地域交通の現場で「何でも屋」として疲弊する事務局を、AIがそっと支えます。膨大なデータの集計や行政用語の翻訳、地域の「お宝」探しまで、AIが面倒な事務を肩代わりすることで、私たちは本来大切にすべき「現場の声を聞く時間」を取り戻せます。最後はAIの予測という羅針盤を使いつつ、人間の「人情と度胸」で街の未来を決める。そんなAI時代の温かな地域づくりのための、デジタルな活用術です。
目次
第1回:【きっかけ作り】「データの数字」が、対話のテーブルを整えてくれる
内容: 行政・事業者・住民が、互いの立場を越えて同じテーブルに着くのは至難の業。そこでAIを「中立な審判」として使います。- ポイント: 誰の意見でもないAIの予測(20年後の街の姿など)を共通の出発点にすることで、感情的な対立を避け、「まずは一緒に考えよう」という前向きな空気を生み出します。
地域の交通やまちづくりを担う現場では、議論を始める前の段階で大きな壁にぶつかることが少なくありません。行政、バスやタクシーなどの交通事業者、そして地域で暮らす住民。それぞれが立場の違いから、互いに不信感を抱いたり、現状維持を望んで沈黙してしまったりすることがあります。
第1回では、こうした対話以前の壁をどのように乗り越え、みんなが同じテーブルに着くためのきっかけをどう作るかについて考えます。そこで鍵となるのが、特定の誰かの意見ではない、中立な立場としてのAIの活用です。
誰もが納得できる出発点を作る
話し合いがうまくいかない原因の多くは、それぞれが持っている情報の断片だけで議論をしてしまうことにあります。行政は数字を出し、事業者は経営の苦しさを訴え、住民は不便さを嘆く。これでは議論は平行線のままです。
対話を始めるためには、まず全員が共通して認めることができる客観的な現状が必要です。ここでAIが力を発揮します。AIは、地域の人口推移、道路の混雑状況、公共交通の利用実態といった膨大なデータを整理し、もしこのまま何もしなかった場合に、20年後の街がどうなってしまうのかを冷徹に描き出します。
これは、誰かが自分の都合で語る未来予測ではありません。データに基づき、機械的な計算によって導き出された事実としての予測です。これを共通の土台に据えることで、感情的な対立をひとまず脇に置き、私たちは今、同じ危機に直面しているのだという共通の認識(共通言語)を持つことが可能になります。
誰の意見でもないからこそ信じられる
かつて私が若桜鉄道や近江鉄道の再生に関わっていた際も、まずは共通の事実を確認することから始めました。しかし、当時は膨大なデータを手作業で集計し、図表にするだけでも膨大な時間がかかりました。また、外部のコンサルタントが作った資料は、時に特定の方針に誘導しているように受け取られ、不信感を生むこともありました。
今の時代のAIは、こうした中立性を担保する強力な味方になります。AIは、特定の組織の利益を優先するように動くことはありません。入力されたデータに基づいて、可能性を淡々と提示します。
例えば、デジタル空間に現実と同じ街を再現し、新しいバス路線を作った場合や、逆に廃止した場合の影響をシミュレーションする仕組み(デジタルツイン)を使えば、その結果をみんなで眺めながら議論ができます。
これが、誰かの提案に対する反対や賛成ではなく、AIが示した未来の可能性に対して、自分たちはどう対応すべきかという建設的な問いへと、議論の質を変えてくれるのです。
赤字という言葉の罠を解き明かす
交通の問題を語る際、必ずと言っていいほど出てくるのが赤字という言葉です。しかし、市場の原理(市場原理)だけで交通を捉えると、赤字イコール悪という極端な結論に結びつきがちです。
ここでAIは、交通がもたらす目に見えにくい価値を計算する助けになります。例えば、鉄道やバスがあることで、高齢者が元気に外出し、結果として地域の医療費や介護費がどれくらい抑制されているか。あるいは、渋滞が緩和されることで物流の効率がどれくらい向上しているか。こうした、市場では直接売買されないけれど、社会にとって大切な価値(正の外部性)を、AIは数字で可視化してくれます。
逆に、交通がなくなって車社会が加速したときに発生する、渋滞や公害、事故の増加といった、社会全体が払わされるツケ(負の外部性)も明らかにできます。
こうした全体像を数字で示すことで、交通を単なるサービスではなく、みんなで維持すべき豊かな社会の土台(社会的共通資本)として再定義することができます。
まずは話し合わなければならないという土俵
AIが示すのは、あくまで予測や分析結果です。それをどう解釈し、どんな街にしたいかを決めるのは、そこに住む人々です。
しかし、AIが提示する中立なデータは、これまで沈黙していた人々に発言の機会を与えます。極端な声の大きな人の意見だけでなく、データに基づいた静かな事実がテーブルの上にあることで、誰もが等しく現状を理解し、議論に参加する権利を持つことができるようになるからです。
対話が始まらないという最初の障壁を突破するために、AIを中立な審判、あるいは共通の地図として活用すること。これが、頑張りすぎる事務局が、最初に手に入れるべきデジタルな支えとなります。
主要な文献と参照元
今回の考え方の基礎となる、主な考え方や文献をご紹介します。
- 宇沢弘文著『社会的共通資本』(岩波新書)
交通や医療、環境などを、市場の理屈だけに任せるのではなく、社会全体で大切に守り、専門家が責任を持って維持していくべきだとする考え方の基本文献です。 - 内閣府『エビデンスに基づく政策立案(EBPM)』関連資料
勘や経験、エピソードだけでなく、客観的な証拠(エビデンス)に基づいて、より効果的な政策を作っていこうとする国の取り組みです。 - 国土交通省『デジタルツイン推進に関するガイドライン』
現実の街をデジタル上に再現し、さまざまなシミュレーションを行う技術の活用方法についてまとめられています。 - フィリップ・コトラー、ピーター・ドラッカー諸著
顧客を単なる利用者としてだけでなく、社会全体として捉え直すマーケティングやマネジメントの視点を提供してくれます。
第2回:【言葉の架け橋】行政の「難しい言葉」を、地域の「ワクワク」に翻訳する
内容: 行政の硬い文書と、住民の切実な声。この「言葉のすれ違い」が連携を邪魔しています。- ポイント: AIに「翻訳」を任せます。難しい計画書を「子供たちの未来がどう変わるか」という物語に書き換え、住民の願いを「行政が予算を付けやすい形」に整える。事務局の頭を悩ませる文書作成の負担を、AIが肩代わりします。
行政のつくる計画書を開くと、そこには「持続可能な公共交通網の形成」や「利便性の増進」といった言葉が並んでいます。一方で、地域の方々が口にするのは「病院へ行くバスがなくなると困る」「子供が暗い道を歩くのは心配だ」といった、切実な生活の言葉です。
第2回では、この「言葉のすれ違い」をAIがどのように解決し、お互いの思いを一つの形にまとめていくかについて考えます。
専門用語の壁が、やる気を削いでいる
地域を良くしようと集まった会議で、行政から分厚い資料が配られることがあります。そこには専門家でなければ分からないような用語(専門用語)や、横文字が並んでいます。これでは、専門知識のない一般の住民の方々が、気後れして口を閉ざしてしまうのも無理はありません。
また、逆に住民の方々から出される多様な要望を、行政が予算を付けて動かすためには、決められた形式の書類に落とし込む必要があります。この「言い換え」の作業は、非常に手間がかかり、事務局を担う方々の大きな負担になっています。
ここでAIを「言葉の翻訳者(インタープリター)」として活用します。
難しい計画書を、みんなの「ワクワク」に変える
AIは、どんなに難しい行政の文書であっても、その意味を損なわずに分かりやすい言葉へ変換することが得意です。
例えば、交通計画にある「交通結節点の機能強化による二次交通の最適化」という一節を、AIに読み込ませてみましょう。AIはこれを「駅前でバスやタクシーに乗り換えやすくして、お年寄りや学生さんが行きたい場所へ、スムーズに行けるように整えることです」といった、誰もがイメージできる言葉に書き換えてくれます。
さらに、ただ易しくするだけでなく、読み手に応じて表現を変えることもできます。
- 小学生には「街の中を自由に探検できる、魔法の乗り物計画」として。
- 商店主の方には「お店の前を通る人が増え、街に活気が戻る仕掛け」として。
このように、相手の立場に合わせた言葉で伝えることで、計画は「役所の決め事」から「自分たちの街の未来」へと変わっていきます。
住民の願いを、行政が動きやすい「提案」に整える
逆の翻訳も、AIは鮮やかにこなします。住民説明会やアンケートで集まった、膨大な「生の声」をAIに整理させます。
「バス停に屋根がほしい」「夜の便を増やして」といったバラバラの声を、AIは「安全性の確保」や「利用機会の拡大」といった、行政が施策として扱いやすい項目ごとに分類し、その根拠となる理由を添えてレポートにまとめ上げます。
事務局の方が、何百枚ものアンケート用紙と格闘しながら、夜なべをして報告書を作る必要はもうありません。AIという「優秀な助手」が数分で下書きを作ってくれるので、人間は「地域の皆さんの本当の願いはどこにあるのか」を見極める、最も大切な判断に集中できるのです。
対立を避ける「優しい言い換え」の技術
話し合いの中で、意見が対立することもあります。例えば、「バス路線を残してほしい」住民と、「赤字なので廃止せざるを得ない」事業者。こうした緊迫した場面でも、AIは冷静な仲裁役になります。
お互いの主張をAIに入力し、「両者が納得できる、新しい解決策の種を探して」と問いかけます。するとAIは、単なる存廃の議論を越えて、「決まった時間に走るバスではなく、予約があったときだけ迎えに行く仕組み(デマンド型交通)なら、コストを抑えつつ、住民の足を確保できるのではないか」といった、第三の案を提案してくれます。
角の立つ言い方を、相手を尊重した表現に変えて伝える。こうした「翻訳」の力こそが、言葉の壁を融かし、異なる立場の人たちが手を取り合うための強力な支えとなります。
主要な文献と参照元
- ブルーノ・ラトゥール著『科学がつくられているとき―人類学的考察』(河出書房新社)
異なる立場の人や、データ、道具などが、どのように結びついて一つの新しい動きを作っていくか(アクターネットワーク理論)を考えるためのヒントになります。 - フィリップ・コトラー著『社会的責任のマーケティング』(東洋経済新報社)
自分たちの利益だけでなく、社会全体にとって良いことを、どのように価値として伝え、協力者を増やしていくかという視点が学べます。 - 生成AIの活用に関する自治体向けガイドライン(各自治体・総務省など)
個人情報の保護に配慮しながら、どのようにAIを公的な業務に役立てるか、安全な使い方のルールが示されています。
事務局が「言葉の壁」に立ち向かうとき、AIは頼もしい盾となり、矛となります。事務作業に追われて疲弊するのではなく、AIに翻訳を任せることで、私たちはもっと「心の通う対話」に時間を使えるようになります。
第3回:【約束の守り方】「あとで決めよう」を、AIが優しく見守る
内容: 全てを最初から決められないのが地域活動。でも「言った言わない」は避けたいものです。- ポイント: AIに対話のプロセスをすべて記録させ、その時々の「みんなの納得感」を整理してもらいます。急な変化が起きても、AIがこれまでの経緯を振り返り、「次にどうすべきか」のヒントを整理してくれるので、信頼関係が壊れません。
地域づくりや交通の再編には、時間がかかります。すべてを最初から完璧に決めて進めることができれば理想的ですが、実際には「やってみなければ分からないこと」が多々あります。住民の皆さんの意識も、社会情勢も、常に移り変わっていくからです。
第3回では、未来をあらかじめ固定せず、「走りながら考える」ための知恵と、それを支えるAIの役割について考えます。
すべてを決めないことで、一歩を踏み出す
行政の事業では通常、年度の初めに詳細な計画と予算を固めます。しかし、地域の交通のような複雑な問題では、この「きっちり決める」という性質が、逆に身動きを封じてしまうことがあります。失敗を恐れるあまり、何年も話し合いを続けて一歩も前に進めない、という光景は珍しくありません。
ここで大切になるのが、あえて細部を詰めすぎずに契約や合意を結ぶ考え方(不完備契約)です。「まず3ヶ月だけ試験的に走らせてみて、その結果を見てから次の半年分を話し合おう」という柔軟な約束の仕方です。
この進め方は、不確実な未来に対して非常に有効ですが、一つ大きな弱点があります。それは、後から話し合う際に「あの時はどういうつもりだったか」という、当初の約束のあいまいさが原因で揉めてしまう可能性があることです。
AIが「対話の守り人」になる
そこでAIを、対話のプロセスをすべて見守り、記録する「記憶のバックアップ」として活用します。
事務局が行う日々の会議や、住民の方々との何気ない立ち話の内容を、AIにすべて記録させます。単なる録音や議事録ではありません。AIは「なぜその結論に至ったのか」という背景や、その時に誰がどんな不安を感じていたかという「感情の動き」までを含めて要約し、保存します。
3ヶ月後に計画を見直す際、AIは過去の記録を瞬時に呼び出し、「あの時は、冬の積雪状況を見てから便数を決めようという話でしたね」と、私たちに思い出させてくれます。AIが客観的な記録を持っていてくれるからこそ、私たちは「言った言わない」の不毛な争いを避け、安心して「あとで決める」という柔軟な選択ができるようになるのです。
変化の兆しを、AIがそっと教えてくれる
「あとで決める」という進め方において、最も難しいのは「いつ、何を見直すべきか」というタイミングの判断です。
AIは、運行データの変化やSNSでの地域の声、住民アンケートの結果を常にモニタリングします。そして、例えば「最近、特定の停留所での乗り降りが急増しています。当初の想定とズレが生じているので、そろそろ運行ルートを見直す話し合いをした方が良いかもしれません」と、事務局に提案してくれます。
人間が気づかないような微細な変化(変化の兆し)をAIが捉えてくれることで、私たちは手遅れになる前に、柔軟に軌道を修正することができます。これは、無理な計画を強行するのではなく、街の成長に合わせて交通を「育てていく」感覚に近いものです。
信頼をデジタルで補強する
不完備な約束を支えるのは、結局のところ、関係者同士の信頼関係です。しかし、その信頼はとても壊れやすいものでもあります。
AIによって、対話の過程が透明化され、誰でもいつでも経緯を振り返ることができるようになれば、特定の誰かが情報を独占したり、密室で物事が決まったりする疑念を払拭できます。「このAIには、私たちの歩んできた道がすべて詰まっている」という共有の記憶(共有メモリ)を持つことは、組織や立場の壁を越えて、一つのチームとして動くための大きな安心感に繋がります。
事務局は、一人で責任を抱え込む必要はありません。AIという「誠実な記録係」を横に置き、変化を楽しみながら街をアップデートしていく。そんな軽やかなガバナンスが、これからの地域には必要です。
主要な文献と参照元
- 伊藤秀史著『契約の経済理論』(有斐閣)
すべての状況を予測できない現実の中で、どのように合意を作り、協力関係を築いていくべきかという「不完備契約」の基本的な考え方が学べます。 - 宇沢弘文著『社会的共通資本』(岩波新書)
第1回でも挙げましたが、交通を社会の共有財産として育てるという視点は、この「あとで決める」柔軟な運営と深く結びついています。 - 野中郁次郎著『知識創造企業』(東洋経済新報社)
個人の経験や勘(暗黙知)を、どのように組織全体の知恵(形式知)に変えていくかというプロセスは、AIによる記録と要約の活用に通じるものがあります。
あらかじめ完璧な答えを用意しなくても、AIと一緒に「問い」を更新し続けることで、地域は前に進めます。事務局は、管理する人から、変化を促す人へと役割を変えていくのです。
第4回:【知恵の貸し借り】「誰が何を持っていて、何に困っているか」をAIが繋ぐ
内容: 事務局が「何でも屋」になり、パンクしてしまうのは、地域の資源が見えていないからです。- ポイント: 地域の「お宝(人、物、スキル、場所)」をAIが整理し、最適な組み合わせを提案します。「この困りごとなら、あの人の車と、この補助金が使えますよ」とAIが教えてくれることで、事務局の「マッチング」を劇的に楽にします。
地域を支える交通やまちづくりの現場では、事務局を担う方が「何でも屋(スモール・フル・マルチ)」になってしまい、膨大な業務に押しつぶされてしまうことがよくあります。これは、誰がどのような技術を持ち、どこに活用できる資金や道具があるのかという「地域のお宝(資源)」の情報が、一箇所に集まっていないために起こる現象です。
第4回では、地域のどこにどんなお宝が眠っているのかをAIが見つけ出し、事務局が「仲介役(マッチング)」として軽やかに動くための方法について考えます。
事務局がパンクする「情報の迷子」
「あの集落の困りごとを解決したいけれど、人手もお金も足りない」。そう悩む事務局の横で、実は「定年退職して何か役に立ちたいと思っている人」や「使い道の決まっていない空き店舗」、「活用できるけれど知られていない補助金」が眠っていることが多々あります。
これらをつなぎ合わせれば解決するはずの問題が、情報がバラバラであるために「迷子」になっているのです。事務局が一人で街中を歩き回り、これらすべてを把握して組み合わせるのは、物理的に限界があります。ここでAIを、地域の資源を整理し、最適な組み合わせを提案する「知恵袋」として活用します。
地域の「ないもの」ではなく「あるもの」をAIで可視化す
これまでの地域づくりは、足りないものを嘆き、外から持ってくることに注力しがちでした。しかし、本来大切なのは、地域に今あるものをどう活かすかという視点(ABCDアプローチ)です。
AIに、地域の歴史、住民の特技、企業の保有車両、空き家、既存の予算などの情報をすべて読み込ませます。AIは、一見関係なさそうなこれらのお宝(リソース)を結びつける意外なアイデアを提示してくれます。
例えば、「買い物に困っている高齢者」と「配達ルートに余裕のある地元の商店」、そして「ボランティアをしたい大学生」を組み合わせ、AIが最適な巡回ルートを計算する。こうした「知恵の貸し借り」の設計図をAIが作ってくれることで、事務局はゼロから悩む必要がなくなります。
AIエージェントが「24時間働く相談窓口」になる
事務局の電話が鳴り止まないのは、ちょっとした確認や相談がすべて人間に集中するからです。ここで、特定の役割を持ったAI(AIエージェント)を仮想的なスタッフとして配置します。
- 「お宝探し担当AI」:地域の新しい補助金情報や、使えそうな制度を毎日ネット上から探し出し、事務局に報告します。
- 「マッチング担当AI」:住民からの「助けて」という声と、登録されている「助けられる人」を瞬時につなぎます。
AIがこうした下調べや初期対応を自動で行ってくれることで、事務局は「本当に人間が動かなければならない、複雑な調整や信頼関係の構築」に、100%の力を注げるようになります。事務局は「何でも自分でやる人」から、「AIが選んだ選択肢から最適なものを選ぶ人」へと進化するのです。
特定の人に頼らない「開かれたネットワーク」
地域活動の大きなリスクは、特定のキーマンが体調を崩したり、事務局が交代したりしたときに、すべての活動が止まってしまうことです。これは、情報がその人の頭の中にしかない(資源依存)ために起こります。
AIに地域の資源情報を蓄積し、誰でもアクセスできるように整えておくことは、活動の「背骨(バックボーン)」をデジタルで作ることを意味します。人が入れ替わっても、AIという共有の知恵袋があれば、活動は途切れることなく続いていきます。
事務局は、一人で重荷を背負う必要はありません。地域に眠るお宝をAIと一緒に掘り起こし、それらを緩やかにつなぎ合わせる。そんな「風通しの良いネットワーク」の司令塔になることが、持続可能な地域づくりの秘訣です。
主要な文献と参照元
- J.P.クレットマン & J.L.ナイトライト著『資産による地域づくり(ABCD入門)』
地域の欠点ではなく、今ある「資産(アセット)」に注目して、住民自らが主体的に街を良くしていく手法のバイブルです。 - ジョン・プレフェー著『コレクティブ・インパクト』
異なる組織がバラバラに動くのではなく、共通の目標を持って、データや事務局機能を共有しながら大きな社会課題を解決していく手法です。 - ジェフリー・フェファー著『組織とパワー』(東洋経済新報社)
組織がどのように資源に依存し、そのパワーバランスがどう影響し合うかという「資源依存理論」の基礎が学べます。
事務局の役割は、すべての作業をこなすことではなく、地域にある知恵と力を引き出すことにあります。AIはそのための「魔法の眼鏡」となり、今まで見えていなかったお宝を次々と照らし出してくれます。
第5回:【一番大切なこと】事務はAIに任せ、人は「お茶を飲む時間」を取り戻す
内容: AIに頼りすぎると、人情が失われるのではないか?という不安。- ポイント: むしろ逆です。AIが面倒な事務作業を担ってくれるからこそ、私たちは本来大切にすべき「反対派の方とじっくり話す時間」や「現場を自分の目で見る時間」を取り戻せます。最後は「人情と哲学」で決める、人間らしいリーダー像を考えます。
シリーズの締めくくりとなる第5回では、AIという心強い味方を得た私たちが、最後にどこへ向かうべきかを考えます。
事務作業やデータの整理、難しい言葉の翻訳をAIに任せられるようになったとき、私たちの手元には「時間」と「心のゆとり」が戻ってきます。その貴重な資源を、私たちは何に使うべきなのでしょうか。
効率化の先にある「非効率」な時間の価値
AIを導入する最大の理由は、単に仕事を速く終わらせることではありません。事務局が書類作成や調整業務に追われ、本来最も大切にすべき「現場の声を聞くこと」や「人との信頼を築くこと」が後回しになってしまう状況を変えるためです。
AIが事務作業の8割を肩代わりしてくれたなら、残りの時間を使って、私たちはもっと「非効率」なことに時間を使えるようになります。
例えば、計画に反対している方の家を訪ねて、お茶を飲みながらゆっくりとお話を聞く。バス停でバスを待っているお年寄りの隣に座り、日々の暮らしの困りごとに耳を傾ける。こうした、数値化できないけれど地域の温度感を知るために不可欠な活動こそが、人間にしかできない、そしてAI時代に最も価値が高まる仕事です。
最後に背中を押すのは「度胸」と「人情」
AIは過去のデータから「最も成功率の高い案」を教えてくれます。しかし、地域づくりには、時にはデータの予測を超えた決断が必要な場面があります。
「数字上は厳しいけれど、この集落の足を守ることは、地域の誇り(シビックプライド)を守ることだ」という判断。あるいは、「今は反対が多いけれど、10年後の子供たちのために、あえてこの道を選ぼう」という覚悟。
これらは、どれほどAIが進化しても、AI自身が責任を取ることはできません。最後に「これでいく」と決め、その結果に責任を持つのは、私たち人間です。
AIという精緻な「羅針盤」を使いこなしながらも、最後は自らの「人情(共感)」と「度胸(決断)」で舵を切る。これが、これからの地域を導くリーダー(執政者)に求められる姿勢です。
事務局は「翻訳者」から「伴走者」へ
これまで事務局は、行政と住民の間で「調整」や「翻訳」に明け暮れる、いわば「緩衝材」のような役割でした。しかしAI事務局が実現すれば、事務局はもっと創造的な「伴走者」へと進化できます。
AIが整理してくれた地域の「お宝」を手に、住民と一緒に新しい遊び場や商売の仕組みを考える。対話の記録を振り返りながら、街が少しずつ良くなっている実感をみんなで分かち合う。
事務局が疲れ果てている街に、人は集まりません。事務局が楽しそうに、AIを相棒にしながら未来を語っている街。そんな姿を見せること自体が、地域の活動を活性化させる大きな力になります。
終わりに:AIと一緒に、もう一度「街」を信じる
5回にわたってお伝えしてきたのは、AIを「人を減らす道具」にするのではなく、「人の可能性を広げる支え」にするという道筋です。
バックボーン組織(事務局)の人材が足りないという悩みは、AIを「デジタルな外骨格(パワードスーツ)」として装備することで、少人数のチームでも解決できる希望へと変わります。
AIという強力な相棒を得て、事務作業の重荷を下ろし、私たちはもう一度、人と人が向き合う温かな地域づくりを始めることができます。
ただ、ここで最も大事なのは、使い手の想いや愛です。小手先のテクニックでなんとか進めるために使おうなどど考えると、形骸化してしまいます。地域を良くしたい、そのために人と人を繋げて協力し合うようにしたいから、必要なことを用立てて進めたい。この想いと愛と情熱が無ければ、どんなに良い道具が揃っても良い形にはなりません。うわべだけの、口先だけの技法はすぐに見透かされますし、芯が無い活動はすぐによろけます。
かつて私が鉄道の現場で、地域の方々と泥臭く議論し、汗を流したあの時間は、これからのAI時代においても、決して色あせることのない、地域経営の「核心」であり続けるはずです。
主要な文献と参照元
山崎亮著『コミュニティデザイン』(学芸出版社)
「つくる」ことよりも「つながる」ことを重視し、住民自らが動く仕組みを作る大切さが説かれています。- 宇沢弘文著『社会的共通資本』(岩波新書)
全シリーズを通じての思想的支柱です。交通という社会の基盤を、専門家と市民がどう守るべきかを問い直します。 - 本教科書 最終章「AI時代の執政者論」
本ブログの内容をさらに理論的に深掘りし、次世代の公務員や実務者が持つべき精神性(OS)を整理しています。
資料
バックボーン組織の機能別・AI代替可能性
| バックボーン組織の役割 | AIによる代替度 | 具体的な代替内容・限界 |
| 1. 指針の策定(ビジョン提示) | 40% | 代替: 過去のデータや成功事例から「理想的な計画案」を多角的に提案する。
限界: 地域の文脈(人情)を汲み取った「納得感のある言葉」への変換は人間が担う。 |
| 2. 活動の支援(実務) | 80% | 代替: 会議設定、資料作成、SNS発信、デジタルツインによるシミュレーション。AIが最も得意とする領域。 |
| 3. 共通評価基準の確立 | 70% | 代替: ロジックモデルの構築補助、データの自動集計・分析、社会的インパクト評価(SIA)のスコアリング。 |
| 4. 意思疎通の促進(翻訳) | 60% | 代替: 行政用語を市民向けに、専門用語を経営者向けに書き換える。多言語対応。議論の要約と争点の可視化。 |
| 5. 資源の動員(資金・人材) | 30% | 代替: 補助金情報のマッチング、クラウドファンディングの文案作成。
限界: 最終的な「信頼に基づく出資」や「人の紹介」は人間関係に依存する。 |
| 6. 政策提言・世論形成 | 50% | 代替: 根拠となるデータの整理、論理的な提言書のドラフト作成。
限界: 政治的な根回しや、反対勢力との泥臭い対話(度胸)は代替不可。 |
「AI事務局」構築の4ステップ・フロー
ステップ1:業務の「解体」と「仕分け」(第2章:Will/Can/Mustの整理)
まずは、現在事務局が抱えている(あるいは想定される)業務を、AIが得意なものと人間にしかできないものに峻別します。
- AI領域(作業の自動化): 議事録作成、データ集計、SNS・広報文案作成、補助金情報の収集、Q&A対応。
- 人間領域(意味の付与): 地域のキーマンとの信頼構築、利害関係の最終調整、ビジョンの決定、泥臭い「根回し」。
- 協働領域(翻訳と壁打ち): 政策提言のドラフト作成、システム思考による課題分析。
ステップ2:ナレッジの「中央集権化」(NotebookLM等の活用)
事務局が「属人的な情報の集積地」にならないよう、全ての資料をAIが読み込める形に集約します。
- 手法: 過去の議事録、地域の基本計画、住民アンケート、関連法規などを一つのクラウドフォルダに集約。
- 効果: 事務局員が交代しても、AI(NotebookLM等)に聞けば「これまでの経緯」や「地域の特性」を即座に回答できる状態(組織の共有メモリ)を作ります。
ステップ3:AIエージェントによる「実務の自動化」
特定の役割を持った「AI担当者」を仮想的に配置します。
- 広報担当AI: ブログ記事やニュースレターの構成案を作成。
- データ分析担当AI: 共同輸送の積載率やコスト削減額をシミュレーション。
- 翻訳担当AI(第8章:ANT): 専門家が話す難解な理論を、住民説明会用の平易な言葉に変換する。
ステップ4:人間による「最終判断と責任」のプロセス構築(第15章:執政者OS)
AIが出した回答をそのまま使うのではなく、人間が「人情・感性・度胸・哲学」を持ってフィルターを通すプロセスを定型化します。
- ルール: 「AIは3つの案を出し、人間が1つを選んで責任を持つ」という運用ルールを策定し、AIを「部下」ではなく「専門家チーム」として扱います。
「AI事務局」を支える具体的なツール構成案
| 機能 | 推奨ツール例 | バックボーン組織での用途 |
| 知識基盤 | NotebookLM | 地域の膨大な資料を読み込ませ、事務局の「知恵袋」にする。 |
| 文章・翻訳 | ChatGPT / Claude | 行政文書の要約、住民向け広報文の作成、提言書のドラフト。 |
| 可視化・分析 | Miro (Assist機能) | システムダイナミクスの因果ループ図を共同編集・整理。 |
| 自動化 | Make / Zapier | 問い合わせフォームから内容を分類し、担当者に通知するフロー。 |
導入戦略
このフローを進める際、日本の地方自治体や市民団体における「デジタルへのアレルギー」には配慮が必要です。
- 「効率化」ではなく「対話の時間を作るため」と説く: 「AIで人を減らす」のではなく、「AIに作業を任せ、私たちはもっと皆さんと対話する時間を作りたい」と大義を掲げます。
- 成功体験(スモールウィン)の提示: まずは「議事録作成が10分で終わる」といった、誰もが恩恵を感じる小さなところから始めます。
弱点への配慮: AIが誤った情報を出す可能性(ハルシネーション)を前提に、必ず人間が確認する「二重チェック体制」を最初から設計に組み込みます。
注意
以上の文書はAI Geminiが生成したものを加筆修正しており、誤りが含まれる場合があります。
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