都市の価値を測る基準が「移動の速さ」から「目的地への届きやすさ」へと変化しています。本連載では、経済学者と都市計画者の視点から、この「アクセシビリティ」という概念を軸に、住まい選びや地価の正体、そして誰もが住みやすい社会のあり方を解き明かします。物理的な距離(km)という古い物差しを捨て、人生の「時間」をいかに豊かに使うかという新しい都市経営の視点を、全5回にわたって平易に解説します。
目次
第1回:あなたの15分には、どれだけの価値が詰まっていますか?
都市計画や経済学の専門家が街の価値を測るとき、大切にする指標があります。それがアクセシビリティ(到達可能性)です。この言葉を聞くと、バリアフリーのような段差の解消を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、本来の意味はもう少し広く、かつシンプルです。
アクセシビリティとは、特定の場所から、買い物、通院、仕事といった目的地に、どれだけスムーズにたどり着けるかを示す度合いです。これを理解すると、住まい選びや街の資産価値の見え方が大きく変わります。
距離という値札と、時間というお財布
不動産広告には、よく駅から800mや徒歩10分といった数字が並びます。これは物理的な距離を歩行速度で割り算した、いわば商品の値札のようなものです。しかし、私たちの日常生活で本当に重要なのは、距離という数字そのものではありません。
私たちが日々支払っているのは、メートルではなく、人生の貴重な分(持ち時間)です。アクセシビリティの考え方では、移動にかかる時間をお財布から出すコスト、たどり着いた先で得られる体験や用事を報酬と捉えます。
たとえば、同じ徒歩10分の場所にある2つの物件を比べてみましょう。片方は、駅までの道中にスーパーや郵便局、保育園があり、駅に着けば都心へ15分で運んでくれる特急が止まります。もう片方は、駅までの道に街灯すら少なく、駅に着いても30分に1本の各駅停車しか来ません。
物理的な距離が同じ800mであっても、この2つの場所が提供する15分間の価値(アクセシビリティ)には天と地の差があります。前者はわずかな時間の投資で多くの報酬を得られる効率の良い地点であり、後者はコストの割に得られるものが少ない場所といえます。
近いと届きやすいを分けるもの
ここで注意したいのは、物理的に近くても届きにくい場所が存在することです。地図上で見れば目的地まで直線で数百メートルしかなくても、間に大きな幹線道路や線路があり、歩道橋を渡ったり遠回りしたりして15分かかるなら、そこはあなたにとって15分かかる遠い場所として評価されます。
反対に、数キロメートル離れていても、信号のない快適な遊歩道や、時間通りに来るバス、あるいは高性能な鉄道によって5分で着けるなら、そこはすぐ手の届く場所になります。アクセシビリティは、物理的な尺ではなく、人間の移動のしやすさと移動した先の充実度を掛け合わせた尺度なのです。
日本の都市政策における配慮
日本の都市づくりにおいても、この考え方は立地適正化計画という仕組みで取り入れられています。これは、人口が減っていく中で、あちこちに分散した施設を、公共交通でつながった特定のエリアに集約しようとする試みです。
一部では、エリア外に住む人の利便性が下がるのではないかという懸念もあります。しかし、現在の政策では、集約するだけでなく、デマンド型交通(予約制の乗り合いバス)などの新しい移動手段を組み合わせることで、どの地域に住んでいても最低限の生活機能にアクセスできる生活交通の維持についても、自治体ごとに工夫が進められています。
都市の価値は招待状の質で決まる
これからの時代の街選びは、単なる駅からの距離ではなく、自分の15分という持ち時間で、どれだけ豊かな人生の選択肢に触れられるか、という視点が鍵になります。
アクセシビリティが高い街は、いわば魅力的な招待状をたくさん持っている街です。15分歩いたり電車に乗ったりするだけで、素敵な公園に行ける、質の高い医療を受けられる、面白い仕事に出会える。こうした選択肢の密度こそが、その場所の本当の価値を形作っています。
主要な参照元・出典
- 藤原章一郎・柳沼秀樹交通計画学:持続可能な都市の交通システム
- Geurs, K. T., & van Wee, B. “Accessibility evaluation of land-use and transport strategies: review and policy directions”
- 国土交通省立地適正化計画作成指針
- Hansen, W. G. “How Accessibility Shapes Land Use”
第2回:アクセシビリティの歴史 ― 速さから豊かさへの転換
私たちが住む街の形は、その時代の交通に対する考え方によって作られてきました。かつてはいかに遠くへ、いかに速く動けるかが都市の成長の鍵でした。しかし、現代の都市計画は移動そのものを減らし、どれだけ豊かに目的地へ到達できるかというアクセシビリティ(到達可能性)の重視へと舵を切っています。この歴史的な変遷をたどることで、今の街が抱える課題と、これからの理想像が見えてきます。
19世紀:産業革命と距離の克服
アクセシビリティという概念の種は、19世紀の産業革命期に遡ります。都市に人口が急増し、スラム化や衛生問題が深刻化する中で、都市地理学者のハドソンらは接近の経済(Economy of Proximity)という考え方を示しました。これは、特定の場所に機能が集まることで生まれる利益に注目したものです。
当時の交通手段は徒歩や馬車が中心であり、物理的な近さがそのまま経済的な力に直結していました。19世紀半ば、パリの改造を行ったオスマン男爵は、迷路のような路地を壊して直線的な広い大通りを造りました。これは軍事的な目的もありましたが、都市の隅々への到達のしやすさを劇的に向上させ、都市の近代化を決定づけた出来事でした。
20世紀前半:モビリティ(移動性)の黄金時代
20世紀に入ると、自動車の普及が都市のあり方を根本から変えました。1950年代、アメリカを中心にモビリティ(移動性)を最大化する計画が主流となります。高速道路を張り巡らせ、時速(スピード)を上げれば、都市は無限に広がることができると信じられていました。
1959年、都市研究者のウォルター・ハンセンは、土地利用と交通を組み合わせた指標としてアクセシビリティを初めて数学的に定義しました。しかし、当時の政策目標の多くは、依然として渋滞の解消や走行速度の向上といった、乗り物の性能を追求するモビリティ重視に偏っていました。
20世紀後半:時間地理学と人間の制約
1970年代になると、ただ速く動ければ良いという考え方に疑問が投げかけられます。スウェーデンの地理学者トシュテン・ヘーゲルストランドは時間地理学(Time Geography)を提唱しました。
彼は、人間には1日は24時間しかない睡眠や食事が必要である特定の時間に特定の場所にいなければならないといった制約があることを指摘しました。どんなに速い車があっても、目的地の施設が閉まっていたり、移動に数時間を費やして生活の時間が削られたりすれば、それは豊かな生活とは言えません。この視点が、交通を乗り物の速さではなく個人の生活(アクティビティ)の視点で見直す大きな転換点となりました。
現代:近接性と15分都市への回帰
21世紀に入り、地球温暖化や高齢化といった課題に直面する中で、アクセシビリティは近接性(Proximity)を重視する段階に入っています。その象徴が15分都市(15-Minute City)という構想です。
これは、徒歩や自転車で15分以内の範囲に、仕事、買い物、医療、教育といった生活の全機能が揃っている状態を目指すものです。かつてのモビリティ重視が遠くへ速く行くことを目指したのに対し、アクセシビリティ重視の現代はわざわざ遠くへ行かなくても、短時間で全ての用事が済むことを目指しています。移動というコストを最小化し、目的地での活動という報酬を最大化する、極めて効率的で人間中心の考え方です。
日本の施策における集約とネットワーク
日本においても、この歴史の流れはコンパクト・プラス・ネットワークという政策に反映されています。かつての高度経済成長期には郊外へ広がる開発を優先しましたが、現在は立地適正化計画(都市の機能を特定の区域に集める計画)を進めています。
この日本の施策は、単に機能を1箇所に固めるだけでなく、それらを公共交通というネットワークで結ぶことで、エリア全体のアクセシビリティを維持しようとしている点が特徴です。人口が減る中で、全てのサービスを近所に維持することは困難ですが、拠点間のアクセスを強化することで、多様な機会への到達を保障しようとする、現実的な配慮がなされています。
価値のありか
アクセシビリティの歴史を振り返ると、私たちは移動の苦労を減らす時代から時間の質を高める時代へと移り変わってきたことが分かります。昔の都市は距離に縛られ、20世紀の都市は速度に依存しました。そしてこれからの都市は、いかに短い時間で豊かな選択肢を提供できるかという、アクセシビリティの質で選ばれることになります。
主要な参照元・出典
- 谷口守都市と交通の計画:コンパクトシティを考える
- Hägerstrand, T. “What about people in Regional Science?”
- Moreno, C., et al. “Introducing the ’15-Minute City’: Sustainability, Resilience and Place Identity in Future Post-Pandemic Cities”
- 国土交通省都市・地域経営の視点に立った立地適正化計画の策定に向けて
第3回:なぜ行きたい場所が多い駅の地価は高いのか? ― 経済学で見るアクセスの価値
土地の値段を決める要素は、日当たりや広さだけではありません。経済学の視点で見れば、土地の価値の大部分は、その場所が持つアクセシビリティ(到達可能性)によって決まっています。今回は、なぜ目的地に手が届きやすい場所の価値が高いのか、その仕組みを解き明かします。
土地価値の正体はアクセスの独占権
経済学者のヘンリー・ジョージやウィリアム・アロンゾらは、地価の仕組みをアクセスのしやすさから説明しました。ある特定の地点が、多くの人にとって仕事に行くのに便利だったり買い物がしやすい場所だったりする場合、その場所を利用したいという需要が集中します。
土地は限られた資源ですから、その場所を使いたい人が増えれば、価格(地代)は上がります。つまり、地価とはその場所を拠点にすることで得られる利便性を独占するための料金と言い換えることができます。
到達できる雇用数が地価を裏付ける
アクセシビリティを測る際、経済学や都市計画の専門家がよく使う指標の一つに30分以内に到達可能な雇用(仕事)の数があります。
たとえば、ある駅から電車や徒歩で30分圏内に、1万個の仕事がある街と、100万個の仕事がある街を比較してみましょう。100万個の仕事に手が届く駅の周辺は、それだけ多くの人にとって職住近接(職場と住まいが近い状態)を実現できる場所になります。
こうしたアクセシビリティが高い場所は、住民にとっては通勤時間の短縮(コスト削減)になり、企業にとっては優秀な働き手を集めやすい(生産性向上)という報酬をもたらします。この時間というコストの節約分と活動から得られる報酬が、結果として家賃や土地価格に転嫁(土地の価値に置き換わること)されるのです。
集積効果が地価をさらに押し上げる
さらに、アクセシビリティが高い場所に人や企業が集まると、そこでは集積の経済(Agglomeration Economies)と呼ばれる現象が起きます。
人や店が密集することで、さらに便利なサービスが生まれ、新しい情報が飛び交い、ビジネスが加速します。この集まることで生まれるプラスアルファの価値が、そのエリアの魅力をさらに高め、地価を押し上げるエンジンとなります。このように、インフラ投資によってアクセシビリティが向上すると、それが呼び水となってさらなる経済活動が生まれ、土地の価値が一段と高まっていくという好循環が生まれます。
日本の政策における資産価値の保全
日本の都市政策においても、こうしたアクセシビリティと価値の関係は重要視されています。特に、人口減少社会においては、都市全体に薄く投資をするのではなく、特定の拠点(誘導区域)のアクセシビリティを重点的に高めることで、地域全体の資産価値の暴落を防ごうとしています。
日本の立地適正化計画は、自治体がどこに公共施設や住宅を誘導するかを明確にすることで、民間投資を呼び込み、そのエリアのアクセシビリティを維持・向上させる役割を果たしています。一部の地域への偏りを懸念する声もありますが、現実的には、限られた予算を効率的に使い、地域全体の利便性の底を支えるための、資産価値保全のための戦略という側面を持っています。
まとめ:地価は都市の招待状の価格
地価が高い場所というのは、単に高いのではなく、それだけ多くの機会へ短時間でたどり着けるという、質の高い都市の招待状を発行している場所です。
私たちが住まいを選ぶときに支払うお金は、建物の対価であると同時に、その地点から広がる可能性のネットワークへの参加料でもあります。アクセシビリティの視点を持つことで、その土地が将来にわたってどれだけの価値を維持できるかを、より客観的に見極めることができるようになります。
主要な参照元・出典
- 山崎福寿都市経済学:土地・住宅・交通の経済分析
- Alonso, W. “Location and Land Use: Toward a General Theory of Land Rent”
- Graham, D. J. “Agglomeration Economies and Transport Investment”
- 国土交通省土地白書:土地を巡る動向と土地政策の変遷
第4回:自宅の価値を測る新基準 ― 距離計(km)を捨てて、時計(分)を持とう
これまでの住宅選びでは、不動産広告に記載された駅から何メートルといった距離が唯一の物差しでした。しかし、本連載で解説してきた通り、物理的な距離は移動というコストの一側面に過ぎません。第4回では、アクセシビリティ(到達可能性)の視点を用いて、個人の住まいの真の価値を自分自身で測るための新しい基準を提案します。
1kmという数字の無力さ
不動産業界には徒歩1分=80mというルールがあります。1.2km離れていれば徒歩15分と記載されます。しかし、この計算には、坂道の有無、信号待ちの時間、踏切による遮断といった時間的な抵抗が一切含まれていません。
アクセシビリティの視点では、距離計(km)ではなく時計(分)を重視します。重要なのは、玄関を出てから目的地の改札やオフィスの入り口にたどり着くまでの実質的な所要時間です。例えば、駅から徒歩5分でも、線路を渡るために大きな歩道橋を上り下りしなければならない家と、駅から徒歩10分でも、平坦で信号のない遊歩道をまっすぐ歩ける家では、後者の方が心理的・身体的な負担(一般化費用:移動にかかる時間や労力を貨幣価値に換算したもの)が少なく、実質的な価値が高い場合があります。
時間という予算で買えるものを数える
次に考えるべきは、移動に費やす15分や30分という時間予算に対して、どれだけの報酬が得られるかです。これを累積機会(一定時間内に到達できる施設やサービスの総数)と呼びます。
住まいを評価する際、以下の3つの時間圏内で、何件の選択肢にアクセスできるかを数えてみてください。
- 徒歩15分圏内(生活の基盤):
日常的な買い物、保育園、公園、かかりつけ医。ここが充実しているほど、車を出さずに生活が完結し、将来免許を返納した後も生活の質が維持されます。 - 公共交通30分圏内(活動の広がり):
主要なターミナル駅、勤務先、大型商業施設、専門病院。この圏内にどれだけ多様な機会があるかが、その場所の底堅い資産価値を決定します。 - 時間帯による変化:
日中だけでなく、夜間や早朝のアクセスのしやすさも重要です。24時間稼働する都市において、特定の時間帯しか機能しない場所は、アクセシビリティの評価が低くなります。
日本の居住誘導施策と資産価値の関係
個人がアクセシビリティを評価する際、自治体が公表している立地適正化計画のマップは非常に参考になります。ここには、自治体が将来にわたって公共交通や生活機能を優先的に維持しようとしている居住誘導区域が明示されています。
この区域内に住むことは、公的な投資によってアクセシビリティが長期的に担保されることを意味します。一方で、区域外では将来的にバスの路線維持が難しくなったり、公共施設が遠ざかったりするリスクも考えられます。日本の政策は、特定のエリアの利便性を高めることで、街全体の持続可能性(デュラビリティ)を高める配慮をしていますが、それは個人にとってはどこに住めば将来も不便にならないかという重要な判断材料となります
まとめ:住まい選びは自由時間への投資
私たちは家を買うとき、間取りや設備の美しさに目を奪われがちです。しかし、アクセシビリティの視点から言えば、住まい選びとは、自分と家族がこれから何十年も費やす移動時間と、その先にある体験の数を最適化する投資に他なりません。
駅から1kmという距離の呪縛を解き、自分の人生の貴重な時間という予算で、どれだけの豊かな選択肢を掴み取れるか。この新しい物差しを持つことが、変化の激しい時代において価値を失わない住まいを見極めるための第一歩となります。
主要な参照元・出典
- 浅見泰司住宅地の価値
- 宿利正史・山内弘隆編著交通政策の変容と新たな展開
- Levinson, D. M., & King, D. A. “Transportist: Access Across America”
- 国土交通省不動産市場の情報整備:土地・不動産価格に影響を及ぼす要因の分析
第5回:誰も取り残さない都市へ ― 包摂性とアクセシビリティの本質
全5回にわたってお届けしてきたアクセシビリティ(到達可能性)の連載も、今回が最終回です。これまでは効率や地価といった経済的な側面を中心に見てきましたが、最後はアクセシビリティが持つ最も重要な役割である社会的な包摂(ほうせつ:誰も排除せず包み込むこと)について考えます。
アクセシビリティの数理的な定義
ここで、学問的なアクセシビリティの定義を改めて整理しておきます。都市計画の分野では、アクセシビリティは以下の式で捉えられます。
アクセシビリティ = 目的地の魅力(報酬) ÷ 移動の抵抗(コスト)
この抵抗には、単なる距離(km)や時間(分)だけでなく、運賃(金銭)や、移動に伴う身体的な負担、心理的なストレスも含まれます。アクセシビリティの本質は、これら全てのハードルを乗り越えた先に、どれだけの選択肢が残されているかという自由の量を測ることにあります。
移動の自由から到達の権利へ
現代社会において、アクセシビリティは単なる便利さの指標ではなく、人間が人間らしく生きるための基本的人権の一つとみなされるようになっています。なぜなら、医療、教育、仕事といった社会参加の全ては、目的地にたどり着くことが前提となっているからです。
例えば、高齢で車の運転ができなくなった方や、所得の問題で車を所有できない方にとって、公共交通が不十分な地域での生活は、単なる不便を超えて社会からの遮断(社会的排除)を意味します。これを交通貧困(Transport Poverty)と呼びます。アクセシビリティを保障することは、誰に対しても社会に参加するための招待状を平等に発行することを意味します。
日本の施策における安全網としてのアクセシビリティ
日本においても、人口減少や高齢化が進む中で、このアクセシビリティの保障は大きな課題です。日本の交通政策では、単に効率の良い都市部を伸ばすだけでなく、地方や郊外における生活交通の維持に力を入れています。
具体的には、地域公共交通活性化再生法に基づき、自治体が主導してバス路線を再編したり、スマートフォンのアプリで予約できるデマンド交通を導入したりといった試みが全国で進められています。これらの施策は、採算性だけで見れば赤字になることもありますが、住民が医療や買い物という生きるために不可欠な機会に到達し続けるための、都市経営における不可欠な安全網(セーフティネット)として位置づけられています。
都市の本当の価値は優しさにある
経済学者のアマルティア・センは、人の豊かさを何を持っているかではなく何ができるか(潜在能力)で測るべきだと説きました。アクセシビリティが高い街とは、まさに住民のできることを最大化してくれる街です。
子どもが自力で図書館に行ける、高齢者が一人で病院に通える、車椅子の方が気兼ねなく街へ出られる。こうした環境を整えることは、結果としてその街の住みやすさを高め、長期的な資産価値やコミュニティの安定にも繋がります。
結び:未来の都市を選ぶ視点
全5回を通じて見てきた通り、アクセシビリティは、私たちが支払う時間というコストと、都市が提供する機会という報酬のバランスを測る物差しです。
住まいを選ぶとき、あるいは街の未来を考えるとき、物理的な距離(km)という古い物差しを一度置いてみてください。そして、自分や家族、そして街に住む全ての人が、限られた時間の中でどれだけ豊かな人生の選択肢に触れられるか、という視点で街を眺めてみてください。そのたどり着きやすさの質こそが、これからの成熟社会における、本当の意味での豊かな街の定義になるはずです。
主要な参照元・出典
- 中村文彦バスで極める都市交通
- Amartya Sen, “Development as Freedom”(アマルティア・セン自由と経済開発)
- Lucas, K. “Transport and social exclusion: Where are we now?”
- 国土交通省地域公共交通の活性化・再生に向けた取組状況
アクセシビリティの理論
アクセシビリティとは単なる移動の速さでも物理的な近さでもなく、「ある地点から、どれだけの生活機会(報酬)を、どれだけのコスト(時間・費用)で獲得できるか」という、都市空間の総合的なパフォーマンスを指す指標です。
簡易的な表現
以下の関係式で表されます。
Accessibility =(機会の総量)/ 移動のしやすさ(時間)
移動のしやすさは、距離 ÷ 速度 = 時間 を分母とし、時間がかかるほど価値が割り引かれる(減衰する)仕組みになっています。
つまり、アクセシビリティを向上させるには、3つのアプローチがあります。
- 目的地を近くに呼ぶ: 距離(km)を縮める(コンパクトシティ)。
- 移動を速くする: 時間を短縮する(交通インフラ整備)。
- 目的地の魅力を高める: 機会の質(報酬)を増やす(都市開発)。
アクセシビリティの三要素:コスト、速度、報酬
アクセシビリティを理解するために、以下の3つの要素を数理的に整理します。
1. 物理的距離(Distance):克服すべき「抵抗」
- 単位: キロメートル(km)、メートル(m)
- 意味: A地点からB地点までの、動かすことができない空間的な広がりです。
- 評価: 経済学的には「負の価値(摩擦)」として扱われます。かつての不動産選びで「駅から1km」と物理的な近さが重視されたのは、この抵抗を最小化するためでした。
2. 移動速度(Speed):距離を時間に変換する「能力」
- 単位: 時速(km/h)
- 意味: 物理的な距離を、どれだけの「時間」というコストに変換できるかという、モビリティ(移動性)の性能です。
- 評価: 同じ1kmでも、徒歩(4km/h)と自転車(15km/h)では、支払うべき「時間」が劇的に異なります。
3. 機会(Opportunity):移動によって得られる「報酬」
- 単位: 件数、種類、質
- 意味: 到達した目的地で得られる「仕事」「買い物」「医療」「教育」「社交」といった価値の総量です。
- 評価: アクセシビリティの真の主役です。どれだけ近く、どれだけ速く移動できても、目的地に価値がなければアクセシビリティは「ゼロ」と評価されます。
アクセシビリティの数理的定義
本理論は、従来の交通計画が重視してきた移動の速さ(モビリティ)ではなく、目的地への到達のしやすさ(アクセシビリティ)を評価の主眼に置くものです。インフラ・ファイナンスやLVCの議論においても、土地価値を規定する最重要変数として位置づけられます。
アクセシビリティは、単なる物理的距離ではなく、以下の4つの要素の相互作用によって決定されます。
- 輸送要素(Transport Component): モード、時間、費用。
- 土地利用要素(Land-use Component): 目的地の量、質、配置(職住近接度など)。
- 時間要素(Temporal Component): 施設の営業時、個人の自由時間、ピーク時/オフピーク時の差。
- 個人要素(Individual Component): 身体的能力、所得、ITリテラシー。
定量化のモデル:重力モデルと累積機会法
経済学的・都市工学的な分析では、主に以下の2つの指標が用いられます。
重力モデル型アクセシビリティ(Hansen型)
ある地点 $i$ から、全地点 $j$ にある機会(雇用数など)への到達可能性を、インピーダンス(移動の抵抗:時間や費用)で割り引いて合算します。
累積機会法(Cumulative Opportunities)
「30分以内に到達可能な雇用数」のように、特定の閾値を設けて機会の総量を数え上げる手法です。政策目標として設定しやすく、英国のTAGや日本の立地適正化計画の評価でも多用されます。
日本におけるアクセシビリティ研究の潮流
日本の研究は、高度経済成長期の都市の過密と交通渋滞への対策から始まり、現在は人口減少・高齢化に伴う生活維持の評価へとシフトしています。
- 高度成長期:拠点開発とネットワーク評価
1960年代から70年代にかけて、新幹線や高速道路網の整備に伴い、全国1日交通圏のような広域アクセシビリティの研究が盛んに行われました。ここでは主に、都市間の移動時間の短縮が地域格差をいかに是正するかが焦点となりました。 - 1990年代:土木計画学における数理モデルの深化
東京大学や京都大学を中心とした土木計画学の研究者により、個人の選択行動に基づく対数和便益(ログサム便益)を用いたアクセシビリティ指標が研究されました。これは経済学の期待効用に基づいた指標であり、交通改善が個人の満足度(ウェルビーイング)をどれだけ高めるかを貨幣換算することを可能にしました。 - 2000年代以降:高齢化と交通弱者へのフォーカス
人口減少局面に入り、研究の主眼は生活アクセシビリティに移りました。
交通貧困(Transport Poverty): 地方部や郊外住宅地における、高齢者の買い物・通院アクセスの維持。
歩行アクセシビリティ: 筑波大学などの研究チームにより、GIS(地理情報システム)を用いた徒歩圏内の施設密度と健康・地価の相関分析が精緻化されました。
注意
以上の文書はAI Geminiが生成したものを加筆修正しており、誤りが含まれる場合があります。
参考
- 投稿タグ
- #AI, #Slide, #Urban design, #Voice, #保障











