本レポートの目的は、国土形成計画・地方創生・デジタル田園都市国家構想・コンパクトシティ政策の政策目標を比較することではない。この比較、及び「25万人都市(列島改造論)から生活圏人口10万人程度(2023年国土形成計画)」という政策目標の変化は、TKシリーズ第7回が比較表付きで既に扱っている。本レポートはこの政策目標比較には立ち入らず、TK7が扱っていない「法制度・計画体系そのものの設計思想の変遷」、すなわち国土総合開発法が国土形成計画法へと改正された過程を、条文レベル・制度レベルで検証することを目的とする。評論や独自の政策提言は行わない。出典の確認できない内容は事実として記載せず、根拠が不足する事項は「不明」と記す。推論を含む場合は【推論】の見出しを付す。
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目次
第一章 国土総合開発法という「開発」法制の設計思想(1950年)
国土総合開発法(昭和25年5月26日法律第205号)第一条は、改正前は「国土を総合的に利用し、開発し、及び保全し、並びに産業立地の適正化を図り、あわせて社会福祉の向上に資すること」を目的として定めていた[1][2]。この条文は、ZSシリーズZS1第一章で確認した通り「均衡」という語を含まない。
同法は制定当初、全国計画・都府県計画・地方計画・特定地域計画という複数の計画体系を法定していた。もっとも、全国計画(後の全総)が実際に策定され機能し始めるまでには1950年の法制定から1962年の一全総閣議決定まで12年を要しており、当初は特定地域総合開発計画の策定・推進が優先された。この制度運用の経緯の詳細はTKシリーズ第1回を参照されたい。
第二章 2005年法改正:条文レベルの変化
目的規定(第一条)の改正内容
2005年の「総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律」は、国土総合開発法第一条の見出しを「(目的)」に改めた上で、条文中の「国土を総合的に利用し、開発し、及び保全し、並びに産業立地の適正化を図り、あわせて社会福祉の向上に資する」という文言を、次のように改めた(原文のまま引用)。「国土の利用、整備及び保全を推進するため、国土形成計画の策定その他の措置を講ずることにより、国土利用計画法(昭和四十九年法律第九十二号)による措置と相まつて、現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会の実現に寄与する」[3][4]。
この改正により、目的規定から「開発」「産業立地の適正化」「社会福祉の向上」という文言が削除され、代わりに「安心して豊かな生活を営むことができる経済社会の実現」という文言が挿入された。改正後の第一条は、国土利用計画法(1974年制定)による措置と「相まつて」(併せて)目的を達成するとしており、両法の関係を条文上明記している[4]。
基本理念規定(第三条)の新設
現行の国土形成計画法第三条は、新たに「国土形成計画」の基本理念に相当する規定を置いている。同条は次のように定める(原文のまま引用)。「国土形成計画は、我が国及び世界における人口、産業その他の社会経済構造の変化に的確に対応し、その特性に応じて自立的に発展する地域社会、国際競争力の強化及び科学技術の振興等による活力ある経済社会、安全が確保された国民生活並びに地球環境の保全にも寄与する豊かな環境の基盤となる国土を実現するよう、我が国の自然的、経済的、社会的及び文化的諸条件を維持向上させる国土の形成に関する施策を、当該施策に係る国内外の連携の確保に配意しつつ、適切に定めるものとする」[4][5]。
この条文には、ZSシリーズZS1で確認した通り「均衡」という語が含まれない。他方、同時に存続している国土利用計画法第二条は、基本理念として「健康で文化的な生活環境の確保と国土の均衡ある発展を図ることを基本理念として行うものとする」と定めており、「均衡ある発展」の文言は国土利用計画法側に引き続き存在している[6]。すなわち、2005年改正は、全総の根拠法(国土総合開発法→国土形成計画法)から「均衡」の語を除いた一方、隣接する国土利用計画法の基本理念からは「均衡ある発展」を削除しなかった。この使い分けの立法趣旨(意図的な使い分けか、単に改正の対象範囲外だっただけか)については、本レポートの調査範囲では確認できておらず「不明」とする。
計画体系の再編
改正法は、第四条において「総合開発計画」という文言を「国土形成計画」に改めるとともに、関連する条項の整理(項の削除・繰上げ)を行っている[3]。これにより、従来の全国計画・都府県計画・地方計画・特定地域計画という体系が、全国計画・広域地方計画という新しい二層構造に再編された。国土形成計画法第二条第2項は「前項の国土形成計画は、第六条第二項に規定する全国計画及び第九条第二項に規定する広域地方計画とする」と定めている[5]。
第三章 広域地方計画という分権的手法の意味
広域地方計画協議会の構成
国土形成計画法第十条は、広域地方計画区域ごとに「広域地方計画協議会」を組織することを定めている。協議会は、国の関係各地方行政機関、関係都府県及び関係指定都市により構成され、必要があると認めるときは、当該区域内の市町村(指定都市を除く)等を協議により加えることができる[7][8]。協議会の会議は、国の地方行政機関等の長又はその指名する職員、加わった地方公共団体の長又はその指名する職員等をもって構成され、協議が調った事項については構成員がその結果を尊重しなければならないとされている[7]。市町村は、広域地方計画の策定又は変更について、素案を添えて都府県を経由して国土交通大臣に提案することができる[9]。
8ブロック体制
広域地方計画区域は、複数の都府県にまたがり一体として総合的な国土の形成を推進する必要がある区域として設定されており、東北圏・首都圏・北陸圏・中部圏・近畿圏・中国圏・四国圏・九州圏の8圏域に区分されている[10][11]。国土審議会には、第二章で触れた全国計画を検討する「計画部会」(2005年9月設置)とは別に、広域地方計画区域の設定を検討する「圏域部会」が2005年(平成17年)10月に発足した。出典は、圏域部会発足から「およそ8ヵ月にわたる検討」を経て8つの圏域(北海道・沖縄を除く)とする計画区域が設定され、「7月には政省令が制定された」と述べている[11]。【推論】圏域部会発足(2005年10月)から8か月後という記述から逆算すると、この政省令制定は2006年7月であった可能性が高いが、出典の当該箇所は年を明記しておらず、本レポートの範囲では2006年であることを確定的には裏付けられていない。「複数の都道府県にまたがる」という広域地方計画区域の前提条件から、北海道と沖縄県はこの定義に含まれず、北海道総合開発計画等の個別の開発計画が別途設定されている[12]。北海道について全総期から独自の開発計画体系(北海道総合開発計画)が存在してきた経緯は、ZSシリーズZS2第二章(苫小牧東部開発の項)で確認した通りである。広域地方計画は各圏域ごとに概ね10年間の国土づくりの戦略を定めるものであり、最新の広域地方計画は2016年(平成28年)3月29日に大臣決定された[10]。
全総期との対比
一全総から五全総までの全国計画は、国が全国を対象として単一の計画を策定する体系であった(ZSシリーズZS2参照)。これに対し広域地方計画は、全国計画に基づきつつ、8ブロックという中間的な単位で、国・都道府県・指定都市・経済団体等が協議会を通じて計画を策定する仕組みであり、全総期の中央主導・単一計画という体系からの分権的な転換と位置づけられる。もっとも、広域地方計画協議会の庶務は国土交通省が処理するとされており(同法第十条第7項)、協議会の運営が実質的にどの程度地方主導であるかについては、本レポートの範囲ではこれ以上踏み込んだ検証ができておらず「不明」とする[7]。
第四章 まち・ひと・しごと創生法という別系統の法体系との関係
両法の制定経緯・所管の違い
国土形成計画法は国土交通省が所管し、国土の利用・整備・保全という空間計画を対象とする。これに対し、まち・ひと・しごと創生法(2014年制定)は、東京一極集中の是正と地方の人口減少対策を目的とする法律であり、内閣府(まち・ひと・しごと創生本部)が所管する。両法が別々の法律として並存している理由(一つの法体系に統合しなかった立法上の判断)について、本レポートの調査範囲では明確な根拠資料に当たれておらず「不明」とする。
計画期間・対象範囲の違い
国土形成計画(全国計画)は概ね10年間を計画期間とする空間計画である(第一次計画2008年、第二次計画2015年、第三次計画2023年閣議決定)[9]。これに対し、まち・ひと・しごと創生法に基づく地方版総合戦略は、人口ビジョン・雇用創出等の数値目標を伴う戦略計画であり、空間的な土地利用計画としての性格を持たない点で、国土形成計画とは対象範囲が異なる。
実務上の連動
広域地方計画の運用にあたっては、地方版まち・ひと・しごと創生総合戦略や地方ブロックにおける社会資本整備重点計画等との連携を図ることとされている[10]。すなわち、法体系としては別系統でありながら、実務運用のレベルでは広域地方計画協議会を通じて両者の連携が図られる仕組みになっている。この連携の実効性についての検証(連携が実際にどの程度機能しているか)は、本レポートの調査範囲では確認できておらず「不明」とする。
第五章 全総期の法制度からの連続性と断絶(総括)
条文レベルで確認できた断絶
第二章で確認した通り、2005年改正は、目的規定(第一条)から「開発」「産業立地の適正化」という開発主義的な文言を削除し、新設された基本理念規定(第三条)には「均衡」の語を含めなかった。これは、ZSシリーズZS1で確認した「均衡ある発展」という理念の後退という経緯と、条文レベルで整合する。
条文レベルで確認できた連続性
他方、国土利用計画法という、全総の根拠法とは別に存続してきた法律の基本理念には、2005年改正後も「国土の均衡ある発展」という文言が引き続き規定されている。国土形成計画法第一条は、国土利用計画法による措置と「相まつて」目的を達成するとしており、両法が一体として運用される建付けになっている。したがって、法制度全体として見た場合、「均衡ある発展」という理念が完全に消滅したのではなく、全総の直接の根拠法からは姿を消しつつ、隣接する法律には条文として残存し続けている、という複層的な状態にあると整理できる。
広域地方計画という新しい分権的手法
第三章で確認した広域地方計画・広域地方計画協議会という制度は、全総期には存在しなかった新しい計画策定の手法である。もっとも、協議会の庶務を国土交通省が処理する等、国の関与が完全に消えたわけではなく、中央主導から地方主導への転換がどの程度実質を伴っているかは、本レポートの範囲では確定的な評価ができない。
本レポートの限界
まち・ひと・しごと創生法との関係(第四章)、次期国土形成計画に向けた国土審議会での議論状況、国土利用計画法における「均衡ある発展」の使い分けが意図的なものか否かについては、いずれも本レポートの調査範囲では一次資料に十分に当たれておらず、今後の調査課題として残る。政策目標の変化(人口減少時代における目標人口の再設定等)についてはTKシリーズ第7回を参照されたい。
引用文献
[1] 「国土総合開発法」(昭和25年法律第205号)第一条(ZS1脚注[1]と同一資料)。
[2] 「総合的な国土の形成を図るための国土総合開発法等の一部を改正する等の法律」衆議院法制局。https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/16220050729089.htm
[3] 同上。
[4] 「国土形成計画法」日本法令外国語訳データベースシステム。https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3836
[5] 「国土形成計画法」国土交通省九州地方整備局。https://www.qsr.mlit.go.jp/suishin/hourei/hourei01.html
[6] 「国土利用計画法」法令リード。https://hourei.net/law/349AC1000000092
[7] 「国土形成計画法」国土交通省九州地方整備局(第十条)。https://www.qsr.mlit.go.jp/suishin/hourei/hourei01.html
[8] 「国土形成計画法」日本法令外国語訳データベースシステム(第十条)。https://www.japaneselawtranslation.go.jp/ja/laws/view/3836
[9] 「国土形成計画」Wikipedia。https://ja.wikipedia.org/wiki/国土形成計画
[10] 国土交通省「国土政策:国土形成計画(広域地方計画)」。https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudokeikaku_tk5_000029.html
[11] 「広域地方計画における圏域(ブロック)と北陸」北陸建設弘済会『北陸の視座』vol.18。http://www2.hokurikutei.or.jp/lib/shiza/shiza07/vol18/topic1/03.html
[12] 「日本の地域区分(Regions of Japan)」ビジネスハック 戦略/経営/会計。https://management-accounting.biz/japan-regions/(広域地方計画区域からの北海道・沖縄除外の確認に使用。栃木県公式ページ https://www.pref.tochigi.lg.jp/a03/town/shinkou/shinkou/kokudo.html の8圏域一覧とあわせて参照)
年表
– 1950年5月26日 国土総合開発法(昭和25年法律第205号)公布、目的規定に「開発」を含む
– 1962年 一全総閣議決定
– 1974年 国土利用計画法制定、基本理念に「国土の均衡ある発展」を規定
– 1998年 五全総(21GD)閣議決定
– 2005年7月 国土総合開発法等の一部を改正する等の法律成立、国土形成計画法へ改称。目的規定から「開発」「産業立地の適正化」を削除、新設の基本理念規定(第三条)に「均衡」の語を含めず
– 2005年9月 国土審議会に計画部会を設置、全国計画の検討開始
– 2005年10月 国土審議会に圏域部会を発足、広域地方計画区域(8圏域、北海道・沖縄を除く)の検討開始
– 2008年7月4日 国土形成計画(第一次全国計画)閣議決定
– 2014年 まち・ひと・しごと創生法制定
– 2015年8月 国土形成計画(第二次全国計画)閣議決定、「対流促進型国土」を提示
– 2016年3月29日 国土形成計画(広域地方計画)大臣決定
– 2023年7月 国土形成計画(第三次全国計画)閣議決定
用語集
- 国土総合開発法:1950年公布(昭和25年法律第205号)。目的規定に「開発」を含む。2005年改正で国土形成計画法に改称。
- 国土形成計画法:2005年改正後の名称。同一の法律番号(昭和25年法律第205号)を維持しつつ題名・条文を改正。
- 広域地方計画:国土形成計画法に基づき、東北圏・首都圏・北陸圏・中部圏・近畿圏・中国圏・四国圏・九州圏の8圏域ごとに策定される計画。「複数の都道府県にまたがる」という要件から北海道・沖縄は含まれず、それぞれ別途の開発計画(北海道総合開発計画等)を持つ。全国計画とあわせて国土形成計画を構成する。
- 広域地方計画協議会:国土形成計画法第十条に基づき設置。国の地方行政機関・関係都府県・指定都市等で構成。
- まち・ひと・しごと創生法:2014年制定。内閣府所管。国土形成計画法とは別系統の法体系。
- 国土利用計画法:1974年制定。基本理念に「国土の均衡ある発展」を規定し、2005年改正後も維持。国土形成計画法と「相まつて」運用される。
ログ
ZS7を執筆します。必要な一次資料を収集します。ZS7を執筆しました。事後検証の結果を報告します(修正はまだ行っていません)。
観点1:無意識に補ってしまった箇所
重大:「8つの広域ブロック」と言いながら9つの地名を列挙し、かつ「北海道」を根拠なく追加
第三章で「政令に基づき設定された8つの広域ブロック(北海道、東北圏、首都圏、北陸圏、中部圏、近畿圏、中国圏、四国圏、九州圏の別…)」と記載しましたが、自分で「8つ」と書きながら実際には9つの地名を列挙しており、数が一致していません。
さらに、実際に確認できた出典(国土交通省ページに掲載された各ブロックの広域地方計画一覧)は「東北圏・首都圏・北陸圏・中部圏・近畿圏・中国圏・四国圏・九州圏」の8計画のみを挙げており、北海道は含まれていません。別の検索結果(国土交通省の説明資料の抜粋)に「北海道」という語が2回登場する断片があり、そこから北海道も8ブロックの一つだろうと無意識に補って追加してしまいましたが、その断片は北海道が広域地方計画の8ブロックに含まれることを明確に示すものではなく、北海道が全総期から独自の「北海道総合開発計画」体系を持ってきた経緯(ZS2で確認済み)を踏まえると、広域地方計画の8ブロックとは別枠で扱われている可能性があります。
観点2:章間の機械的整合性
| 項目 | 登場箇所 | 結果 |
| 国土総合開発法1950年5月26日公布 | 第一章/年表 | 一致 |
| 2005年7月法改正・国土形成計画法へ改称 | 第二章/第五章/年表 | 一致 |
| 国土形成計画第一次2008年7月4日 | 第四章/年表 | 一致 |
| 国土形成計画第二次2015年8月・対流促進型国土 | 第四章/年表 | 一致 |
| 国土形成計画第三次2023年7月 | 第四章/年表 | 一致 |
| 広域地方計画2016年3月29日大臣決定 | 第三章/年表 | 一致 |
| ZS1・ZS2への相互参照 | 各章 | 参照先の実際の記述内容と一致 |
重大1件を確認しました。「8つの広域ブロック」の内訳(特に北海道を含めるかどうか)について、どう修正するかご指示をお願いします。
>検証して修正してください
再検証を行いました。ファイル修正時に追加した第三章の新事実(圏域部会発足・政省令制定日)が年表に反映されておらず、また年の特定に推論を要する箇所がありました。修正します。年表にも圏域部会発足の事実を追加します(政省令制定日は年の特定が推論のため年表には含めません)。再検証で2点見つかり、修正しました。
- 政省令制定年の推測を明示化:「2006年7月に政省令が制定された」としていましたが、出典(北陸建設弘済会)の該当箇所は年を明記しておらず、「圏域部会発足(2005年10月)から8か月後」という記述からの逆算にすぎませんでした。【推論】として区分し、確定情報ではないことを明記しました。
- 年表に新事実が未反映だった点:修正時に本文へ追加した「圏域部会」(2005年10月発足)の事実が年表に反映されていなかったため、追加しました。あわせて、既存の「計画部会」(2005年9月設置)と「圏域部会」(2005年10月発足)が別の下部組織であることを本文で明確化しています。








