「2024年問題」の処方箋は米国にあり。3キロ続く貨物列車と数万台のシャーシを、1秒の狂いもなく同期させる「情報のバトンリレー」とは?本連載では、物流学の視点から米国のインターモーダル輸送を徹底解剖。単なる「運び方」の解説に留まらず、輸送データが荷主の経営システムと直結し、在庫を利益に変える最新の仕組みを、日本の陸運現場に即して分かりやすく解き明かします。
目次
第1回:なぜ米国は最強の物流なのか? 鉄道とトラックが融合するインターモーダル輸送の全体像
日本の陸運業界において、2024年問題は避けて通れない大きな課題です。ドライバーの労働時間に制限がかかるなかで、いかにして長距離輸送を維持するか。その一つの答えとして、米国が長年磨き上げてきたインターモーダル輸送という仕組みがあります。これは、複数の輸送手段(船、鉄道、トラック)を、荷物を入れ替えずに一つのコンテナのままリレー形式で運ぶ形態を指します。今回は、物流学の視点から、この巨大な輸送網を支える構造と、それを同期させている情報の仕組みについて詳しく見ていきましょう。
1000キロ先を見据えた役割分担の最適化
米国の物流を理解するうえでまず驚かされるのは、鉄道とトラックの棲み分けが非常に合理的に行われている点です。日本では長距離輸送の主役もトラックであることが多いですが、米国では800キロメートルから1000キロメートルを超える輸送については、鉄道が圧倒的な主役となります。
これを可能にしているのが、ダブルスタックカー(コンテナを二段に積み上げる貨車)です。1編成の長さが3キロメートルを超える列車が、一度に数百本のコンテナを運びます。一方で、トラックは港から鉄道ヤードまで、あるいは鉄道ヤードから最終目的地までのラストワンマイル(物流の最終区間)を担うドレージという役割に特化しています。このように、それぞれの得意分野を活かすことで、物流全体の流速を速めています。
物理的な動きとデジタルデータの同期
この巨大なリレー輸送が滞りなく行われるためには、物理的な貨物の動きと、それに関するデータが寸分違わず一致していなければなりません。米国では、コンテナがトラックで鉄道ターミナルのゲートを通過した瞬間に、その情報がネットワーク全体に共有されます。
ゲートには、OCR(光学文字認識)カメラが設置されており、走行中のトラックのナンバープレートやコンテナ番号、シャーシ(コンテナ用台車)の番号を自動的に読み取ります。この瞬間に、システム上では搬入完了(インゲート)というステータスが更新されます。このデータは、荷主や鉄道会社、船会社が共通して利用するEDI(電子データ交換)という仕組みを通じて即座に配信されます。
運行周期の差を埋める情報の調整弁
船の到着は天候に左右されやすく不規則ですが、鉄道は一定のダイヤに従って運行しようとします。この異なる周期を調整しているのが、ターミナル管理システム(TOS)です。
船が港に着く数日前、船会社からはBAPLIE(船内の積付位置情報を示す電文)がターミナルへ送られます。このデータを基に、ターミナル側はどのコンテナを鉄道に載せるべきか、どの貨車が必要かを事前に計算します。鉄道会社もこの情報をリアルタイムで共有しており、必要な数の貨車をバッファヤード(近郊の待機用線路)に揃えておきます。この事前調整があるからこそ、数千本のコンテナが滞留することなく、次々と大陸横断列車へと吸い込まれていくのです。
日本の陸運事業者が注目すべき分界点
ここで重要になるのが、情報の責任がどこで切り替わるかという分界点の考え方です。米国では、コンテナが貨車に積み込まれ、システム上で積込完了(ローディング)が通知された瞬間に、責任の所在が港湾から鉄道会社へと明確に移ります。
この分界点がデジタルで明確に定義されているため、トラブルが発生した際の原因究明も迅速です。日本の陸運現場では、書面でのやり取りや電話による確認がまだ多く残っていますが、米国ではこの情報のバトンタッチが自動化されています。これが、ドライバーの待機時間を削減し、車両の回転率を高める鍵となっています。
物流学から見たインターモーダル輸送の本質
インターモーダル輸送の本質は、単なるモーダルシフト(輸送手段の転換)ではありません。それは、情報を共通言語化することで、異なる企業間、異なるモード間を一つの有機体のように機能させることにあります。
米国の成功は、広大な国土という地理的条件だけでなく、データを共有財産として扱うというコンセンサス(合意形成)に基づいています。次回の記事では、この膨大なデータを一手に引き受け、全米の鉄道網を裏で支える情報の司令塔、レイルインクの役割について深く掘り下げていきます。
出典
- Association of American Railroads (AAR) “Freight Rail Strategy” 2024
- IANA (Intermodal Association of North America) “Intermodal Fact Sheet”
- 国土交通省「国際コンテナ戦略港湾政策の現況」
第2回:情報の司令塔「レイルインク」— 競合する鉄道会社がなぜデータを共有するのか?
米国の鉄道輸送を支えているのは、巨大な機関車や広大な線路網だけではありません。その裏側で、北米全域を走る数十万台の貨車とコンテナの動静を、1秒の休みもなく監視し続けている巨大なデータ基盤が存在します。それが、業界共通の情報の司令塔であるレイルインク(Railinc)です。今回は、競合関係にあるはずの民間鉄道会社がいかにしてデータを共有し、一つの巨大なネットワークとして機能させているのか、その構造を解き明かします。
業界の共有財産としてのデータプラットフォーム
米国には、クラス1鉄道と呼ばれる7つの巨大な民間鉄道会社が存在します。これらは互いに激しいシェア争いを繰り広げる競合他社ですが、ひとたび貨物の情報管理となると、レイルインクという一つのプラットフォームを通じて固く結ばれます。
レイルインクは、北米鉄道協会(AAR)の完全子会社であり、鉄道会社が共同で出資・所有する組織です。ここでは、北米を走るすべての貨車の個体識別番号、位置情報、修理履歴、そして運賃の精算データなどが一元管理されています。日本の陸運業界に例えるなら、すべてのトラックの現在地と積荷の情報が、一つの公共的なセンターにリアルタイムで集約されているようなものです。
AEIが実現する自動追跡の仕組み
この膨大なデータの入力を支えているのが、AEI(自動車両識別装置)という技術です。北米のすべての貨車には、RFIDタグ(電波で情報を読み取る小型のチップ)が装着されています。線路脇に設置されたアンテナの横を列車が通過すると、停車することなく、すべての車両番号が瞬時に読み取られ、レイルインクのデータベースへ送信されます。
この仕組みの優れた点は、人手を一切介さないことです。日本の現場でよく見られる、担当者がコンテナ番号を目視で確認し、手帳にメモして後でシステムに入力するといった作業はありません。物理的な移動がそのままデジタルデータとして反映されるため、入力ミスやタイムラグが排除されています。
異なる会社をまたぐ「インターライン輸送」の同期
米国の鉄道輸送の約4割は、複数の鉄道会社を乗り継いで目的地へ向かうインターライン輸送です。例えば、西海岸のロサンゼルスから東海岸のニューヨークへ運ぶ際、途中のシカゴでユニオン・パシフィック鉄道からノーフォーク・サザン鉄道へ貨物を引き渡すことがあります。
この際、レイルインクがハブ(中継点)となり、会社間での情報の受け渡しを自動的に行います。
- 西側の鉄道会社が「シカゴ到着」をレイルインクに通知
- レイルインクが「引き渡し」を判定し、東側の鉄道会社にデータを送信
- 東側の鉄道会社が「引き受け」を完了し、新たな輸送計画を起動
このバトンパスがEDI(電子データ交換)を通じてミリ秒単位で行われるため、荷主はあたかも一つの会社から運ばれているかのように、一貫した追跡情報を得ることができます。
中小鉄道事業者を守るデジタル基盤
米国には巨大なクラス1鉄道だけでなく、特定の地域のみを走る数百の中小鉄道会社(ショートライン)も存在します。これらの小規模事業者は、自前で高度な追跡システムを開発する予算を持ちませんが、レイルインクが提供するクラウド型のサービスを利用することで、大手と同等のデータ管理が可能になります。
これにより、ローカルな支線から大陸横断の本線まで、情報の精度が途切れることなく保たれます。これは、日本の地方運送業者が大手のプラットフォームに相乗りし、共通の荷札やシステムで日本全国をカバーする仕組みを構築するうえで、非常に参考になるモデルです。
データの「透明性」がもたらす信頼
レイルインクの存在は、単なる効率化以上の価値を生んでいます。それは、情報の透明性による信頼の構築です。荷主、鉄道会社、そして末端を担うトラック事業者が同じデータを見ているため、「荷物がどこにあるか分からない」という不安が解消されます。
物流学の博士として強調したいのは、データの共有は競争優位性を失うことではなく、業界全体のパイを広げるためのインフラであるという点です。米国鉄道業界は、競合と協調の境界線を「データ基盤」に引くことで、世界最強の陸上輸送網を作り上げました。
次回の記事では、この鉄道網と港を繋ぐ結節点、ターミナル内での高度なコンテナ管理と、そこで活躍するシャーシ・プールの実態について解説します。
出典
- Railinc Corp. “Annual Data Report and System Infrastructure Overview” 2024
- Association of American Railroads (AAR) “Manual of Standards and Recommended Practices”
- Federal Railroad Administration (FRA) “Railroad Safety and Technology Progress”
第3回:港の渋滞をシステムで解く — ターミナル管理システム(TOS)とシャーシ・プールの舞台裏
港湾ターミナルは、船から卸された膨大なコンテナが鉄道やトラックへと受け渡される、いわば物流の巨大な心臓部です。特にロサンゼルス港やロングビーチ港のような拠点では、1日に数万本ものコンテナが動きます。これほど過密な現場で、なぜ貨物が迷子にならず、トラックが整然と動けるのか。その鍵は、ターミナル管理システム(TOS)による緻密な作業制御と、米国特有のシャーシ・プールという合理的な資産管理にあります。
現場を指揮するOS:ターミナル管理システム(TOS)
ターミナル内のすべての動きを司っているのが、ターミナル・オペレーティング・システム(TOS)と呼ばれる中核システムです。これは単なる台帳管理ではなく、クレーンの動きや車両の配置をリアルタイムで指示する、現場の「指揮官」としての役割を果たします。
コンテナが船から卸される際、TOSは瞬時にその貨物の目的地を確認します。鉄道で内陸へ向かうのか、それとも地元のトラックが引き取りに来るのか。その判断に基づき、ヤード内の最適な保管場所(スロット)を自動的に割り当てます。
物理的な位置を特定するPDS技術
広大なヤードのどこにコンテナを置いたかを正確に把握するために、PDS(位置特定システム)が活用されています。荷役を行うクレーンには高精度なGPSが搭載されており、コンテナを地面に下ろした瞬間に、その座標(列・段・高さ)がTOSに自動送信されます。
日本の現場では、作業員が無線で「〇〇番の列に置いた」と報告し、それを事務員が入力するケースも見られますが、米国の大規模ターミナルでは、このプロセスに人手を介しません。物理的な動作がそのままデータとして同期されるため、情報の精度は極めて高く、探し回る無駄な時間が排除されています。
シャーシ・プールによる資産の共同利用
米国のインターモーダル輸送を支えるもう一つの重要な仕組みが、シャーシ・プールです。シャーシとはコンテナを載せる台車のことですが、米国ではこれを個々の運送会社が所有するのではなく、特定の地域で共同管理する「プール制」が一般的です。
トラック運転手は、自分のトラック(トラクター)だけでターミナルに来れば、プールにある共有のシャーシを自由に借りてコンテナを運び出すことができます。この運用のメリットは、情報の同期によってさらに最大化されます。
- GIER(統一機器登録システム): 北米中のシャーシの仕様や安全点検情報を管理するデータベースです。
- EDI 322: シャーシがゲートを通過した際、その番号とコンテナ番号が紐付けられ、利用開始のメッセージが自動的に所有者へ送られます。
これにより、誰がどのシャーシを使っているかがガラス張りになり、返却時の精算も自動で行われます。運送会社にとっては、高価なシャーシを自社で抱え込む必要がなくなり、車両の稼働率を大幅に高めることができます。
トラック予約システム(TAS)がもたらす平準化
ターミナルのゲート前にトラックが列をなす光景は、物流効率を著しく低下させます。これを解決するために導入されているのが、トラック予約システム(TAS)です。
日本の陸運現場でも「予約受付システム」の導入が進んでいますが、米国のTASはより厳格です。予約枠がないトラックはゲートを通過することすらできません。TOSはこの予約データと連動しており、トラックが到着する前に、対象のコンテナを「取り出しやすい場所」に事前に並べ替えておく(プレ・ステージング)指示を出します。
この事前準備により、トラックがヤードに入ってからコンテナを載せて出ていくまでの「滞在時間」を劇的に短縮しています。
構造的な視点:待機時間は「情報の欠如」から生まれる
物流学の観点から見れば、トラックの待機時間の多くは、情報の不一致や確認作業から生まれます。TOS、PDS、そして共有のシャーシ・プールという三つの仕組みが同期することで、現場から「確認のための待ち」が消えました。
日本の陸運事業者の皆様にとって、こうした高度なシステム導入はコスト面でハードルが高く感じられるかもしれません。しかし、重要なのはシステムそのものよりも、「資産(シャーシ等)を共同利用し、データを共有して全体最適を図る」という考え方です。
次回の記事では、これらのコンテナが鉄道に載せられた後、米国の内陸輸送で主流となっている「53フィートコンテナへの詰め替え(トランスロード)」という、驚くほど合理的な戦略について詳しく見ていきます。
出典
- Navis LLC “Optimizing Terminal Operations with N4”
- IANA (Intermodal Association of North America) “Chassis Support and GIER Standards”
- Port of Long Beach “Operational Performance Reports” 2024
第4回:40フィートから53フィートへ — 知られざる「詰め替え(トランスロード)」の魔法
日本の港湾や道路で見かけるコンテナは、そのほとんどが20フィートや40フィートの海上コンテナです。しかし、米国の内陸部を走る貨物列車やトラックに目を向けると、一回り大きな「53フィートコンテナ」が主役であることに気づきます。なぜ米国では、港に届いたコンテナの中身をわざわざ別のコンテナに入れ替えるのでしょうか。このトランスロード(積替え)と呼ばれる工程には、物流コストを劇的に下げるための高度な戦略と、それを支えるデータの仕掛けが隠されています。
3個を2個にまとめる容積の力
海上コンテナは、船の規格に合わせた世界共通のサイズ(主に40フィート)で作られています。一方で、米国の国内輸送で主流となっている53フィートコンテナは、陸上の道路交通法に則って最大化された米国独自の規格です。
40フィートと53フィートでは、長さだけでなく高さや幅もわずかに異なりますが、その容積差は非常に大きく、**「40フィートコンテナ3本分の荷物を、53フィートコンテナ2本分に詰め替える」**ことが可能です。
この詰め替え作業を行うのが、港の周辺に立ち並ぶ巨大なトランスロード施設(積替倉庫)です。ここで海上コンテナから荷物を引き出し、国内用の53フィートコンテナに隙間なくパズルのように積み直す「スタッフィング」が行われます。
なぜわざわざ手間をかけて詰め替えるのか
一見すると、手間も時間もかかる作業に思えますが、長距離輸送になればなるほど、この「容積の集約」が威力を発揮します。
- 輸送コストの削減: 鉄道の貨車に載せる際、コンテナの数が3本から2本に減ることで、鉄道運賃を約3分の1削減できます。
- 空コンテナの早期返却: 海上コンテナは船会社からの借り物であり、返却が遅れると延滞料(デテンション)が発生します。港の近くで中身を出し、空になった40フィートコンテナをすぐに船会社へ返却することで、この無駄なコストを回避できます。
- 在庫の分散: 港の倉庫で荷物を仕分ける際、一つのコンテナに入っていた荷物を、東海岸行き、中西部行きなど、目的地別に再構成して53フィートコンテナに詰め直すことができます。
物流データを「書き換える」情報の分界点
トランスロード施設は、物理的な荷物の詰め替え場所であると同時に、情報の「書き換え地点」でもあります。
海上輸送の段階では、荷物は船会社が発行した通しの船荷証券(Through B/L)の下で管理されています。しかし、トランスロード施設で53フィートコンテナに詰め替えられた瞬間、その情報は米国内の「国内輸送データ」へと変換されます。
- WMS(倉庫管理システム): どの40フィートコンテナから、どの商品が、どの53フィートコンテナに移されたかを、バーコードスキャンによって正確に記録します。
- EDI 214(運送状況報告): 詰め替えが完了し、新たな53フィートコンテナとして出発した情報は、即座に荷主のシステムへ送られます。
このデータの紐付けが正確に行われているため、荷主は「船で運ばれていたあの商品の山が、今は53フィートコンテナの〇〇番に入って、シカゴに向かっている」ということを、システム上で一貫して追跡できるのです。
アラミダ・コリドーを通過するデータの判別
前回の記事で触れた「アラミダ・コリドー」を通過する際も、この情報の違いが重要になります。
港から直接鉄道に載った40フィートコンテナは「国際貨物」として、トランスロード後に鉄道ヤードへ持ち込まれた53フィートコンテナは「国内貨物」として、それぞれAEI(自動車両識別装置)によって自動判別されます。アラミダ・コリドーの通行料は、その貨物が国際か国内かによって設定が異なるため、この識別データが課金システムの根拠となります。
日本の陸運事業者への示唆:容積を制する者がコストを制する
日本の陸運現場でも、10トン車から大型トレーラーへの転換や、ダブル連結トラックの導入が進んでいますが、米国における53フィートコンテナへのトランスロード戦略は、「容積を最大化し、輸送単位を減らす」という執念の表れとも言えます。
物流学の博士として注目したいのは、この詰め替え作業が、高度な倉庫管理システム(WMS)と輸送管理システム(TMS)の連携によって、ミスなく、かつスピーディーに行われている点です。物理的な効率を追求すればするほど、それを支えるデータの正確性が命綱となります。
次回の第5回では、こうして鉄道に乗せられた国際貨物が、港から1000キロ以上離れた内陸でどのように「通関」を終えるのか、シカゴのセンターポイント・ターミナルを例に、インランド・ポート(内陸港)の驚くべき仕組みを解説します。
出典
- Journal of Commerce (JOC) “Transloading Trends in North American Supply Chains”
- Burlington Northern Santa Fe (BNSF) “Domestic Intermodal Service Guide”
- Council of Supply Chain Management Professionals (CSCMP) “Logistics Management Handbook”
第5回:シカゴ・センターポイントの衝撃 — 内陸で「通関」が終わるデジタル・ポート
ロサンゼルス港やロングビーチ港から大陸横断鉄道に載せられたコンテナは、広大な乾燥地帯やロッキー山脈を越え、約3,200キロメートル離れた物流の巨大ハブ、シカゴへと向かいます。通常、海外からの貨物は到着した港で税関の審査を受けるものですが、米国には港での手続きをあえて行わず、保税状態(関税を支払う前の状態)のまま内陸まで運び、そこで通関を完了させる仕組みがあります。その象徴的な拠点が、シカゴ近郊にある「センターポイント・インターモーダル・センター」です。
海のない場所に存在する「港」の正体
シカゴのセンターポイントは、数千エーカーもの広大な敷地に鉄道ヤード、巨大倉庫、そして高度な検問機能が一体となった、世界最大級の「内陸港(インランド・ポート)」です。ここでは、海に面していないにもかかわらず、ロサンゼルス港と同じように国際貨物の輸入手続きを行うことができます。
この運用を支えるのが、保税内陸輸送(IT:Immediate Transportation)という法的枠組みです。貨物は港に到着した際、鉄道の貨車に載せられたまま「シカゴで通関する」というフラグがシステムに立てられます。これにより、港での滞留時間を最小限に抑え、列車のスピードを活かして内陸の消費地のすぐそばまで貨物を一気に引き込むことが可能になります。
税関システムACEと鉄道データの直結
内陸でのスムーズな通関を実現しているのは、米国税関・国境取締局(CBP)が運用する「ACE(Automated Commercial Environment)」という高度な電子通関システムです。
このシステムは、鉄道会社の運行データとリアルタイムで同期しています。列車がシカゴのターミナルに進入し、AEI(自動車両識別装置)によって「到着」が確認されると、その情報は即座にACEへ送信されます。通関業者が事前に提出していた輸入申告データと、鉄道会社からの到着データがシステム上で突き合わせられ、問題がなければ、人間が介在することなく数秒で「リリース(通関許可)」の通知が発行されます。
外国貿易地帯(FTZ)によるキャッシュフローの改善
センターポイントのもう一つの大きな特徴は、敷地全体が「外国貿易地帯(FTZ)」に指定されている点です。FTZとは、米国の関税法上、米国外とみなされる特別な区域のことです。
ここに貨物を持ち込む荷主には、非常に大きなメリットがあります。
- 関税の支払い延期: 貨物がFTZ内にある限り、関税を支払う必要はありません。実際に倉庫から出荷され、米国内の市場に流通するまで支払いを先延ばしにできるため、企業のキャッシュフローが劇的に改善されます。
- トランスロードとの相乗効果: 第4回で解説した「詰め替え作業」も、この保税状態を維持したままFTZ内で行うことができます。40フィートコンテナから53フィートコンテナへ荷物を移し替え、配送先が決まってから通関を切るという、無駄のない運用が可能です。
物理的な「壁」を情報が飛び越える
物流学の視点からこの仕組みを分析すると、物理的な「港」という場所の制約を、情報の同期によって解消していることが分かります。
日本の現状では、輸入貨物はまず到着した港(横浜、神戸など)の保税地域で手続きを行うのが一般的です。しかし、米国のモデルは、デジタルデータが貨物よりも先に目的地へ到達し、手続きの準備を整えておくことで、物理的な移動の足を止めないという考え方に基づいています。これは、将来的に日本の内陸部に「インランド・デポ」を構築し、港湾の混雑を解消しようとする政策担当者にとっても、非常に重要な参考事例となっています。
陸運事業者が知っておくべき「内陸のハブ」の価値
シカゴのセンターポイントのような拠点は、単なる列車の終着駅ではありません。そこは、国際物流が国内物流へと切り替わる「変換プラント」です。ここで通関を終えた貨物は、即座にラストワンマイルのトラックへと引き継がれ、中西部の各都市へと散っていきます。
トラック事業者にとって、港までコンテナを取りに行く必要がなく、近隣の内陸ハブで通関済みの貨物を受け取れることは、運行効率の向上とドライバーの負担軽減に直結します。
最終回となる次回の第6回では、これまで見てきたすべての輸送データが、最終的に荷主の「経営システム(ERP)」とどのように繋がり、企業の在庫戦略をどう変えているのか、物流DXの到達点についてまとめます。
出典
- CenterPoint Properties “The Power of the Inland Port: Logistics Efficiency”
- U.S. Customs and Border Protection (CBP) “ACE Cargo Release Glossary”
- University of Illinois Chicago, Intermodal Freight Research Studies
第6回:荷主のERPと直結する未来 — 輸送データが「経営の数字」に変わる時
連載の締めくくりとして、これまで見てきた港湾のTOS、鉄道のレイルインク、税関のACEといった各システムから生み出される膨大なデータが、最終的にどこへ行き着くのかを解説します。現代の米国物流において、輸送データは単なる「居場所の通知」ではありません。荷主の企業の根幹を支える経営システムであるERP(企業資源計画システム)と直接つながり、企業の在庫戦略や生産計画をリアルタイムで制御する生きた情報へと進化しています。
輸送ステータスが経営判断を自動化する
荷主(製造業や流通業)のオフィスでは、担当者が各運送会社のホームページを一つずつ確認して、コンテナの現在地を調べるような作業は過去のものとなりつつあります。
現在は、可視化プラットフォーム(プロジェクト44やフォーカイツなど)と呼ばれる中継システムが、鉄道やトラック、港湾からのデータを集約し、API(アプリケーションを繋ぐ窓口)を通じて荷主のERPへ直接流し込みます。
例えば、シカゴのセンターポイントで通関が許可されたというデータがERPに入ると、システムは自動的に「3日後に倉庫へ10,000個の商品が納品される」と予測し、同時にそれらを待っている全国の顧客への配送指示や、工場の次週の生産ラインの稼働調整を行います。
洋上・路上在庫という概念の確立
高度な情報同期が行われている米国では、輸送中の貨物を単なる「移動中の荷物」ではなく、正確にカウントすべき資産である洋上在庫(In-transit Inventory)として管理します。
鉄道のAEIやシャーシのテレマティクス(通信機能を備えた動態管理)によって、コンテナがいつ到着するかが分単位で予測できるため、荷主は手元の倉庫に余分な在庫を抱え込む必要がなくなります。
- 安全在庫の削減: 到着の不確実性が減ることで、欠品を防ぐための「余分な在庫」を最小限に抑えることができます。
- 運転資本の圧縮: 在庫が減れば、その分だけ企業が自由に使える現金(キャッシュフロー)が増え、経営の健全性が高まります。
異常検知と動的なリソーシング
物流には、天候不順やストライキといったトラブルが付き物です。米国のシステムが真に威力を発揮するのは、こうした異常事態(エクセプション)が発生した時です。
例えば、大陸横断鉄道の途中で落石により半日の遅延が予見された場合、その情報は即座にERPに伝わり、欠品リスクのある重要貨物のみを、次のハブ駅からトラック(ドレージ)へ切り替えて緊急配送するといった判断をシステムが支援します。これを例外管理(Exception Management)と呼びます。現場の混乱を最小限に抑え、経営へのダメージを未然に防ぐ「動的な意思決定」が、データの同期によって可能になっています。
物流学の視点:情報の同期が物理の壁を超える
本連載を通じて見てきた通り、米国のインターモーダル輸送の強さは、物理的なインフラの巨大さだけでなく、異なる組織間での情報の同期というソフトウェアの強さにあります。
物流学の博士として総括すれば、物流DXの到達点は「物理的な貨物の移動」と「経営上の数字の移動」を完全に一致させることにあります。輸送中に何が起きているかが100%可視化されていれば、倉庫はもっと小さくて済み、トラックの空車回送はもっと減らせるはずです。
日本の陸運事業者の皆様へ
2024年問題をはじめとする日本の物流の課題は、単なる労働力不足の問題ではありません。米国の事例が示すように、情報を共通言語化し、業界全体で共有する仕組みを構築できれば、限られたリソース(車両・ドライバー・線路)を何倍にも効率的に活用できる可能性があります。
米国のシステムは、広大な国土という制約を克服するために、データの透明性を武器として進化しました。日本の皆様が、自社のDXを検討される際、あるいは荷主企業と新たな連携を模索される際に、この米国の「情報のバトンリレー」の構造が、未来を描くための一助となれば幸いです。
出典
- Gartner “Magic Quadrant for Real-Time Transportation Visibility Platforms” 2024
- SAP Insights “How Real-Time Supply Chain Visibility Transforms Logistics”
- 経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップ」
注意
以上の文書はAI Geminiが生成しており、誤りが含まれる場合があります。
参考
「まとめて運べば安くなる」を徹底追及する海外/「汗と涙の人海戦術」で人手不足の日本 物流の“深刻な差”どうして?【物流と鉄道“失われた30年”前編】











