前回、世界最大のグローバルオペレータ Transdev を見てみましたが、アジア市場から全面撤退していたので、これを引き継いだRATP について調べてみました。

AI 音声概要をお聴きいただけます

Wikipedia英語版年次報告書 を学習させています。

パリ運輸公団の世界進出

RATP(パリ交通公団)は、元々は東京メトロのようにパリの地下鉄などを運行する会社と認識していましたが、パリ都市圏(イル・ド・フランス)のトラムやバスも担っています。これが2002年に地理的縛りがなくなり、2009年の法改正で独占権を失い競争市場に置かれます。そこからトランスデブへの出資と事業譲り受けを経て世界進出。米国の運行事業者マクドナルドを買収して、、、わずか16年で世界第3位のグローバルオペレータとなっています。
こちらは Wikipedia 日本語版の記事があります。内容が濃いのは英語版フランス語版です。機械翻訳でそれなりに読めますのでご興味あればご覧ください。

不動産部門も持つ

興味深いのは不動産子会社を持ち、再開発などにも関わっていたり、インフラメンテナンス部門ではイル・ド・フランスで252kmの線路保守を担っていたりします。運行オペレータでも個性が出ます。
キラキラな新技術の宣伝も熱心なようで専用の冊子も出しています。

イノベーションに力を入れる

RATPグループは、イノベーションを中核に位置づけ、利用者の日常生活を円滑にし、都市の魅力を高めることを目的に、安全で持続可能なモビリティの創出と新たな都市サービスの開発に注力しています。

  1. AIプログラム: データの収集とアルゴリズム開発により、運行、保守、利用者情報などをカバー。
  2. 混雑状況の把握: 駅や列車の混雑状況を把握し、空いている車両を選択できるよう情報提供。
  3. All The Way: 提携ホテルやイベント会場で航空手荷物を預けられるサービス。観光客の利便性向上に貢献。
  4. 特別なニーズを持つ人々を対象にバス利用を支援し、公共交通機関の利用を促進。
  5. 予知保全: 列車の故障や、レールに影響を与える熱波などを予測し、予防的なメンテナンスを行う。
  6. 約30のパートナーが、予知保全、コネクテッドワーカー、コネクティビティ、循環経済・持続可能な開発の4つのテーマで将来の鉄道網を開発。
  7. 循環型イノベーション: 鉄道車両の寿命延長
  8. 自動運転モビリティ
  9. 水素エネルギー
  10. バスを電気およびバイオGNV(天然ガス)に転換し、バスセンターも改造。都市汚染の削減: 騒音の少ない電気バスを展開。
  11. Smarter Cityプログラム: 人口増加、気候変動対策、社会的分断といった都市の課題に対応するため、脱炭素化、都市統合・物流、新しい生活リズム、新しいモビリティ、利用者の参加型都市開発の6つのテーマでグループの専門知識を結集。
  12. イル・ド・フランス地方でトンネル地下水を回収し、緑地への散水や道路清掃、パリ市の冷房システムへの供給に再利用。2023年5月には、排水活用に関する初の科学コンソーシアムを立ち上げ。
  13. 廃熱の再利用: データセンターの冷却システムから排出される廃熱、メトロのトンネル熱を建物暖房に利用、地熱エネルギーを駅暖房に利用
  14. 未利用地の活用: 社会的・連帯的、芸術的、レクリエーション的なプロジェクトに

と多数進めています。技術面に目新しいものはありませんが、適用・応用の展開にコンソーシアムや学識連携、スタートアップ企業との連携体の設置など、連携手法を駆使しているところが興味深いです。

アジアはRATP Dev Asia

RATP はイル・ド・フランスの交通を非独占的に受けもち、それ以外のエリアは子会社の RATP Dev が受け持っています。その下 (孫会社) にアジア部門を受け持つ RATP Dev Asia がああります。Wikioedia は英語版の記事のみがありましたが、日本語版にも翻訳されました。

  • 香港トラムウェイ:2009年4月より香港島の香港トラムウェイを100%所有し、運営しています。
  • マニラ・ライトレール・トランジット・システム1号線:フィリピンのマニラ・ライトレール1号線の運営を2015年から行っており20年契約の一部です。

また、年次報告書などによると

  • 2024年10月、RATP Devと東日本旅客鉄道株式会社は、フィリピンにおける南北通勤鉄道(NSCR)の運行と保守(O&M)の共同入札に向けて提携を発表。

JR 東日本とRATPは、2013 年5月27日に覚書を締結して以来、各分野における協力関係を築いているそうです。

過去のアジア事業

RATP Dev Asia (RDTA) は、いくつかの事業から撤退しています。

  • マカオ:Reolian社のバスを2014年7月まで運行。Reolian社は2013年10月に破産申請し、その後別の会社に置き換えられました。
  • インド・ムンバイ:ムンバイメトロ1号線を2019年6月まで運営していました。契約は2019年6月に満了し、公共交通機関に内部化されました。
  • 韓国・ソウル:ソウル地下鉄9号線(フェーズ1)を2019年6月まで運営および保守していました。運営は公共交通機関に内部化されました。
  • 中国・南京および安徽省の都市:2010年代にかけて、南京郊外の六合(Luhe)、浦口(Pukou)、安徽省の馬鞍山(Ma’anshan)、淮南(Huainan)、淮北(Huaibei)、安慶(Anqing)でバスを運営していました。
  • 中国・瀋陽:瀋陽現代路面電車の1号線、2号線、5号線を2016年/2017年まで運営していました。

北近畿タンゴ鉄道の運行権を2015年にWiller Trainsが獲得した際、RATP とSNCFが出資するコンサル会社SYSTRAが支援したという記事もありました。SYSTRAも興味深いので別に取り上げようと思います。

グローバルオペレータとその周辺

ざっくりですが、業界一位の Transdev、三位の RATP をざっとみました。ちなみに二位は Keois で、3社ともフランス企業です。活動分野、地域、出資者などそれぞれ個性があり、欧米では競い合い、他の地域では棲み分けたりしている模様です。いずれもここ30年で生まれ、M&Aで巨大化・グローバル化しています。この他にも英国や日本(日立・東京メトロ・JR東)など多数のオペレータがいますが、公的資金やファンドをバックに大規模なM&Aを展開するのがフランスの特徴です。多様な事業の寄せ集めで、果たして大きくなれば強くなるのかは、疑問も残るところですが、ともあれフランスは巨大化と選択と集中を推し進めてきたことはわかります。また、運行オペレータだけでなく、エンジニアリング企業、車両・電機メーカーなども国境を跨いだ再編が大規模に進んでいます。

都市計画交通計画と運行の担い手であるオペレータを見てきました。そして、この間にある「設計・建設」を担うエンジニアリング企業もかなり重要な役割を担っているようです。ということで、次回はSYSTRAについても取り上げてみたいと思います。