地域政策は「一つの政策=一つの成果」にはなりません。人口・雇用・交通・住宅・福祉が絡み合う中、地方創生はKPIロジックモデルで、都市政策は立地適正化計画アクセシビリティ指標で、地域経済はDMOのKGIや合成対照群法で効果を検証します。単独事業評価から複合評価へ――政策評価シリーズ第5部、最終回「地域政策・都市政策」を公開しました。次回はシリーズ総括です。

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地域政策・都市政策をどのように評価するのか――複雑系政策における評価の複合化

本稿は政策評価シリーズ第5部「政策分野別にみる政策評価」の第4回であり、第5部の最終回である。第5部第1回ではインフラ政策を、第2回では医療・福祉政策を、第3回では教育政策を取り上げ、政策分野ごとに評価の対象・成果指標因果推論の手法が異なることを確認してきた。インフラ政策では投資がもたらす社会全体の便益費用便益分析によって測定され、医療政策では健康アウトカム質調整生存年QALY)等によって測定され、教育政策では学力という短期指標と、進学・所得・健康という長期指標とがランダム化比較試験(RCT)を中心とする実証研究によって検証されてきた。これら三分野には共通点がある。評価の対象となる政策領域が比較的明確に区切られており、政策の効果を担う主体も、インフラであれば発注者たる行政、医療であれば医療機関、教育であれば学校というように、相対的に特定しやすい。

本稿で扱う地域政策・都市政策は、これらとは性質を異にする。地域政策は、人口、雇用、産業、住宅、公共交通、土地利用、福祉、教育、環境という、複数の政策領域が同時かつ相互に作用する場で展開される。ある地域における人口減少は、雇用機会の減少、公共交通の縮小、生活利便施設の撤退、教育機会の縮小と相互に絡み合いながら進行し、単一の政策を投入しただけでは解消しない。したがって、地域政策の評価は、単独事業の効果を測定するという枠組みだけでは対応できず、政策パッケージ全体の効果をどう捉えるかという、性質の異なる課題に直面する。本稿は、地方創生政策、都市政策、公共交通政策、地域経済政策という四つの政策領域を通じて、複雑系政策における評価がどのように変化するかを整理する。政策提言地方創生の是非、地方分権論、自治体経営論、都市計画制度の詳細、コンパクトシティの賛否は本稿の対象としない。第3部で整理した評価手法との接続は、必要な範囲で明示する。

1.地域政策評価の特徴――なぜ評価が難しいのか

インフラ政策・医療政策・教育政策の評価が、それぞれ「投資の社会的便益」「健康アウトカム」「学力・長期アウトカム」という、比較的定義しやすい成果指標を中心に組み立てられてきたのに対し、地域政策の評価は、成果指標そのものを一つに定めることが難しい。地域が抱える課題は、人口減少、雇用の縮小、産業の空洞化、公共交通の縮小、生活サービス機能の撤退、教育機会の縮小、防災上の脆弱性、環境負荷という複数の要素が相互に作用しながら生じており、これらは互いに原因にも結果にもなり得る。人口が減少すれば商業施設の採算が悪化して撤退し、生活利便性が低下すれば人口流出がさらに進む、という循環関係がその典型である。

この結果、地域政策の評価には三つの困難が生じる。第一に、単一の政策手段と単一の成果指標を一対一で対応させることが難しい。地方創生関係交付金の効果検証に関するガイドラインも、設定するKPIについて、目標との因果関係が明確であることに加え、当該事業とは別の事業による変化や外的要因の影響を受けにくい指標を選ぶことの重要性を指摘しており、単独の政策と成果との因果関係を特定すること自体が実務上の課題として認識されている[5]。第二に、政策の担い手が単一ではない。地方創生では国・都道府県・市町村に加えて産業界・大学・金融機関・労働団体・住民(いわゆる産官学金労言)が関与し、都市政策では都市計画部局と交通部局、地域経済政策では複数の省庁の制度が重なり合う。第三に、成果が現れるまでの時間軸が政策手段によって異なる。産業立地による雇用創出は数年単位で観察できる一方、人口構造の変化やコンパクトシティ化による都市構造の変化は数十年単位でしか観察できない。

こうした特性を持つ地域政策の評価は、単独事業評価から、政策パッケージ評価、そしてTheory of Changeに基づく複合評価へと発展してきた。以下、地方創生政策、都市政策、公共交通政策、地域経済政策という四つの領域を順に確認したうえで、第6章でTheory of Change因果推論の適用可能性を、第7章で複合評価の考え方を整理する。

2.地方創生政策評価

まち・ひと・しごと創生法とKPI・PDCAの制度化

日本における地方創生政策の法的根拠は、2014年(平成26年)に制定されたまち・ひと・しごと創生法である。同法第8条は、政府が「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定することを定めており、同条第3項では、総合戦略の案を作成するに当たり、検証に資するよう総合戦略の実施状況に関する客観的な指標を設定することとされている[7]。すなわち、法律の制定段階から、政策の効果を客観的な指標で検証する仕組みが組み込まれていた点に特徴がある。2014年12月に閣議決定された最初の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は、国が示す「政策パッケージ」の進捗状況を重要業績評価指標(KPI)で検証し、改善する仕組み、すなわちPDCAサイクルを確立することを掲げ、地方公共団体に対しても、2016年度以降、地方版総合戦略の進捗をKPIで検証し改善を進めるPDCAサイクルを本格的に稼働させることを求めた[3]。

KPIの設定に当たっては、行政活動そのものの結果(アウトプット)ではなく、その結果として住民にもたらされた便益アウトカム)に関する指標を原則とすることが、内閣府地方創生推進室の手引きで示されている[4]。地方創生関係交付金事業のKPI設定に関するガイドラインは、地域にもたらす効果を示す「総合的なアウトカム」、交付金を活用した取組の成果を示す「事業のアウトカム」、活動量を示す「事業のアウトプット」という三層でKPIを整理することが望ましいとしており、目標との因果関係が明確であること、当該事業による成果として説明できることを、KPI設定の要件として挙げている[5]。効果検証の実施状況についても、内閣官房の調査によれば、2019年時点で8割を超える地方公共団体において産官学金の外部有識者が検証体制に参画しており、外部有識者による検証を実施している地方公共団体の方が、実施していない団体と比べてKPIの達成割合が高いという結果が示されている[6]。

総合戦略の変遷――まち・ひと・しごと創生からデジタル田園都市国家構想、そして地方創生2.0へ

地方創生の推進体制と総合戦略は、2014年の制度創設以降、社会情勢の変化に応じて名称と重点を変えながら継続的に改訂されてきた。2014年12月に第1期の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が、2019年12月に第2期の総合戦略[6]がそれぞれ閣議決定された後、2022年12月には、デジタル技術の活用による地方創生の加速化・深化を掲げ、第2期総合戦略を抜本的に改訂した「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(2023年度から2027年度までの5か年戦略)が閣議決定された[8]。同戦略は、デジタル田園都市国家構想基本方針に沿って各府省庁の施策を具体化するとともに、KPIと工程表(ロードマップ)を位置付けるものとされた[8]。

その後、2024年10月には、デジタル田園都市国家構想実現会議を発展させる形で「新しい地方経済・生活環境創生本部」が設置され、2025年6月には、今後10年間を見据えた地方創生の方向性を定める「地方創生2.0基本構想」が閣議決定された[9]。これを踏まえ、2025年12月23日には、デジタル田園都市国家構想総合戦略を変更する形で「地方創生に関する総合戦略~これまでの地方創生の取組のフォローアップと推進戦略~」(2025年度から2029年度までの5か年戦略)が新たに閣議決定されている[1][9]。この最新の総合戦略は、「強い経済」「豊かな生活環境」「選ばれる地方」という三つの目標を設定した上で、目標と各施策との因果関係をロジックモデルとして明示的に整理し、進捗や成果を客観的に把握できるKPI(原則5年後の目標値)の設定と工程表の作成を通じてPDCAサイクルを徹底することを掲げている[1][2]。現在の推進体制は、内閣官房地域未来戦略本部が事務局機能を担い、内閣府地方創生推進事務局・地方創生推進室と連携する形をとっている[9]。

この変遷が示すのは、地方創生政策の評価枠組みが、KPI・PDCAという基本構造を維持しながら、目標と施策の因果関係を「ロジックモデル」として明示する方向へと精緻化されてきたという点である。2025年の最新戦略では、目標をインパクトとして設定し、そこに至る施策群との因果関係をロジックモデルとして政策全体にわたってより明示的に位置付けるという整理が行われており、制度運用の経験を踏まえ、複数の施策が複合的に作用する地方創生政策において、政策間の因果関係をより明示する方向へ発展してきたことがうかがえる。

3.都市政策評価

立地適正化計画制度とコンパクト・プラス・ネットワーク

都市政策における評価の中心的な制度が、立地適正化計画である。2014年(平成26年)8月、都市再生特別措置法の一部改正法の施行により、生活拠点に医療・福祉等の施設や住宅を誘導・集約する立地適正化計画制度が創設された。同時に、地域公共交通活性化再生法の一部改正法も同年11月に施行され、地方公共団体が中心となって面的な公共交通ネットワークを再構築する仕組みが設けられた[12][23]。国土交通省は、都市全体の構造を見渡しながら、住宅及び医療・福祉・商業等の生活関連施設の誘導と、それに連携した公共交通ネットワークの再編を組み合わせることで、「コンパクトシティ+ネットワーク」の実現を図るとしている[12]。

立地適正化計画は、居住誘導区域都市機能誘導区域という二つの区域設定を中心に構成される。居住誘導区域は、人口減少下にあっても一定エリアの人口密度を維持することで、生活サービスやコミュニティが持続的に確保されるよう居住を誘導すべき区域であり、都市機能誘導区域は、医療・福祉・商業等の都市機能増進施設を都市の中心拠点や生活拠点に誘導・集約する区域である[11]。この制度は、2026年3月31日時点で971都市が計画を作成又は具体的な取組を行うまでに広がっている[10]。

コンパクトシティ化の評価指標――「見える化」の取組

国土交通省は、市町村が立地適正化計画の目標設定や効果検証を行いやすくするため、コンパクトシティ化に係る評価指標の開発・提示を「見える化」の取組として進めてきた。2014年8月には、都市構造の「コンパクトさ」を評価するための手法・指標を示す「都市構造の評価に関するハンドブック」が策定され、2017年3月にはまちづくりにおける健康増進効果を把握するための歩行量(歩数)調査ガイドライン、2018年6月にはまちの活性化を測る歩行者量調査ガイドラインが、それぞれ追加で策定されている[13]。これらのハンドブック・ガイドラインに基づき、多くの都市が、日常生活サービス(医療・高齢者福祉・商業・基幹的公共交通)が徒歩圏内(800メートル)で充足しているエリアの割合等を、全国平均や同規模都市との比較を通じて評価する取組を行っている。国土交通省はまた、「立地適正化計画作成の手引き」別冊として「目標・KPI事例集」を作成し、「コンパクトシティ形成支援チーム」による継続的なモニタリングを行うとしている[10][11]。

都市政策評価のこうした指標体系は、インフラ政策における費用便益分析のように単一の貨幣価値集約する評価とは異なり、人口密度都市機能への到達可能性、歩行量、健康指標といった複数の指標を組み合わせて都市構造の変化を多面的に捉えようとする点に特徴がある。これは、都市構造が生活利便性・健康・環境・行政コストという複数の政策目的に同時に関わるためであり、次章で扱う公共交通政策の評価とも密接に結びついている。

4.公共交通政策評価

交通政策基本法と地域公共交通計画

公共交通政策の評価は、2013年(平成25年)制定の交通政策基本法と、2007年(平成19年)制定・2014年改正の地域公共交通活性化再生法という二つの法律を基盤とする[23]。2015年2月に閣議決定された交通政策基本計画は、我が国の交通サービス水準について、可能な限り客観的に評価できるようその「見える化」を進め、国内の地域間及び海外の先進事例等との比較も念頭に置いた評価を進める方針を掲げている[14]。地域公共交通活性化再生法に基づき、地方公共団体は、地域公共交通計画(旧・地域公共交通網形成計画)を策定し、面的な公共交通ネットワークの再構築に取り組むことができる[23]。

アクセシビリティ指標――利用しやすさの定量評価

国土交通省は、地域公共交通サービス水準を、他の市町村と定量的に比較可能な形で評価する手法として、「サービスのアクセシビリティ指標」を開発している。この評価手法は、全国約1,700の市町村を対象に、時間的アクセシビリティ指標(運行本数の多さを示す)、空間的アクセシビリティ指標(路線の近さを示す)、両者の積である総合アクセシビリティ指標、及び運賃面での利用しやすさを示す金銭的アクセシビリティ指標という4つの指標を設定し、市町村ごとの「カルテ」として整理・送付するものである[14]。国土交通省国土技術政策総合研究所は、これとは別に、徒歩又は公共交通による目的施設(一般病院等)への最短期待到達時間を100メートルメッシュ単位で算出する「アクセシビリティ指標活用の手引き」を公表しており、都市計画基礎調査データの分析にも活用されている[15]。

公共交通ネットワークの整備効果を学術的に評価する際に用いられるアクセシビリティ指標は、目的地までの移動に要する金銭的費用・時間・待ち時間・快適性等を総合したコストが小さいほど高くなるという考え方に基づいて算出される。地域公共交通ネットワークを整備する政策的な目的は、住民がより多くの活動機会にアクセスできるようにすることにあり、通学・通院・買い物といった生活行動の実現可能性を評価する視点が重視される。

LUTI(土地利用・交通相互作用)モデル

公共交通政策と都市政策(土地利用政策)は独立に評価できるものではなく、相互に影響し合う。この相互関係を明示的に扱う分析枠組みが、土地利用・交通相互作用(Land Use and Transport InteractionLUTI)モデルである。学術研究によれば、LUTIデルは、1960年代のLowryモデル以降、大規模な戦略的都市モデリングの中核として発展してきたものであり、土地利用の変化と交通基盤の整備という二つの政策変数の間の因果関係を検証するための、政策決定者にとって有用な分析ツールとして位置付けられている[22]。LUTIデルの中心的な政策的貢献は、居住選択の傾向を評価し、土地利用と移動パターンを予測し、交通・土地利用政策の長期的な影響を計算することにあるとされる[22]。もっとも、アクセシビリティという、土地利用と交通を結びつける鍵となる概念自体の理論化・定量化には固有の難しさがあることも、学術研究では指摘されている[22]。立地適正化計画における居住誘導区域都市機能誘導区域の設定と、地域公共交通計画によるネットワーク再編とが「コンパクト・プラス・ネットワーク」として一体的に扱われる背景には、こうした土地利用と交通の相互依存性がある。

5.地域経済政策評価

企業立地・産業集積――地域未来投資促進法

地域経済政策の評価制度として代表的なものが、地域未来投資促進法(地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律)である[16]。同法は、地域の特性を活かして高い付加価値を創出し、地域の事業者に相当の経済的効果を及ぼす「地域経済牽引事業」を促進することを目的とし、市町村・都道府県が作成する基本計画に基づき、事業者が作成する「地域経済牽引事業計画」を都道府県知事が承認する仕組みをとる[16]。事業計画の承認に当たっては、地域の特性を活用する分野への該当、基準額を超える付加価値額の創出、及び地域の事業者への経済的効果(取引額・売上げ・雇用者数・雇用者給与等支給額のいずれかの増加)という三つの要件を満たすことが求められる[16]。付加価値額の基準や経済的効果の基準は、各都道府県・市町村が定める基本計画ごとに異なる数値が設定されており、承認後の実施状況は報告書によって継続的にモニタリングされる[16]。この制度設計は、地域経済政策の評価が、投資額や誘致件数といったアウトプット指標ではなく、付加価値・雇用・給与という定量的なアウトカム指標に基づいて行われていることを示している。

観光政策評価――観光地域づくり法人(DMO)とKGI・KPIツリー

観光政策の評価制度としては、観光地域づくり法人(DMO:Destination Management/Marketing Organization)の登録制度が中心的な役割を果たしている。観光庁が2025年4月に策定した「観光地域づくり法人(DMO)によるKGI・KPI計測に係る手引書」によれば、観光地経営に係るKPIは、重要目標達成指標(KGI)である旅行消費額を頂点とし、その実現に資する重要成功要因(KSF)に基づいて複数のKPIを組み合わせる「KPIツリー」として体系化されている[17]。必須のKPIには、旅行消費額、延べ宿泊者数、来訪者満足度、リピーター率に加え、2025年の改正で、観光従事者の平均給与額、住民の持続可能な観光に対する満足度、月別来訪者数の平準化率といった指標が新たに追加された[17][18]。これは、観光振興を旅行者の消費額のみで評価するのではなく、観光に従事する地域住民や、観光地に居住する住民の側から見た持続可能性を、評価指標の中に明示的に組み込む方向への転換を意味する。同手引書はさらに、DMOの活動に参画した事業者の売上をDMOの活動支出で除した投資収益率という指標を示しており、KGIである旅行消費額による経済波及効果を、マネジメント区域の産業連関表を用いて計測する手法も整理されている[17]。

企業立地・産業集積政策と観光政策に共通するのは、いずれも付加価値・雇用・所得という経済的アウトカムを中心指標としながら、それを生み出す主体(企業、DMO)の活動実績を、より短期で観察可能なアウトプット指標・プロセス指標として補完的に組み合わせている点である。この階層構造は、次章で扱うロジックモデルの基本的な発想と共通する。

6.Theory of Changeと因果推論

ロジックモデルによる因果関係の明示

第3部で整理したTheory of Changeロジックモデルは、政策が投入(インプット)から活動(アクティビティ)、産出(アウトプット)、成果アウトカム)、そして最終的な効果(インパクト)に至る因果メカニズムを明示的に構造化する方法論である。なお、日本政府の総合戦略等で用いられているのは「ロジックモデル」という用語であり、「Theory of Change」という用語そのものが用いられているわけではないが、目標と施策の因果関係を明示的に構造化するという発想は共通している。地方創生政策では、前述の通り、2025年12月の「地方創生に関する総合戦略」において、本シリーズで紹介したTheory of Changeに近い考え方として、「強い経済」「豊かな生活環境」「選ばれる地方」という三つのインパクトを設定した上で、それらを実現するための施策群との因果関係をロジックモデルとして整理し、進捗を把握するKPIを設定するという手法が採用されている[1]。これは、地域政策のように、成果に至るまでの因果関係が長く、かつ複数の施策が複合的に作用する政策領域において、政策設計の段階から因果仮説を明示することの重要性を示す事例である。

なぜRCTが困難なのか

第5部第1回から第3回で確認したインフラ政策・医療政策・教育政策では、費用便益分析やランダム化比較試験(RCT)という、比較的確立した評価手法が中心的な役割を果たしてきた。これに対し、地域政策・都市政策では、政策の対象が個人ではなく地域そのものである場合が多く、処置群・対照群への無作為割り付けは実務上・倫理上の制約が大きい。ある市町村を無作為に「地方創生施策を実施する群」と「実施しない群」に割り付けることは現実の行政運営としては成立しにくく、地域全体を対象としたRCTは極めて困難である。もっとも、就業支援策や情報提供・ナッジ型の施策等、個人や事業者を対象とする施策単位では、地域政策の枠内でもRCTが実施される場合はある。

このため、地域政策の効果検証では、自然実験、差分の差分法Difference-in-Differences)、回帰不連続デザインパネルデータ分析、ケーススタディといった手法が用いられる。第3部で整理したこれらの手法は、地域政策の分野において、法制度の施行時期の違いや、制度の適用基準(人口規模、財政力指数等の閾値)を自然実験的な状況として活用する形で適用されている。

Synthetic Control Method(合成対照群法)

地域政策のように、政策の対象となる地域の数が少なく、比較可能な対照群を選ぶこと自体が難しい場合に、近年広く用いられるようになった因果推論の手法が、合成対照群法(Synthetic Control Method)である。この手法は、政策の対象となった地域と類似した特性を持つ複数の地域(ドナー地域)のデータを加重平均することで、政策が実施されなかった場合の反実仮想的な経路を「合成対照群」として構築し、実際の経路との差分を政策効果として推定するものである。海外の実証研究では、フランスで1990年代に実施された企業誘致地区(enterprise zone)政策の地域失業率への影響を、差分の差分法と合成対照群法とを比較しながら検証した研究[19]や、米国ニュージャージー州の都市型企業誘致地区(Urban Enterprise Zone)が地域雇用に与えた影響を合成対照群法で検証した研究[20]、ブラジルのマナウス自由貿易地域の経済効果を20世紀の都市別データを用いて合成対照群法で検証した研究[24]などが蓄積されている。これらの研究に共通するのは、地域単位の政策評価という、対象数が少なく無作為化が困難な状況に対応するための方法論として、合成対照群法が発展してきたという点である。

OECDによる評価の複雑性の指摘

OECDが2025年5月に公表した地域開発政策に関する報告書「Place-Based Policies for the Future」は、地域単位で展開される政策(place-based policies)が、複数の次元にわたる直接的・間接的な効果と目的を持つがゆえに、評価が本質的に複雑にならざるを得ないことを指摘している[21]。同報告書はまた、頑健な反実仮想を統計的に構築するための技術や、モニタリング・評価のエビデンスを政策形成に活用するための実践事例(ポリシーラボ等)についても整理しており、地域政策の評価が、単一の分析手法ではなく、複数の分析枠組みを組み合わせた実践として国際的にも発展してきていることを示している[21]。

7.地域政策評価の特徴――単独事業評価から複合評価へ

ここまで確認してきた内容を踏まえ、地域政策・都市政策における評価の発展を整理すると、次の三段階として捉えることができる。

第一段階は、単独事業評価である。個別の交付金事業や個別施設整備について、アウトプット指標(整備件数、参加者数等)を中心に進捗を管理する段階であり、地方創生政策の初期のKPI運用や、地域未来投資促進法における個別事業計画の承認要件は、この段階に相当する。第二段階は、政策パッケージ評価である。複数の個別事業を、共通の政策目標(地方創生の基本目標、コンパクトシティ形成等)のもとにね、アウトカム指標によって全体の進捗を管理する段階であり、地方版総合戦略のKPI体系や、立地適正化計画における評価指標の「見える化」は、この段階に位置付けられる。第三段階が、Theory of Changeに基づく複合評価である。政策目標に至る因果関係をロジックモデルとして明示し、複数の政策領域にまたがる施策群の相互作用を捉えようとする段階であり、2025年の「地方創生に関する総合戦略」におけるロジックモデルの導入や、コンパクト・プラス・ネットワークにおける都市政策と交通政策の一体的評価は、この段階への移行を示している。

この発展の背景には、第3部で整理した費用便益分析だけでは地域政策を評価しきれないという認識がある。費用便益分析は、政策効果を単一の貨幣価値集約することで政策間の比較を可能にする強力な手法であるが、地域政策がもたらす効果には、コミュニティの持続性、生活の質、住民の満足度、環境負荷といった、貨幣換算が本質的に難しい価値が数多く含まれる。観光政策評価における住民の持続可能な観光に対する満足度の指標化や、都市政策評価における歩行量調査の導入は、こうした貨幣化しにくい価値を定量的に把握しようとする試みである。このため、地域政策の評価実務では、定量指標と定性指標、専門家評価と住民評価を組み合わせる多基準的な評価が、費用便益分析を補完する形で補助的に用いられる場合もある。

第3部で整理した評価手法との関係を改めて整理すると、地域政策評価は、Theory of Changeによる政策設計の構造化、自然実験・差分の差分法・合成対照群法等による因果推論、そして貨幣化できない価値を含む複合評価という、第3部の各要素がもっとも組み合わさった形で実践される政策分野であるといえる。これは、単一の評価手法が突出して発達したインフラ政策(費用便益分析)や教育政策(RCT)とは異なる、地域政策に典型的にみられる特徴である。

まとめ

本稿では、地域政策・都市政策における政策評価の実践を、地域政策評価の特徴、地方創生政策評価、都市政策評価、公共交通政策評価、地域経済政策評価、Theory of Change因果推論、そして単独事業評価から複合評価への発展という観点から整理した。

第5部を通じて確認してきた4つの政策分野を対比すると、その違いが明確になる。インフラ政策では、投資がもたらす「社会全体の便益」が費用便益分析によって単一の貨幣価値集約され、政策判断の基準とされてきた。医療・福祉政策では、「健康アウトカム」がQALY等の指標によって測定され、限られた医療資源の配分を左右する費用効果分析が発達してきた。教育政策では、学力という短期指標と、進学・所得・健康という長期指標が、Perry Preschool ProjectやProject STARに代表されるランダム化比較試験によって検証されてきた。そして地域政策では、単一の成果指標も単一の評価手法も存在せず、KPIロジックモデルアクセシビリティ指標・投資収益率といった多様な指標と、自然実験・差分の差分法・合成対照群法といった多様な因果推論の手法、さらに貨幣化できない価値を扱う複合評価とを組み合わせることが求められてきた。

このように、政策分野が単純な因果構造を持つものから複雑な因果構造を持つものへと移るにつれ、評価の方法論もまた、単一指標による測定から、複数の指標・複数の手法を組み合わせた複合的な評価へと発展してきたことが、第5部全体を通じて確認できる。政策評価は、政策分野の性質に応じて姿を変える、可変的な実践なのである。

第5部では、政策評価の制度・方法論・実践を、政策分野別に具体的に確認してきた。次回、第6部第1回では、これまで第1部から第5部で扱ってきた政策評価の理論・EBPM・方法論・各国制度・分野別実践を統合し、政策評価がEvidence・評価・民主的意思決定の関係を通じて、現代の公共政策全体においてどのような役割を果たしているのかを、シリーズ全体の総括として整理する。

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