2025年11月30日(日)14:00-17:30、彦根勤労福祉会館 4階 大ホールにてやさしい交通しが主催、本年度最後の【第5回フォーラム】住み続けたいまちをデザインするが盛大に開催されました。前半では、公共交通が単なる移動手段ではなく、地域コミュニティの核や経済活性化の装置であることを強調し、欧州の先進事例と比較しながら日本の現状課題を浮き彫りにしています。中盤のワークショップ報告では、バス路線の維持や交通税の導入検討といった具体的な施策に触れつつ、住民間の意見の重なりを大切にする合意形成のプロセスが示されました。後半のフィールドワーク報告では、日野、彦根、草津の各地域が抱える独自の交通課題と、賑わい創出のための創意工夫が具体的に語られます。車中心社会から人中心の持続可能な社会への転換を促すための対話の記録です。単なる政策議論に留まらず、次世代へ負の遺産を残さないために、今、市民がどのように交通に関わり、当事者意識を持つべきかを問いかける教育的かつ啓蒙的な目的を持っています。 [速報はこちらよりご覧いただけます]
[第5回フォーラム「ずっと住みたいまち」を自分たちでつくる——
動画解説 私たちの街、私たちの交通、私たちの未来
音声解説
読み間違いが残ってしまいました。お詫びして訂正いたします。
今 佐和子さん(誤:いまさわこさん、正:こんさわこさん)
講演概要
関西大学の宇都宮浄人教授(やさしい交通しが代表)は、第5回フォーラムの冒頭挨拶において、これまでの活動の歩みと、この集まりに込めた想いを次のように語りました。
活動の大きな原点は、2021年にオンラインで開催された交通に関する全国大会でした。その後、2023年に近江鉄道が上下分離という運営形態の大きな転換期を迎える際、鉄道を地域のものとして支え、自分たちで街を盛り上げる機運をもっと高める必要があると感じ、市民団体やさしい交通しがを結成しました。宇都宮教授が特に重視してきたのは、話し合いだけで終わらせないことです。そのため2024年度からは、実際に駅前の模型を作ったりイベントを企画したりと、住民が主体的に関わる実践の場を大切にしてきました。これにより、単なるフォーラムの参加者にとどまらない、共に街を作っていく強い仲間を増やしてきたのです。
現在は滋賀県が交通ビジョンの策定を進めていますが、教授はワークショップに来る人だけでなく、もっと多くの一般市民に、交通が持つ多様な可能性を知ってほしいと訴えています。交通は単に拠点を結ぶだけのものではなく、教育、福祉、観光など、私たちの暮らしのあらゆる場面を豊かに変えていく力を持っているからです。今年8月からは草津、日野、彦根といった県内各地で、実際に現場を歩いて課題を見つける地道なフィールドワークを重ねてきました。今回の第5回フォーラムは、それらの歩みの集大成であると同時に、そこで得られた知見や熱量をさらに広く滋賀全体へ波及させていくための新たなきっかけとして位置づけられています。
教授は最後に、交通を通じたワクワク感こそが自分自身と地域を元気にすると述べ、本日の集まりを、誰もが自由に移動できる社会を自分たちの手で作っていくための大切な第一歩にしたいと締めくくりました。
基調講演「移動貧困からの脱却 誰もが困らないで移動できる社会とは?
モビリティジャーナリストの楠田悦子さんは、移動貧困からの脱却をテーマに、誰もが不自由なく移動できる社会のあり方について講演を行いました。活動の原点は、かつて自分を送迎してくれた祖母が免許を返納した際、買い物や外出が困難になり、それまでの豊かな暮らしが損なわれてしまったという経験にあります。
楠田さんは、日本の公共交通の課題として、鉄道やバス、タクシーなどが各事業者ごとにバラバラに運営され、全体的な戦略に欠けている現状を指摘しました。対照的に、地方都市が活気を見せるフランスでは、データに基づき都市計画と公共交通が一体的に設計され、地方への移住が進み頭脳組織も厚く、事業者から行政への提案も行われているそうです。交通は社会の様々な側面と密接に関わっています。例えば、通勤時間が10分長くなると、第2子が生まれる確率が4%減るというデータに触れ、渋滞解消やアクセスの改善が少子化対策に直結することを示しました。
さらに、公共交通で自宅から大学等へ通学できれば、多額の仕送り費用を抑えられるため、家庭の経済的負担の軽減にもつながるという具体的なメリットを挙げました。現在、深刻な運転手不足により、これまでの民間任せの供給体制は限界を迎えています。楠田さんは、これからの時代は最新技術の活用だけでなく、行政や市民が協力して地域全体で移動をマネジメントする視点が不可欠であると述べました。
最後に、理想の社会を作るためには一人ひとりの行動が重要であると語りました。子供を車で送迎するのではなく、あえて公共交通を利用させるといった小さな選択や、乗降に困っている人を手助けする姿勢が、将来にツケを残さない街づくりにつながります。交通を自分たちの問題として捉え、地域への愛を持って主体的に関わり続けることの大切さを訴え、締めくくりました。
滋賀地域交通ワークショップ報告
佐々木和之さん(びわこ学院大学非常勤講師、水色舎代表は、住民行政連繋の専門家として、滋賀県内各地で開催された滋賀地域交通ワークショップの成果を報告しました。氏は、異なる意見を無理にまとめる合意形成ではなく、参加者の思いが一致する重なりを見極める手法を重視しています。ワークショップでは、移動手段を確保することやJR線を維持することについて、地域を問わず強い重なり(共通認識)があることが確認されました。また、住民自らが会社を設立した余呉バスや、ボランティアによる葛川コミュニティカーシェアリングなど、地域ぐるみで交通を支える県内の具体的な事例も紹介されました。一方で、新たな財源(交通税)などの負担については意見が分かれています。佐々木氏は、特定の方法を強引に推し進めることで生じる地域の分断を危惧しており、共通の目標である移動手段の確保に向け、多様な解決策を模索し続ける重要性を強調しました。
フィールドワーク報告
日野のフィールドワークでは、駅を中心にまちを結ぶ交通と駅を起点にした賑わい作りがテーマとなりました。町議会議員らがコミュニティバスやAIデマンド交通を利用した乗車体験では、予約の難しさや接続便の欠如、構内踏切での乗り遅れといった、現場を見なければ分からない利用者の不便さが浮き彫りになりました。一方で、住民の寄付と保存運動で守られた日野駅舎が、日替わり店長制度や、列車に乗ったまま弁当を受け取るトレインスルーなどのユニークな企画、数千人を集める駅イベントを通じて、地域の想いを繋ぐコミュニティの結節点へと再生した軌跡が報告されました。
彦根のフィールドワークでは、公共交通を活かした観光プランの策定が進められました。現在の彦根観光は、滞在時間が極めて短い90分問題や、来訪者の6割が自家用車を利用することによる激しい渋滞と観光公害に直面しています。これらを打破するため、車を使わずに公共交通や自転車、船のみを使い、彦根城下町から多賀、豊里、愛知川、五個荘といった湖東エリアを巡る2泊3日の滞在型観光プランが考案されました。市民が主体となって作成したパンフレット案は、渋滞を避けて地域の魅力をゆっくり巡る楽しさを発信し、公共交通を使いこなすコンシェルジュを育成する試みでもあります。
草津のフィールドワークでは、全3回の活動を通じて暮らしと交通の未来が議論されました。県内で最も交通が便利とされる草津市でも、住民からはバスの本数減少や老後の移動への不安、送迎負担の増大について切実な声が上がりました。新交通システムの導入に関するディベートでは、単なるコスト議論を超えて、CO2削減や中心街への集客といった社会的便益を正当に評価すべきとの認識が共有されました。また、福井県の事例から鉄道がなくなることによる大混乱というマイナスの社会実験を学び、移動・思考・交流・生活の自由を支える公共交通の真価を再確認しました。最終的に、まずは自分が乗り、仲間を増やし、交通課題を周りに語り合うという主体的アクションの重要性が強調されました。
トークライブ
今佐和子さん
国土交通省の今佐和子さんは、街路を車の空間から人の空間へと転換し、歩きやすく居心地の良いまちづくりを推進する視点を発表しました。パリの高速道路の公園化やニューヨークの広場化を例に、車中心の設計が都市空間をいかに占有し、賑わいを阻害しているかを指摘しました。今さんは環境×まちづくりを掲げ、自動車利用の抑制はCO2削減だけでなく、都市の魅力向上に直結すると説いています。
私生活でも超車社会の栃木県小山市で車なし育児を実践し、古い公園でのキャンプや空き地でのマルシェなど、住民自らが公共空間を活用して街の価値を証明する活動を続けています。また、行政や事業者に感謝の声を届けることが、現場の意欲を高め、より良い交通サービスを生む原動力になると強調しました。移動の利便性だけでなく、居心地の良い空間としての交通拠点整備が、地域を元気にする鍵であると訴えています。
やさしい交通しが
やさしい交通しが副代表の南村多津恵氏は、市民対話の現場で感じた課題と、持続可能な交通に向けた場づくりの重要性を発表しました。南村氏は、行政の会議に参加した際、交通に関する正しい情報が市民に伝わっていない(赤字路線の維持は無理、自動運転が全て解決するといった誤解)ことで、対話が空文化している現状にもやもやを感じてきました。このため、正しい判断には正しい情報が必要であると考え、市民の関心度に応じた段階的な対話プログラムを構築しました。
氏は、交通まちづくりを地道な仲間づくりの活動と定義し、現場へ行き、実際に乗り、当事者の声を聞くという体験を通じた理解者増を訴えています。また、公共交通の衰退は、気候変動の加速や街の空洞化を招く未来へのツケであると警鐘を鳴らし、子どもたちの代に豊かな社会を残すための主体的参画を呼びかけました。
滋賀県
滋賀県交通戦略課の福島森参事は、2040年代を見据えた滋賀地域交通計画の策定について発表しました。本計画は、自家用車を使えない時でも移動を確保し、また使わないという選択もできる持続可能な社会を目指すものです。具体的には、駅やバス停などの拠点をネットワークで結ぶ拠点連携型都市構造を推進します。県内を3つの地域に分類し、都市部では公共交通主体、中山間地では最新技術や住民主体の輸送を活用するなど、地域特性に応じた移動手段を整えます。鉄道などの主要な交通軸では、日中30分に1本の運行確保をサービスレベルの基本に据えています。
施策の実行には、2030年時点で約113億円が必要と試算されています。現状維持は既存予算で行いますが、より良い暮らしに向けた投資として新たな税の検討を進めています。福島氏は、県民との公論熟議を重ね、導入の是非を判断していくと強調しました。
トークライブでの対話
トークライブでは、やさしい交通しがの宣言や滋賀県の計画案を受け、行政、専門家、市民が住み続けたいまちをどう実現するかについて、多角的な議論が交わされました。対話の中心となったのは、交通を単なる移動手段ではなく、豊かな暮らしを作るための社会資本(インフラ)として捉え直すという視点です。
- 車の空間から人の空間への転換 国土交通省の今佐和子氏は、海外の事例を交え、道路を車中心から人中心(ウォーカブル)へ変える重要性を説きました。歩いて楽しい街路は、環境負荷を減らすだけでなく、地域の賑わいや健康、幸福感に直結します。
- 持続可能な計画とサービスレベルの確保 滋賀県の福島森参事は、2040年代を見据えた拠点連携型都市構造を提示しました。主要な交通軸で日中30分に1本の運行を確保するなど、自家用車を使わなくても不便を感じない具体的なサービス基準を目指す方針が示されました。
- 社会的課題の解決とデータ活用 モビリティジャーナリストの楠田悦子氏は、フランスの成功例を挙げ、都市計画と交通をデータに基づき一体設計する型の必要性を強調しました。通勤時間の短縮が少子化対策になるなど、交通が教育や福祉に及ぼす外部経済の価値を正当に評価すべきだとの指摘がありました。
- 予算の不均衡と新たな税の議論 松原光也氏と山田和昭氏は、道路予算に対し公共交通予算が圧倒的に少ない日本の現状を批判し、交通を道路と同等の公益事業として公金で支えるモードチェンジを提言しました。県はより良い暮らしへの投資として、安定財源となる新たな税の検討と公論熟議の継続を求めました。
- 住民による参画と分断の回避 佐々木和之氏と南村多津恵氏は、正論で議論を戦わせるのではなく、参加者の思いの重なりを大切にすることを提言しました。特定の施策による地域の分断を避け、住民が主体的に交通を使い、語り合うことで地域への愛を育むことが解決の鍵となります。
総じて、この対話は、交通をお荷物ではなく自分たちの手で育てる街の希望に変えていくための、第一歩となりました。このプロセスは、バラバラだった楽器(各交通手段や行政組織)が、地域住民という指揮者のもとで一つの美しい曲を奏でるオーケストラの編成のようなものです。全員が当事者として参加して初めて、滋賀という街が奏でる心地よい暮らしが実現するのです。
やさしい交通しが宣言
市民団体やさしい交通しがが発表した宣言は、移動の自由はすべての市民の権利であるという強い信念のもと、自動車に過度に依存した現在の社会構造を見直し、公共交通を軸とした持続可能な滋賀を創り出すための道筋を示したものです。[やさしい交通しがからの宣言]
宣言への思い
まちはだれのもの? そこで暮らす市民のもの。
ずっと暮らせるまちであるために、私たちは提案します。
まずは、ありたい未来のビジョンを共有しよう。
移動にあたり、不便をがまんしなくていい。
移動のために、進学の選択肢をあきらめなくていい。
送迎のために、自分の時間を無理に割かなくていい。
自分の移動のために、社会環境を悪くすることがない。
自分も、子どもたちも、身体が不自由な人も、暮らしに余裕がない人も、同じまちで暮らす人も、同じ地球に生きている人も、だれもが将来に渡って、自由に移動できる、暮らして楽しい、未来に希望を持てる社会を作るために、公共交通を生かしていこう。
1. 公共交通の役割の再定義(お荷物から社会資本へ)
公共交通を単なる赤字の不採算事業と捉えるのではなく、環境・経済・健康に寄与する社会資本として再定義することを求めています。欧米のように、公金を投入することでその数倍の便益を地域にもたらす外部経済を正当に評価し、我慢して使うものから自動車より便利で使いたくなるものへと投資を強めるべきだとしています。
2. 都市計画と交通の一体化
駅やバス停を核にした拠点連携型都市構造(コンパクト・プラス・ネットワーク)への転換を提言しています。これまでの自動車前提の郊外開発(スプロール化)が、インフラコストの増大と公共交通の衰退を招いた事実を認め、居住や都市機能を交通拠点の近くに集約させることで、歩いて暮らせる健康的な街づくりを目指します。
3. 社会全体での環境
環境負荷の低減を、交通事業者単体の努力(Scope 1, 2)ではなく、社会全体での自動車利用抑制による削減(Scope 3)として評価することを求めています。また、行政に対しては福祉・教育・観光など他部署との連携を、市民に対しては関心を持ち、実際に乗り、周りと語り合うという主体的参画を呼びかけています。
この宣言は、公共交通を単なる乗り物の問題としてではなく、子どもたちの未来にどのような社会を残すかという、私たちの暮らしの質と生存の権利に関わる重大な決断として位置づけています。
例えるなら これまでの交通政策は壊れそうな個別の部品(赤字路線)をどう直すかという視点に終始していました。しかし、この宣言は街という大きなエンジンを、公共交通という主軸でどう効率的に回し、全員を幸せな目的地へ運ぶかという設計図そのものを描き直そうとする試みです。
ワークショップ
上田洋平氏が進行したワークショップ暮らしたい未来のまちを考えてみようでは、参加者がグループごとに明日からみんなで取り組むことを決め、全員で唱和する形で以下の13の宣言が発表されました。このワークショップは、単なる議論に留まらず、参加者一人ひとりが主役となり、具体的なアクションへと繋げるための未来へのチャレンジとして位置づけられています。
ワークショップで発表された宣言(アクション)
- この「居合わせ」から「仕合わせ」を育もう!
- DX導入と人に優しい利用の両立を
- 共助社会を作ります
- 知って使ってシェアしよう
- 仲間を集めて情報を共有しよう
- 元気なうちに電車・バスに一度乗ってみよう
- 公共交通をもっと魅力的なものにする
- 積極的に公共交通を使い、行動範囲を広げよう
- 昼から外で一緒に飲んで話せる場づくりを進めよう
- 暮らしたい未来の街をみんなに聞いてみよう
- 環境に優しい公共交通の魅力を発信しよう
- 公共交通と自転車を移動の1番の選択肢にしよう
- 誰でも安心して移動できる環境を作ろう
宣言に至るプロセス
これらの宣言は、以下のステップを経て導き出されました。
- 人生と交通の振り返り: 自らの人生における交通との関わりを折れ線グラフで可視化し、共有しました。
- 自由の再定義: 公共交通によって実現する移動・思考・交流・生活の自由についてイメージを膨らませました。
- 主体的アクションの決定: 理想の暮らしを実現するために、自分は何をするかみんなで何をするかを話し合いました。
上田氏は、これらの宣言を明日からの行動の指針として持ち帰り、実践していくことを呼びかけました。例えるなら、この宣言は、駅のホームで駅員と乗客が全員で出発進行!と指差喚呼するようなものです。バラバラの方向を向いていた人々が、同じ目的地(理想のまち)に向けて、自分たちが運転士となって一歩を踏み出すための合図となりました。
告知概要
【第5回フォーラム】「住み続けたいまちをデザインする」「ずっと住みたい」と思えるまちは、どんなまち ?8月の第1回ではその姿の大まかな形を明らかにしました。それから3地域でのフィールドワークを通じて、より具体的に「住みたいまち」のイメージを追ってきました。最終回となる今回のフォーラムは総決算として、そういった暮らしやすい、楽しい、住み続けたいまちは、自分たちの手でどうやったら作れるのかを考えます。
+懇親会(参加任意、会費別途) |


















