【スライド】Loops_Leverage_Design

私たちの社会は、見えない因果の連鎖(システム)で動いています。なぜ良かれと思った施策が裏目に出るのか。若桜鉄道の再生事例を、サイバネティクスとシステムダイナミクスの視点から解き明かします。悪循環を止め、好循環を生み出すための12のレバレッジ・ポイントとは何か。中学生でも分かる言葉で、複雑な世界を動かすループの法則と、未来を自らデザインするための思考法を、全5回のシリーズで解説します。

【ラジオ】若桜鉄道を蘇らせたシステム思考のテコ

【スライド】Loops_Leverage_Design

目次

第1回:未来の舵を取る技術 サイバネティクスとループの科学

私たちの世界を動かしている見えない仕組み

皆さんは、自分の行動が思わぬ結果を招いたり、良かれと思ってしたことが裏目に出たりした経験はありませんか。世の中の出来事は、一つの原因が一つの結果を生むという単純な直線ではなく、複雑に絡み合った因果関係(原因と結果が鎖のようにつながること)によって動いています。このつながりの連鎖を解き明かす学問が、システムダイナミクスとサイバネティクスです。

船の舵取りから生まれたサイバネティクス

サイバネティクスの歴史は、1940年代まで遡ります。アメリカの数学者ノーバート・ウィーナー(Norbert Wiener)が、ギリシャ語で船の舵手(船の進む方向を操る人)を意味するキベルネテス(Kybernetes)という言葉から名付けました。

ウィーナーは、生き物や機械がどのようにして目的を達成するかを研究しました。例えば、船の舵取りを考えてみましょう。波の影響で船が右に傾いたとき、舵手はそのズレを見て左に舵を切ります。このズレを修正するために情報を戻し、次の動きを変える仕組みをフィードバック(情報の跳ね返り)と呼びます。サイバネティクスは、このフィードバックが世界を形作っていると考えます。

良い循環と悪い循環

フィードバックには大きく分けて二つの形があります。一つは、ズレを元に戻そうとするバランス型(負のフィードバック)です。設定した温度を保とうとするエアコンや、お腹が空いたら食べて満腹になる体の仕組みがこれに当たります。

もう一つは、一度起きた変化をさらに加速させる自己強化型(正のフィードバック)です。これが今回の連載のテーマである循環(じゅんかん)の鍵を握ります。良い方向に回れば好循環になりますが、悪い方向に回ると、自分たちの力では止められないほどの悪循環(負のスパイラル)へと発展します。

地方の公共交通が直面する悪循環の正体

日本の多くの地方都市では、人口減少に伴い、鉄道やバスといった公共交通が厳しい状況にあります。鳥取県を走る若桜鉄道も、かつてはその大きな渦の中にありました。

地方で起きる悪循環を構造的に見ると、以下のような連鎖が浮かび上がります。

沿線で農業や雇用が縮小し、仕事のために都市部へ人が転出する。人口が減ると鉄道を利用する高校生や住民が減り、採算が取れなくなる。その結果、本数が減るなどの交通不便が生じる。不便になるとさらに人が離れ、地域が沈滞化(活気がなくなること)していく。

これは、誰か一人が怠けているから起きるのではなく、システム全体がそのような方向に回る仕組みになってしまっているからです。日本の政策担当者も、こうした構造に対して長年、補助金の投入や維持のための施策を講じてきました。これらは急激な崩壊を防ぐための配慮であり、地域を守るための重要な役割を果たしています。しかし、構造そのものを逆回転させるには、さらに深い視点での介入が必要となります。

物流の現場で起きていること

同じような現象は、私たちの生活を支える物流の世界でも起きています。インターネットショッピングの普及で荷物の量が増える一方で、働く人の数は減っています。

荷物が増えることで現場の負担が増し、労働環境が厳しくなる。それが原因で働き手が離れ、さらに一人当たりの負担が増える。この連鎖もまた、システムの構造が生み出しているものです。

まとめ:ループを見極める

サイバネティクスとシステムダイナミクスを学ぶ目的は、この見えない因果の連鎖を見つけ出し、どこに働きかければ全体の流れをより良い方向へ変えられるかを考えることにあります。

若桜鉄道の事例では、単に鉄道を維持することに固執せず、地域が抱える根本的な課題、つまり雇用や交通の不便さそのものを解決するために鉄道を道具として使いこなすという発想の転換が行われました。

次回は、ジェイ・フォレスター(Jay Forrester)が確立したシステムダイナミクスの手法を使い、この複雑な悪循環をどのように図解し、隠れた原因(ループ)を特定していくのかを詳しく解説します。

参照元・出典

  • Norbert Wiener, Cybernetics: Or Control and Communication in the Animal and the Machine, MIT Press, 1948.(ノーバート・ウィーナー著『サイバネティクス』)
  • Jay W. Forrester, Industrial Dynamics, MIT Press, 1961.(ジェイ・フォレスター著『産業の動態』)
  • 山田和昭『希望のレール:若桜鉄道・公有民営方式の挑戦』2015年.
  • 若桜鉄道株式会社公式サイト若桜鉄道の事例 https://jrmkt.com/transport/wakasa/

第2回:悪循環の鎖を可視化する 因果ループ図による構造の特定

システムダイナミクスの創始者であるジェイ・フォレスターの知見を交え、複雑な社会問題を因果ループ図として視覚化し、悪循環の構造を特定する手法を詳しく解説します。

第2回 出来事の背後にある構造を捉える

私たちが日々ニュースや生活の中で目にする問題は、氷山の一角に過ぎません。システムダイナミクスの提唱者であるジェイ・フォレスター(Jay Forrester)は、目に見える出来事(イベント)の背後には、それを引き起こしているパターン(傾向)があり、さらにその下にはシステムとしての構造(仕組み)が隠れていると考えました。

この見えない構造を紙の上に描き出し、理解するための道具が因果ループ図(Causal Loop Diagram)です。これは、要素と要素を矢印でつなぎ、それらがどのように循環(じゅんかん)しているかを示す設計図のようなものです。

ループの見つけ方:因果関係を紡ぐ

悪循環を特定するためには、まず問題を構成する要素を特定することから始めます。若桜鉄道が直面していた課題を例に、手順を追ってみましょう。
まず、沿線地域の雇用が縮小するという事実があります。これに矢印を引き、次の要素である鳥取市などへの人口転出へとつなぎます。人口が減れば、鉄道を利用する高校生や住民の数が減ります。利用者が減れば、鉄道の運賃収入が減り、維持が難しくなって運行本数の削減(サービス低下)を招きます。すると住民は交通が不便であると感じ、それがさらなる人口の転出を加速させます。

このように、矢印を追いかけて最初に出発した要素に戻ってきたとき、一つのループが完成します。もし、この循環が最初の変化をさらに大きくする方向に働いているなら、それは自己強化型ループ(正のフィードバック)であり、一度回り始めると止めることが困難な悪循環の鎖となります。

日本の交通政策における配慮と構造的課題

日本の政策担当者は、こうした公共交通の危機に対し、地域公共交通活性化再生法などの枠組みを通じて、赤字補填や車両更新の補助を行ってきました。これらは、急激な路線の廃止を防ぎ、地域住民の最低限の足を確保するための配慮に基づいています。

しかし、システムダイナミクスの視点から見ると、これらは補助金によって利用者の減少という結果を一時的に和らげる処置にとどまる場合が少なくありません。根本的な悪循環、すなわち不便だから人が出ていく仕事がないから人が減るという因果の連鎖そのものを書き換えない限り、時間の経過とともに再びシステムは限界を迎えることになります。

物流危機の構造:2024年問題のループ

同様の構造は物流業界にも見られます。いわゆる物流の2024年問題も、複数のループが絡み合っています。

Eコマース(電子商取引)の拡大により荷物の量が増え、それに対応するためにドライバーの労働時間が増大します。労働環境が厳しくなると離職者が増え、残ったドライバーへの負荷がさらに高まります。負荷が高まれば採用の難易度が上がり、物流網の維持が困難になります。

ここでも、単に給料を上げたり、ロボットを導入したりするだけでは不十分です。荷主と運送業者、そして消費者がどのようなループの中にいるのかを把握し、全体の構造を捉え直す必要があります。

思考の罠:直感に反するシステムの動き

フォレスターは、複雑なシステムには直感に反する挙動(Counter-intuitive behavior)があると指摘しました。

例えば、交通渋滞を解消するために道路を広げると、短期的には流れが良くなりますが、長期的には車での移動が便利になったことで走行車両が増え、結果として以前よりも激しい渋滞を招くことがあります。これは、一部の要素だけを改善しようとすると、システムが持つ別のループが動き出し、効果を打ち消してしまう現象です。

若桜鉄道においても、単に運賃を下げるといった直感的な対策だけでは、長期的な人口減少の流れを止めることは難しかったはずです。悪循環の鎖のどこに、どの程度の強さで介入すべきかを見極めるためには、システムの全体像を描き出すことが不可欠です。
まとめ:ループを描き、構造を共有する

因果ループ図を描く最大の利点は、複雑な問題を自分一人で抱え込まず、地域住民や組織のメンバーとこれが私たちの今の状況だと共通の理解を持てることにあります。

若桜鉄道の山田氏は、沿線各地で講演を行い、この厳しい現状と目指すべき未来のビジョンを丁寧に語りかけました。それは、見えない悪循環を可視化し、人々の認識を共有する作業でもありました。現状の構造を理解して初めて、私たちはどこにテコを入れるべきかを論理的に議論できるようになります。

次回は、ドネラ・メドウズ(Donella Meadows)が提唱したレバレッジ・ポイントの理論に基づき、若桜鉄道がどの階層に対して、どのような複数の施策を投入したのかを、12の階層を網羅しながら解説します。

参照元・出典

  • Jay W. Forrester, Principles of Systems, Wright-Allen Press, 1968.(ジェイ・フォレスター著『システムの原理』)
  • Donella H. Meadows, Thinking in Systems: A Primer, Chelsea Green Publishing, 2008.(ドネラ・メドウズ著『システム思考:複雑な問題を解決する技術』)
  • 経済産業省・国土交通省物流2024年問題関連資料.
  • 国土交通省地域公共交通の活性化及び再生に関する法律概要.

第3回:世界を動かす12のスイッチ 若桜鉄道が突いたレバレッジ・ポイント

第3回では、システム思考における最も重要な概念の一つであるレバレッジ・ポイント(作用点)について、若桜鉄道の実践を教科書にしながら、12の階層すべてを丁寧に解き明かしていきます。

どこを叩けば世界が変わるのか

システムの悪循環を止めるには、闇雲に力をかけるのではなく、最小の力で最大の変化を生むレバレッジ・ポイント(テコ入れの支点)を見つける必要があります。システム科学者のドネラ・メドウズ(Donella Meadows)は、このポイントを効果が低い順に12の階層に分類しました。若桜鉄道の再生は、これら複数の階層に対して戦略的に介入した稀有な事例です。

第12位〜第10位:目に見える数字と形(物理的な介入)

最も直感的ですが、実は効果が限定的なのがこの階層です。

第12位:定数(パラメーター)

補助金の額や運賃の調整です。日本の多くの交通政策がここに含まれます。若桜鉄道も過疎債を活用しましたが、単にお金を入れるだけでなく、それを通学助成という別の階層のルールと結びつけた点に特徴があります。

第11位:ストックとフローのサイズ

車両の数や施設の規模です。若桜鉄道は観光車両の導入や、列車の行き違い施設の整備を行いました。

第10位:物理的な構造(ネットワーク)

線路の敷設や道路整備です。日本では道路整備が先行したことで自動車主体(モータリゼーション)の構造が定着しました。若桜鉄道はこの物理的構造を変えるのではなく、既存のレールというストックの活用法を変える道を選びました。

第9位〜第6位:情報のループを整える(調整の介入)

ここからは、システムの動きを制御する情報の戻り方に関わる階層です。

第9位:フィードバックの遅れ

不便だから人が出ていくという反応が起きるまでの時間を短縮することです。

第8位:調節的フィードバック(バランス型)

悪化を食い止める力です。若桜鉄道では高校校門前の渋滞緩和や保護者の送迎負担軽減を打ち出し、鉄道利用を促すことで衰退を食い止める力を強めました。

第7位:自己強化型フィードバック(増幅型)

良い循環を加速させる力です。SL走行の社会実験が成功し、メディアに掲載されることでさらに注目が集まる。この評判が評判を呼ぶ仕組みを意図的に作りました。

第6位:情報の流れ

今まで届いていなかった場所に情報を届けることです。山田氏は就任式に来たすべてのメディアと名刺交換し、プレスリストを作成しました。これにより、鉄道の活動が地域や全国へ見える化されました。

第5位〜第4位:システムの設計図を書き換える(構造の介入)

このあたりから、システムの本質的な振る舞いが変わり始めます。

第5位:ルール(賞罰、自由度、制約)

通学定期の助成制度の設計や、バス事業者との運輸同盟(共通定期・協調ダイヤ:網形成計画にはあるが未実施)の策定です。競合していたバスと鉄道を、共通のルールでつなぎ直しました。

第4位:自己組織化(進化、学習)

地域住民による若桜鉄道もりあげ隊の結成支援です。行政や鉄道会社が指示するのではなく、住民自らが鉄道を活用して何ができるかを考え、行動する自律的な組織が生まれたことは、システムが生命力を得た証です。

第3位〜第1位:心の枠組みを変える(深層の介入)

最も高いレバレッジであり、若桜鉄道を成功に導いた決定的な階層です。

第3位:システムの目的

これが最大の転換点です。従来は鉄道を維持するために観光をするという鉄道存続が目的でした。しかし、山田氏は地域課題(雇用不足・交通不便)を解決するために鉄道という資源を使うと、目的を定義し直しました。目的が変われば、すべての施策の優先順位が逆転します。

第2位:パラダイム(社会の思い込み、価値観)

この町には何もない、鉄道は重荷だという諦めのパラダイムから、鉄道は地域の誇りであり、活用できる宝だという希望のパラダイムへの転換です

SLの汽笛が鳴り、大勢の観光客が訪れる光景は、住民の心の奥底にある前提条件を書き換えました。

第1位:パラダイムを超える(すべてを相対化する)

特定の固定観念に縛られず、変化し続ける柔軟な視点を持つことです。

まとめ:高いレバレッジを束ねる戦略

若桜鉄道の事例が優れているのは、特定のレバレッジ・ポイントを一つ叩いただけではなく、第12位のお金から第2位のパラダイムまで、複数の階層を同時並行で、かつ論理的に結びつけて叩いた点にあります。

特に、第6位の情報の流れを改善して味方を増やし、第5位のルールを整えて実利を生み、第3位の目的を再定義して地域全体の合意を得る。この複合的な介入こそが、強固な悪循環の鎖を解きほぐす唯一の回答だったのです。

次回は、このレバレッジの考え方を、現在私たちが直面している物流問題や、他の公共交通の再生にどう応用できるか、具体的なアクションプランとして考えていきます。

参照元・出典

  • Donella H. Meadows, Leverage Points: Places to Intervene in a System, The Sustainability Institute, 1999.(ドネラ・メドウズ著『レバレッジ・ポイント:システムに介入する場所』)
  • 山田和昭『希望のレール』2015年.
  • 日本システム思考研究所(JFS)公式サイトレバレッジ・ポイント解説.

第4回:つながり直すシステム 公共交通と物流を統合する新しい回路

第4回では、若桜鉄道で実証されたループのデザインを、物流や最新の交通政策へ応用する視点を提示します。単一の組織で完結せず、異なるシステムをつなぎ直すことで生まれる新しい価値について論じます。

分断されたシステムを統合する

これまでの連載で見てきた通り、悪循環を止める鍵は構造への介入にあります。しかし、どれほど一つの組織(例えば鉄道会社単体)が努力しても、その外側にある社会システムとのつながりが断絶していては、効果は長続きしません。

システムダイナミクスには、複数のループが重なり合うことで全体を安定させる連動(カップリング)という考え方があります。若桜鉄道の事例で言えば、鉄道という運輸システムを、観光、雇用、そして行政の福祉政策(通学助成)と意図的につなぎ直したことが成功の要因でした。

物流と交通の貨客混載

現在、日本の物流業界は深刻なドライバー不足に直面しています。一方で、地方の公共交通は乗客不足に悩んでいます。これらを別々の問題として捉えるのではなく、一つの輸送システムとして統合する試みが始まっています。これが貨客混載(かきゃくこんさい)です。

  • 物流側のメリット: トラックが入れない過疎地や、長距離の幹線輸送を鉄道やバスに委託することで、ドライバーの負担を軽減し、効率的な配送を実現する。
  • 交通側のメリット: 空席を荷物スペースとして活用することで、乗客が少ない時間帯や路線でも新たな収益源(フロー)を確保できる。

これは、ドネラ・メドウズのレバレッジ・ポイントにおける第5位:ルールの変更です。バスは人を運ぶものトラックは荷物を運ぶものという従来のルールを書き換え、同じインフラを共有する新しい構造を作り出すことで、双方の悪循環を同時に抑制する効果があります。

運輸同盟:競合から共創へのループ

若桜鉄道が試みた運輸同盟の策定も、非常に高度なシステム統合です。

日本の地方交通では、限られたパイ(利用者)を鉄道とバスが奪い合うという、共倒れのループに陥ることがあります。これを解消するために、以下の施策が盛り込まれました。

  • 協調ダイヤ: 乗り継ぎの待ち時間を減らし、トータルの移動時間を短縮する。
  • 共通定期化: 一枚の切符で、鉄道もバスも自由に選べるようにする。
  • 乗継割引: 乗り換えの金銭的負担(ペナルティ)を軽減する。

日本の政策担当者も地域公共交通計画の策定を通じて、こうしたモード間の連携を推奨しています。これは、個々の事業者が個別に最適化を図るのではなく、地域全体の移動の利便性を最適化するという第3位:目的の共有に基づいています。

物流における物理的構造のレバレッジ

物流システムにおいても、第10位の物理的構造への介入が進んでいます。

例えば、ダブル連結トラック(2台分の荷物を1台で運ぶ車両)の導入や、高速道路上の自動運転専用レーンの検討などがこれに当たります。しかし、これらはあくまで物理的な手段であり、効果を最大化するには情報の流れ(第6位)の整備が不可欠です。

どの荷物が、いつ、どこへ運ばれるべきかというデータを、荷主と運送業者がリアルタイムで共有し、空車回送(荷物を載せずに走る無駄)をなくす仕組みです。情報のループを整えることで、既存の物理的リソース(トラックや倉庫)の能力を最大限に引き出すことができます。

まとめ:孤立したループを作らない

若桜鉄道の事例が私たちに教えてくれるのは、システムは孤立しているときが最も脆いということです。

鉄道が地域から浮いてしまい守るべき対象として扱われている間は、衰退のループを止めることはできません。雇用、観光、教育、そして物流といった他分野のループと歯車を噛み合わせ、地域全体が動くためのエンジンになったとき、システムは自律的に回り始めます。

日本の施策においても、こうした多角的な連携は重要視されていますが、各分野の担当者が別々の目的を持っていては、せっかくの連携も形式的なものに終わってしまいます。大切なのは、すべての関係者がこの地域をどうしたいかという高いレバレッジ・ポイントでの合意を持つことです。

最終回となる次回は、これらの学びを総括し、私たち一人ひとりが自分の身の回りにあるループを見つけ、設計者として未来を創るための視点についてお話しします。

参照元・出典

  • 国土交通省貨客混載の推進に向けた取り組み関連資料.
  • 鳥取県東部地域公共交通計画2021年.
  • 日本物流学会物流DXとシステムダイナミクス研究ノート.
  • Peter Senge, The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization, Doubleday, 1990.(ピーター・センゲ著『学習する組織』)

第5回:あなたはループのデザイナー 希望のパラダイムが世界を書き換える

サイバネティクスとシステムダイナミクスの歴史的な知恵を総括し、若桜鉄道の事例が私たちに提示した未来を創る視点を整理します。

舵取りの術を現代に活かす

全5回にわたってお伝えしてきた、サイバネティクスとシステムダイナミクスの旅も、今回で最後となります。1940年代にノーバート・ウィーナーが提唱した舵取りの術(サイバネティクス)は、単なる機械の制御理論ではありませんでした。それは、複雑に絡み合った世界の中で、私たちがどのように情報を扱い、目的を持って進むべきかを問う知恵でもありました。

私たちは、出来事という点に一喜一憂しがちです。しかし、若桜鉄道の再生が示したのは、点をつないで線(因果関係)にし、線を閉じて循環(ループ)として捉えることで、初めてどこを変えればよいかが見えてくるという事実でした。

パラダイム:最も深い場所にあるスイッチ

ドネラ・メドウズが提唱した12のレバレッジ・ポイントの中で、最も強力なものの一つが第2位:パラダイム(社会の思い込み、価値観)でした。
若桜鉄道の事例において、最も劇的な変化は、物理的な線路の改修や補助金の増額ではなく、地域住民の心の中で起きました。鉄道は、自分たちの力ではどうしようもない衰退の象徴だという諦めのパラダイムが、鉄道は、地域を救い、雇用を生み出すための宝物だという希望のパラダイムへと書き換わったのです。

この心のスイッチが切り替わると、システムの振る舞いは一変します。住民が自らもりあげ隊を結成し、自分たちの地域を誇りに思うようになると、それまでブレーキとして働いていた周囲の反対や無関心が、推進力(正のフィードバック)へと変わります。パラダイムの転換こそが、強固な悪循環を根本から解きほぐす、最も鋭いテコとなります。

日本の将来とシステムのデザイン

現在、日本各地では、交通や物流、そして地域経済の維持について、多くの議論が交わされています。日本の政策担当者も、データに基づいたEBPM(根拠に基づく政策立案)を重視し、より実効性の高い施策を模索しています。これは、システムダイナミクスでいう第6位:情報の流れや第5位:ルールを改善しようとする真摯な取り組みです。

しかし、制度や予算という構造を整える一方で、そこに住む人々がどのような目的を持ち、どのような価値観(パラダイム)を共有しているかが、最終的な成否を分かちます。若桜鉄道が示した地域のために鉄道を使い倒すという明確な目的の再定義は、制度という器に命を吹き込む作業でした。

物流と交通がつなぐ、新しい社会のカタチ

第4回で触れた貨客混載や共同配送といった取り組みも、単なるコスト削減の手段ではありません。それは、これまでバラバラに存在していたループをつなぎ合わせ、社会全体の負荷を減らしながら、豊かさを維持するための新しい回路設計です。

私たちは、自分たちがどのようなループの中にいるのかを知る必要があります。誰かを責めるのではなく、システムの構造を見つめ、新しいつながり(回路)をデザインすること。それが、複雑な現代社会を生き抜くための、サイバネティクスの真髄です。

結びに:あなた自身のループを描こう

この連載を読んでいる皆さんの身の回りにも、必ずループは存在します。学校の友人関係、家庭のルール、仕事の進め方。もし、そこに自分では止められない嫌な流れがあるとしたら、立ち止まって因果の連鎖を描いてみてください。

そして、問いかけてみてください。自分はこのシステムの目的をどう定義しているだろうか自分の思い込み(パラダイム)が、この流れを強化していないだろうかと。

若桜鉄道のSLが鳴らした汽笛は、古い悪循環を断ち切り、新しい好循環の始まりを告げる音でした。あなた自身がデザイナーとなり、新しい矢印を一本描き足すだけで、世界はゆっくりと、しかし確実に動き始めます。

未来の舵を握るのは、システムを理解し、希望の連鎖をデザインするあなた自身なのです。

参照元・出典

  • Donella H. Meadows, Thinking in Systems: A Primer, 2008.(ドネラ・メドウズ著『システム思考』)
  • Norbert Wiener, The Human Use of Human Beings: Cybernetics and Society, 1950.(ノーバート・ウィーナー著『人間機械論』)
  • 山田和昭『希望のレール:若桜鉄道・公有民営方式の挑戦』2015年.
  • システムダイナミクス学会(System Dynamics Society)公式リソース.

注意

以上の文書はAI Geminiが生成したものを加筆修正しており、誤りが含まれる場合があります。

参考

若桜鉄道での実績

交通理論体系整理の試み