11月25日、ムーバス運行開始30周年シンポジウムに参加しました。住みやすい地域を作るために、路線バスと合わせた交通システムを作り上げるという日本初の試みは、大成功を収めました。その背景には、人口密度が高くJR中央線の3駅への流動が集中しているという環境はありますが、本当の成功の秘密は他にもあり、これがシンポジウムでは明らかになりました。この考え方は、他の地域にも当てはまると思えました。

ムーバスはコミュニティバスの制度を作り、その後1400もの自治体が採用しています。そして住民・行政・事業者が話し合う地域交通協議会の先鞭ともなりました。これは自由公民権運動が盛んで、町内会が無くコミュニティ活動が盛んで市民参画で行政を進めて来た武蔵野市の文化も大きく影響しています。

一方、残念なのは100円均一、循環路線などわかりやすくする手段として採用された運行方法の形だけ真似をして、本来何のためにバスを運行するのかよくわからない事例も他の地域では増えてしまいました。こうした状況から、ムーバスが原点を見直すことは全国が注目すべきことと思えます。

シンポジウム

シンポジウムは2025年11月25日午後6時30分から吉祥寺駅近くの武蔵野公会堂にて開催されました。タイトル「ムーバス運行30周年を契機に考えるこれからのムーバスのあり方について」から見るように、この交通モードが地域にとってどのような役割を果たすべきなのか、原点を見直そうという試みであることが伺えます。各地で開催される「あり方」検討会議では、中身が財源確保や負担の話にばかりなりがちですが、そのような議論から一線を画していることがわかります。

街の環境

武蔵野市は東西に細長い人口約15万0,624人の都市で、人口密度は、1㎢あたり約13,462人で、豊島区や中野区に次ぐ高さです。東西にJR中央線が走り2024年度利用客数は吉祥寺駅383,705人、三鷹駅151,854人、武蔵境駅151,854人と計70万人が利用しています。このため、駅への人的流動がとても大きく路線バスも発達し19万人もの利用があるのですが、路地の狭い住宅地から駅への移動が不便という盲点があったのです。

ムーバスの成功要因

ムーバス設立に携わった事業者である関東バス 取締役相談役 内藤 泉氏からは、成功の鍵として市長の熱意、事業者に任せきりにしない、市民を巻き込むの3要因が挙げられました

  • 市長の熱意
    路線開設には数々の困難がありました。道幅が狭く、法的にはバスが通れない場所の特認を得ること、JR高架の下を潜る道幅が狭くてバスが通れない、そして数多くのバス停を設けるのに住民の同意が得られづらいなどでした。しかし、市長による「住民の足を創る」という熱意で認可を得る体制を作り、道を拡幅するなど熱意ある行動が困難を突破しました。
  • 事業者に任せきりにしない
    通常は運行するバス事業者に任せきりにしがちですが、行政が積極的に関与してバス路線の開設と維持に協力しました。これが無ければ到底解説できなかったそうです。このように、「金は出した、あとはよろしく」という上下関係でなく、「行政と事業者で一緒に新しいバス交通体制を作ろう」という共創の意識と活動が鍵になっています。
  • 市民を巻き込む
    実際に使う方々の本音を引き出すために、グループインタビューを実施したり、バス停の設置では、騒音などの容認も必要ですし、路上駐車や自転車の飛び出しなどが運行を妨げることもあります。こうしたことも、住民の理解と協力が合って運行が確保されるだけでなく、運転手にとってもストレスが少ない働きやすい職場にもなります。

その結果、ムーバスは

  • 武蔵野市民にとって、かけがえのない大切な存在となり
  • 武蔵野市が住みやすい街となり人口が増え
  • 運転手にとっても誇れる職場になり

と大成功を収めています。

コンセプト・筋が通っている

不易流行のうち「不易」即ち変えてはならないことの話は続きます。行政から見た位置付けも明確でした。市民の足であり、路線バスを補完する毛細血管であり、町内会のように住民が支え、なくてはならない物にする。

その結果、市民からありがたいと思われ、事業者にとって他ではできない水準を作り支えている誇り繋がっています。人が入れ替わると忘れられがちな原点に立ち返ることはとても大事です。

コンセプト

地域の共生共育、ムーバスの意味、価値の承継は概念的ですがとても大事なものです。配布されたムーバスの案内にもしっかりとムーバスのコンセプトについて紹介されていました。

会場からの声では、利用者の本音を聞き出すグループインタビュー続けてほしい。例えば200m間隔のバス停はこれから生まれたというものもありました。また、車椅子の方は「レモンキャブ」などの別のモードでカバーされるなど、交通モード間の連携についても触れられました。

こうして不易は守られますが、時代の変化「流行」は、運転手不足やDXなど様々な変化が押し寄せています。これについては登壇者からそれぞれの想いが宣言されました。住民を向き、住民と共に作り上げるという不易を大切に、毎年新しいことをしていくという熱意、これがある限りムーバスはさらに30年以上走り続けるでしょう。

開催案内

ムーバス運行開始30周年を契機に、これからのムーバスのあり方について多角的に議論を深めます。特に、バス業界が直面する乗務員不足という難局を乗り切るための「不易流行」(時代を超えても変わらないもの、変えていく必要があるもの)の視点から解決策を探ります。

  • 時間: 2025年11月25日午後6時30分から8時30分(午後6時開場)
  • 会場: 武蔵野公会堂(武蔵野市吉祥寺南町1丁目6番22号)ホール
  • 主催:武蔵野市、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団
  • 後援: 国立大学法人福島大学

※事前申し込みは不要です。直接会場にお越しください

【プログラム概要】

  • 開会挨拶 武蔵野市長 小美濃 安弘
    (公財)交通エコロジー・モビリティ財団 理事長 若林 陽介
  • リレー報告:
    「ムーバスの30年間の取組紹介」(関東バス株式会社 取締役相談役 内藤 泉)
    「武蔵野市の交通政策」(武蔵野市都市整備部交通企画課長 澤田 和弥)
  • パネルディスカッション:テーマ: ムーバスの不易流行 ~時代を超えても変わらないもの、変えていく必要があるもの~
    コーディネーター: 福島大学 経済経営学類 経済学コース 教授 吉田 樹
    (武蔵野市地域公共交通活性化協議会座長)
    パネラー:一般社団法人東京バス協会 理事長 濱 勝俊
    関東バス株式会社 取締役相談役 内藤 泉
    小田急バス株式会社 代表取締役社長 田島 寛之
    武蔵野市 副市長 荻野 芳明