について。
  5. 「50 years of Galtung and Ruge」ResearchGate。https://www.researchgate.net/publication/311882114_50_years_of_Galtung_and_Ruge_Reflections_on_their_model_of_news_values_and_its_relevance_for_the_study_of_journalism_and_communication_today。更新の背景について。
  6. Harcup, T., & O’Neill, D. (2001). What Is News? Galtung and Ruge Revisited. Journalism Studies, 2(2), 261-280.
  7. 「What Is News? Galtung and Ruge Revisited」University of Huddersfield Repository。http://eprints.hud.ac.uk/id/eprint/27381/。英国全国日刊紙3紙を対象とした内容分析について。
  8. 「What is news? Galtung and Ruge Revisited (2001)」Academia.edu。https://www.academia.edu/19644462/What_is_news_Galtung_and_Ruge_Revisited_2001_。1,276本の記事分析、因子名の変更、3因子の重要性について。
  9. 「Galtung and Ruge news theories」SlideShare。https://www.slideshare.net/slideshow/galtung-and-ruge-news-theories/55036126。10因子、娯楽性の明示的な追加について。
  10. 「What is news? News values revisited (again)」White Rose Research Online。https://eprints.whiterose.ac.uk/95423/。2016年の再更新、ソーシャルメディアの台頭という背景について。
  11. 「Full article: What is News?」Taylor & Francis Online。https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1461670X.2016.1150193。読者を惹きつけるニュースバリューの採用という、環境変化について。

用語集

  • ニュースバリュー, News Values, —, —: ある出来事が報道されるかどうかを左右する、複数の因子の総称。
  • 意味性, Meaningfulness, —, —: 文化的な近さ、及び受け手にとっての関連性を表す因子。
  • 個人化, Personalization, —, —: 抽象的な構造よりも、具体的な個人に焦点をあてた出来事が報道されやすいとする因子。
  • 規模, Magnitude, —, —: ハーカップ&オニールが、ガルトゥング&ルーゲの閾値を改称した因子。
  • 意外性, Surprise, —, —: ハーカップ&オニールが、ガルトゥング&ルーゲの予想外性を改称した因子。