「なぜ、バスを減便したら排出ガスが減って良かったという評価になるのだろう?」そんな疑問から調べ始めた排出量管理。疑問を解決するスコープ3の導入が2027年に迫っているようです。今までの排出量管理から、サプライチェーン全体・地域社会全体の視野になり、かなりレベルが上がるようです。

今回は日本への導入見通し、物流・公共交通での活用方法、そして物流や公共交通の土台となる「まちづくり」に焦点を当てます。企業の立地がスコープ3をいかに規定し、コンパクトシティへの転換がインフラのライフサイクル全体でどれほどの排出削減効果を生むのか。AI が持つ経済学・政策学の知見を総動員し、持続可能な未来に向けた社会設計のあり方を見てみます。

音声解説(16分)

AI Notebook LMで生成したラジオ番組風 音声解説

スコープ3が変える物流公共交通とまちづくり

スライド資料(14ページ)

AI Notebook LM 生成のスライド資料

スコープ拓く日本の未来:物流J,9 公共交通・まちづくりの新・経済学

サステナビリティ開示の現在地:スコープ3義務化が社会に問いかけるもの

2026年を迎え、日本の企業社会は大きな転換点を迎えています。これまで環境への配慮は、企業の自主的な努力や社会貢献活動の一環として語られることが多くありました。しかし現在、その風景は一変し、温室効果ガスの排出量、特にスコープ3(原材料調達から販売後までのサプライチェーン全体の排出量)の開示は、投資家から資金を調達するための必須要件へと変わりつつあります。今回は、日本における導入の見通しとその内容について、社会経済システムとしての視点から整理します。

日本版サステナビリティ報告基準の確定

日本の情報開示ルールを策定するサステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、国際的なサステナビリティ開示基準(ISSB基準)に基づいた日本版の報告基準を確定させました。これにより、プライム市場に上場する時価総額の大きな企業から順に、有価証券報告書(法律で提出が義務付けられている企業の公式な決算書類)での環境情報開示が求められることになります。

この基準の大きな特徴は、自社の活動による直接的な排出量(スコープ1)や、使用した電気などのエネルギーに由来する排出量(スコープ2)だけでなく、サプライヤー(供給元)や顧客の活動までを含めたスコープ3の算定・報告を重視している点にあります。これは、経済学的な視点で見れば、情報の非対称性(当事者の一方しか知らない情報がある状態)を解消し、資本市場が企業の環境リスクを正しく評価するためのインフラを整えるプロセスに他なりません。

段階的な義務化のロードマップ

日本の政策担当者は、企業の準備状況や国際的な動向を慎重に見極めながら、段階的な導入を進めています。現在の見通しでは、2027年3月期以降、時価総額3兆円以上の超大型銘柄を皮切りに、事実上の義務化がスタートする予定です。その後、2028年から2029年にかけて、時価総額5,000億円以上の企業へと対象が広がっていく計画です。

この段階的なアプローチは、急激な制度変更が企業経営に過度な負担を与えることを防ぐための配慮でもあります。特にスコープ3の算定には膨大なデータが必要であり、サプライヤー各社との連携が不可欠です。政策面では、中小企業の算定負担を軽減するためのガイドライン整備や、ITツールの活用支援が並行して進められています。

スコープ3に含まれる15のカテゴリー

スコープ3は、事業活動の前後に関わる排出源を15のカテゴリーに分類しています。日本企業にとって特に影響が大きいのは、カテゴリー1の購入した製品・サービス、カテゴリー4の輸送・配送(上流)、カテゴリー7の雇用者の通勤、そして製造業におけるカテゴリー11の販売した製品の使用です。

社会学的な視点から見れば、これは企業を単独の存在としてではなく、社会というネットワークの一部として評価する試みです。例えば、カテゴリー7の雇用者の通勤を評価することは、企業の立地や働き方が地域の交通負荷にどのような影響を与えているかを可視化することにつながります。また、カテゴリー4の評価は、物流の効率化がいかに社会全体のエネルギー消費を左右するかを浮き彫りにします。

削減貢献量という日本独自の視点

日本の施策において、現在活発に議論されているのが削減貢献量(自社の製品やサービスが他者の排出を抑制した量)の扱いです。これは、自社の排出量そのものだけでなく、社会全体に対してどのようなプラスの影響(負の外部性を抑制する効果)を与えたかを正当に評価しようとするものです。

例えば、鉄道車両メーカーが従来の車両よりも高効率な車両を開発し、それによって自家用車からの転換が進んだ場合、メーカー側のスコープ3(カテゴリー11)は大きく変化しなくとも、社会全体の総排出量は減少します。日本の政策担当者は、こうした企業の貢献を指標化し、国際的な基準の中に位置づけようと努めています。この取り組みは、技術力を強みとする日本企業が、脱炭素社会において正当な評価を得るための重要な論点となっています。

課題と展望

現在の開示制度にも課題は存在します。一つはデータの信頼性です。スコープ3は推計に基づく部分が多く、算定方法の標準化が急務となっています。また、数値の開示そのものが目的化してしまい、実際の社会構造の変革(人流や物流の最適化)に結びつかない形骸化を懸念する声もあります。

政策担当者も、これらの弱点を認識しており、監査(第三者によるチェック)のあり方や、より実効性の高いデータ連携基盤の構築について議論を深めています。

私たちが目指すべきは、単なる書類上の数値改善ではありません。スコープ3の開示をきっかけに、物流のあり方、公共交通の役割、そしてまちの形そのものを再定義することです。次回からは、物流、公共交通、まちづくりという具体的な領域において、スコープ3がどのような変革を迫っているのか、その活用方法と留意点について検討していきます。

スコープ2とスコープ3の比較一覧

項目 スコープ2 スコープ3
排出の性質 エネルギー起源の間接排出 事業活動に関連する他者の排出
主な対象 購入した電気・熱・蒸気のみ 原材料、輸送、出張、販売した製品の使用・廃棄など
管理の難易度 比較的容易(電気代から計算可能) 極めて困難(他社の協力と膨大なデータが必要)
削減の手段 再エネへの切り替え、省エネ 構造改革(モーダルシフト、製品設計の変更)、仕入先への働きかけ

「構造的評価」への移行

領域 スコープ3がもたらす最大の変化 直面する障壁
物流 「運び方の効率」から「運ばない工夫」へ データの透明性とコスト負担の不均衡
公共交通 「赤字インフラ」から「削減ソリューション」へ 削減貢献を正当に評価する指標の欠如
まちづくり 「立地」が企業の環境性能を決める時代へ 社会構造の変革に要する時間とコスト

結論:

スコープ3の最大のメリットは、移動や輸送を単独の行為ではなく、社会システム全体の設計(まちづくり)の問題として捉え直す機会を与えることです。一方で、その評価が現在の排出量に偏りすぎると、インフラ維持や空間構造の変革といった長期的な取り組みが過小評価されるリスクがあります。

参照元・出典:

  • サステナビリティ基準委員会(SSBJ) サステナビリティ開示基準の公表
  • 金融庁 有価証券報告書等におけるサステナビリティ情報等の記載について

主要文献:

  • 植田和弘著 環境経済学 有斐閣 宮本憲一著
  • 環境経済学 岩波書店 SSBJ編 日本版サステナビリティ開示基準の実務ガイダンス

物流の「2024年問題」をスコープ3で解く:共同配送とモーダルシフトの経済学

今回は、私たちの生活を支えるライフラインであり、同時に脱炭素化の大きな壁に直面している物流領域に焦点を当てます。いわゆる物流2024年問題(トラック運転手の労働時間制限による輸送能力の不足)が深刻化する中で、スコープ3(サプライチェーン全体の排出量)の算定・開示が、この難局を乗り越えるための追い風になる可能性について、事業と政策の両面から整理します。

荷主企業にとってのスコープ3:運び方を選ぶ時代の到来

物流における排出量は、荷主企業(荷物を送る側の企業)にとってスコープ3のカテゴリー4(輸送・配送:上流)に該当します。これまでは、物流は安く、早く、確実に届くことが最優先され、その過程でどれだけのエネルギーが消費されているかは二の次とされてきました。

しかし、スコープ3の開示が広まることで、荷主企業は自社の排出量を下げるために、物流業者に対して低炭素な輸送を求めるようになります。これは、単なるコスト競争から、環境価値を含めたパートナーシップへの転換を意味します。経済学的な視点で見れば、これまで無視されてきた輸送に伴う環境負荷という外部費用(取引の当事者以外に及ぶ不利益)が、荷主企業の意思決定プロセスの中に組み込まれ始めたと言えます。

共同配送とモーダルシフトの経済的合理性

物流におけるスコープ3削減の有力な手段が、共同配送(複数の企業の荷物を一台のトラックに積み合わせること)とモーダルシフト(トラックから鉄道や船舶へ輸送手段を切り替えること)です。

一台のトラックに複数の企業の荷物を載せることで、積載率(車両の最大積載量に対する実際の荷物量の割合)が向上し、荷物一個あたりの排出量を劇的に減らすことができます。また、長距離輸送を鉄道や船舶に切り替えることは、単位輸送量あたりの排出量をトラックの数分の一に抑制する効果があります。

これらは、物流2024年問題への対策である「輸送効率の向上」と、スコープ3対策である「排出削減」が、同じ方向を向いていることを示しています。政策面でも、フィジカルインターネット(荷物をデータのように標準化し、最適な経路で共同配送する仕組み)の構築が推進されており、個別の企業の枠を超えた全体最適(社会システム全体としての効率化)を目指す動きが加速しています。

事業としての活用方法と実務的な論点

物流事業者は、自社の排出データを詳細に算定し、荷主に対してカテゴリー4の削減に貢献するソリューションを提案することが、強力な営業戦略となります。例えば、バイオ燃料の使用や、配送ルートの最適化アルゴリズムによる走行距離の短縮は、そのまま荷主企業のスコープ3削減実績として数値化されます。

ここで重要になるのが、データ連携の質です。荷主が正確なスコープ3を開示するためには、物流業者が実際に輸送した際の活動量(輸送トンキロ:運んだ重さと距離の積)に基づいた精緻なデータ提供が求められます。現在、日本の主要な物流企業は、デジタル技術を駆使して、荷主ごとにリアルタイムで排出量を可視化するサービスを展開し始めています。

政策担当者の配慮と中小事業者への留意事項

日本の政策担当者は、物流におけるスコープ3の導入が、特に中小の物流事業者にとって過度な負担にならないよう、慎重な制度設計を行っています。日本の物流業界の多層構造(元請けから下請け、孫請けへと連なる構造)を考慮し、算定の実務を簡素化する排出原単位(平均的な活動量あたりの排出量データ)の整備が進められています。

また、環境対策にかかるコストを適正に運賃へ転嫁するための環境整備も重要な政策課題です。荷主企業がスコープ3の数値を下げるという便益を享受するのであれば、そのためのコストを物流業者と共に負担するという、公平な利益配分の仕組みが不可欠です。政策面では、標準的な運賃の活用や、共同化に向けた実証実験への補助などを通じて、業界全体の底上げが図られています。

今回のまとめと次回の展望

物流領域におけるスコープ3は、単なる環境指標ではありません。それは、非効率な配送慣習を改め、社会全体の輸送能力を持続可能なものにするための、強力な動機付け(インセンティブ)です。荷主と物流業者がデータを共有し、共に汗をかくことで、環境と経済の両立が現実味を帯びてきます。

次回の第3回では、公共交通領域に焦点を当てます。自家用車から鉄道やバスへの転換が、企業の通勤・出張というスコープ3をいかに劇的に変えるのか。そして、公共交通を社会的共通資本(社会全体で管理・維持すべき大切なインフラ)として維持することの真の意味を考えていきます。

参照元・出典:

  • 経済産業省・国土交通省 物流2024年問題への対応
  • 環境省 物流分野における温室効果ガス排出量算定方法ガイドライン

主要文献:

  • 宇沢弘文著 社会的共通資本 岩波新書 日本物流学会編 現代物流概論 白桃書房
  • GLEC Framework for Logistics Emissions Methodologies

公共交通を「社会的共通資本」として再定義する:スコープ3が拓く移動の未来

今回は、私たちの移動を支える公共交通領域に焦点を当てます。人口減少や自家用車の普及により、多くの地域で公共交通の維持が課題となっていますが、スコープ3(サプライチェーン全体の排出量)という新しい評価軸は、鉄道やバスの価値を「コスト」から「環境ソリューション」へと劇的に変える可能性を秘めています。

企業の通勤・出張とスコープ3の密接な関係

企業が排出する温室効果ガスのうち、スコープ3のカテゴリー7(雇用者の通勤)とカテゴリー6(出張)は、公共交通と極めて深い関わりがあります。これまで社員の通勤手段は個人の自由に委ねられることが一般的でしたが、スコープ3の開示義務化により、企業にとって「社員がいかに低炭素に移動するか」が経営課題の一つとなりました。

例えば、社員が自家用車から鉄道やバスへ通勤手段を切り替えることは、企業のスコープ3削減に直結します。経済学的な視点で見れば、公共交通は、自家用車がもたらす渋滞や事故、大気汚染といった負の外部性(当事者以外に及ぶ不利益)を抑制し、社会全体の効率を高める正の外部性(他者に利益を与える効果)を持っていると言えます。

社会的共通資本としての公共交通の維持

経済学者の宇沢弘文教授が提唱した社会的共通資本(ゆたかな社会を維持するために社会全体で管理すべき共通の財)という考え方に基づけば、公共交通は単なる収益事業ではありません。それは、人々の移動の権利を保障し、持続可能な都市構造を支えるための不可欠なインフラです。

スコープ3の算定が進むことで、公共交通を維持することの「環境便益」が数値化されます。例えば、ある地方路線を維持することが、その沿線企業のスコープ3削減にどれだけ貢献しているかを可視化できれば、路線の維持費用を単なる「赤字」ではなく、地域全体の「脱炭素投資」として再定義することが可能になります。

事業としての活用方法とモーダルセレクトの推進

公共交通事業者は、自社のサービスを利用することが企業のスコープ3削減にどれだけ寄与するかを、具体的なデータで示すことが求められます。現在、鉄道会社やバス会社は、法人向けに通勤・出張に伴う排出削減量を算定・レポートするサービスを開始しています。

また、MaaS(マース:移動を一つのサービスとして統合する考え方)の進展により、出発地から目的地まで最適な手段を組み合わせる中で、最も低炭素な経路を優先的に選択するモーダルセレクト(環境負荷の低い移動手段を意識的に選択すること)が容易になっています。企業はこうしたプラットフォームを活用することで、実効性の高い削減活動を展開できるようになります。

政策担当者の配慮と利便性維持への留意事項

日本の政策担当者は、公共交通の維持活性化に向けて、地域公共交通活性化再生法などを通じた支援を行っています。政策面での重要な留意点は、単に車両を電気バスや水素列車に置き換える(改良:Improve)だけでなく、運行本数やネットワークの利便性を維持し、利用者を増やす(転換:Shift)ことの方が、社会全体の総排出量削減には効果的であるという点です。

利用者が不便を感じて自家用車に戻ってしまえば、車両単体の環境性能を上げても全体最適(社会システム全体としての効率化)は達成されません。そのため、政策評価においても、二酸化炭素の直接排出量だけでなく、人流の転換効果(社会減少)を正当に評価する仕組みづくりが進められています。

今回のまとめと次回の展望

公共交通におけるスコープ3は、移動を「個人の消費」から「社会的な投資」へと変える力を持ちます。企業が公共交通の価値を認め、その維持に協力することは、自社のブランド価値を高めるだけでなく、将来にわたってゆたかな社会を引き継ぐための責任ある行動です。
次回の最終回では、これら物流と公共交通の土台となるまちづくりに焦点を当てます。コンパクトシティ(生活機能が集約された都市構造)への転換が、いかに企業の環境性能を構造的に決定づけるのか、空間構造とLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点から総括します。

参照元・出典:

  • 国土交通省 地域公共交通の活性化・再生
  • 環境省 排出原単位データベース

主要文献:

  • 宇沢弘文著 社会的共通資本 岩波新書 宮本憲一著
  • 環境経済学 岩波書店 ISSB(国際サステナビリティ基準理事会)基準書

まちづくりが規定する企業の環境性能:空間構造という究極のLCA

今回は、これまで論じてきた物流や公共交通の土台となる「まちづくり」に焦点を当てます。企業のスコープ3(サプライチェーン全体の排出量)を削減するための究極の手段は、製品の改良だけでなく、企業が位置する空間そのものの構造を変えることにあります。土地利用のあり方がいかに企業の環境性能を規定し、持続可能な社会を形作るのか、LCA(ライフサイクルアセスメント)の視点から総括します。

立地が決定づける「構造的排出量」

経済学や都市工学の視点で見れば、企業の排出量は、その企業が「どこに位置しているか」という空間構造に強く依存しています。例えば、公共交通の結節点に位置するオフィスや工場と、自家用車でしかアクセスできない郊外に位置する拠点では、スコープ3のカテゴリー7(雇用者の通勤)やカテゴリー6(出張)における排出量に、構造的な格差が生まれます。

これをロケーション・プロファイル(立地特性による環境性能評価)と呼びます。2026年、投資家が企業のレジリエンス(回復力)を評価する際、単なる個別の削減努力だけでなく、こうした「低炭素な活動を可能にする立地」を選んでいるかどうかが、重要な判断材料となりつつあります。

コンパクトシティとインフラのLCA

社会的共通資本(社会全体で管理すべき共通の財)としての都市を維持するためには、インフラの維持管理に伴う環境負荷を最小化しなければなりません。コンパクトシティ(生活機能が拠点に集約され、公共交通で結ばれた都市構造)への転換は、移動距離を短縮するアボイド(回避)の効果を生むだけでなく、インフラそのもののLCAを劇的に改善します。

広大な郊外に点在する居住地や事業所へ、道路、水道、電気、そして物流網を維持し続けることは、膨大なエネルギーと炭素排出を伴います。これに対し、土地利用を集約化することは、単位面積あたりのエネルギー効率(空間効率)を極大化させ、インフラの建設・維持管理に伴う「埋没炭素(インフラに固定化された排出量)」を抑制します。

事業と政策の連携:立地適正化計画の活

事業側の活用方法としては、新規拠点の設置や移転の際に、スコープ3の削減シミュレーションを立地選定の基準に組み込むことが挙げられます。公共交通指向型開発(TOD)が進んでいるエリアに拠点を構えることは、企業にとって長期的な排出削減コストを下げる戦略的な投資となります。

一方、政策側では、立地適正化計画(居住や福祉、商業などの施設を誘導し、公共交通と連携させる計画)の推進が重要です。日本の政策担当者は、人口減少社会における都市の持続可能性を確保するため、単なる規制ではなく、集約化を促すインセンティブ設計に腐心しています。例えば、低炭素な都市構造に寄与する開発に対し、容積率の緩和や税制上の優遇措置を講じることで、民間投資を誘導する試みがなされています。

空間構造の変革における留意事項と配慮

日本のまちづくり政策において配慮すべき弱点は、既存のインフラストラクチャという「負の遺産(既存の郊外型構造)」の存在です。既に広がってしまった都市を再編するには、数十年単位の時間と膨大なコスト、そして住民の合意形成が必要です。

そのため、政策評価においては、短期的な数値改善だけでなく、将来の「縮退(スマート・シュリンキング)」を見据えた長期的な評価軸が不可欠です。一律に郊外を切り捨てるのではなく、地域の特性に応じたマルチモーダル(多様な交通手段の組み合わせ)な接続を維持しつつ、段階的に集約化を図るという、粘り強い制度運用が求められています。

連載の総括:真の環境貢献度に向けて

全4回の連載を通じて、私たちはスコープ3を単なる数値報告の義務としてではなく、物流、公共交通、そしてまちづくりという社会の骨格を再構築するための「指標」として捉え直してきました。

真の環境貢献度とは、個別の技術改良(Improve)の積み上げだけでは達成できません。移動や輸送の手段を転換し(Shift)、不必要な負荷を回避する(Avoid)ための「空間の質」そのものを高めていく必要があります。環境経済学、政策学、社会学の知見を総動員し、社会的共通資本を官民で育んでいくこと。そのプロセスこそが、日本が世界に示すべき脱炭素社会のモデルとなります。

2026年、開示の義務化はゴールではなく、新しい社会設計のスタートラインです。私たちがどのような場所に住み、どのように運び、どのように動くのか。スコープ3というレンズを通して、ゆたかな未来への羅針盤を皆さんと共有できたことを願っています。

参照元・出典:

  • 国土交通省 立地適正化計画
  • 環境省 脱炭素まちづくりガイドライン

主要文献:

  • 宇沢弘文著 社会的共通資本 岩波新書 宮本憲一著
  • 環境経済学 岩波書店 OECD The Environmental Performance of Urban Structure

欧州に学ぶ:スコープ3を競争力に変える戦略 ― 物流・公共交通・まちづくりの先進事例

これまでの連載で、私たちは日本におけるスコープ3の導入見通しと、それが物流、公共交通、まちづくりに与える影響について考察してきました。最終回となる今回は、視点を欧州に移し、先行する彼らがどのようにスコープ3を「負担」ではなく「競争力」に変えているのか、具体的な事例を通じてその戦略を解き明かします。

物流:GHGデータが商品価値となる「可視化競争」

欧州の物流業界では、荷主企業(荷物を送る側の企業)が自社のスコープ3(カテゴリー4:輸送・配送)を正確に算定できるよう、物流サービスプロバイダー(DHL、DBシェンカーなど)が輸送単位ごとの精密な排出データを提供することが、当たり前のサービスとなっています。

  • 事例:GLEC(Global Logistics Emissions Council)フレームワークの活用 多くの欧州企業がGLECフレームワークという国際標準を採用し、トラック、鉄道、航空、船舶を組み合わせた複合一貫輸送の排出量を可視化しています。荷主は、このデータに基づいて低炭素な輸送オプション(例:バイオ燃料使用、鉄道へのモーダルシフト)を選択することで、自社のスコープ3削減を即座に報告書に反映できます。
  • 日本への示唆: 物流事業者が排出データを「付加価値サービス」として提供することで、低炭素な輸送が高値でも選ばれる市場が形成されています。荷主と物流業者間のデータ連携の標準化と透明性の確保が、日本の物流業界における競争力の源泉となります。

公共交通:企業戦略に組み込まれる「モビリティ・マネジメント」

欧州の主要都市では、公共交通機関が地域の企業のスコープ3(カテゴリー7:雇用者の通勤、カテゴリー6:出張)削減の強力なパートナーとして機能しています。

  • 事例:フランスの「Mobility Plan(移動計画)」義務化 フランスでは一定規模以上の従業員を抱える企業に対し、通勤に伴う環境負荷低減計画の策定が義務付けられています。これに応え、公共交通機関は企業向けに「法人用サブスクリプション」や、社員の通勤経路を分析し、自家用車から公共交通へ転換した際の排出削減量を算出するコンサルティングを提供しています。
  • 日本への示唆: 公共交通機関は、単なる輸送サービス提供者ではなく、企業の脱炭素経営を支援する「ソリューションプロバイダー」としての役割を強化できます。企業のオフィス立地選定やテレワーク導入と連携し、社員の移動データに基づく排出削減効果を可視化することが、新たな収益源となり得ます。

まちづくり:LCAに基づいた「不動産価値と都市計画」の連動

欧州では、「どこにオフィスを構えるか」という企業の立地選択が、スコープ3評価に直結する仕組みが整いつつあります。都市の空間構造そのものが、企業の環境性能の一部として評価されます。

  • 事例:北欧諸国のTOD(公共交通指向型開発)とLCAの統合評価 北欧諸国では、都市開発の計画段階から、建設時だけでなく、完成後の「居住者・利用者の移動に伴う排出量」まで含めたLCA評価が行われます。公共交通の結節点に位置するビルは、入居企業の社員移動に伴う排出量を構造的に低く抑えられるため、「スコープ3削減に有利な物件」として資産価値(グリーン・プレミアム)が高まります。
  • 日本への示唆: 公共交通沿線の不動産開発は、単なる利便性だけでなく「環境価値」という新たな切り口で投資を呼び込むことができます。地方自治体も、立地適正化計画において、都市構造が企業活動のスコープ3に与える影響を定量的に評価し、企業誘致の強力なフックとすることが可能です。

欧州事例に共通する「競争戦略」としてのスコープ3

欧州のこれらの事例に共通するのは、スコープ3の算定・開示を「義務」として受け入れるだけでなく、それを競争優位性を築くための戦略的なツールとして位置づけている点です。

  • 可視化の徹底: 精密なデータ開示が、低炭素なサービスを選ぶ顧客の意思決定を後押しします。
  • 制度設計との連動: 行政が企業の脱炭素努力を促す制度(義務化やインセンティブ)を整備し、市場メカニズムを補完しています。
  • 新たなビジネスモデル: 環境価値の提供が、製品・サービスの新たな収益源となっています。

今回のまとめと日本の未来

欧州の事例は、スコープ3が単なる排出量計算ではなく、企業間の取引構造、都市の空間構造、そして人々の行動様式そのものを変革する可能性を秘めていることを示しています。

日本企業も、スコープ3を未来への投資と捉え、サプライチェーン全体での協調、新たなサービス開発、そして地域社会との連携を深めることで、持続可能な経済成長と社会の実現に貢献できるはずです。今回の連載が、そのための羅針盤となることを願っています。

参照元・出典:

  • European Commission Sustainable and Smart Mobility Strategy https://transport.ec.europa.eu/transport-themes/sustainable-transport/sustainable-and-smart-mobility-strategy_en Carbon Disclosure Project (CDP) European reports

主要文献:

  • OECD Green Growth Studies Porter, Michael E., and Forest L. Reinhardt. “Strategy and the Environment.” Harvard Business Review 77.5 (1999): 119-132.

注意

以上の文書はAI Geminiが生成したものを加筆修正しており、誤りが含まれる場合があります。

参考

そう言えば、TransDevの利用促進は環境対応のみでした。

世界最大の公共交通運行事業者Transdevをスタディする

なぜEVだけでは不十分なのか?―環境経済学とLCAで診る「隠れた排出」の正体