BCPは、もともとITの「災害復旧計画」から生まれました——1988年DRI設立、1990年代初頭の事業継続への拡張、9・11という転機を経て、2005年内閣府ガイドラインへ。目標復旧時間という概念が、NR02の「工学的レジリエンス」とどう対応するかを検討する回です。
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目次
はじめに
NR02では、レジリエンス概念の系譜——工学的レジリエンスと生態学的レジリエンス——を扱った。本稿は、その第二の各論として、BCP(事業継続計画)の理論と実務を掘り下げる。BCPは、レジリエンス工学の理念を、企業・組織の実務レベルで具体化する、代表的な取り組みの一つである。
BCPの起源——ITディザスタリカバリーからの出発
1970年代・英国銀行業界における技術革新
BCPの起源は、情報技術(IT)分野における、災害復旧計画(ディザスタリカバリー計画)に遡る。英国の銀行業界では、1970年代以降、情報技術の発展に伴い、複数の業務革新が進んだ。1971年のバンカーズ・オートメーテッド・クリアリング・システム(BACS)、1973年の国際銀行間通信協会(SWIFT)、1980年のバークレイズ銀行によるEFTPOS(電子決済端末)、1984年のクリアリング・ハウス自動決済システム(CHAPS)といった革新が、順次導入された[1]。
1980年代——パソコンの普及と、コンプライアンス局面の始まり
1980年代から1990年代にかけて、災害復旧計画における技術中心の焦点は、パーソナルコンピュータの普及(組織内のコンピュータ操作者の増加)、システム・データの相互接続性の高まり、株式取引等の業務のコンピュータ化・自動化に伴う、取引ペースの加速という、技術環境の変化に対応して、継続してきた[1]。1980年代には、コンプライアンス(法令遵守)を意識した局面も、現れ始めた[1]。
DRIの設立と、災害復旧からの拡張
1988年、米国において、災害復旧研究所(Disaster Recovery Institute、後のDRI International)が設立された[2]。DRIは、1990年代初頭、その主力の認定資格の対象を、災害復旧(ディザスタリカバリー)から、より広い、事業継続(ビジネス・コンティニュイティ)へと、拡張した[3]。この拡張により、IT以外の脅威も、災害復旧計画に統合されるようになり、事業継続計画という、正式な学問分野が誕生した[3]。
BCIの設立
DRIの拡張とほぼ同じ時期、1994年、アンドリュー・ハイルズらによって、事業継続協会(BCI)が設立された[4]。BCIは、「サバイブ・グループ」という、災害復旧・事業継続の専門家ネットワークから発展したものであった[4]。BCIは、1995年にロンドンで最初の年次総会を開催し、1997年5月には、独立した組織となった[4]。
2001年9月11日という転機
米国における、事業継続への関心の高まりは、2001年9月11日の同時多発テロ事件によって、大きく後押しされた[3]。物理的な資産の全てが、単一の建物に集中していた一部の企業は、人員が無事に避難できたとしても、事業そのものを継続できず、消滅した[3]。この出来事は、事業継続計画の重要性を、広く社会に印象づける、転機となった。
日本におけるBCPの制度化
内閣府「事業継続ガイドライン」
日本では、2005年、内閣府が「事業継続ガイドライン」を策定した[5]。このガイドラインは、その後、2013年8月の改定、2023年3月の改定を経て、現行版に至っている[6][7]。ガイドラインは、副題「あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応」が示す通り、特定の災害に限定されない、オールハザード型のBCPを意識して作成されている[6]。事業継続計画は、大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化といった、不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための、方針・体制・手順等を示した計画として、定義される[7]。
ISO22301との関係——「How」と「What」
内閣府の事業継続ガイドラインと、国際規格ISO22301の関係は、「How(何をすることが望ましいか)」と「What(何をしなければならないか)」という、観点の違いとして整理される[6]。事業継続ガイドラインは、望ましい実践を示す、ガイダンス文書であるのに対し、ISO22301は、事業継続マネジメントシステム(BCMS)の認証取得のための、要求事項を定める規格である[6][8]。
BCPの中核概念
目標復旧時間と、許容限界
BCP策定において、中心的な問いとなるのが、重要な活動を再開するための、目標復旧時間(最大許容停止時間)である[9]。災害前の状態を100とした場合、直ちに100の状態へ回復することは、通常、不可能である。どこまで事業を回復できれば、組織として存続を継続できるか(この下限を下回れば継続できない、という水準)を、許容限界として定め、それに基づいて計画を策定する[9]。
事象を仮定しない、目的志向のアプローチ
事業継続計画は、「もしも、これこれが起きたら」という、個別の事象を仮定して対策を考える、防災的なアプローチとは、性質が異なる。BCPは、どのようなリスクが現実化したとしても、重要業務を継続していくという、目的意識に基づいて策定される、点に、その特徴がある[9]。
演習の重要性
ISO22301は、事業継続マネジメントが、有事が発生しない限り、その有効性・実効性を確認する機会が生じないという、他のマネジメントシステムにはない特徴を持つことを踏まえ、平時における「演習」の実施を、明示的な要求事項として定めている[10]。演習は、単に実施するだけでなく、目標を定め、シナリオを計画・実施し、結果をレビューし、改善につなげることが、求められる[10]。
NR02との接続——BCPは、工学的レジリエンスの追求か
BCPが目指す「重要業務の継続・早期復旧」という目標は、NR02で扱った、工学的レジリエンス——単一の望ましい状態(平常運行)への、できるだけ速い回帰——の追求と、構造的に近い【推論】。目標復旧時間という概念そのものが、まさに、盆地の比喩における、斜面の急峻さ(回復の速さ)に対応する。ただし、事業継続ガイドラインが示す、オールハザード型のアプローチ——個別の事象を仮定せず、どのようなリスクにも対応する、目的志向のアプローチ——は、単に元の状態への回帰だけでなく、状況に応じた、柔軟な対応能力(生態学的レジリエンスに、より近い発想)をも、部分的に含んでいる可能性がある。
交通・物流分野への接続
交通・物流事業者にとって、BCPは、特に重要な意味を持つ【推論】。鉄道・バス・物流事業者は、サプライチェーンの途絶が、自社の事業継続を脅かすだけでなく、他の事業者・地域社会の事業継続そのものを支える、社会基盤としての役割を担う。この点で、交通・物流事業者のBCPは、単独の企業の存続戦略にとどまらず、地域全体の事業継続を支える、公共的な性格を、強く帯びている。
おわりに
本稿は、BCPの起源(ITディザスタリカバリー、DRIの1988年設立と1990年代初頭の拡張、BCIの1994年設立、9・11という転機)、日本における制度化(2005年内閣府ガイドライン、2013年・2023年改定、ISO22301との関係)、中核概念(目標復旧時間、許容限界、目的志向のアプローチ、演習の重要性)を整理した上で、NR02の工学的・生態学的レジリエンスとの接続を検討した。次稿NR04では、高信頼性組織論(HRO)——航空・原子力分野の知見の応用可能性——を扱う。
主要先行研究
内閣府防災担当「事業継続ガイドライン」(2005年、2013年改定、2023年改定)[5][6][7]。
参考資料一覧
- 「The Evolution of Business Continuity Management: A Historical Review of Practices and Drivers」ResearchGate掲載論文。1970年代英国銀行業界の技術革新、1980〜90年代の技術中心局面について。
- DRI International公式サイト。1988年設立について。
- 「History of Disaster Recovery and Business Continuity」J.D. Fox Exec。DRIの1990年代初頭の拡張、9・11の影響について。
- 「Business Continuity Institute」英語版ウィキペディア。1994年設立、サバイブ・グループからの発展、1997年の独立について。
- 「内閣府の事業継続ガイドラインとは?」安否確認システムmag。2005年策定について。
- 「事業継続ガイドライン(内閣府)」Newtonコンサルティング。2013年・2023年改定、ISO22301との関係(How/What)、オールハザード型について。
- 内閣府防災担当「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」(令和5年3月改定版)。BCPの定義について。
- 「国際規格『ISO 22301』-概要」SOMPOリスクマネジメント。ISO22301の性格について。
- 「事業継続計画(BCP)・ISO22301とは」AIMS。目標復旧時間、許容限界、目的志向のアプローチについて。
- 「国際規格『ISO 22301』-概要」SOMPOリスクマネジメント。演習の要求事項について。
用語集
- BCP, Business Continuity Plan, 事業継続計画, —: 不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または短期間で復旧させるための方針・体制・手順を示した計画。
- DRI, Disaster Recovery Institute International, —, —: 1988年設立の、事業継続・災害復旧分野の国際的な非営利専門家団体。
- 目標復旧時間, Recovery Time Objective, RTO, 最大許容停止時間: 重要な活動を再開するために許容される、最大の停止時間。
- オールハザード型BCP, All-Hazard Approach, —, —: 特定の災害・事象に限定せず、様々な種類のリスクに対応できるよう設計される、事業継続計画の設計思想。
- ISO22301, —, —, —: 事業継続マネジメントシステム(BCMS)の要求事項を定める、国際規格。
Claude ログ
正確な典拠を確認してから執筆する。国際的なBCPの成立史も確認する。十分な資料が集まった。NR03を執筆する。整合性を確認する。引用番号[1]〜[10]の連番、全HTMLタグの対応が一致した。NR03を執筆した。
主な内容
- BCPの起源:ITディザスタリカバリーからの出発——1970年代英国銀行業界の技術革新(BACS1971、SWIFT1973、EFTPOS1980、CHAPS1984)、1980年代のパソコン普及とコンプライアンス局面を正確に整理
- DRIとBCIの設立:1988年DRI設立と、1990年代初頭の「災害復旧」から「事業継続」への対象拡張(正式な学問分野の誕生)、1994年BCI設立(「サバイブ・グループ」からの発展、1997年独立)を明示
- 2001年9月11日という転機:物理資産が単一建物に集中していた企業が人員無事でも消滅した事実を通じ、事業継続の重要性が社会に広く印象づけられた経緯を紹介
- 日本の制度化:2005年内閣府「事業継続ガイドライン」策定→2013年・2023年改定という正確な変遷、ISO22301との関係(ガイドライン=How、ISO22301=What)を整理
- 中核概念:目標復旧時間(RTO)・許容限界、個別事象を仮定しない目的志向のアプローチ(防災との違い)、ISO22301が要求する演習の実施義務を整理
- NR02との接続(本稿の重要な指摘):目標復旧時間という概念が「盆地の斜面の急峻さ(工学的レジリエンス)」に対応する一方、オールハザード型の目的志向アプローチが生態学的レジリエンスの発想も部分的に含む可能性を、【推論】タグ付きで指摘
- 交通・物流への接続:交通・物流事業者のBCPが、単独企業の存続戦略を超えて、地域全体の事業継続を支える公共的性格を帯びることを指摘
引用[1]〜[10]、参考資料一覧・用語集も本文に組み込み済み。全HTMLタグの対応を確認済み。
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BCPは、もともとITの「災害復旧計画」から生まれました——1988年DRI設立、1990年代初頭の事業継続への拡張、9・11という転機を経て、2005年内閣府ガイドラインへ。目標復旧時間という概念が、NR02の「工学的レジリエンス」とどう対応するかを検討する回です。(124文字)
タイトル案
次はNR04(高信頼性組織論:HRO)の執筆に進んでよいか、確認したい。








