これまで若桜鉄道が行って来た観光化への施策と背景にある思いをまとめました。段階を踏んで進めているので、今は進捗50%あたりかと思います。

若桜鉄道の観光化を表明し公募社長に就任

私は2014年の9月、「若桜谷を観光で稼げる地域にして、地域も鉄道も生き残ろう!」と方針を立て、採用面接でお話し公募社長に就任いたしました。観光を推進する背景は鉄道は地域の一部、運命共同体に記載した通り、地域の経済を回し人口減少にブレーキをかけつつ若桜鉄道の収益も改善することを目的にしています。

「若桜鉄道沿線には全国的に知られるような観光資源は無いから観光化なんて無理だ」という声もよくお聞きしました。しかし、勝算はありました。なぜなら若桜鉄道と同様に大きなな観光資源が無い山形鉄道が年間10万人を呼び込んでいたので、その手法を応用すれば良いと踏んでいたからです。観光地では無い地域を観光で稼げる地域にしていく工程は、まるで建築工事のようでした。地ならしをし、杭を打ち、基礎を作り、柱を立て、壁を作り、、、、といった工程を踏むように、観光地の骨格を作り仕上げていくプロジェクトが走り始めました。

観光地化への工程

第一歩: まず知ってもらい、興味を持ってもらう

見たことも聞いたことも無い地域へ観光に行こうとは思わないのが普通ですから、まずはこの地域が「観光地だ」と知ってもらうことが必要です。しかし、知っているだけでは行きたいと思いません。そこで行きたくなる仕掛けや商材を作り、お誘いします。

  • 「若桜谷観光号」で商材と看板と話題を<作る>
    山形鉄道の方言ガイドでお客様は大変盛り上がっていましたので、まずは土日祝日、鳥取駅9時45分発の列車に車窓案内の観光ガイドを乗せ「若桜谷観光号」と名付けて走らせ始めました。個人客や団体客をお招きできる観光商材です。この列車は、京阪神からスーパーはくと1号に接続し、米子からはスーパーまつかぜ、岡山からはスーパーいなばに接続するので日帰り観光や鳥取市内で一泊してから動き出すにも良い時間ですし、若桜駅からは氷ノ山行きの町営バスにも接続するのです。

若桜谷観光号出発式

テレビ放映された若桜谷観光号の出発式

  • 「若桜谷観光号」という名前の列車を走らせることで、若桜鉄道沿線が観光に行く所なのだと時刻表や駅の掲示で常に示され「看板」の役割も果たします。さらに「若桜谷観光号」に乗る観光ガイドを車内オーディションで選考してマスコミに報道してもらい、出発式には知事もお招きしてテレビ放映するなど鉄道がマスコミに取り上げられやすいメリットを活用して話題を作り、まずは鳥取県民に知っていただくようにしました。
  • 話題を作ったら、即、営業に<走る>
    話題になったら忘れられないうちに、すぐ営業です。テレビで観ても「どこかの鉄道が面白いことをやっていたな」程度にしか思ってもらえず、営業しないと忘れ去られてしまいます。鳥取市内の公民館長会やライオンズクラブ、ロータリークラブなどの団代や旅行会社を訪問して若桜鉄道が頑張っていることや沿線の魅力をご紹介しつつ「若桜谷観光号」がお勧めだとアピールし、旅行予定を考えてもらいました。

第二歩:旅行会社のツアーを造成を加速

  • 全国級の話題作り、花火を<打ち上げる>
    2014年4月にSL走行社会実験が行われ全国に報道され、若桜鉄道は全国区となりました。その後、旅行商材を携えて鳥取県観光連盟の商談会(大阪・岡山・広島・東京)に参加し、若桜駅構内のトロッコ乗車などを紹介しツアー造成の商談をして回りました。打ち上げ花火的な話題作りは、広がるのも速いですが忘れられるのも速いので、3ヶ月以内の営業が勝負でした。鳥取県観光連盟は本当に頑張っていて、商談会には30社以上のエージェント(旅行会社)が集まるので、200人以上に効率よく営業できました。「鉄道会社の社長がSL機関士の制服制帽姿で商談に来た」となればインパクトもあり、忘れられなければツアー造成に至る可能性も高まります。服装だけで結果が変わるならお安いもので、恥ずかしがっている場合ではありません。この営業で、売り込みだけではなく、旅行会社が何を求めているのかを聞き出し、次の商品作りにも活かしていきます。
  • 忘れられないように毎月フォローし<つなぐ>
    都会の旅行会社には次々に営業がきてどっさりと資料を置いて行きます。1回営業しただけではすぐに忘れられるので、毎月メール便りを送りお知らせや話題を切らさないようにして絆を深めていきます。本当は会いに行くのが一番ですが、出張もなかなかできないので、メールや電話でのフォローが中心となります。
    旅行会社とのご縁ができたおかげで、クラブツーリズムのウォーキングツアー、JTBの子供の職場体験など、テーマを持ったツアー造成に相談も入るようになりました。手間もかかりますが、喜んでいただけると次回への造成につながっていきます。

第三歩:地方創生に位置付ける、商材・人材を作る

  • 若桜鉄道が観光の軸に<位置付けられる>
    2015年に地方創生が始まりました。若桜鉄道が観光資源になるかを試した「SL走行社会実験」の成功もあり、地方創生の八頭町総合戦略若桜町総合戦略にて若桜鉄道は”観光の軸”に位置付けられました。また、若桜鉄道の経営安定化が図られ、観光車両の導入、さらに因幡・但馬を合わせた観光圏のグランドデザインも作られることになりました。
  • 水戸岡鋭治先生に観光車両の<デザインをお願い>する
    若桜鉄道の車両は供用30年以上で耐用年数を超えており、この延命の一環として電線を交換する大工事が予定されました。それと同時平行に内装を観光仕様にすれば、工費も工期も抑えられるということで、八頭町・若桜町にて予算化いただきました。そのデザインはJR九州のななつぼしin九州で有名な水戸岡鋭治先生にお願いしようとなりました。水戸岡先生は、単に絵を描くだけでなく観光化で地域の経済が回ることまで考えて全体をデザインされ、特殊な条件の鉄道車両を数多く手がけられているので適任なのですが、とてもお忙しくてなかなか仕事を受けていただけません。そこで岡山の両備ホールディングスの小嶋会長にお骨折りいただき、観光で地域を活性化したいという思いを熱くお伝えし、お引き受けいただくこととなりました。

観光車両昭和

観光車両昭和

水戸岡鋭治氏デザインの観光車両「昭和」

  • 人材育成と大規模ツアー催行
    観光事業には人材が欠かせません。そこで八頭町・若桜町の地方創生事業の一環として、人材育成を目的としたリノベーションワークショップ事業を行っていただきました。山形鉄道で辣腕をふるった前社長の野村浩志氏と、バス業界と公共交通に非常に詳しい鈴木文彦氏を講師にお招きし、郡家・八東・丹比・若桜・吉川を舞台に観光と交通について学び、のべ84名の参加を得て町をまたがった人の繋がりも作ることができました。
若桜鉄道交通観光WS

人材育成:ワークショップと観光・交通視察「大人の遠足」

ワークショップ参加者からもアイデアを募り、野村浩志氏と一緒に企画と営業をし、八頭町・若桜町の事業で12月3日と4日にかけて読売旅行による大規模ツアーが催行されました。12月の寒い時期に砂丘にも温泉にも寄らず、若桜鉄道・若桜宿・道の駅・フルーツセンターのみを巡るツアーに岡山・四国・京阪神から大型バス27台1,015名のお客様を迎え入れ、大満足いただきました。「観光資源が無いから観光化なんて無理だ」ということは無かったのです。このツアー受け入れによって、若桜谷は観光での商いを初めて体験し検証することができました。

若桜谷の力を結集して作り上げた読売ツアー、列車内ではじゃんけん大会や車内販売、道の駅では食べ放題や試食と販売など数多くのもてなしと商いで大満足のツアーとなった

以上が今までの工程です。以後はこれから将来にかけての工程となります。

第四歩:ツアーが定番化され、各社に広がる

春の桜、秋の紅葉、冬の豪雪 など、大規模ツアーを年に3−4回開催することで、もてなしや商売を一層磨き、お客様の満足を高めつつ効率よく対応できるようにしていきます。こうなると、「若桜谷を外してツアーは組めない」と各旅行会社にとっても定番の地となっていきます。

第五歩:受入体制が通年化され、ブランドになる

こうしていくことで、今までは団体ツアーが来る時だけ露店を出して対応してきた地域も、次第に固定店舗を維持営業できるだけの商売になり、個人旅行客でも楽しめる観光地になっていきます。さらに観光車両も導入され毎週走るようになると、観光列車を軸に地域のブランド化を図ることができるようになります。鉄道はマスコミの注目を得やすいので、観光列車を看板にするのです。若桜谷は昭和の情景が多く残るため、列車の名前も「昭和」と名付けています。

第六歩:体験メニューを多様化し「お馴染みさん」作り

現代の観光で最も大事なのは一見さんではなくて、お馴染みさん(リピータ)を増やすことです。なぜなら、最近の観光は同じ人が繰り返し同じ場所に行く傾向が高いためです。一回限りの物見遊山から、人と人との触れ合い・休養・学び・食などを繰り返し求める、実家に帰る様な感覚の観光へと変わっています。若桜谷には林業・農業・鉄道・畜産などの営みがあり、さまざまな体験プログラムを作ることができます。何度も体験したくなる体験や、1回では体験しきれない魅力的で多様な体験があれば、何度も来てもらえます。さらに近隣には漁業など海の営みもあり、自宅にお客様を泊める民泊を受け入れるエリアもあります。実家に帰るように民泊で長期滞在しながら、都会には無い体験を子供達にさせる。そんな旅行スタイルを受け入れる地域になることで、安定した観光収入を得るのであれば、大きな投資をせずとも特色を出していくことができます。

多様な体験を楽しんでいただくには、狭い地域だけでは難しいので、広く組んでいくことが効率的です。ディズニーランドが多様なアトラクションを年々拡張しているのと同じように、提携する地域を年々広げることでお馴染みさんが飽きない新メニューを作り出すこともできます。

生じた誤解

若桜鉄道が以上の施策を進める中で、さまざまな誤解を受けました。それは上記の流れを知らず施策の一部だけを見ているのが原因でした。

マスコミ報道がすべての活動と誤解

若桜鉄道には宣伝の要員も予算もありません。そのため、変わったことをしてはマスコミにニュースとして報道してもらい、その後に営業をしやすくして業績を改善してきました。しかし、営業活動やツアー客が来ていること、人材育成などは報道されません。そのため、「若桜鉄道は目立つイベントしかやっていない」「一発花火だ」と誤解を受けることもありました。

地元軽視という誤解

「観光客ばかりを相手にして大事な地元を無視している」というご意見もいただきました。観光で地域経済を回して人口減少にブレーキをかけようとしているのですから、地元軽視どころか地元のための事業ですのでこれは大きな誤解です。また地域の足については、増発と利便向上が何よりも重要ですので、平行して公共交通網形成計画を頑張っていました。これもマスコミには報道されない地味な活動なので、「何もやっていない」と誤解されがちでした。

観光化は無理という誤解

「有名観光地でないから無理だ」「旅館なども無いからお金が落ちない」という意見もいただきました。昔の社員旅行など団体宴会旅行のイメージが強いのだと思います。今は団体宴会旅行は廃れ、旅行会社が企画する趣味性の高いツアーか、個人・グループ旅行が中心となり、「宴会して一泊」から「巡り体験する」に形も変わってきています。観光資源も物見遊山の対象になる名勝・史跡など「モノ」中心から、その地域の暮らし・営み・食の体験など「コト」が喜ばれるように変わっています。

「観光は水モノ」とおっしゃる方も多いのですが、これも「お馴染みさん」を作らず「一見さん」だけを相手にして失敗した観光地を見ているのでしょう。

広域連携なら自分は何もしなくても良いという誤解

因幡・但馬観光圏を提唱したとき、「広く連携するなら自分はもう何もしなくても良い」と言われた方もいたそうです。これは大きな間違いで、誰かに頼るだけで怠けていてはお客様は増えません。大阪や東京からお客様を呼び込む満足いただくには連携が必要ですが、お客様がまた来たくなるかどうかは、受け入れた人の創意工夫と努力にかかっています。

観光は自ら汗をかき手法はプロに委ねる

ライバルが見えづらい中で価値や魅力を作る

観光はライバルが見えづらい産業です。例えば、大阪の人に若桜谷へ来ていただこうと思うと、和歌山や愛知・三重・韓国などがライバルになります。家族会議で「来月の旅行はどこに行く?」とお父さんが聞いた時、奥さんや子供らから「若桜谷って何?知らない」「南紀白浜の海水浴がいい!」と言われたらその家族は若桜谷に来ないのです。ですから、広い視野で他の地域と比べた上で、お客様が来たくなる価値や魅力を作る必要があります。

また、鹿野や智頭といった近隣町や鳥取砂丘は「ライバル」ではありません。関西の方々を和歌山や韓国ではなく鳥取の方向に引っ張り込むためにタッグを組むべき「仲間」だと思った方が良いでしょう。狭いところで内輪揉めや知らんぷりばかりしているような地域には観光客は足を向けなくなるのです。

プロと一緒に汗をかく

観光の企画や宣伝はプロがハイレベルな戦いをしていますので、素人が丸腰で参戦しても勝てません。大事なのは、手法は実績を上げているプロの力を借り、彼らと一緒に考え動くことです。「こんなことできる?」「こんなモノはある?」といったプロからの要求に「これならできる!」「こんなモノがある!」と真摯に応え、一緒に商品を作り上げることで強い観光地に育っていきます。観光は地域の総合力と言われ、旅館やおみやげ屋さんだけの産業ではありません。地域が一体となってプロと一緒に汗をかき、農業・漁業・林業や行政が持てる資源を組み合わせ、地域を魅力的に仕上げることが勝負なのです。

協力体制こそが最大の観光資源

若桜鉄道も読売ツアーではツアー作りのプロとして野村浩志氏の力を借りましたし、Gバスでは因幡観光ネットワーク、観光車両作りでは水戸岡鋭治先生の力を借りています。百戦錬磨のプロは勝てる定石を多く持っています。「これができれば勝てる」というプロの要求を地域につなぎ、行政と地域の皆さまと若桜鉄道が汗をかいて商品を作り上げたから、観光資源が無い地域でもお客様を呼べる様になりました。いえ、このような協力体制こそが、これからの最強の観光資源なのです。

コンパクトな鳥取県だからこそ最強になれる

隼ラッピングパレードにスズキの鈴木修会長をお招きした際、石破代議士・平井知事・吉田町長・小林町長・沿線活性化協議会 西村会長らを前に「国・県・町・住民と鉄道が一体になって動いている。鳥取のまとまりはすごい」とスピーチされました。国から町への垂直の繋がりと、鉄道が作る市町をつなぐ横の繋がり、行政や住民が持つ面の繋がり、これらが一体となれば最強の観光地となることができます。小さな鳥取県だからこそ最強になれるのです。

いただいたコメント

先々週は、色々案内していただき、ありがとうございました。
今まで知らなかった所を周り、勉強になりました。
春の桜と秋の紅葉は、その年の気候次第で難しいですが、
若桜谷は、列車から景色を見てるだけでも良い所だと思います。
今度は花火の時にでも行ければと思ってます。