例え話をしたいと思います。とあるデパートの来客が減ってしまい、エレベータの電気代やメンテ代を払えなくなったとします。さて、ここで電気代を節約するためにエレベータを1日に1回の運転にしたり、エレベータを取り外せば問題は解決するでしょうか?さらには売り上げ不振に苦しんでいる売り場に「もっと負担してくれ」と言ったりエレベータ利用者から高額な使用料を取ったらどうなるでしょう?
成功しません。

売り場のテナントは逃げ出しお客様は来なくなりデパートはさらに寂れます。

売り場にお客様が来なくなったのが大元の原因ですから、やるべき事はエレベータのコストダウンではなく時代に合った売り場の魅力を作り、来客を促進することです。エレベータは売り場への来客を促す装置ですから、使いやすく快適にしないとなりません。さらに展望エレベータなど子供が乗りたくなる魅力的な乗り物になれば来店のきっかけになりますし、売り場を魅力的に見せて売り上げ増にもつなげられます。

デパートが集客できなくなったら、アミューズメントビルに変身するかもしれません。そうしたらエレベータもアミューズメントになる。住宅になったらエレベータは暮らしの足になる。オフィスになったら営みの足となる。ここで例えたエレベータは鉄道で、売り場は地域です。地域と鉄道の関係は、この売り場とエレベータの関係に似ているのです。

マスコミで取り上げられる地域交通問題

マスコミで取り上げられる地域交通問題を、このデパートに例えると以下のような感じです。これ、変ですよね?

  • 報道は売り場の不振には触れず「不採算のエレベータをどう維持する?」「売り場や利用者は負担に耐えられるか?」と問いかけ
  • エレベータ部門は「コストを減らすために1日1往復に減らす」と言い、売り場の不振に無関心
  • デパート経営者は「エレベータ部門は乗ってもらう自助努力が足りない」と言う
  • 識者は「エスカレータでもカートを載せられる」と言い合っている

売り場の不振が問題の根源なのに、それを解決しようとせずエレベータの負担の押し付けが言い争われている。これでは何も良くなりませんよね?

形で捉える日本、理念概念で捉える欧州

日本人は物を形で捉えがちなので、例えばLRT(Light Rail Transit)を見ると「路面電車」と捉えます。欧州では理念概念にうるさいので、LRTを見ると「役割は?」「目的は?」と質問し「目的は中心街の再生」「都市のエレベータ的な役割」「貧困者に通勤手段を与えスラム化も防ぐ」「町のブランド作りの一環」などの答えを得ます。

「路面電車」と「都市のエレベータ的な役割」のどちらも間違いではありませんが、物の形なのか役割なのかで捉え方が全くちがいます。交通政策も、日本では「鉄道」「自動車」「航空」「船」と物の形で分けるのですが、欧州では「国際・都市間交通」「都市交通」「地方交通」と役割で分けます。ここで欧州の制度が日本に入ってくるときに翻訳されてしまい、目的や役割が忘れられ、物の形だけが語られてしまいがちです。日本では活用されないハコモノが溢れたり、役割が似ている新幹線と空港が同じ場所に作られたりするのは、そんなところに原因があるように思えます。

ですから、鉄道=のり物 と直結してしまい、売り場の魅力を引き上げ来客を促す役割と価値が見えなくなってしまうのではないでしょうか?

まちと鉄道の関係については、広報みんてつ Vol.61 春号 まちを「黒字」に−公共交通に思い切ったサポートを の記事で筑波大学 システム情報系 社会工学域 谷口守教授が的確な解説をされています。ぜひご参照ください。

いただいたコメント

  • まさに鉄道の意義、あり方の例えなのでシェアさせていただきます。感謝。
  • あえて辛辣な意見を言わせていただきます。なお、私自身は鉄道が不要だとは考えておりませんので念のため。
    我々は地域医療に携わっておりますが、最近はどの病院も経営が苦しくなっています。自治体立病院はそれを理由に多額の補助を自治体から得ています。多い病院では10億円を超えています。我々のような民間に近い病院(日赤や済生会、厚生連も含みます)は、そのような補助があまりありませんので、職員の努力などによってなんとか維持しています。近隣の病院では、改築費用を蓄えるため、給与カットを行ったそうです。自治体立病院では予算措置でなんとかしてしまうのに。

    鉄道がたまたまあった地域だから、だから鉄路の維持にお金を注ぎ込むべきだというのは、ある意味では鉄路のある地域のわがままです。別にBRTでも良いわけで、地域住民の足が確保されれば、何も鉄道でなくても良いはずです。仮に、鉄路の維持に10億円の予算措置をするのであれば、似たような状況の鉄路のない地域にも、同様の予算措置がなされるべきです。
    『ここは鉄道があるから補助をするけど、そっちはバスだけだから、ちょっとばかりの運営費の補助だけで良いよね』
    といわれると、地域住民は面白くないはずです。
    鉄路の維持にお金を入れるのであれば、なぜ鉄路なのか、なぜバスでは行けないのか、もっと強い明確な理由が必要のような気がします。エレベーターは鉄路と同等とはいえないように思います。BRTであっても、立派に”エレベーター”と言えるのではないでしょうか。
    • ご意見ありがとうございます。
      おっしゃる通り、ここで例えている「エレベータ」はBRTはもちろん路線バスでも言えることかと思います。
      なぜ鉄道なのか?ということについては、別稿で書いてみました。私は鉄道は鉄道なりの活かし方があると考えています。地方路線では輸送以外の特性も使い倒すのであれば鉄道を残す価値はあると思いますが、ただ輸送するだけであればバスで代替した方が良い場合もあると考えています。
    • お返事いただきありがとうございます。なぜ鉄路なのか、鉄道好きだけではなく、一般の方にもはっきり理解できる明瞭な理由が必要ですね。大変だと思いますが、これからも地方鉄道の将来のためにも頑張って下さい。当方でもできることがあれば、協力させていただきます。
    • ありがとうございます。地域医療も医師不足をはじめ課題山積だと聞いております。青い森鉄道の通院支援列車「医療サポートライン」や列車内での保健指導、さらには大型機器を備えた移動診療所など、激甚災害の大規模長距離搬送など鉄道の特性を地域医療にも活かせないものかと考えた時期もありました。若桜鉄道は19.2kmの短距離のため実施には至りませんでしたが、今後も地域の課題に即して「あって良かった」と言われる鉄道であり続けたいと思います。
  • 20年くらい前にこういう話が盛り上がばよかったのですが、
    由利本荘はその次の次の場面に直面しているような……

    • 由利本荘市に限らず、クルマ社会化と高齢化による移動の危機は全国で起きています。そして、その揺り戻しも始まっています。
      由利本荘市でも循環バスが走り、協議会で住民・行政・事業者が話し合い移動を皆で考える機運が始まっています。由利高原鉄道も地域に観光客を呼び込む装置として頑張っています。
      人工透析の病院を駅前に建てた地域もあります。
      この後に紹介する「公共交通網形成計画」は、まちづくりと公共交通・観光振興を一体で考えるべきという精神で作られる計画です。ここに魂が入ると、全体が繋がりだします。クルマ社会化は問題があってもなかなか止まらない大きな流れで、これに対してささやかな抵抗とも見えますが、今からでも本気でかからないと将来は住めない町になりかねません。
    • 地方における止まらない車社会は車の便利性だけでなく高齢者が支える農業の現状とも深く結びついてると感じます。続 楽しみにして待ちます。
  • 根本は、不便であっても自分の土地や家に住みたいと思う住民の気持ちにあるわけです。しかし、これからさらなる人口減少、過疎化が進んだ場合は、自治体も民間企業もかつて大勢の人々が暮らしていた時代と同じようなセキュリティやサービスを維持することは物理的に不可能です。ここは、あえて住みたいと思う方にはそれなりの負担(タクシーなど)をしていただくか、鉄道の駅やバスターミナルなどに至近の便利な場所に用意された住宅に集まっていただく必要が出てくるのではないでしょうか?
    交通機関はあくまでも線状であり、面をカバーするには無理があります。
    ただしです、その線状である鉄道沿線でも駅の数が限られていて、駅間に住む人々に不便を強いている場合も多々あります。駅間にも乗降客の可能性のある場所(住居に近い場所だけでなく、ハイキングや釣りなどレジャーの拠点になるような場所、病院や学校、郊外型ショッピングセンターに至近の場所など各所)に簡易な停車設備を設けて、押し釦や携帯電話スマホからの予約制などで、乗客があるときのみ停車するようなシステムを構築することができれば、利用者も少しづつ増えてゆくのではないでしょうか?
    あと、以前山田社長がおっしゃっていた「歩くのは健康に良いのに」というのは、弱者に対しては少々酷なことだと思います。春のポカポカ陽気の中を歩くのは気分が良いものだと思いますが、いつもそうはいきません。さらに一歩を歩むのも大変な方もいらっしゃいます。仕事を終えて疲れて帰宅した場合には少しでも歩くのは嫌なものです。

    • ご意見ありがとうございます。
      人がまばらに住むと、上下水道や道路の保全・ごみ収集・除雪など行政の住民一人あたりの維持コストは増え町そのものも維持が難しくなります。そこで、公共交通を軸にして住む場所をまとめていこうというコンパクトシティ化が各地で各地で始まっています。
      過疎地の路線バスが維持できなくなった時、予約制のデマンドバスが採用されることもありますが、受付センターや予約システムなどの維持費用がかえってかかってしまうそうです。それよりかは即時配車のタクシーの方が実用的という方向に進んでいます。
      公共交通網形成計画では、タクシーが買い物代行や病院の予約代行、高齢世帯見守りなど福祉的なサービスや、宅配便も運ぶなどしてドライバーや財源の不足する中でなんとか生活基盤を維持しようと工夫していく事も計画しています。
      あと、私が歩くと健康に良いというのは、歩けなくなる前の段階の話です。普段からクルマにばかり乗って、数百メートルの移動もクルマで移動していると足腰が急速に衰えて歩けなくなってしまいます。そうならないように、そうなる前に普段から歩く。無理に散歩するよりも、毎日の暮らしの中で自然自然に歩くようになる方が良いので、そんな時は公共交通を使う暮らしは悪くないという意味です。歩けなくなった人を無理に歩かせるという意味ではありません。そうなった時は、玄関から目的地まできちんと繋がった公共交通ができている必要
    • ご丁寧にお返事をありがとうございます。
      デマンドバスのようなシステムは費用がかかるとは思いますが、既存の線路上に簡単な乗降台を設置して、待っている乗客がいる場合だけ停車する(バスの停留所と同じ)方式なら、法律上の問題は判りませんが、さほど費用は掛からないと思います。素人考えであることをお許しください。
    • 鉄道の場合、停車場の規定もいろいろ厳しく、今はバリアフリー(車椅子対応のスロープや安全設備)なども義務付けられており、建設コストもかさんでしまいます。
      現実的には、タクシーや過疎地有償輸送などで拠点駅(結節点)まできめ細かく結び、鉄道は幹線的にまとめて運ぶというクルマと鉄道の役割分担がコストも使い勝手も良いだろうと考えられています。若桜谷では若桜駅と郡家駅がこの結節点に当たります。
      この方法ですと、結節点に金融機関・病院・スーパーがあれば駅近くで用事が済み、鉄道沿線の方々の利便性も高まります。鳥取県東部地域公共交通網形成計画では、この方法で暮らしと営みを支えようとしております。