信頼や人々の繋がりが、お金やスキルと同じ資本になる。 これが社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)です。特定の地域で活動がスムーズに進む鍵は、目に見えないこの資産にあります。パットナムはこれを地域の共有財産と捉え、経済や行政の質をも左右することを実証しました。単なる仲良しクラブを超え、社会の生産性を高めるための戦略的なネットワークの力に迫ります。

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目次

社会関係資本とは

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)とは、人々のつながり、信頼関係、および互助の規範を、経済的な資本(お金)や人間資本(教育・スキル)と同様に、社会の生産性を高めるための資産として捉える概念です。
市民活動や地域づくりにおいて、なぜ特定の地域では物事がスムーズに進み、別の地域では停滞するのか。その鍵を握るのがこの社会関係資本です。

3つの構成要素

社会関係資本は、主に以下の3つの要素が組み合わさることで機能します。

  • 信頼(Trust): あの人が言うなら大丈夫だという個人間の信頼や、制度への信頼。
  • 規範(Norms): お互い様という報恩の精神(互酬性の規範)。誰かを助ければ、巡り巡って自分も助けられるという共通認識です。
  • ネットワーク(Networks): 人と人、組織と組織を結ぶ具体的なつながり。
  • つながりの種類:結束型と橋渡し型

社会学者のロバート・パットナムは、つながりの質を大きく2つに分類しました。連携協調を考える上で、この使い分けが極めて重要です。

結束型(Bonding Social Capital):

家族、親友、古くからの地縁など、同質性の高い集団内の強い結びつき。

  • 役割: 心理的な安らぎや、深い相互扶助(生活を守るための資本)。
  • 橋渡し型(Bridging Social Capital):
  • 異なる職種、世代、地域の人々など、異質性の高い集団間を結ぶゆるやかな結びつき。
  • 役割: 新しい情報の獲得、外部リソースの導入(機会を広げるための資本)。
  • 政策学的なポイント: シビックプライドや市民活動の連携において、結束型が強すぎると排他的になりやすいため、橋渡し型をいかに意図的にデザインするかが成功の鍵となります。

社会関係資本がもたらす効果

組織が単独で動くのではなく、連携することで得られる具体的メリットを整理します。

  • 情報の流通効率化: ネットワークを通じて、必要な情報が低コストで迅速に届くようになります。
  • 取引コストの削減: 強い信頼関係があれば、詳細な契約書や監視がなくても協力が成立し、活動のスピードが上がります。
  • 集合的行動(Collective Action)の促進: 一人では無理だが、みんなでならできるという確信が生まれ、大規模な課題に挑戦できるようになります。

社会関係資本の影の側面

会学的な厳密性を保つため、この資本が持つリスク(負の機能)についても触れておきます。

  • 閉鎖性: 仲が良すぎるあまり、新参者やよそ者を受け付けない排他性を生む。
  • 同調圧力: ネットワーク内の規範が強すぎて、個人の自由な意見やイノベーションが阻害される。
  • 利己的な癒着: 特定のグループ内だけで利益を融通し合い、社会全体の利益を損なう。

日本の政策における現状と配慮

日本の地方創生施策においても、社会関係資本の重要性は広く認識されています。しかし、以下の点には配慮が必要です。

  • 数値化の難しさ: GDPのように明確な統計がないため、活動の成果が見えにくい。
  • 伝統的な地縁組織の衰退: 自治会や町内会といった既存の社会関係資本が弱まる中で、趣味や志に基づく新しい公共のネットワークをどう再構築するかが、現在の政策担当者の大きな課題です。

連携協調における活用法

自組織が連携を広げる際には、以下の戦略が有効です。

  • ハブとなる人物の特定: 異なるコミュニティを跨いで活動するストラクチャル・ホール(構造的な隙間)を埋める人材を活用する。
  • 共通の貸し借りを作る: 小さな協力(互酬性)を積み重ね、いきなり大きな連携を目指すのではなく、信頼の貯金を貯めることから始める。

学術的な定義

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の学術的な定義は、提唱する研究者の専門領域(政治学、社会学、経済学)によって強調されるポイントが異なります。

主要な3人の先駆者による定義を整理することで、この概念の全体像を浮き彫りにします。

ピエール・ブルデュー:階級と不平等の視点(社会学)

フランスの社会学者ブルデューは、1980年代に資本を経済資本文化資本そして社会関係資本に分類して論じました。

  • 定義: 相互に知人同士であるという多かれ少なかれ制度化された関係の、永続的なネットワークを所有することに結びついた、現実的または潜在的な資源の総体
  • 特徴: 社会関係資本を、個人が属するグループ(階級やエリート層)のネットワークから得られる個人的な利益や特権として捉えました。
  • 視点: 誰とつながっているかが、個人の社会的成功や不平等の再生産にどう寄与するかを重視します。

ジェームズ・コールマン:合理的選択と教育の視点(社会学・経済学)

アメリカの社会学者コールマンは、個人の合理的な行動が社会構造にどう影響されるかという文脈で定義しました。

  • 定義: 特定の社会構造の中に存在し、その構造の内部にある個人の特定の行動を促進する資源
  • 特徴: 社会関係資本を単一のエンティティではなく、信頼情報チャネル規範と効果的な制裁などの機能の総称として捉えました。
  • 視点: 例えば近隣住民が互いに子供を見守るという社会構造(資本)が、教育効果を高めるというような、集団の機能的側面を重視します。

ロバート・パットナム:民主主義と市民社会の視点(政治学)

現代の地域づくりや政策論に最も大きな影響を与えたのが、アメリカの政治学者パットナムによる定義です。

  • 定義: 調整された活動を活発にすることによって、社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴
  • 特徴: 社会関係資本を個人の所有物ではなく、地域の共有財産(公共財)として捉えました。
  • 視点: 住民間のつながりが豊かな地域ほど、行政のパフォーマンスが向上し、経済も活性化することを実証的に示しました。

概念の統合と現代的な理解

これら先駆者の議論を経て、現代の政策学や社会学では、社会関係資本を以下の3つの次元で多層的に捉えることが一般的です。

次元 構成要素 具体的な現れ方
構造的次元 ネットワーク、組織 誰とつながっているかどの団体に属しているか
関係的次元 信頼、互酬性 相手を信じられるかお互い様の精神があるか
認知的次元 共通の言語、価値観 街を良くしたいというビジョンを共有しているか

政策学的な留意点

社会関係資本はあればあるほど良いと考えられがちですが、学術的には以下の負の側面(Negative Social Capital)への言及が欠かせません。
アレハンドロ・ポルテスなどの研究者は、結束が強すぎることによる部外者の排除集団の自由の制限下方への同調圧力を指摘しています。

日本の地方自治体における施策においても、伝統的な地域コミュニティが持つ結束型の強みが、時に新住民や新しいアイデアに対する壁となる現象は、この理論で説明可能です。

歴史

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)という概念は、20世紀後半に急速に普及しましたが、その思想的・歴史的な源流は19世紀の古典的社会学にまで遡ることができます。

この概念がいかにして発見され、学術的な市民権を得るに至ったのか、その変遷を4つの時代区分で辿ります。

思想的先駆:19世紀〜20世紀初頭

社会関係資本という言葉自体は存在しませんでしたが、そのエッセンスである結びつきの力は、近代社会学の父たちによって議論されていました。

  • アレクシス・ド・トクヴィル(1835年): 『アメリカのデモクラシー』において、アメリカ人があらゆる目的のために結社(アソシエーション)を作る傾向を指摘しました。これが民主主義を支える基盤であると喝破した点は、後のパットナムに多大な影響を与えました。
  • エミール・デュルケーム: 近代化によるアノミー(無連帯状態)を危惧し、職業集団などの中間集団による社会統合の重要性を説きました。
  • リュダ・J・ハニファン(1916年): 文献上、この言葉を現代に近い意味で初めて使った人物とされます。地方の学校運営において、コミュニティ内の親交互助社会的な接触が蓄積されることを、物質的資本に対比させてソーシャル・キャピタルと呼びました。

概念の理論化:1980年代

この時期、前述のブルデューとコールマンが、それぞれ異なる文脈でこの概念を理論の枠組みとして確立しました。

  • ブルデューによる資本転換論: 1980年、経済資本(金銭)だけでは説明できない階級格差を説明するために、ネットワークを資本として定義しました。
  • コールマンによる機能的定義: 1988年、個人の合理的選択が社会構造(信頼や規範)によって補完されるプロセスを理論化し、教育格差の分析に応用しました。

世界的ブームと実証研究:1990年代〜2000年代初頭

ロバート・パットナムの登場により、社会関係資本は象牙の塔を飛び出し、政策決定者や国際機関の関心事となりました。

  • イタリアの実験(1993年): パットナムはイタリアの地方行政を20年間追跡調査し、北部の行政が成功し南部の行政が失敗する理由は市民のネットワークの密度の差(社会関係資本)にあると結論付けました。
  • 『ボウリング・アローン』(2000年): アメリカにおいて、ボウリングを一人で遊ぶ人が増えた(=地域のつながりが希薄化した)ことを示し、それが民主主義の危機に繋がると警告しました。
  • 世界銀行の関与: 1990年代後半、世界銀行が開発を支える第4の資本としてこの概念を途上国支援に取り入れ、経済発展と信頼の関係を強調しました。

多角化と負の側面への注目:2000年代中盤〜現代

概念の普及に伴い、より詳細な分類や副作用についての批判的検討が進みました。

  • 結束型と橋渡し型の分化: 均質な集団の強いつながりが必ずしも良い結果を招かないことが明らかになり、異質な集団を繋ぐ橋渡し型(Bridging)の重要性が強調されるようになりました。
  • ダークサイドの議論: 排他性、マフィアのような閉鎖的ネットワーク、同調圧力といった負の側面が、社会学的厳密性を持って分析されるようになりました。
  • デジタル・ソーシャル・キャピタル: SNSなどのオンライン・ネットワークが、従来の対面型資本を代替するのか、あるいは補完するのかという議論が、現在進行形で続いています。

社会関係資本の歴史的パラダイムシフト

時代 主な性格 視点
古典期 哲学的・直感的 共同体の崩壊への危惧
理論確立期 構造主義的・経済学的 個人の利益や教育の成果
拡大期 政治学的・統計学的 行政の質や経済成長のエンジン
現代 多角的・批判的 デジタル、格差、負の側面への配慮

補足

社会関係資本の歴史は、人間はバラバラでは生きられないし、社会も成り立たないという当たり前の事実を、いかに科学的に証明し、マネジメント可能な対象(資本)として再定義してきたかの歴史でもあります。日本の地方創生においても、この歴史的変遷を踏まえることで、単なる仲良しクラブではない、戦略的なネットワーク構築が可能になります。

事例

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の理論が、実際にどのような成果を生んでいるのか、世界と日本の代表的な事例を通じて解説します。

これらの事例に共通するのは、単なる仲良しの集まりではなく、つながり(ネットワーク)を資本として活用し、経済的価値や安全、健康といった具体的なアウトカムに変換している点です。

イタリアの地方自治:パットナムの伝説的調査

社会関係資本を世界に知らしめた、最も有名な学術的事例です。

  • 背景: 1970年代、イタリアで地方自治制度が一斉に導入されましたが、北部の自治体は目覚ましく発展した一方、南部の自治体は汚職や非効率に喘ぎました。
  • 要因: ロバート・パットナムは、この差が資金や技術ではなく市民のネットワークの密度にあることを突き止めました。
  • 成果: 北部には合唱団、ボランティア団体、スポーツクラブなどの水平的なつながりが豊かに存在していました。この信頼基盤(社会関係資本)が、行政への監視や協力を生み、結果として行政サービスの質を高めていたのです。

グラミン銀行(バングラデシュ):信頼を担保に変える

経済学における社会関係資本の活用事例です。

  • 背景: 貧困層には銀行から借りるための担保(土地や財産)がありません。
  • 仕組み: ムハマド・ユヌス氏が考案したマイクロクレジット(少額融資)では、5人一組のグループを作らせます。
  • 成果: 物理的な担保の代わりに、グループ内の相互監視とお互い様の信頼(社会関係資本)を担保としました。返済が滞るとグループ全体の信用に関わるため、高い返済率を維持し、多くの貧困層の自立を支援しました。

兵庫県尼崎市:尼崎の森中央緑地と関係人口

日本の公共事業において、社会関係資本を管理コストの削減に繋げた事例です。

  • 背景: かつての工場跡地に広大な森を造るプロジェクト。通常、行政が造って管理しますが、莫大な維持費が課題でした。
  • 仕組み: 100年かけて市民が苗木から森を育てるという参加型プロセスを導入しました。
  • 成果: 市民同士の橋渡し型のネットワークが形成され、現在は多くのボランティアが自発的に森を維持しています。単なる労働力としてではなく、森づくりを通じたつながり自体が、市民の生きがいや地域の防犯・防災機能という副次的価値を生んでいます。

滋賀県東近江市:三方よし基金と地域通貨

経済の循環を顔の見える信頼で再構築した事例です。

  • 背景: 地方銀行の融資が届きにくい小さな社会的活動への資金提供が課題でした。
  • 仕組み: 地域住民が共同で出資する三方よし基金を設立。地元の信頼関係をベースに、活動を支援します。
  • 成果: 資金(経済資本)と信頼(社会関係資本)をセットで提供することで、単なる融資を超えた応援のネットワークが構築されました。これにより、地域の空き家活用や福祉事業が連鎖的に生まれています。

デジタル社会関係資本:台湾のvTaiwan

オンライン上での橋渡し型資本の構築事例です。

  • 背景: デジタル化が進む中、SNS上での対立(分断)をどう乗り越えるかが課題でした。
  • 仕組み: オードリー・タン氏らが主導し、Pol.isというAIツールを活用して、異なる意見を持つ人々が共通の合意点を見つけ出すデジタル・プラットフォームを運用。
  • 成果: 普段交わらない層(タクシー運転手とUber運転手など)の間に、デジタルな橋渡し型資本を構築。合意形成のコストを劇的に下げ、迅速な政策決定を実現しました。

事例から学ぶ資本の活用パターン

分野 活用の仕組み 得られた成果
行政 市民のネットワークが行政を監視・補完 行政サービスの効率化と質の向上
経済 信頼を担保や投資判断の基準に置換 貧困脱却、新規事業の創出
環境 住民参加による共助の管理 公共施設の維持コスト削減、レジリエンス向上
デジタル 分断を橋渡しするツールの導入 合意形成の迅速化、民主主義の深化

分析

これらの成功事例に共通しているのは、社会関係資本は、それ自体が目的ではなく、何かを達成するための『レバレッジ(てこ)』として機能しているという点です。ネットワークを構築するだけでなく、そのネットワークをどの課題に接続するかの出口戦略が、事例の成否を分けるポイントとなります。

課題

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)は、地域活性化や組織連携の特効薬のように語られることが多いですが、社会学や政策学の知見からは、いくつかの深刻な課題や負の側面が指摘されています。

これらの課題を理解することは、排他的ではない開かれた連携をデザインするために不可欠です。主要な課題を5つの視点で整理します。

結束型がもたらす排他性と閉鎖性

社会関係資本の最大のジレンマは、内部の結束が強まれば強まるほど、外部に対して排他的になりやすい点です。

  • よそ者排除: 既存の強い信頼関係や暗黙のルールが、新参者や外部組織にとっての高い参入障壁となります。
  • マフィア型ネットワーク: 特定のグループ内でのみ資源や情報を融通し合い、社会全体の利益を損なう身内びいきの構造です。
  • 政策的課題: 日本の伝統的な地縁組織において、新住民や若者が居心地の悪さを感じる原因の多くはこの結束型の副作用にあります。

強い同調圧力と個人の自由の制限

コミュニティ内の規範が強すぎる場合、個人の自律性や創造性が阻害されることがあります。

  • 監視社会化: お互い様という相互扶助の精神が、行き過ぎると互いの監視へと変質し、私生活への干渉を招きます。
  • 下方への同調圧力: 集団から抜け出そうとする動きや、新しい挑戦を目立ちたがりとして抑制する心理が働きます。
  • イノベーションの阻害: 異質な意見が排除されるため、組織や地域が時代の変化に適応する力を失います。

格差の固定化と社会的分断

誰とつながっているかが資本である以上、もともと資源(資産や学歴)を持つ層が、さらに有利なネットワークを構築し、格差が拡大するリスクがあります。

  • ネットワークの格差: 有益な情報を持つ層は互いに繋がりを深めますが、孤立した層や社会的弱者はそのネットワークから取り残されます。
  • デジタル・ディバイド: オンライン上での社会関係資本の構築において、ITリテラシーの差がそのままつながりの格差に直結します。
  • 分断の助長: 似た者同士が集まるエコーチェンバー(共鳴室)現象により、異なる意見を持つ集団間の対立が深まることがあります。

測定と評価の困難性

政策学的な観点から、目に見えない資本をどう数値化し、施策の成果として評価するかは常に議論の的です。

  • 指標の不在: 信頼や規範を客観的に測定する標準的な指標が確立されておらず、アンケート回答者の主観に頼らざるを得ません。
  • 因果関係の不透明さ: つながりがあるから豊かなのかそれとも豊かだからつながる余裕があるのかという因果関係の特定が極めて困難です。
  • 評価の形骸化: 補助金の成果として交流会の開催数などは数えられますが、それが真に信頼(資本)を積み上げたのかを評価する技術が未成熟です。

伝統的資本の崩壊と新しい公共の未成熟

日本特有の課題として、高度経済成長期を支えた地縁・血縁型の資本が急速に失われている一方で、それに代わる自発的なネットワークが十分に育っていない点が挙げられます。

  • 無縁社会: 単身世帯の増加や都市化により、かつての結束型資本が消滅し、孤独や孤立が深刻な社会問題となっています。
  • ボランタリーなつながりの脆弱性: 志に基づく新しいつながりは、共通の目的が失われると容易に崩壊しやすく、地域を支える強固なインフラになりきれていない現状があります。

社会関係資本の光と影の対照表

側面 ポジティブな機能(光) ネガティブな課題(影)
信頼・規範 取引コストの削減、相互扶助 同調圧力、監視、私生活への干渉
ネットワーク 情報の流通、機会の拡大 排他性、よそ者排除、利己的な癒着
社会構造 民主主義の安定、治安の維持 格差の固定化、社会の分断

総括

社会関係資本を扱う際は、つながりは善であるという単純な前提を捨てることが重要です。私たちが目指すべきは、内側に閉じこもる結束型を維持しつつも、異なる組織や価値観を繋ぐ橋渡し型(Bridging)や、異なる権層を繋ぐ連結型(Linking)の資本を意図的にデザインし、影の部分をコントロールすることにあります。

課題の解決

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の負の側面、すなわち排他性や同調圧力、格差の固定化といった課題をどう解決すべきか。
政策学および社会学の知見に基づき、閉じた資本を開き、薄い資本を厚くするための4つの戦略的アプローチを提案します。

結束型から橋渡し型への質的転換

特定の仲良しグループだけで完結する結束型の弊害(排他性)を抑えるには、意図的に外部と繋がる橋渡し型の回路を設計する必要があります。

  • バウンダリー・スパナー(境界連結者)の育成: 異なるコミュニティや組織を跨いで活動する個人をハブとして認定し、支援します。彼らが情報を循環させることで、閉鎖的な空気を打破します。
  • 共通の敵ではなく共通の未来の設定: 内輪もめや排他性は自分たちを守るという内向きの力から生じます。外部の専門家や新住民を交えたビジョン策定を行い、目的を外に開くことで、関係性を再定義します。

デジタル・ガバナンスによる透明化と包摂

アナログな人間関係だけに頼ると、声の大きい人の意見が通りやすく、格差も固定化します。テクノロジーを使い、パワーバランスを是正します。

  • 意思決定プロセスのデジタル化: 台湾のvTaiwanの事例のように、匿名性やAIによる合意形成ツールを導入することで、対面では発言しにくい層(若者や非正規雇用の住民など)の声を取り込み、情報の独占を防ぎます。
  • 活動実績の可視化: 特定のメンバーの貢献を数値やバッジなどで可視化することで、属人的な権力を分散させ、新しい参加者が自分も貢献できると感じる土壌を作ります。

連結型(Linking)資本の構築による格差是正

横のつながりだけでなく、資源を持つ層(行政、専門家、富裕層)と持たざる層を直接つなぐ連結型社会関係資本を構築し、格差の再生産を防ぎます。

  • メンターシップ・ネットワークの制度化: 地域の成功者や専門家が、社会的弱者や若者のネットワークに直接アクセスし、知識や機会を共有する仕組みを作ります。
  • 資源へのアクセス保障: 特定のネットワークに属していなくても、行政や中間支援組織が情報の非対称性を埋めることで、誰もが地域の資源(助成金や場所など)に等しくアクセスできる環境を整えます。

ゆるい繋がりの設計(スモール・ステップ論)

同調圧力や監視社会化を防ぐには、重すぎる結びつきを避け、弱いつながり(Weak Ties)を多層的に作ることが有効です。

  • 目的を限定した期間限定プロジェクト: 一生の付き合いを前提とする自治会型ではなく、特定の課題(例:公園の遊具修理)が終われば解散するプロジェクト型の連携を増やします。これにより、参加の心理的ハードルを下げ、過度な干渉を抑制します。
  • サードプレイスの多角化: 自宅(第一)でも職場(第二)でもない、多様な属性の人がゆるやかに混ざる場所(カフェ、コワーキングスペース、シェアキッチン)を拠点に、強制力のない交流を促進します。

課題解決に向けたアプローチ・マトリクス

課題(負の側面) 解決策(アプローチ) 具体的なアクション
排他性・よそ者排除 橋渡し型(Bridging)の強化 外部アドバイザーの登用、異業種交流
同調圧力・監視 スモールステップ・弱いつながり 期間限定のプロジェクト、サードプレイス活用
格差の固定化 連結型(Linking)の構築 メンター制度、情報のオープン化
測定・評価の困難 デジタル・メトリクスの導入 SNS分析、参加データのダッシュボード化

提言

社会関係資本の課題解決において最も重要なのは、心地よい不均質さを維持することです。すべての住民が同じ価値観を持つ必要はありません。むしろ、異なる価値観を持つ人々が共通のルール(ガバナンス)のもとで、必要なときだけ連携できる。そのようなドライで開かれた信頼関係をデザインすることが、現代社会における連携協調の最終的な到達点となります。

出典・文献

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)は、経済学、政治学、社会学の枠組みを大きく変えた概念です。この分野は誰を知っているか、そしてそのネットワークがどのような信頼と規範を生むかを科学的に分析しています。

理論の三大巨頭(古典的定義)

社会関係資本を体系化した3人の学者の主要文献です。それぞれ視点が異なります。

  • Bourdieu, P. (1986). “The Forms of Capital.”
    視点: 社会学・階級論。
    内容: 社会関係資本を永続的なネットワークに属していることによる、実際の、または潜在的な資源の総計と定義しました。個人が有利な立場を得るための個人的な資産としての側面を強調しています。
  • Coleman, J. S. (1988). “Social Capital in the Creation of Human Capital.” American Journal of Sociology.
    視点: 教育社会学。
    内容: 家族やコミュニティ内の信頼や情報交換の回路が、子供の教育(人的資本)にいかに寄与するかを論じました。ネットワークの閉鎖性(密なつながり)が規範を維持する上で重要だと説きました。
  • Putnam, R. D. (1993). Making Democracy Work: Civic Traditions in Modern Italy. (邦訳:『社会資本と民主主義』NTT出版)
    視点: 政治学。
    内容: イタリアの地方自治を分析し、北部の行政パフォーマンスが高いのは、合唱団やスポーツクラブといった市民活動を通じた信頼・規範・ネットワークが蓄積されているからだと論じ、この概念を世界的なブームにしました。

ネットワークの構造と深化

つながりの質がもたらす便益の違いを解明した文献です。

  • Granovetter, M. S. (1973). “The Strength of Weak Ties.” American Journal of Sociology.
    内容: 非常に重要な論文です。親密な友人(強い紐帯)よりも、知人の知人といった弱いつながり(Weak Ties)の方が、自分たちの知らない新しい情報をもたらし、イノベーションや転職に有利であると説きました。
  • Putnam, R. D. (2000). Bowling Alone. (邦訳:『孤独なボウリング』柏書房)
    内容: 結束型(Bonding)(内向きの密なつながり)と橋渡し型(Bridging)(外向きの多様なつながり)を明確に区別しました。多様なステークホルダーが連携する現代のガバナンスにおいて、最も引用される分類です。

日本における主要な文献

日本の地域コミュニティや、震災復興、健康格差の文脈で研究されている文献です。

  • 宮川公男・大守隆 (編) (2004). 『ソーシャル・キャピタル:現代経済社会の新たな鍵』東洋経済新報社.
    内容: 日本における社会関係資本研究の草分け的な一冊で、経済・社会の両面から分析しています。
  • 近藤克則 (2010). 『健康格差社会を克服する:統計データが示す処方箋』医学書院.
    内容: 社会関係資本が豊かな地域ほど、高齢者の転倒や認知症リスクが低いことを疫学的に証明し、公衆衛生の分野に多大な影響を与えました。

資源依存理論やガバナンスとの関連

  • Lin, N. (2001). Social Capital: A Theory of Social Structure and Action. (邦訳:『ソーシャル・キャピタル:社会構造とアクションの理論』弘文堂)
    内容: ネットワークに埋め込まれた資源(Resource)としての側面を理論化しました。資源依存理論(RDT)と社会関係資本を繋ぐ架け橋となる文献です。

分析

社会関係資本を実務に活かすなら、まずは パトナム(橋渡し型) と グラノヴェッター(弱いつながりの強さ) を押さえるのが鉄則です。
中間支援組織の役割は、組織内の結束を強めること(Bonding)以上に、異なるセクター間に新しい橋(Bridging)を架け、新しい情報を流入させることにあります。

  • パトナム 橋渡し型 SC
    多様な主体を集める場の設計
  • グラノヴェッター 弱いつながり
    既存の人間関係の外にある外部専門家の招聘
  • リン 埋め込まれた資源
    ネットワークを介した資金・知識の調達

注意

以上の文書はAI Notebook LM が生成したものを加筆修正しており、誤りが含まれる場合があります。

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参考

NPOの目的の漂流を防ぐ処方箋:資源依存理論(RDT)で守る自律性とミッション