【ラジオ】物流をインターネット化する欧州の野望

欧州のマルチモーダル輸送は、欧州連合(EU)という巨大な経済圏が、国境という壁を越えて物流を最適化するために作り上げた壮大な社会実験の成果です。本連載では、物流学の視点から、欧米の成功と失敗の裏側にある論理を解き明かし、日本の物流DXへのヒントを探ります。

目次

第1回:欧州マルチモーダル輸送のグランドデザイン

環境と効率を両立させる法的な誘導

欧州における物流政策の最大の柱は、欧州グリーンディールと呼ばれる環境政策です。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという目標に向け、輸送部門には極めて厳しい転換が求められています。具体的には、300km以上の長距離道路輸送の75%を鉄道や内陸水運へシフトさせるという、野心的な数値目標が掲げられています。

この目標は、単なるスローガンではありません。欧州では、道路通行料(マウト)をトラックの排ガス量や重量に応じて高額に設定する一方で、鉄道や船舶を利用する荷主や事業者には補助金を出すといった、市場メカニズムを直接的に操作する手法が取られています。これをモーダルシフト(輸送手段の転換)の推進と呼びます。

TEN-T(欧州広域輸送ネットワーク)という背骨

物流網を効率化するためには、物理的なインフラの規格が統一されていなければなりません。そこでEUが主導しているのがTEN-Tです。これは、欧州内の主要な港、空港、鉄道ターミナル、道路を結ぶネットワークを、一つの規格でつなぎ合わせる計画です。

例えば、貨物列車の長さを740mまで許容する、あるいは列車の信号システムを欧州共通のETCS(欧州列車制御システム)に統一するといった内容が含まれます。これにより、国境を越えるたびに機関車を交換したり、運転士が交代したりするロスを削減することが可能になります。

RFC(鉄道貨物コリドー)による国境の無効化

欧州の鉄道輸送における最大の特徴は、RFC(欧州鉄道貨物コリドー)の設定です。これは主要な貨物ルートを、国境を越えた一つの廊下として定義する考え方です。

従来、国際列車を走らせるためには、各国(ドイツ、フランス、イタリアなど)の鉄道管理組織に個別に走行枠を申請する必要がありました。RFCでは、C-OSS(コリドー・ワンストップ・ショップ)という一元的な窓口が設置され、オンライン上で全区間の予約が一度に完結します。

この仕組みを支えるのが、TAF-TSI(貨物テレマティクス・アプリケーション)というデータ交換の共通言語です。データの形式が法律で標準化されているため、ある国のシステムから送られたETA(到着予定時刻)や貨車の位置情報が、隣国のシステムでもそのまま読み取れます。情報が国境で分断されないことが、マルチモーダル輸送を支えるデータの信頼性につながっています。

内陸水運とロジスティックパークの戦略的配置

欧州の輸送システムにおいて、内陸水運(バージ輸送)は鉄道と並ぶ重要な主役です。ライン川やドナウ川といった大河川は、天然の高速道路として機能しています。ロッテルダムやアントワープといった巨大な海港(シーポート)に到着したコンテナは、即座に数百個単位で内陸船に積み込まれ、内陸深くまで運ばれます。

その中継点となるのが、GVZ(ロジスティックパーク)と呼ばれる大規模な物流拠点です。GVZは、鉄道の線路、運河、高速道路が一点に集まる場所に戦略的に配置されています。ここで、大量輸送(鉄道・船)から個別配送(トラック)への積み替えが行われます。単なる倉庫の集積地ではなく、モードの切り替えを効率化するための変換装置として機能しているのが特徴です。

日本の政策担当者への視点

日本の物流現場でも2024年問題が深刻化し、長距離輸送の維持が危ぶまれています。欧州の事例を客観的に見ると、個別の企業の努力に任せるのではなく、インフラの規格統一や、モードを跨ぐデータ連携を法的に義務付ける姿勢が際立っています。

もちろん、日本には地続きの国境はありませんが、会社間やモード間の情報の壁は依然として存在します。欧州がRFCやTAF-TSIで実現した情報の同期は、日本におけるフェリーや鉄道貨物の利用促進に向けた、極めて有効な先行事例と言えます。

出典:

European Commission: The European Green Deal (2019)
European Commission: Regulation (EU) No 913/2010 concerning a European rail network for competitive freight
Rail Net Europe (RNE): Rail Freight Corridors Implementation Report (2024)

第2回:上下分離とRFC(鉄道貨物コリドー)の衝撃

欧州の鉄道貨物輸送が、なぜ国境を越えてスムーズに動き、民間事業者が活発に参入できるのか。その理由は、物理的な線路の整備以上に、インフラの管理と列車の運行を切り分けた「上下分離」という構造と、それを支える高度なデジタル基盤にあります。

インフラと運行の分離がもたらす競争原理

欧州では、EU指令に基づき、線路を管理する「インフラマネージャー(IM)」と、実際に列車を走らせる「鉄道会社(RU)」を分離する上下分離方式が定着しています。日本でも一部で見られる形態ですが、欧州の特徴はその徹底した「オープンアクセス(自由参入)」にあります。

IMは、自国の鉄道会社だけでなく、他国の鉄道会社や新規参入した民間事業者に対しても、等しく線路の使用枠を貸し出す義務があります。この構造により、例えばドイツの会社がフランスやイタリアの線路を使って自社便を運行するといった、国境を跨ぐダイナミックな輸送サービスが可能になっています。

RFC(鉄道貨物コリドー)という仮想的な一本の線

しかし、国ごとにIMが分かれていると、国際列車の運行には煩雑な調整が必要です。そこで導入されたのがRFC(欧州鉄道貨物コリドー)です。これは主要な国際物流ルートを、複数の国のIMが共同で管理する一つの廊下(コリドー)として定義する仕組みです。

RFCの最大のメリットは、各コリドーに設置されたC-OSS(コリドー・ワンストップ・ショップ)という一元窓口です。従来は国ごとに必要だった走行枠の申請を、PCS(パス調整システム)という共通のウェブツールを通じて一括で行えます。これにより、荷主や事業者は、国境での調整を意識することなく、欧州を横断する「一本のダイヤ」を手に入れることができます。

TAF-TSI:データ交換の共通プロトコル

上下分離と自由競争を支える隠れた主役が、TAF-TSI(貨物テレマティクス・アプリケーション)という技術規格です。これは、異なる会社や国のシステム間で、どのように情報をやり取りするかを定めた「共通のデジタル言語」です。

列車の現在地、到着予定時刻(ETA)、さらには貨車に何が載っているかという編成情報まで、全てこの規格に則ってデータ化されます。法律でこの形式での通信が義務付けられているため、どの会社のどの列車であっても、システム上でその動きを正確に把握できます。情報の形式がバラバラであれば、国境を越えるたびに手作業でのデータ入力が必要になりますが、欧州ではこの共通言語化によって、情報の「分界点」を消し去っています。

TIS(列車情報システム)によるリアルタイム監視

事業者が最も恩恵を受けているシステムの一つが、TIS(列車情報システム)です。これは欧州全域のIMから集まる信号データを集約し、列車の動きをリアルタイムで地図上に可視化するものです。

自社の列車だけでなく、接続待ちをしている他社の列車の遅延状況も把握できるため、ハブ駅での積み替え作業やトラックの配車を、正確なETAに基づいて調整できます。GPS端末を貨車に付けずとも、インフラ側のデータから正確な位置が分かる点は、インフラ管理者が中立なデータ提供者として機能している欧州ならではの強みです。

日本の陸運事業者への示唆

日本の鉄道貨物も、JR貨物(RU)と各旅客鉄道会社(IM)という、ある種の上下分離構造を持っています。しかし、欧州との決定的な違いは、その間を流れる情報の透明性と、複数モードを跨ぐ調整のデジタル化にあります。

欧州のRFCやTAF-TSIの事例は、異なる事業者間であっても、データの規格さえ統一されていれば、一つの巨大なネットワークとして機能できることを示しています。2024年問題への対策として、日本でも鉄道や船舶へのシフトが叫ばれていますが、単に箱を運ぶだけでなく、モードを跨ぐ際の「情報の同期」をいかに標準化するか。それが、次世代のインターモーダル輸送を実現する鍵となります。

出典:

RailNetEurope (RNE): Path Coordination System (PCS) User Manual and Product Description (2024)
European Union Agency for Railways (ERA): TAF TSI Technical Documents
Regulation (EU) No 913/2010: Rail Freight Corridors (RFCs) implementation framework

第3回:内陸水運と港湾の「シンクロ」

欧州のマルチモーダル輸送を語る上で、鉄道と並んで欠かせないのが河川を利用した内陸水運です。特にライン川やドナウ川を抱える地域では、船は単なる「古い輸送手段」ではなく、最新のITによって管理された高度な物流インフラとして機能しています。

天然の高速道路を支える河川情報サービス(RIS)

欧州の内陸水運が鉄道やトラックと対等に競える理由は、RIS(River Information Services:河川情報サービス)というデジタル基盤にあります。これは、船舶の動態管理、水深データ、ロック(閘門)の通過予約などを統合したシステムです。

船長は操舵室のモニターで、周辺を航行する他船の正確な位置や、数時間後の水深予測をリアルタイムで確認できます。これにより、積載可能な貨物量を直前まで最適化でき、座礁のリスクを回避しながら、河川という自然インフラを「計算可能な輸送路」へと変えています。情報の形式は全欧で標準化されており、国境を越えてもシームレスにデータが引き継がれます。

内陸港(インランド・ポート)の戦略的機能

内陸水運の拠点となるのは、単なる船着き場ではなく「内陸港」と呼ばれる高度な物流ハブです。デュイスブルク(ドイツ)やウィーン(オーストリア)などの内陸港は、鉄道の編成分類場と広大なコンテナターミナルを併せ持っています。

ここで重要なのが、海港(シーポート)との情報の同期です。ロッテルダム港などに到着したコンテナは、船から内陸船へと直接積み替えられ、内陸港へ向かいます。この際、税関手続きを内陸港で行う「オン・ドック通関」のような仕組みが取られることも多く、巨大な海港での滞留時間を最小化させています。海港と内陸港を、一本のベルトコンベアのように結ぶことで、コンテナの移動効率を最大化しています。

シンクロモーダル輸送への発展

内陸水運は環境負荷が極めて低い一方、鉄道やトラックに比べて速度が遅く、水位変動の影響を受けるという弱点があります。これを克服するために欧州で進んでいるのが「シンクロモーダル輸送」です。

これは、荷主が特定の輸送手段を指定せず、オペレータに「いつまでに届けるか」という条件だけを委ねる契約形態です。オペレータは、河川の水位が十分であれば安価で低炭素な船を使い、水位が下がれば即座に鉄道やトラックへルートを切り替えます。この動的な判断を支えるのが、RISや鉄道のTISから集約されたリアルタイムデータです。手段を固定しない柔軟性が、内陸水運の弱点を補い、ネットワーク全体の強靭性を高めています。

日本の陸運事業者への示唆

日本には欧州のような大規模な国際河川はありませんが、内航海運(フェリーやRORO船)がその役割を担っています。しかし、港湾と陸上輸送のデータ連携という点では、欧州の内陸水運モデルから学ぶべき点が多くあります。

例えば、トラックの到着予定と船の積み込み枠をリアルタイムで照合し、空きがあれば自動的に混載を提案するようなシステムは、ドライバー不足に悩む日本の地方都市間の輸送において、極めて有効な解決策となります。物理的なインフラを増やす前に、既存の「水上の道」をデジタルで可視化し、陸上のスケジュールと同期させる。これが欧州が示した、インフラを賢く使い倒す知恵です。

出典:

European Commission: River Information Services (RIS) Directive
CCNR (Central Commission for the Navigation of the Rhine): Market Observation reports
ALICE (Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe): Synchromodality position paper

第4回:ロジスティックパーク(GVZ)とラストワンマイルの結合

幹線輸送がどれほど効率化されても、最終的な目的地である工場や店舗に荷物が届かなければ物流は完結しません。欧州では、この幹線(船・鉄道)と支線(トラック)を接続する「変換装置」として、GVZ(ロジスティックパーク)が極めて戦略的に設計されています。

貨物の流れを整流するGVZの設計思想

ドイツを中心に発展したGVZ(Güterverkehrszentrum:貨物輸送センター)は、単なる倉庫の集まりではありません。その最大の目的は、異なる輸送モードを一点に集約し、貨物の流れを整流することにあります。

GVZの立地条件は厳格で、高速道路のインターチェンジ、鉄道の編成分類場、そして可能であれば内陸水路のターミナルに隣接して設置されます。ここで、鉄道や船で届いた大量のコンテナを荷ほどきし、都市配送用の小型トラックへと効率的に積み替えます。この「幹線から支線への滑らかな転換」こそが、都市部の渋滞緩和と物流の低炭素化を同時に実現する鍵となっています。

共同配送と付加価値サービスの両立

GVZ内には、運送会社、フォワーダー(利用運送事業者)、梱包業者、さらには車両の整備工場や通関事務所などが集積しています。この物理的な近接性が、事業者間の「共同配送」を容易にしています。

例えば、複数の荷主の荷物を一つのトラックにまとめて都市部へ送り出す「配送の集約化」が、GVZというプラットフォーム上で行われます。また、単なる保管だけでなく、ラベル貼りや組み立てといった流通加工(付加価値サービス)をこの拠点で行うことで、輸送回数を削減し、サプライチェーン全体のリードタイムを短縮させています。

都市物流(シティ・ロジスティクス)とのデジタル連携

現在、欧州のGVZで進んでいるのは、都市部の交通規制と連動したデジタル管理です。多くの欧州都市では、環境保護のために大型トラックの進入を制限する低排出ゾーン(LEZ)が設定されています。

GVZの管理システムは、都市側の交通データと同期しており、どの荷物をどのタイミングで、どの電気自動車(EV)や貨物自転車に積み替えるべきかを最適化します。幹線輸送のETA(到着予定時刻)に基づき、ラストワンマイルの配送車両をジャストインタイムで手配する。この「情報のバトンパス」が、GVZという物理拠点を介してデジタルに行われています。

日本の公務員・政策担当者への示唆

日本においても「物流団地」や「トラックターミナル」は存在しますが、欧州のGVZと比較すると、鉄道引込線との直結や、モード間の共同利用という面で課題が残ります。

特に都市部周辺の公有地や再開発地域において、単に倉庫を誘致するのではなく、鉄道や海運との接点を持ち、かつ複数の事業者がアセットを共有できる「中立的なインフラ」としてのロジスティックパークを整備することが重要です。民間企業一社の最適化ではなく、地域全体の物流を「整流」するという公的な視点での拠点設計が、2024年問題以降の持続可能な物流網を支える基盤となります。

出典:

Deutsche GVZ-Gesellschaft mbH: State of the Art of the European GVZ (2023)
European Conference of Transport Ministers (ECMT): Freight Transport and the City
Fraunhofer IML: Logistics Centers as Nodes of the Physical Internet

第5回:シンクロモーダル:不確実性を強みに変える動的制御

幹線、支線、そして拠点が物理的につながっても、天候や事故による遅延といった不確実性は排除できません。欧州では、この不確実性をシステムで吸収し、輸送の信頼性を高める「シンクロモーダル」という概念が実用化されています。

モード選択を固定しない新しい契約

従来のインターモーダル輸送では、荷主はあらかじめ「鉄道で行く」か「トラックで行く」かを決めて予約を行っていました。しかし、シンクロモーダルでは、荷主は具体的な輸送手段(モード)を指定しません。その代わりに、到着希望日時、コスト、環境負荷($CO_2$排出量)といったサービスレベル(SLA)のみをオペレータと合意します。

実際の輸送手段の選択権は、運行を管理する物流事業者に委ねられます。これにより、例えば「当初は内陸船を予定していたが、ライン川の水位低下で遅延が予測されるため、直前で空きのある鉄道貨物へ振り替える」といった、動的な最適化が可能になります。

リアルタイムデータによる意思決定の自動化

この高度な柔軟性を支えているのは、これまで紹介したRFCの運行データや、河川のRIS、さらには道路の渋滞情報を統合したデータプラットフォームです。

システムは、ネットワーク全体の状況をリアルタイムでスキャンし続け、異常が発生した際には即座に代替ルートを提示します。これには、単に「早いルート」を探すだけでなく、コンテナの積載効率やエネルギー効率を考慮したAIによるアルゴリズムが活用されています。情報の分界点を取り払い、船、鉄道、トラックを一つの巨大な仮想プールとして扱うことが、シンクロモーダルの本質です。

荷主と事業者のメリット:柔軟性が生むレジリエンス

シンクロモーダルは、荷主と物流事業者の双方に客観的なメリットをもたらします。荷主にとっては、特定のモードのトラブルに左右されず、約束された時間までに荷物が届くという「レジリエンス(復元力)」が手に入ります。

一方、物流事業者にとっては、自社のアセット(車両や船)の稼働率を最大化できるメリットがあります。例えば、自社のトラックが不足していても、提携する鉄道の空き枠があれば、それを利用して契約を完結させることができます。このように、リソースを「モード」という枠組みから解き放ち、ネットワーク全体で共有することが、全体の生産性向上に直結しています。

日本の公務員・政策担当者への示唆

日本でモーダルシフトが進まない理由の一つに、「鉄道や船は遅延や欠航のリスクがあり、トラックに比べて使いにくい」という荷主側の懸念があります。シンクロモーダルは、この心理的・物理的な壁を打ち破るヒントになります。

日本においても、JR貨物、内航フェリー、陸運業者の各システムが相互に接続され、異常時に「自動的に代替ルートが提案される」ような仕組みが構築されれば、荷主は安心してトラック以外の選択肢を選べるようになります。個別のモードを強化するだけでなく、モード間を繋ぐ「意思決定のデジタル化」に投資することが、日本の物流構造改革においても極めて重要です。

出典:

ALICE (Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe): Synchromodality position paper.
ECT (Europe Container Terminals): European Gateway Services Case Study.
TNO (Netherlands Organisation for Applied Scientific Research): Synchromodal Transport Research.

第6回:欧州型フィジカルインターネット(PI)の実装フェーズ

シンクロモーダルによって「モード」の壁が取り払われた先にあるのが、物流の究極の効率化を目指す「フィジカルインターネット(PI)」です。欧州では、これを単なる理論に留めず、物理的な規格とデジタルなプロトコルを統合した社会システムとして実装するフェーズに入っています。

物流を「情報のパケット」として再定義する

フィジカルインターネットとは、デジタル情報のやり取りであるインターネットの仕組みを、物理的な物流(フィジカル)に適用する概念です。インターネットでは、データは「パケット」という単位に分割され、最適な経路を自動的に経由して目的地に届きます。

これを物流に置き換えると、貨物は標準化された容器(PIコンテナやPIパケット)に収められ、荷主を問わず、ネットワーク上の空いているトラックや列車、倉庫(PIハブ)をリレーのように乗り継いで運ばれます。自社専用のトラックで運ぶという「所有」の概念から、共有されたネットワークを「利用」する概念への転換です。

モジュール設計と積載率の劇的向上

PIの実装において、欧州が最も注力しているのが「容器のモジュール化」です。これまでの物流では、荷主ごとに異なるサイズの段ボールが使われ、それがパレット上に隙間を生み、最終的にトラックの荷台に多くの「空きスペース」を作っていました。

欧州のPIプロジェクト(MODULUSHCA等)では、1.2mを基準とした倍数・約数の関係を持つモジュール型ボックスを採用しています。これにより、異なる荷主の箱を混ぜても、レゴブロックのように隙間なくパレットやコンテナに積み上げることが可能になります。現在、欧州のトラックの平均積載率は約60%程度と言われていますが、PIの完全実装により、これを90%以上に引き上げることが理論的に証明されています。

PIハブにおける自動ルーティング

PIのネットワークにおいて、第4回で紹介したGVZ(ロジスティックパーク)は「PIハブ」へと進化します。ここでの主役は人間ではなく、情報のカプセル化(デジタル・タグ)です。

各PIパケットには、目的地、納期、取り扱い条件などのデータが紐付けられており、ハブに到着した瞬間に自動仕分け機が次に向かうべき車両やコンテナを判別します。荷主が個別に配送ルートを指示するのではなく、システムがネットワーク全体の状況をリアルタイムで判断し、最も効率的な経路(シンクロモーダル的な選択)をパケットに割り当てます。

日本の公務員・政策担当者への示唆

日本でもフィジカルインターネットの実現に向けたロードマップが策定されていますが、欧州の事例から学ぶべきは「物理的な規格化」と「データのオープン化」をセットで進める姿勢です。

日本ではT11パレット(1100mm)の標準化が進んでいますが、その上の段ボール(パケット)のサイズまでモジュール化を広げ、かつ事業者間で積載データをリアルタイムに共有するプラットフォームを構築しなければ、PIの真のメリットは享受できません。個々の企業の競争領域(商品の質など)と、協調領域(輸送・容器の規格)を明確に分け、協調領域における「官」による標準化の推進が、日本の物流の生産性を底上げする鍵となります。

出典:

ALICE (Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe): Physical Internet Roadmap.
MODULUSHCA Project: Modular Logistics Units in Shared Co-modal Networks.
Ballot, E., Montreuil, B., & Meller, R. D.: The Physical Internet.

第7回:デジタル運送状(e-CMR)と法的責任の自動処理

物流がシンクロモーダルやフィジカルインターネット(PI)によって高度化し、複数の運送人やモードをリレー形式で繋ぐようになると、実務上の大きな壁となるのが「損害賠償責任の所在」です。欧州では、この複雑な責任関係をデジタル技術によって解決し、事業者のリスクを予見可能なものにする取り組みが進んでいます。

モードを跨ぐ「責任の空白」をどう埋めるか

インターモーダル輸送において貨物に損害(破損や紛失)が生じた際、どの区間で事故が起きたかが不明確だと、適用される法律や条約が定まらず、解決に多大な時間を要します。第5回で触れた通り、トラックにはCMR条約、鉄道にはCIM規則といった異なる賠償ルールが存在し、それぞれ賠償限度額(責任の重さ)が異なります。

欧州のシンクロモーダル・オペレータは、この「責任の空白」を埋めるために、荷主に対して一貫した責任を引き受ける契約(修正一貫責任)を結ぶことが一般的です。オペレータは一旦荷主へ賠償を行い、その後、システムに記録されたデータに基づき、損害を引き起こした実運送人に対して求償を行います。

e-CMR(電子運送状)によるエビデンスのデジタル化

この責任追及を迅速化するための強力な武器が、e-CMR(電子運送状)です。これは、従来紙でやり取りされていたトラックの運送状をデジタル化したものです。

e-CMRの最大の利点は、貨物の受け渡し(ハンドオーバー)の瞬間を、タイムスタンプと位置情報、そしてデジタル署名で厳密に記録できる点にあります。荷物がトラックから鉄道、あるいは内陸船へと移し替えられるたびに「デジタルな受領印」が押されるため、万が一損害が発覚した際、どの事業者の管理下で異常が生じたかを客観的に特定できます。

スマートコントラクトと損害検知の自動連動

さらに進んだ取り組みとして、IoTセンサーとブロックチェーン技術を組み合わせた「スマートコントラクト(自動実行契約)」の活用が始まっています。

PIパケット(第6回)に装着された衝撃センサーや温度センサーが異常を検知すると、そのデータが即座に共有プラットフォームに記録されます。あらかじめ設定された閾値を超えた場合、システムが自動的に「損害発生」と判断し、保険会社や関係各所へ通知を送ります。これにより、事故原因の調査コストを大幅に削減し、迅速な保険金の支払いや代替輸送の手配が可能になります。

日本の公務員・政策担当者への示唆

日本においてシンクロモーダルや共同配送を推進する際、事業者が最も恐れるのは「他社の過失による損害の責任を負わされること」です。現在の日本の商法や標準運送約款は、こうした動的なリレー輸送を十分に想定していません。

欧州がe-CMRの批准(国境を越えた法的効力の付与)を加速させているように、日本でも運送状の電子化を強力に推進し、それを「法的エビデンス」として認める制度設計が不可欠です。物理的な輸送の効率化だけでなく、万が一の際の「責任の所在」をデジタルで透明化すること。これが、保守的な荷主や事業者が新しい輸送形態に踏み出すための、心理的・法的な安全装置となります。

出典:

UNCEFACT: Electronic CMR (e-CMR) White Paper.
FIATA (International Federation of Freight Forwarders Associations): Multimodal Transport Documents and Liability.
European Commission: Digital Transport and Logistics Forum (DTLF) recommendations.

第8回:環境負荷の可視化と輸送モードの動的選択

欧州のマルチモーダル輸送が目指すゴールは、経済的な効率化だけではありません。輸送ルートの選択において、コスト、時間、そして「環境負荷($CO_2$排出量)」を同列の指標として扱い、最適解を導き出すことが実務上のスタンダードとなっています。

炭素排出量を「共通の物差し」にする

欧州の物流事業者がシンクロモーダル(第5回)を運用する際、システム上の判断基準には必ず$CO_2$排出量の計算が含まれます。これを可能にしているのが、2023年に発行された国際規格「ISO 14083」です。

この規格は、トラック、鉄道、船舶といった異なる輸送モード間で、エネルギー消費量と温室効果ガス排出量を計算するための世界共通のルールを定めたものです。これにより、荷主は「鉄道を選んだことで、トラック輸送に比べて何kgの$CO_2$を削減できたか」を客観的な数値として報告できるようになりました。欧州では、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)などの法規制により、こうしたデータの開示が大手企業を中心に義務化されています。

コストと環境のトレードオフを解く

物流システムは、リアルタイムの運行データ(第2回、第3回)と排出係数を組み合わせ、荷主に対して複数の選択肢を提示します。

シナリオA(コスト優先): 内陸水運を活用。時間はかかるが、コストと$CO_2$排出量を最小化。
シナリオB(速度優先): トラック直行。コストと排出量は増えるが、リードタイムを最短化。
シナリオC(シンクロモーダル): 幹線を鉄道、ラストワンマイルをEVトラックで構成。コスト・時間・環境のバランスを最適化。

荷主は、その時の在庫状況や環境目標に合わせて、ダッシュボード上でこれらのプランを選択します。重要なのは、これらが「予測値」ではなく、実際の運行データに基づいた「実績値」として記録・蓄積される点です。

外部不経済の内部化:道路通行料の役割

欧州のシステムがこれほどまでに環境負荷を重視するのは、それが直接的な「コスト」に跳ね返る仕組みがあるからです。ドイツの「LKWマウト(大型トラック道路通行料)」に代表されるように、二酸化炭素排出量が多い車両ほど、高い通行料を課される仕組みが導入されています。

これにより、かつては「外部不経済(社会が負担するコスト)」であった環境負荷が、企業の「内部コスト」へと変換されました。物流システムは、この通行料の変動を自動的に計算に取り込み、最も経済的かつ環境的なルートを自動的に選別します。

日本の公務員・政策担当者への示唆

日本においても、2050年のカーボンニュートラル実現に向け、物流の脱炭素化は避けて通れません。しかし、多くの現場では依然として「環境対応はコスト増」という認識が強く、客観的なデータに基づくモード選択が行われていません。

欧州の事例が示すのは、まず「計算ルール(ISO 14083)の徹底」と、それを「自動計算するシステム基盤」の整備が先決であるということです。荷主が自社の$CO_2$排出量をリアルタイムで把握し、それを削減するための代替ルート(鉄道やフェリー)をシステムが即座に提案できる環境を整えること。そして、環境負荷をコストとして認識させる政策的誘導を組み合わせることで、日本型マルチモーダル輸送は初めて、経済合理性を持って動き出します。

出典:

ISO 14083:2023: Greenhouse gas emissions from transport chain operations.
European Commission: CountEmissionsEU initiative.
GLEC (Green Freight Centre): GLEC Framework for Logistics Emissions Methodologies.

第9回:欧州における都市物流(シティ・ロジスティクス)との接続

幹線(鉄道・内陸水運)による大量輸送がどれほど効率化されても、最終的な目的地である「都市」の中へ荷物を運び込む過程で渋滞や環境汚染を引き起こしては、マルチモーダルの価値は半減してしまいます。欧州では、都市部の入り口で貨物を「整流」し、クリーンなラストワンマイルへと繋ぐ物理的・デジタル的な工夫が凝らされています。

都市の門番としてのGVZ(ロジスティックパーク)

第4回で紹介したGVZ(ロジスティックパーク)の真の役割は、都市部へ向かう貨物の「ダム」として機能することです。幹線を走ってきた大型トラックや鉄道貨車は、都市中心部へ直接乗り入れることはありません。

GVZにおいて、異なるルートから届いた荷物は、行き先のエリアごとに再構成(共同配送)されます。この際、第6回で解説したPIパケットのようなモジュール化された容器が使われることで、積み替え作業の自動化と、車両への積載効率の最大化が図られます。欧州の多くの都市では、この拠点を経由しない大型車両の進入を、通行料や法規制によって厳しく制限しています。

幹線と接続する「都市型ハブ」とクリーン配送

GVZで仕分けられた荷物は、さらに小粒度な配送を担う「マイクロ・ハブ(都市型小型拠点)」へと運ばれます。ここでは、大型車両から小型の電気自動車(EV)や貨物自転車(カーゴバイク)への最終的なバトンパスが行われます。

特筆すべきは、一部の都市で見られる「路面電車(カーゴ・トラム)」や「小型運河船」の活用です。例えばドイツのドレスデンやフランスのパリでは、既存の旅客用レールや運河を利用して、都市深部まで大量の荷物を静かに運び込み、そこから自転車で各戸配送を行う試みが成功しています。これらは全て、第5回で述べたシンクロモーダルな制御下にあり、幹線の遅延に合わせてラストワンマイルの配車がリアルタイムで修正されます。

デジタル・カーブサイド・マネジメント

都市部での荷下ろしにおいて、最大の課題は「駐車スペースの不足」です。欧州の先進都市では、道路の端(カーブサイド)の荷捌きスペースをデジタル予約制にする取り組みが進んでいます。

配送ドライバーは、GVZを出発する前にスマートフォンのアプリで荷下ろし場所の時間を確保します。もし幹線輸送の遅延で到着が遅れる場合は、予約時間が自動的に後続の車両へ割り振られ、路上での空車待ちによる滞留を防止します。このように、物理的な拠点だけでなく、都市の「空間」そのものをデータで管理することが、ラストワンマイルの効率を支えています。

日本の公務員・政策担当者への示唆

日本においても、都市部での宅配便の増加と再配達問題は深刻です。しかし、日本では各運送会社が個別に拠点を構え、それぞれが小型トラックを走らせる「垂直統合型」の配送が主流であり、欧州のような「拠点の共同利用」や「モードの強制的な切り替え」は進んでいません。

日本の都市物流を改善するためには、再開発などの都市計画の段階で、鉄道や船舶と接続可能な「公的な物流ハブ」を位置づけることが不可欠です。また、路上駐車の規制を強化するだけでなく、デジタル技術を活用して荷捌きスペースを「共有財産」として効率的に運用する仕組みを導入することで、限られた都市空間を有効に使い、物流の生産性を高めることが可能になります。

出典:

CIVITAS (City-VITALITY-SUSTAINABILITY): Urban Freight Logistics Thematic Paper.
ALICE (Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe): Urban Freight Lab initiatives.
Dablanc, L.: Goods transport in large European cities: Difficult to organize, difficult to modernize.

第10回:欧州モデルの弱点と残された課題

欧州のマルチモーダル輸送は、法規制、デジタル、物理インフラが高度に統合された理想的なシステムに見えますが、現実には「統合された欧州」という理想と、各国が長年培ってきた「独自の規格」との間で、激しい摩擦が続いています。客観的な視点から、このシステムの弱点と限界を検証します。

「鉄の国境」を越えられない技術的障壁

第2回で紹介したRFC(鉄道貨物コリドー)やTAF-TSIなどのデジタル化が進む一方で、物理的な鉄道インフラには、いまだに強固な国境が存在します。最大の障壁は、各国で異なる信号システムと電源電圧、そして言語の壁です。

欧州にはかつて20種類以上の信号システムが乱立しており、国境を越えるたびに機関車を交換するか、複数のシステムを搭載した極めて高価なマルチシステム機関車を用意しなければなりませんでした。EUはこれを解消するためにETCS(欧州列車制御システム)への統一を進めていますが、更新費用が膨大であるため、2026年現在も完全な移行には至っていません。このインフラの「断片化」が、鉄道貨物のコストを押し上げ、トラックに対する競争力を削ぐ要因となっています。

依然として高いトラックシェアと「柔軟性」の欠如

EUの強力な政策誘導にもかかわらず、陸上輸送におけるトラックのシェアはいまだに70%を超えています。その最大の理由は、皮肉にも「鉄道や船にはない、トラックの圧倒的な柔軟性」です。

シンクロモーダル(第5回)のような動的な切り替えは、十分な代替ルートや余剰能力があって初めて機能します。しかし、欧州の主要幹線は旅客列車で過密状態にあり、貨物列車の遅延は日常茶飯事です。製造業のジャストインタイム配送において、数時間の遅延がライン停止を招くようなケースでは、荷主は法的なペナルティや高額な通行料を払ってでも、ドア・ツー・ドアで確実に届くトラックを選択し続けているのが現実です。

運行データの「非対称性」と事業者の抵抗

第7回で述べたe-CMRやデータ共有についても、全ての事業者が前向きなわけではありません。特に中小の運送事業者にとって、自社の運行データや積載情報をプラットフォームに開示することは、競合他社に手の内を明かすリスクや、価格交渉力の低下に繋がると危惧されています。

また、上下分離(第2回)によって参入障壁は下がりましたが、インフラ管理者(IM)と運行事業者(RU)の間で情報の非対称性が生じ、遅延の原因究明を巡って責任を押し付け合うケースも散見されます。デジタル規格(TAF-TSI)は存在しても、そこに「正しいデータを、誰が、何の対価で入力するのか」というインセンティブの設計には、依然として課題が残されています。

日本の公務員・政策担当者への示唆

欧州の苦戦から学べるのは、**「法規制やデジタル規格だけで物流は変わらない」**という現実です。物理的なインフラのボトルネック(規格の不一致や容量不足)が残っている限り、システムによる最適化には限界があります。

日本においてモーダルシフトを推進する際も、単に「データを共有しよう」と呼びかけるだけでなく、事業者が情報を開示しても不利益を被らないための競争ルールの整備や、鉄道・海運の絶対的な「輸送容量(キャパシティ)」を確保するためのインフラ投資を並行して行う必要があります。欧州の「理想と現実のギャップ」を直視し、ソフト(デジタル・法規制)とハード(物理インフラ・容量)をバランスよく強化することが、失敗しないための教訓となります。

出典:

European Court of Auditors (ECA): Special Report: Rail freight transport in the EU: still not on the right track.
ERA (European Union Agency for Railways): Report on Railway Safety and Interoperability in the EU.
Woodburn, A.: The challenges of implementing rail freight corridors in Europe.

第11回:日本型インターモーダルの弱点と可能性

欧州の先進的な事例と比較することで、日本の物流が抱える特有の課題と、それを打破するための独自のポテンシャルが見えてきます。島国であり、独自の鉄道規格を持つ日本が、2024年問題やカーボンニュートラルという難局をどう乗り切るべきか、客観的な視点で整理します。

日本の「強固な垂直統合」という足かせ

欧州が上下分離(第2回)によって自由競争を促進したのに対し、日本の陸運業界は、個々の事業者が自社のアセット(車両、倉庫、ドライバー)を最適化する「垂直統合型」のビジネスモデルを極めて高度に発展させてきました。このモデルは、個社の効率性やサービス品質を極限まで高めましたが、事業者間での「資産の共有」や「モードの動的な切り替え」を阻む要因となっています。

他社のトラックに荷物を載せる、あるいは鉄道貨物へ柔軟に振り替えるといったシンクロモーダル(第5回)的な動きをしようとしても、各社の基幹システムが孤立(情報のサイロ化)しているため、リアルタイムの混載調整や一貫した責任追及が困難です。この「自社最適」の壁を崩し、業界全体の「全体最適」へ移行できるかが、日本型インターモーダル最大の分界点となります。

T11パレット(イチイチパレット)とPIパケットの接続

日本が推進しているパレット標準化(1100mm×1100mm)は、フィジカルインターネット(第6回)の実現に向けた大きな一歩です。しかし、パレットのサイズを統一するだけでは、欧州のような積載効率の劇的向上は見込めません。

日本の物流現場では、段ボールのサイズが商品ごとにミリ単位で異なることが一般的ですが、これをパレットサイズと整合性の取れた「モジュール型パケット」へと規格化していく必要があります。物理的な箱のサイズを完全に統一するのが難しい場合でも、デジタルツイン上で「どの箱をどう組み合わせれば積載率が最大化するか」を計算し、異なる荷主間の荷物を自動的にマッチングするシステム基盤が、日本の製造業の多品種少量輸送を支える力となります。

海の道を活用した「日本型コリドー」の構築

欧州がRFC(鉄道貨物コリドー)によって陸上の国境を越えたように、日本が注目すべきは「海の道」です。四方を海に囲まれた日本において、内航フェリーやRORO船は、欧州の内陸水運(第3回)に匹敵する、あるいはそれ以上のキャパシティを持つ幹線輸送手段です。

課題は、港湾と陸上輸送の「情報の同期」にあります。トラックが港に着くまで正確な積み込み枠が分からない、あるいは船の遅延情報が陸上の配車システムに反映されないといった状況を改善するために、港湾を物流の「ダム」ではなく、円滑な「流路(ハブ)」として再定義しなければなりません。港湾法や約款の壁を越え、船とトラックを一つのバーチャルなネットワークとして管理する、日本独自のシンクロモーダル・モデルの構築が求められています。

日本の政策担当者への提言

日本でマルチモーダル輸送を加速させるためには、欧州のように「道路通行料」や「厳しい排ガス規制」といった強力なプッシュ施策を検討すると同時に、事業者が協調領域(データ共有や拠点共有)へ参入するためのインセンティブ設計が不可欠です。

例えば、標準化されたパレットや電子運送状(e-CMR相当)を採用する事業者に対し、高速道路料金の割引や、共同配送拠点の優先利用権を付与するといった手法です。欧州がRFCで示したように、官が「データの共通言語(プロトコル)」を定め、民がその上で自由なサービスを競う。この役割分担を明確にすることが、2030年の持続可能な物流網を築くための唯一の道と言えます。

出典:

国土交通省:フィジカルインターネット実現会議 ロードマップ(2022)
日本物流学会:わが国におけるインターモーダル輸送の現状と課題
経済産業省:物流モビリティサービス検討会 報告書

第12回:総括:2030年の物流リーダーへ

米国から始まった本連載の旅は、欧州の高度なシステム統合を経て、日本が歩むべき独自の道筋へと辿り着きました。最終回となる今回は、これまでのインサイトを総括し、2030年の物流を担うリーダーたちが向き合うべき、新たな社会基盤の姿を提示します。

インターモーダル輸送の「三層構造」を理解する

日米欧の事例を俯瞰すると、持続可能な物流網は、以下の三つの層が同期することで初めて機能することが分かります。

物理層(Physical Layer): 標準化されたパレット、モジュール型容器(PIパケット)、そしてモードを繋ぐGVZ(ロジスティックパーク)などのハードウェア。
情報層(Information Layer): TAF-TSIやe-CMRといった共通のデータ言語、および運行状況をリアルタイムに可視化するデジタル基盤。
制度・ガバナンス層(Institutional Layer): RFC(鉄道貨物コリドー)のような組織間連携、および環境負荷をコストとして扱う法規制や商慣行。

これまでの日本は、物理層の効率化には長けていましたが、情報層と制度層の統合において、欧米に一歩譲る状況にありました。2030年の物流リーダーに求められるのは、この三層を統合的に設計し、自社のアセットだけでなく「社会全体の空間と時間」を最適化する視点です。

競争から「協調領域の拡大」へ

物流は長らく、コスト削減を競う「血の滲むような競争領域」とされてきました。しかし、深刻な労働力不足と脱炭素の要請を前に、その前提は崩れています。

欧州がPI(フィジカルインターネット)やシンクロモーダルで示したのは、輸送手段や拠点を「競合他社と共有する」ことが、結果として自社のレジリエンス(復元力)と利益に繋がるというパラダイムシフトです。日本においても、配送ルートや積載率を秘匿するのではなく、信頼できるプラットフォーム上で開示し、他社の空白を自社の荷物で埋め、自社の遅延を他社のモードで補完する。こうした「データのギブ・アンド・テイク」が、新たな競争力の源泉となります。

公務員・政策担当者の新たな役割

本連載の読者である政策担当者の皆様にお伝えしたいのは、行政の役割が「インフラ整備」から「ルールの審判とネットワークのコーディネーター」へと変容している点です。

単に道路や港を作るだけでは、インターモーダル輸送は動きません。事業者が安心してデータを開示できる法的枠組み(データ主権の保護)を整え、第7回で述べたような電子運送状による「責任の明確化」を先導し、環境に優しいモードを選択した者が市場で正当に評価される仕組みを構築すること。欧米の事例が示す通り、強力な政策的誘導と中立的なプラットフォームの提供こそが、民間企業の行動変容を促す最大のレバレッジとなります。

結びに:物語を繋ぐのは「同期」の力

物流とは、単に物を運ぶことではありません。それは、生産者の想いと消費者の期待を、最も適切な手段で、最も持続可能な形で繋ぐ「社会の血流」です。

私が欧州の現場で目にしたのは、異なる国、異なる言語、異なるシステムを持つ人々が、RFCという一つの廊下(コリドー)を通じて、同じ時刻表、同じデータ形式で「同期」し、巨大な物流ネットワークを動かしている姿でした。

日本もまた、会社やモードの壁を越えて「同期」することができれば、2024年問題は単なる危機の記憶ではなく、日本が世界に誇る「高度に自律的な物流システム」へと進化した転換点として、2030年の教科書に刻まれることになるはずです。

出典:

ALICE (Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe): 2030 Roadmap for Towards Zero Emissions Logistics.
経済産業省・国土交通省:物流革新に向けた政策パッケージ(2023)

注意

以上の文書はAI Geminiが生成しており、誤りが含まれる場合があります。

参考

図で見る規制を撤廃した欧米 民営化した日本

線路見れば一目瞭然? 日本の鉄道が「災害に弱い」残念な理由 1か所不通で“どうにもできなくなる”ギチギチ思想