実務家が理論を知らずに、たどり着いた結論が、学術理論と、ほぼ一致していました。6要素のうち5つは、1965年の原型理論で説明できますが「ドラマ性」だけは、2001年の更新を、待たねばなりませんでした。理論と実務が、独立に、同じ場所へ収斂した、珍しい事例です。HMシリーズ第四回です。

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はじめに

HM02、及びHM03では、ニュースバリュー理論の学問的背景と12の因子を検討した。本稿はその第四回として、この学術理論と野村浩志氏のす・し・は・ど・こ・さの法則との具体的な対応関係を検討する。実務家が独自に編み出した6つの要素が、学術理論の因子とどこまで精密に符合するのかを、一つずつ丁寧に確認していく。

①スピード感——頻度、及び継続性との対応

野村氏が説く前日発信を戒めるという要素は、ガルトゥングとルーゲが示した頻度という因子と対応する。頻度とは、出来事の展開する時間の長さが報道機関のニュースサイクルに近いほど報道されやすい、という因子であった。プレスリリースが記者の編集サイクルに間に合わなければ、どれほど内容が優れていても取材されない。この現実的な制約を、野村氏は数々の失敗を通じて、自ら学び取っていたことになる。野村氏の忠告は、報道機関側が置かれているこの時間的な制約という構造を、極めて正確に言い当てていたといえる。

②社会性——意味性との対応

単なる宣伝ではなく、社会への貢献や影響を絡めるべきだという野村氏の指摘は、意味性という因子と対応している。意味性とは、受け手にとっての関連性が高いほど報道されやすい、という因子であった。組織自体の宣伝に終始するのではなく、その活動が社会にもたらす意味を語ることは、読者や視聴者にとっての関連性を実質的に高める行為に他ならない。野村氏が単なるイベント告知を戒めていたのは、まさにこの意味性の欠如が記者の関心を引かない原因になると、経験的に理解していたためだと考えられる。

③初モノ、及び⑥サプライズ——予想外性への収斂

この2つの要素は、いずれも予想外性という単一の学術的因子に収斂すると考えられる。史上初、世界初という要素は、その出来事がこれまで存在しなかったという点で受け手の予測を裏切るものである。驚き、楽しさ、びっくりというサプライズの要素も同様に予想外性そのものを表している。野村氏が、範囲を狭めてでも初モノを作るという工夫を説いていたことは、示唆に富む。これは予想外性という因子を、どんな小さな規模の話題であっても人為的に作り出せるという実務上の知恵であったと理解できる。東北初、地域初という言い換えは、対象の枠組みを絞ることで絶対的な希少性がなくとも、相対的な予想外性を確保する巧みな工夫であったといえる。

④ドラマ性——人間的関心への対応

野村氏が最も重視したこのドラマ性という要素は、1965年のガルトゥングとルーゲの理論には明示的には含まれていなかった因子である。しかしこれはHM03で確認した通り、2001年のハーカップとオニールによる更新の中で明確に位置づけられることになった。人間的関心、及び個人化という因子は、抽象的な構造よりも具体的な個人に焦点を当てた出来事の方が報道されやすい、というものであった。「モノ」より「コト」に焦点を当てるという野村氏の印象的な言葉は、まさにこの個人化・人間的関心という因子の実務的な言い換えであったと考えられる。野村氏自身の駄菓子屋の店主から公募社長へという劇的な経歴そのものが、この因子を強く満たす素材であったことは、HM01で確認した通りである。

⑤公共性——エリート機関への言及との対応

新聞は社会の公器であり、公共性のある組織とのコラボレーションが有効だという野村氏の指摘は、エリート国家、及びエリート人物への言及という因子と対応している。この因子は本来、大国や著名人に関する出来事が報道されやすいという、国際ニュースの文脈で示されたものであった。野村氏はこの因子を、より広く公共性を持つ組織一般へと独自に応用していたことになる。鉄道会社自体が公共交通であるため、コラボレーションの相手として強いという野村氏の指摘は、鉄道会社という組織そのものがこの因子を内在的に満たしていることを示唆している。

対応関係の全体的な整理

以上を整理すると、興味深い構図が見えてくる。6つの要素のうち5つ、すなわちスピード感、社会性、初モノ、公共性、サプライズは、1965年のガルトゥングとルーゲによる原型の理論の中で既に説明が可能である。これに対し、残る一つであるドラマ性のみが、2001年のハーカップとオニールによる後年の更新を待って初めて、明確に理論化された因子に対応することになる。この事実は、野村氏が経験的に最も重視していた要素が学術理論の側でも、後になって独立した重要な因子として確立されていったという、興味深い時間的な符合を示していると考えられる。

この符合が持つ意味

実務家が理論を全く知らないまま、独力の試行錯誤によって学術理論とほぼ同一の結論にたどり着いた、というこの一致は単なる偶然として片付けるべきではないと考えられる。むしろこれは、ニュースバリューという現象が報道の現場において、繰り返し観察可能な頑健な規則性を持つことの一つの証左として理解できる。理論家が体系的な調査によって導き出した因子と、実務家が数百回に及ぶ現場での試行錯誤によってたどり着いた要素とが、独立に同じ場所へと収斂したことになる。この収斂は、ニュースバリューという概念が単なる学者の頭の中の抽象論ではなく、実際に報道の現場を支配している現実的な力学であることを、あらためて裏付けているといえる。

既刊シリーズとの接続

本稿で確認したこの対応関係は、既刊H07で扱ったラック教授とコトラー&レヴィの論争が示した、実務と理論の緊張関係とは対照的である。あの論争では理論の拡張をめぐり、実務家と理論家の間で見解の相違が生じていた。これに対し本稿で確認した事例は、理論と実務が独立に同じ結論へと到達した、という、むしろ両者の一致を示す稀有な事例として位置づけられる。

おわりに

本稿は、す・し・は・ど・こ・さの法則、6つの要素をニュースバリュー理論の因子と一つずつ対応させて検討した。スピード感が頻度に、社会性が意味性に、初モノとサプライズが予想外性に、公共性がエリート機関への言及に対応することを確認した。ドラマ性のみが、2001年の更新を待って理論化された、という時間的な符合も確認した。この対応関係が、単なる偶然ではなく、ニュースバリューという現象の頑健性を示すものであることも検討した。次稿HM05では、このドラマ性という要素に焦点を絞り、より広い物語論、及びナラティブ理論との接続を検討する。

年表

  • 1965年 ガルトゥング&ルーゲ、12の因子を発表
  • 2001年 ハーカップ&オニール、人間的関心を含む更新を発表
  • 2021年 野村浩志、す・し・は・ど・こ・さの法則を公開

参考資料一覧

  1. 「新聞・テレビに300回取材されたノウハウとは?」日本観光鉄道、野村浩志。https://jtr2021.com/post-130/。す・し・は・ど・こ・さの法則、6つの要素について。
  2. Galtung, J., & Ruge, M. H. (1965). The Structure of Foreign News. Journal of Peace Research, 2(1), 64-91.
  3. Harcup, T., & O’Neill, D. (2001). What Is News? Galtung and Ruge Revisited. Journalism Studies, 2(2), 261-280.

用語集

  • 人間的関心, Human Interest, —, —: 具体的な個人の物語に焦点を当てた出来事が報道されやすいとする、2001年ハーカップ&オニールの因子。