前回のブログで都市計画の系譜について、田園都市運動からスマートグロース、コンパクトシティまで経緯を簡単に紹介しました。

都市域を広げすぎず、自動車に頼りすぎず、環境に優しく、多様なコミュニティにとっても住みやすい持続性のある都市を実現しようとなったのです。では、これをどうやって実現していけば良いのでしょか? 現在の都市環境は様々ですし、多様な方々いて、合意形成も簡単ではなさそうです。もちろん、欧州でもここには苦労してきました。数十年間の都市計画の数々で、痛い失敗も経験しつつ、「これがベストプラクティスだ」と思える物を編み出していった集大成が今回ご紹介する持続可能な都市モビリティ計画(SUMP Sustainable Urban Mobikity Planning)です。

AI音声概要の解説 SUMP

左の画像をクリックするとNotebookLMで生成した音声概要が再生されます。SUMPガイドラインを学習させています。

SUMPのWikipedia記事

Wikipediaの記事によると、EU(欧州委員会)が提案し策定を勧告しています。都市貨物配送、都市アクセス規制、都市部でのインテリジェント交通システム(ITS)ソリューションの展開、道路交通安全などを、都市モビリティパッケージとしています。欧州における事実上の都市交通計画概念となっており、国際的に広く取り上げられているそうです。

構造化されたSUMPの計画手順

SUMPの特徴は、計画手順を準備、戦略策定、計画、モニタリングとの4フェーズ12ステップに分けており、わかりやすく構造化されています。何を準備しなければならないか、このステップではどこまで達成しなくてはならないかを明確にしていますので、誰でも進捗が見える訳です。管理しやすい訳です。

地域交通 リ・デザインeラーニングの「合意形成ー計画作りのメソッド」で紹介していますのでぜひご覧ください。

統合するSUMP

毎日の移動は通勤や通学が真っ先に考えられます。これは自治体を跨ることが多いので、自治体の中だけで考えても意味が無いことに気づくはずです。そのため、SUMPは移動都市圏で考えます。また、通学なら教育、通勤なら産業振興と関係が出ます。移動に伴う交通事故や公害などの害も最低に抑える必要があります。「移動」を考えるなら、「移動」だけ見ても意味がないことも気づきます。なのでSUMPは分野・自治体などを合わせてみる統合視点が重視されます。それはそうです。交通の一部分だけ見ても問題解決も活性化もままなりません。縦割りの壁を越えるのは欧州でも大変です。でも、それを乗り越える方法・ヒントがSUMPガイドラインには多々あります。

戦略的なSUMP

都市の課題は様々ですし、市民の思いもそれぞれです。そこで、SUMPでは都市を持続させるためには何が必要かという事を考え、それを実現する道筋を考えるという戦略思考が取られます。

市民の合意形成についても同様で、バラバラな未来像を描いている市民に対し、未来予測から参加いただき現状の延長線上がどうなるかを皆で予測し、そこからより良い未来像を描き、そこに到達するために何をすべきかと考えます。現状の積み上げではなく、先に理想を描いてからそこに至る道を考える。これをバックキャスト(後ろ投げ)と呼びます。理想の未来を先に描くからこそ「これを実現したい」という思いも募るのです。

市民参画を重視するSUMP

日本では計画を練り上げてから議会や市民に説明して承認を取り付ける方法がよく取られます。しかし、計画を作っても市民が知らんぷりでは、新しい交通体系も無視されてしまいます。また、計画を練り上げても、最悪は「これが配慮されていないじゃないか」と言われて瓦解することも起きてしまいます。市民にとっても突然計画を発表されても内容を受け止める猶予がなかったりします。

これを防ぐために、SUMPでは市民参画を重視します。準備・調査段階から市民に参画いただき、前述の未来予測や計画作り、そして実行段階まで市民と共に計画を作ります。特に重視するのは貧困者や子供など弱い立場の方々の声を積極的に聞く事です。そして、計画が出来上がると「わが町の計画がついにできた!」と喜びを共有します。こうなれば「私の計画」と市民が受け止めるので、実施も弾みがつきます。

日本でも実施されているSUMP

「SUMPはヨーロッパだからできたんだよ」と思われたかもしれませんが、それは違います。欧州は日本以上に多様で、言語・宗教が異なる市民が住み、定住しない少数民族もいます。話をまとめるのは簡単な事ではありません。自治体の予算とて潤沢という訳でもありません。工夫とやりくりの中で進められているのは日本以上に難しいのです。

日本では富山市がウェルビーイングを志向してSUMPを採用しました。市民幸福実現のために理想像からバックキャストして計画が作られつつあります。また、日本のコミュニティバスの始祖である武蔵野市のムーバスでは、市民参加によりバス停の位置から運行形態など事業者や学識と共に市民も入って話し合いが持たれ、内容が決められていきました。このため、バスが運行された時は想定以上に歓迎され、積極的に利用されたのでした。

 

事例豊富なSUMP

数多くの都市交通計画の経験から編み出されたメソッドだけに、SUMPガイドラインにはその項目ごとに豊富な事例が紹介されています。

すぐに学べるSUMP

SUMPは高額な講習費を払って学ぶ物ではありません。元々、欧州で計画を作ってきた方々が「ベストプラクティスを広めたい」と作ったもののです。なんと、日本ではSUMP「持続可能な都市モビリティ計画の策定と実施のためのガイドライン」の日本語訳pdfが地域公共交通総合研究所より無償で配布されています。(紙の本は有償)また、書籍「持続可能な交通まちづくりー欧州の実践に学ぶ 宇都宮浄人/柴山多佳児著」も出版されています。

都市によって状況は変わりますので、全てを実施する必要はありません。考え方を学び、自分の都市に合う方法を選び実践していけば良いのです。

欧州の各都市で数十年間苦労して作り上げられた都市交通計画作りのベストプラクティスを知ってから、自分の都市の交通を考えてみる。ここまでは今すぐ無料で実行できるのです。学ばない手は無いと思います。