地域の事情に左右される鉄道の収支

鉄道は地域から離れることができません。そのため、沿線地域の人口動態や経済成長が鉄道の収益を決めてしまいます。若桜鉄道の最大の収益源は高校通学の運賃[1]ですが、鉄道が高校生を増やすことはできません。高校生が一人減ると年間365日×2回=730回の利用が減ります。これを観光客で埋めるには大型バス20台分相当のツアーを毎年呼び込まねばなりません。二人減れば1460人、三人で2190人と旅客数は莫大になり限界を超えてしまいます。

また、地方では道路整備が進み、自動車も進化して便利かつ快適にドアツードアで移動できるようになりました。都会と違い渋滞も高い駐車料金もありません。それに対して鉄道は30年来サービスレベルが変わらず、利便性や快適性にも自動車との格差が開いています。また、ロードサイド店や病院や学校の郊外移転など、公共交通でアクセスしづらい町の構造に変わりつつあります。

このため、鉄道の経営改善に利用促進は必要ですが、それだけでは一時的なもので限界があります。人口減少や地域経済の縮小、道路整備で便利になった自動車と公共交通との格差、地域の問題の根本に手をつけることが鉄道の収支悪化を防ぐためには必須となります。例えて言えば、人口減少という下りのエスカレーターに乗っていると利用促進として駆け上がっているだけでは息切れしてしまうので、エスカレータの下り速度を落とすことも手がけないと地域も鉄道も持続できないのです。

まちと鉄道の関係については広報みんてつ Vol.61 春号 まちを「黒字」に−公共交通に思い切ったサポートを の記事で筑波大学 システム情報系 社会工学域 谷口守教授 が丁寧かつ的確な解説をされていますのでぜひご覧ください。

1987年の国鉄改革の際、「バス転換が妥当」と国が決めた若桜線を「それでも鉄道として残す」と地域が決めた際、「地域振興のために鉄道が必要」という判断がありました。若桜鉄道は、若桜谷という「身体」にお金や人を通わす「血管」のような存在です。鉄道という血管が元気になり血流を増やすことで地域を元気にすることができます。これを期待される以上、地域活性化と地域の福祉に応えることこそが若桜鉄道の使命となりますし、地域と若桜鉄道は運命共同体とも言えます。こうして利用促進も兼ねて地域を元気にして、地域も鉄道も生き残る手立てをとっていくことになります。

地域衰退の原因と若桜鉄道が貢献できること

若桜町は林業・軽工業の町、八頭町は農業の町でしたが、いずれの産業も稼ぎが厳しくなり、鳥取市へ通勤するベッドタウンに変わり、鳥取市内(若葉台)、郡家などに人口が流出しています。若桜町・八頭町ともに流出先のおよそ7割は鳥取市です。特に若桜町では住民の16%が転出を希望しており理由の筆頭は「交通が不便」[2]です。そして働き・子育て世代の若者が流出すると新しい発想など活力が生まれづらくなり、地域はさらに硬直し時代に追いつけず縮み続ける負のスパイラルに陥っています。若桜鉄道としてこの問題の解決に向かうため、以下の作戦を同時平行で行い、過疎化衰退化の流れを止めつつ経営改善を図りました。

  1. 観光で稼ぐ
    稼げる産業として観光業を立ち上げる。観光資源が乏しくとも、鉄道自体が観光資源になり得るのと、インバウンドは地域の生活と文化に魅力を感じるので、商材化と人材育成を図る。このため、若桜鉄道の知名度を上げ、団体旅行を誘致し受け入れの経験を積んで人を育て、受け入れ体制を作り観光車両を導入しと、行政と地域の皆さまのご協力をいただきながら段階を踏んで観光化を進めています。
  2. 鳥取市内への通勤通学を便利にする
    増便やバス連携の強化などで通勤通学を便利にし、「市内の方が通勤に便利だから」と引っ越してしまう人口流出を止めていきます。これには増発やバスとの連携が必要なため、公共交通網形成計画を鳥取県に作っていただき、次の段階は実施計画と実行に移ります。通勤通学を便利にした上で自動車通勤に比べ、公共交通では移動時間を読書や休息に充てられる、飲酒できる、通勤用の自動車1台分の維持費(年間およそ70万円)が節減できる、自動車代金・保険料・ガソリン代など鳥取県からの資金流出を抑えるなどの効果がある事も啓発していきます。
  3. 企画して地域と一緒になって動く
    新しい発想や企画を公募社長が行い、地域の方々と一緒にイベントや情報発信・商材開発などを進めていきました。社員は列車の運行で手一杯のため、臨時列車や駅の警備など鉄道業の範疇で貢献をし、企画面は行政・地域の方々と一緒に手がけていきました。

2)に記載した増発には設備投資が必要で時間もかかります。また、不便で使いづらいまま無理に利用を啓発すると、「やはり使えない」と逆効果になりかねません。そのため、計画作りは1)の観光化と同時平行で進めつつ、具体策は平成29年度から手がけるようにし、観光面での施策が先行しました。もちろん、地域振興をしつつ若桜鉄道の利用客も増や収支を改善することを狙っています。

[1] 中学生は学区内で徒歩通学、大学生や社会人は免許を取り自動車通勤・通学となるため、高校生のみが公共交通で広域通学をします。

[2] 若桜町人口ビジョンP19より

いただいたコメント

  1. 鉄道は沿線地域と持ちつ持たれつ共存共栄なのでシェアさせていただきます。感謝。
  2. 私も将来観光業に関わって行きたいと考えているので、微力ながら、お役に立ちたいと考えています。