多様な人々が幸せに暮らすには、多様な生き方ができる環境が必要です。そのため、多様性を受け止めるコミュニティ(地域社会)が必要で、それを実現する都市や地域があって、それを支えるインフラの一つに公共交通があります。公共交通がどうあるべきか?と考える時、コミュニティや都市設計、そして自動車との関係が重要になります。今回は、Wikipediaの記事を元に自動車・都市設計の流れを追ってみたく思います。画像や文中のリンクから原典の記事を読めますので、ぜひそちらもご覧ください。

ラジオ番組風、音声概要

以下の内容をラジオ番組風に解説した音声概要をここからお聞きいただけます。

産業革命、電鉄開業、街の関係が始まった

英国で産業革命が始まった時、農村から都市の工場に働きに出た人々は過密で不潔で空気も悪い不健康な都市に住んでいました。1898年にイギリスのエベネザー・ハワードが提唱したのが、緑豊かな郊外に職中接近の都市を作ろうと提唱したのがガーデンシティ運動でした。1910年、現在の阪急が開通し住宅ローン活用の分譲住宅販売が始まります。ガーデンシティに触発され、1920年に千里山住宅地、1922年に田園調布が開発されました。ハワードは街路だけでなく、自治組織や土地の信託により投機を防ぎ、街のすぐ外側に勤め先の工場も作るといった都市国家的な理想郷を目指していましたが、日本は都心に電車通勤する分譲ベッドタウンとして発展し、この頃から公共交通志向開発(TOD)が盛んになったのです。これは戦後から今に至るまで続き、ニュータウン開発が各地で相次いでいます。

関東大震災と郊外移住

1923年(大正12年)に関東大震災があり、東京は焼け野原になりました。そして1926年、新宿から40分の緑豊かで地盤が強い武蔵野台地に箱根土地(現西武プリンス)が国立駅を作り、一橋大学を誘致し分譲地の中心に据えた「国立学園都市」を分譲します。都心から中央線沿線への大移住が始まり、日本独特の鉄道通勤ベッドタウンがブームとなります。

モータリゼーションと自動車依存・誘発需要

海外ではモータリゼーションが進み、自動車による混雑・道路や駐車場の都市空間占拠と空洞化・スプロール化・大気汚染・騒音など外部性の課題が大きくなりました。また自動車が溢れると歩行者や公共交通も動きづらくなる弊害が出て、自動車でしか移動できない地域も増え、ますます自動車依存が進むようになりました。

(Wikipediaページに音声概要あり)

誘発需要とタウンズ・トムソンパラドックス

混雑対策で道路を拡張すると、誘発需要で車が増えて再び混雑してしまうダウンズ・トムソンのパラドックスも起き、「交通渋滞を解消するために容量を増やすのは、ベルトを緩めて肥満を解消しようとするようなものだ」という格言も生まれました。増える車には道路拡張以外の手段が必要との認識が広まり、混雑課金でピーク需要を抑えようという動きや、公共交通無料化の動きなども広がってきました。

誘発需要混雑課金公共交通無料化 各Wikipediaページに音声概要あり)

コンプリート・コミュニティから、スマート・グロースへ

街の構造そのものも考え直す動きも出てきました。コンプリート・コミュニティは徒歩圏内に職住を近接させ、公共交通の結節点近くに都市を集積し、自動車依存を軽減しようとしました。また、世帯が小さく多様化している社会変化にも対応しようとしています。

(Wikipediaページに音声概要あり)

スマートグロースへ

さらに、都市の持続性を高め賢く実現しようとスマートグロースでは、TODで集積を高めると共に、プレイス作りなど地域への愛着も高める工夫もされています。

(Wikipediaページに音声概要あり)

日本ではコンパクト・シティが始まる

日本でも大都市部を除けばモータリゼーションが進み、混雑や空洞化、が進み、スプロール化により都市域が広がり下水道や除雪などの費用が増していました。そこで、スマートグロースと同様な発想である、コンパクトシティが日本でも法制化され、札幌・青森・富山などで政策化されています。「お団子と串」と言われるように、公共交通の結節点に都市機能と人口を集積し、中心街の活性化と地価上昇、市民の健康向上などが図られています。

以上のまとめ

都市の課題は、初期の物理的な環境改善から、より包括的な生活の質の向上、そして地球規模の持続可能性へと深化してきました。都市開発概念は、先行する概念を基盤に、時代事の課題に対応し、進化・発展してきました。この系譜を理解することは、将来を予測する上で不可欠です。

都市計画 ガーデンシティ運動 コンプリートコミュニティ スマートグロース
課題 都市過密、不衛生、スプロール化初期 自動車依存、社会的孤立、多様性対応不足 環境負荷、交通渋滞、非効率な土地利用
概念 都市計画の原型的アイデア
緑と計画性の重視
人間中心・多様性への対応
生活利便性の追求
環境・経済合理性の追求
持続可能な都市経営
時期 19世紀末 20世紀後半 20世紀末
価値 都市と農村の融合、環境改善 住民ニーズ充足、多様な暮らしの実現 環境調和、経済効率、持続可能性
開発焦点 緑豊かな郊外、自給自足型コミュニティ 職住近接、徒歩圏内の生活利便施設 コンパクトシティ、公共交通指向型開発

これからの都市と交通

人口密度が高く公共交通志向開発が先行し、後にモータリゼーションが来た日本と、欧米では順序が逆になります。行きすぎて戻るという中で、人口密度に応じた最適な交通モードが形作られていくことが重要でしょう。一方、日本ではTODが先行している中、ニュータウンで一斉入居した市民が一斉高齢化するオールドタウン問題が起き始めています。特に日本は分譲宅地やマンションが盛んなので、住宅の流動性は高くなく、核家族化で家屋の継承も難しくなっています。

都市国家が争い合い、支配をしたりされたりを繰り返してきた欧州は、独立都市国家型の街づくりが馴染むのでしょう。一方、入会地など共有資産を集落ごとに話し合いながら管理してきた「預かり物」文化の日本は従来の地域コミュニティ家制度が薄れているので、現代に合わせたコミュニティ構築が課題です。乗合・共有・集積といった交流を生みやすい公共交通をこれからどう活かして都市や地域を形成するのか、市民と行政の知恵が試されています。こうした流れの中で、日本でも持続的都市モビリティ計画SUMPを導入しようという流れが起きています。次回はそれを紹介したく思います。

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