コレクティブ・インパクト(Collective Impact)は、2011年にジョン・カニア(John Kania)とマーク・クラマー(Mark Kramer)が『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー』誌で提唱した概念です。

【ラジオ】組織連携の壁を乗り越える5つの理論

【スライド】善意の渋滞を解消するコレクティブ・インパクト

目次

コレクティブ・インパクトとは

従来の、各組織が個別に活動する個別インパクト(Isolated Impact)とは対照的に、異なるセクター(行政、企業、NPO、財団、市民)が特定の複雑な社会課題に対して、足並みを揃えて取り組むことで、構造的な変革をもたらすための枠組みです。

なぜコレクティブ(集合的)である必要があるのか

現代の社会課題(例:貧困の連鎖、教育格差、環境問題、孤立など)は、単一の組織が持つリソースや専門性では解決できない適応課題(Adaptive Challenges)です。

  • 個別インパクトの限界: 各組織がそれぞれのKPI(成果指標)を追い求め、寄付金や助成金を奪い合ってしまうため、全体としての成果が分散・相殺されやすい。
  • コレクティブ・インパクトの狙い: 課題を一つの生態系(エコシステム)として捉え、各主体の強みをパズルのピースのように組み合わせることで、1組織では不可能なスケールの解決を目指します。

成功のための5つの条件(Five Conditions)

コレクティブ・インパクトを成立させるためには、単なる仲良しの連携ではなく、以下の5つの厳格な条件が必要であると定義されています。

  1. 共通の目的(Common Agenda)
  2. 共有された測定システム(Shared Measurement Systems)
  3. 互いに補強し合う活動(Mutually Reinforcing Activities)
  4. 継続的なコミュニケーション(Continuous Communication)
  5. バックボーン組織(Backbone Support Organizations)

ステージ別の進化プロセス

コレクティブ・インパクトは一朝一夕には実現せず、以下の3つの段階を経て成熟します。

  • ステージI:活動の立ち上げ(Initiate Action)
    ステークホルダーを特定し、データの収集を通じて課題の本質(真のニーズ)を特定する。
  • ステージII:インパクトの組織化(Organize for Impact)
    バックボーン組織を設置し、共通の測定指標と活動指針(アクションプラン)を策定する。
  • ステージIII:成果の維持と拡大(Sustain Action and Impact)
    活動を評価・改善し続けながら、地域の仕組みや制度(政策)そのものを変えていく。

政策学的・社会学的視点からの考察と課題

私たちの博士チームが分析する、この理論の実践における重要な論点は以下の通りです。

バックボーン組織の重要性と中立性: 特定の組織が主導権を握りすぎると、他組織が離脱します。中立なファシリテーター(調整役)として、いかに信頼資本を蓄積できるかが成否を分けます。

  • 評価の難しさ: 短期的な数値(例:イベント参加者数)ではなく、長期的なシステムの変化(例:地域の貧困率の低下)を追うため、資金提供者(行政や財団)に対しても、評価のあり方そのものの転換を迫る必要があります。
  • 日本の施策との親和性と弱点: 日本では協議会や推進委員会といった形で箱は作られますが、実務を担うバックボーン組織への予算措置が弱く、形骸化しやすいという配慮すべき弱点があります。

具体的なイメージ:教育支援の例

要素 個別インパクトの状態 コレクティブ・インパクトの状態
学習支援NPO 無料塾を運営し、通塾生の成績を上げる 学校、企業、福祉施設と連携し、不登校児の包括的支援プランを共有
企業 年に一度、文房具を寄付する 職場体験の場を提供し、教育NPOの活動データを元にメンターを派遣
行政 統計データの集計に留まる NPOや学校とリアルタイムでデータを共有し、予算を柔軟に配分
バックボーン 不在(各々が連絡) 専任スタッフが月次で会議を回し、進捗を調整

定義

コレクティブ・インパクト(Collective Impact)は、2011年にFSG(コンサルティング会社)のジョン・カニア(John Kania)とマーク・クラマー(Mark Kramer)が『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー』で提唱した概念です。

学術的には、単なる連携や協力とは一線を画す、特定の複雑な社会課題に対して、異なるセクターから集まった主体が、共通のアジェンダの下で高度に構造化された形で取り組む手法と定義されます。

カニアとクラマーによる5つの条件

コレクティブ・インパクトが成立するためには、以下の5つの要素が同時に満たされている必要があります。これが学術的な定義の根幹をなします。

  1. 共通の目的(Common Agenda):
    参加組織全員が、解決すべき問題の本質と、解決に向けたアプローチについて共通の理解を持っていること。
  2. 共通の測定システム(Shared Measurement Systems):
    成果を測る指標を統一し、全組織が同じ基準でデータを収集・報告すること。これにより、活動の有効性を客観的に評価し、相互の責任を明確にします。
  3. 互いに補強し合う活動(Mutually Reinforcing Activities):
    各組織がバラバラに動くのではなく、各自の得意分野(資源)を活かしつつ、全体計画の中で互いの活動が相乗効果を生むように設計されていること。
  4. 継続的なコミュニケーション(Continuous Communication):
    参加者間で定期的かつオープンな対話を行い、信頼関係を構築・維持すること。
  5. バックボーン組織(Backbone Support Organization):
    プロジェクト全体の調整、データ管理、広報などを専門に担う事務局的な独立組織が存在すること。

従来の連携との違い:Isolated vs Collective

学術的には、従来の連携(Isolated Impact)との対比でその独自性が強調されます。

  • Isolated Impact(個別的インパクト):
    個々の組織が独立して資金を調達し、独自のプログラムを実行する。成果の責任も個別に負う。
  • Collective Impact(集合的インパクト):
    社会課題は複雑(Wicked Problems)であり、一組織では解決できないという前提に立つ。組織の成功ではなく社会課題の解決(システムチェンジ)を最優先し、リソースを統合します。

理論的背景:システム思考とアダプティブ・ガバナンス

コレクティブ・インパクトの定義をより深く理解するための理論的支柱が2つあります。

  • システム思考(Systems Thinking):
    問題を単一の原因に帰せられず、多くの要因が絡み合う生態系として捉える視点です。
  • アダプティブ・リーダーシップ(Adaptive Leadership):
    正解がない課題に対し、試行錯誤しながら学習を繰り返し、組織の枠を超えて変化を促すリーダーシップのあり方です。

歴史的・社会学的意義

この概念の登場は、1990年代以降の新しい公共管理(NPM)がもたらした活動の断片化に対する強力な処方箋となりました。

  • リソースの最適化: 資源依存理論で見た依存を、共通のアジェンダの下で戦略的投資に変えるプロセスです。
  • エビデンスに基づく評価: 共通の指標を用いることで、これまでの善意ベースの活動を実効性ベースの科学的な活動へと進化させました。

分析

コレクティブ・インパクトの定義において最も重要なのは、バックボーン組織の存在です。多くの連携が失敗するのは、調整役がボランティアベースや持ち回りであり、専門的なガバナンスが欠如しているためです。この組織を公式なインフラとして定義に組み込んだことが、この理論を実効的なものにしました。

歴史

コレクティブ・インパクト(Collective Impact: CI)の歴史は、社会課題解決のアプローチが個別の組織による善行からシステム全体での構造改革へと進化してきたプロセスそのものです。

2011年の提唱から現在に至るまで、単なるブームを超えて、公共政策や社会起業の標準OSへと発展した軌跡を辿ります。

前史:断片化された善意の限界(〜2010年)

CIが提唱される前、社会セクターはアイソレイテッド・インパクト(個別的インパクト)の時代でした。

  • 組織の乱立: 1990年代のNPM(新公共管理)の影響で、NPOが急増しましたが、それぞれが独自のプログラムと資金調達を行い、同じような活動をバラバラに展開していました。
  • 活動と成果の乖離: 各団体は何人に支援したかという活動量は報告できても、地域全体の貧困率が下がったかという社会全体の成果(アウトカム)に対しては責任を負えませんでした。
  • フィランソロピーの限界: 財団や政府も優れた単一の組織に助成するスタイルをとっており、組織間の連携を促す仕組みが欠如していました。

概念の誕生:2011年の衝撃

FSGのジョン・カニアとマーク・クラマーが『スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー(SSIR)』に論文を発表しました。

  • 衝撃の背景: 彼らは社会問題はもはや一組織で解決できるほど単純ではないと断言。シンシナティの教育改革プロジェクトストライブ(Strive)の成功をモデルに、5つの条件を体系化しました。
  • 5つの条件の提示: 特にバックボーン組織と共通の測定システムの重要性を説いたことは、それまでの仲良し連携に構造的な規律をもたらしました。

世界的波及と実践の深化(2012年〜2016年)

この概念は瞬く間に世界中の政府、財団、NPOに採用されました。

オバマ政権の採用: ホワイトハウスに社会イノベーション・市民参加室が設置され、CIの手法が連邦政府の助成金プログラムの要件に組み込まれました。

CIフォーラムの設立: 実践者のためのコミュニティやツールキットが整備され、教育だけでなく、公衆衛生、環境保護、ホームレス対策など、あらゆる分野へ適応が広がりました。

批判的検討とCI 3.0への進化(2017年〜現在)

実践が進むにつれ、初期のCIモデルに対する課題(トップダウンへの批判、当事者不在など)が指摘され、より深化しました。

  • 公平性(Equity)の統合: 当初のCIは効率的・構造的すぎると批判されました。現在は、解決策の策定に課題の当事者が直接関与し、構造的な人種差別や格差に焦点を当てるEquity-Centered Collective Impactへと進化しています。
  • システム・チェンジへの注力: 症状への対処ではなく、法制度、資源の流れ、パワーバランス、精神モデルといったシステムの根源を変えるためのレバレッジ・ポイントを突く活動が重視されるようになりました。

コレクティブ・インパクトの進化系統

段階 時代 特徴 焦点
誕生期 (1.0) 2011年〜 5つの条件の提示 組織間の調整、効率化
普及期 (2.0) 2014年〜 ツール・指標の整備 データの共有、エビデンス
変革期 (3.0) 2017年〜 公平性とシステム変革 当事者参画、構造的要因の打破

分析

CIの歴史は、競争から共創へという大きな価値転換の歴史です。かつてNPOは資金を巡って競合していましたが、CIの登場によって共通のアジェンダを達成するためのパートナーへと再定義されました。現在は、その共創をいかに公平(エクイティ)なものにするかという、より高度な統治(ガバナンス)のステージにあります。

事例

コレクティブ・インパクト(CI)の事例は、単なる成功したボランティア活動ではなく、データに基づき、組織の壁を越えて社会システムを書き換えた実例として見る必要があります。

世界的なモデルケースから、日本国内の先進事例まで3つ紹介します。

ストライブ(StriveTogether):CIの原点

米国シンシナティで始まった教育改革プロジェクトで、CIの5つの条件が体系化されるきっかけとなった事例です。

  • 課題: 膨大な教育支援予算が投じられていたにもかかわらず、子供たちの学力や進学率が全く改善していなかった。
  • アプローチ: 300以上の組織(大学、企業、NPO、行政)が参加。
  • 共通の測定: 入学準備、読解力、大学進学率など、子供の成長をゆりかごからキャリアまで一貫して追跡する共通指標を導入。
  • バックボーン組織: 独立した事務局を設置し、各組織がバラバラに行っていた活動を、エビデンスに基づいて調整。
  • 成果: 4年足らずで、高校卒業率や4年生大学進学率など、主要な指標の80%以上で顕著な改善が見られました。

ライフ・ノース・アクト(Leith North Act):公平性重視のCI

スコットランドのエディンバラ北部のコミュニティで行われた、生活困窮者支援の事例です。

  • 課題: 貧困層が多く、行政の支援が届きにくい孤立した地域。
  • アプローチ: 当事者の参画を徹底。
  • CI 3.0の実践: 住民自身が地域の課題を定義し、どのように予算を使うかを決める参加型予算の仕組みを導入。
  • 相互補完: 警察、医療、教育機関が、住民ボランティアと対等な立場でテーブルにつき、情報の非対称性を解消。
  • 成果: 地域の犯罪率が低下し、住民の幸福度(ウェルビーイング)が劇的に向上。行政主導ではなく住民がシステムを動かしているという感覚が醸成されました。

日本の事例:高専を核とした地域産業育成

日本においても、特定の産業課題に対してCIのアプローチが取られるようになっています。

  • 課題: 地方の製造業における深刻な人手不足と技術承継の断絶。
  • アプローチ: 高専(国立高等専門学校)をバックボーン組織に近い役割とし、自治体、地元企業、金融機関が連携。
  • 共通アジェンダ: 地域発の技術革新と若手エンジニアの定着を掲げる。
  • 互いに補強し合う活動: 企業は実習の場を提供し、金融機関は共同開発への投資を行い、高専は最新技術の研究・教育を提供。
  • 成果: 学生の地元就職率が向上し、企業間の共同開発による新製品が誕生。特定の補助金に依存しない、自律的な地域経済循環が生まれつつあります。

事例から学ぶ成功の鍵の比較

事例 主要なバックボーン 成果の源泉 時代区分
ストライブ 独立専門組織 徹底的なデータ活用(エビデンス) CI 1.0 (構造化)
レイス・アクト 住民+行政連合 当事者のパワーシフト(権限委譲) CI 3.0 (公平性)
日本・高専 教育機関 知的資源と産業リソースの統合 日本型 (実利重視)

分析

これらの事例に共通するのは、誰もが反対できないが、誰一組織では達成できない大きな目標を掲げている点です。

オープン・イノベーションで知を集め、資源依存理論で学んだ資源の非対称性をバックボーン組織が調整し、協調的ガバナンスによって責任の所在を明確にする。これらの理論が組み合わさった時に、コレクティブ・インパクトは単なる掛け声から社会を変える力へと変貌します。

課題

コレクティブ・インパクト(CI)は強力なフレームワークですが、その構造の重さゆえに、提唱から10年以上が経過した現在、多くの実践現場でいくつかの深刻な課題が浮き彫りになっています。

これらの課題は、単なる運営のミスではなく、理論そのものが内包する構造的なジレンマです。

公平性(Equity)と当事者不在の課題

初期のCIモデルにおいて最も厳しく批判された点です。

トップダウンの意思決定: 地域の有力者(CEO、政治家、財団のトップ)が集まるステアリング・コミッティでアジェンダが決められ、実際に課題に直面している住民や当事者の声が反映されないエリート主義に陥る傾向があります。

構造的要因の無視: 個別のサービスの効率化には成功しても、その背後にある人種差別、性差別、貧困の連鎖といった構造的な原因に切り込むことを避けてしまう(あるいは議論が紛糾するのを恐れる)ことがあります。

バックボーン組織の持続可能性と権力

5つの条件の要であるバックボーン組織自体が、課題の源泉になることがあります。

  • 資金調達の難しさ: 多くの助成金は直接的な支援活動に支払われます。調整や事務局機能を担うバックボーン組織の運営費(人件費等)を確保し続けるのは容易ではありません。
  • 組織間の摩擦: バックボーン組織が強力になりすぎると、参加組織が自分たちがコントロールされていると感じ、反発や離反を招きます。逆に弱すぎると、調整が機能せず活動が霧散します。

共通の測定システムによる弊害

エビデンスを重視する姿勢が、逆効果を生む場合があります。

  • 測定可能なものへの偏重: 数値化しやすい指標(例:テストの点数、就職者数)ばかりが優先され、数値化しにくいが極めて重要な要素(例:コミュニティのつながり、自己肯定感)が軽視されます。
  • データの報告コスト: 現場のスタッフにとって、共通のシステムへデータを入力する作業が過度な負担となり、本来の支援活動を圧迫することがあります。

アダプティブ(適応的)な変化の欠如

CIは複雑な問題(Wicked Problems)を扱うためのものですが、皮肉にも構造が変化を妨げることがあります。

  • 計画への固執: 一度共通のアジェンダを固定してしまうと、環境の変化や新たな知見が得られた際に、柔軟に方向転換(ピボット)することが難しくなります。
  • 合意形成の低位平準化: 全員の合意(コンセンサス)を求めすぎるあまり、革新的でリスクのあるアイデアが排除され、無難で妥協的な解決策に落ち着いてしまう最大公約数的な合意の罠です。

コレクティブ・インパクトの不全のサイン

兆候 潜在的な課題 予想される結果
会議が行政や財団の幹部だけで行われている 公平性の欠如 現場の実態から乖離した解決策
データの入力に追われ、現場から不満が出ている 測定システムの不適合 活動の質の低下、スタッフの離職
バックボーン組織の予算が常に赤字である 持続可能性の危機 プロジェクト全体の突然の停止
5年前と同じアジェンダを掲げ続けている 適応性の欠如 社会情勢の変化に取り残される

分析

これらの課題は、コレクティブ・インパクトが管理の技術(マネジメント)として普及しすぎたことに起因します。本来CIは社会の変化(システム・チェンジ)を起こすためのダイナミックな運動であるべきです。課題解決の鍵は、構造を維持しながらも、いかに権力を分散し、学習を継続する文化を内部に持てるかにかかっています。

課題の解決

コレクティブ・インパクト(CI)が直面する形骸化エリート主義硬直化といった課題を解決するためには、初期モデル(1.0)の構造的な堅牢さを維持しつつ、より人間中心で柔軟なCI 3.0(コミュニティ主導型)へのアップデートが必要です。

実効性を再構築するための4つの主要な解決策を提示します。

公平性(Equity)をプロセスの中心に据える

トップダウンの意思決定を打破し、課題の当事者がパワー(権限)を持つ構造へ転換します。

当事者の共同参画(Co-design): ステアリング・コミッティ(運営委員会)に、地域住民や支援対象者を意見を聞く対象としてではなく、議決権を持つメンバーとして正式に組み込みます。

ターゲット・ユニバーサリズムの採用: 全員に同じ支援をするのではなく、全体の目標(例:地域全体の識字率向上)を掲げつつ、最も困難な状況にあるグループに焦点を当てた異なる戦略を実行します。

バックボーン機能の分散と正当性の確保

事務局を一箇所の組織に固定せず、ネットワーク全体のインフラとして再定義します。

  • 共有型バックボーン: 1つのNPOが事務局を担うのが難しい場合、大学、財団、行政がリソースを出し合い、中立的なNAO(ネットワーク管理組織)を共同運営することで、資金的・政治的リスクを分散します。
  • ファシリテーション能力への投資: バックボーン組織の役割を管理(Management)から対話の促進(Facilitation)へシフトさせます。参加組織の自律性を尊重しながら、共通の方向に緩やかに誘導するサーバント・リーダーシップを育成します。

学習のための測定へのシフト

データを監視・評価の道具から、現場が改善するための道具へ変えます。

  • アダプティブ・ラーニング(適応的学習): 共通の測定システムを、四半期や年単位の報告のためだけでなく、月単位の振り返り(リフレクション)のために使います。データを見てうまくいっていないことがわかったら、即座に戦略を変更することを称賛する文化を作ります。
  • 定性データの価値化: 数値指標だけでなく、当事者のストーリーや変化の予兆(兆し)を意味のあるエビデンスとして公式に採用し、共通の測定システムに組み込みます。

信頼関係(社会関係資本)への戦略的投資

CIの5つの条件の土台となる関係性の質を意図的に高めます。

  • スピード感の調整という合意: 成果を急ぐ資金提供者と、信頼構築を重視する現場の間で、初期段階はあえて成果を求めず関係構築に時間を割くという合意(プレ・ガバナンス)を形成します。
  • 対立の可視化と解消プロセス: 意見の不一致を避けるのではなく、あえて対立を議論のテーブルに乗せ、メディエーター(調停役)を介して解消するプロセスをあらかじめ制度化しておきます。

コレクティブ・インパクト解決策のマトリクス

課題の次元 解決策(CI 3.0) 目指す状態
権力(Power) 当事者への議決権譲渡 コミュニティ・オーナーシップ(住民自治)
構造(Structure) 共有型バックボーンの設置 政治的・資金的レジリエンス(回復力)
評価(Evaluation) リアルタイム学習と定性評価 戦略の柔軟な修正(アジャイルなCI)
文化(Culture) 信頼構築への時間的投資 持続可能なエコシステムの形成

総括

コレクティブ・インパクトの課題を解決する究極の鍵は、システムの中心に人間を戻すことです。

高度なデータ管理や洗練された組織構造は重要ですが、それらはすべて地域の人が自ら未来を変えるための手段に過ぎません。解決策としてのCI 3.0は、資源依存理論で学んだ力の不均衡を調整し、オープン・イノベーションの知の共有を加速させ、実効的ガバナンスの民主的プロセスを担保する、統合的な社会変革モデルとなります。

バックボーン組織

コレクティブ・インパクトを成功に導く最大の要因は、実務を担うバックボーン組織(Backbone Support Organization)の質にあると言っても過言ではありません。

バックボーン組織は、単なる事務局や連絡係ではなく、異なる利害を持つ主体を束ね、戦略を推進するオーケストラの指揮者のような役割を担います。政策学や組織論の知見に基づき、必要とされるスキルセットを6つの領域で整理します。

ガイド・ビジョン(戦略的構想力)

プロジェクトの共通の目的を定義し、関係者が迷ったときに立ち返るべき北極星を提示し続けるスキルです。

  • コンテキスト・リーディング: 地域の歴史、力関係、社会資源を把握し、課題の全体像を捉える。
  • 戦略的マッピング: 各組織の活動をパズルのように組み合わせ、重複を避け、相乗効果を生むための青写真を描く。

ファシリテーションとコンフリクト・マネジメント(調整力)

異なる文化(行政の論理、企業の論理、NPOの論理)を持つ組織間の衝突を交通整理し、信頼関係を築くスキルです。

  • 中立的な仲裁: 特定の組織の利益に偏らず、全体の公益を優先する議論の場を設計する。
  • アクティブ・リスニング: 各主体の背後にあるニーズや懸念を正確に聞き出し、言語化する。
  • 信頼の醸成: あそこが言うなら協力しようと思われるだけの誠実さと透明性を維持する。

データ・マネジメントと共有(分析・評価力)

共通の測定システムを構築し、客観的なエビデンスに基づいて活動を改善していくスキルです。

  • 指標(KPI)設計: 長期的な社会変化(アウトカム)と、短期的な活動実績(アウトプット)を繋ぐ指標を設計する。
  • データ可視化(ビジュアライゼーション): 複雑な統計データを、現場の人間が直感的に理解し、次のアクションに繋げられる形に加工する。
  • フィードバックの仕組み化: 定期的にデータを振り返り、戦略を修正(アダプティブ・ラーニング)する文化を定着させる。

アドボカシーとコミュニケーション(発信・代弁力)

活動の価値を社会に伝え、新たな協力者や資金を引き寄せるスキルです。

  • ナラティブ・ソーシャル: 数字だけでなく、何が変わったかというストーリーを伝える力。
  • 政策提言(パブリック・アフェアーズ): 現場の成果をエビデンスとして行政に届け、制度化や予算化を促す。
  • メディア・リレーションズ: 多様な媒体を通じて活動の認知度を高め、正当性を獲得する。

リソース・モビライゼーション(資源動員力)

活動を継続するための資金、人材、場所などの資源を確保し、適切に分配するスキルです。

  • マルチファンディングの設計: 助成金、寄付、委託費、自主事業など、多様な財源を組み合わせる。
  • キャパシティ・ビルディング: 参加組織の能力を高めるための研修や支援を企画する。

アダプティブ・リーダーシップ(適応型リーダーシップ)

正解がない複雑な課題に対し、試行錯誤を許容しながら進む力を組織に与えるスキルです。

  • 不確実性への耐性: 計画通りにいかないことを前提に、柔軟に方向転換を行う。
  • エンパワーメント: バックボーンが指示を出すのではなく、各主体の主体性を引き出し、自発的な連携を促す。

バックボーン組織のスキル成熟度チェック

スキル領域 初級(事務局代行) 上級(バックボーン)
調整 会議の日程調整をする 意見の対立を解消し、合意形成する
データ 各組織の報告を集計する 共通指標に基づき戦略を修正する
戦略 言われた通りに動く 地域の5年後のビジョンを提示する
資金 決められた予算を管理する 新たな共同助成スキームを構築する

アドバイス

日本の地域づくりにおいて、バックボーン組織は誰にでもいい顔をする調整役と思われがちですが、本来はデータとビジョンに基づき、嫌われてでも軌道修正を促す規律の維持者であるべきです。そのためには、行政からの独立性と、専門的な知見を持つ人材の確保が、日本の現行制度における最大の配慮すべき点となります。

データの効率的な運用

バックボーン組織(以下、BB組織)がその機能を十全に発揮し、かつ燃え尽きを回避して持続するには、データの効率的な運用と財政的自立という両輪の確立が不可欠です。

政策学的・組織論的な視点から、その具体的な手法とモデルを詳解します。

共通測定システムの構築:現場の負担を減らす具体的手法

コレクティブ・インパクトにおいてデータ収集は、現場の支援員や活動家にとって最大の負担になりがちです。これを回避するための3つのアプローチを提示します。

① 評価の引き算と共有指標の絞り込み

各組織が持つ膨大な独自指標をすべて集めるのではなく、全体のアウトカム(成果)に直結する黄金の指標(コア・メトリクス)を3〜5つに絞り込みます。

  • 手法: そのデータは、次の一手を決めるために必要か?という基準で項目を削ぎ落とします。
  • メリット: 現場の入力時間を削減し、BB組織の分析精度を高めます。

② 代理指標(プロキシ)と既存データの活用

現場で新規に調査を行うのではなく、既存の行政データや活動記録から推計できる指標を活用します。

  • 手法: 例えば住民の孤独感を直接調査する代わりに、地域イベントのリピート参加率や自治会未加入率などの公開データを代理指標として設定します。
  • メリット: 住民やスタッフにアンケートの負担を強いることなく、変化を察知できます。

③ デジタル・フィードバック・ループの構築

現場がデータを提供するだけの一方通行ではなく、入力した瞬間に自組織の活動に役立つグラフや比較データが返ってくるシステムを構築します。

  • 手法: BIツール(データの可視化ツール)を用い、現場スタッフがスマホ等で入力した結果がリアルタイムでダッシュボードに反映されるようにします。
  • メリット: データが管理の道具から自分たちの活動を改善する武器へと変わります。

バックボーン組織を支える持続可能な財政モデル

BB組織は自らサービスを提供しない(調整に徹する)ため、収益化が難しい構造にあります。持続性を確保するための4つのモデルを提示します。

① 共同助成スキームと管理費の適正化

複数の助成財団や行政が資金を出し合い、BB組織を地域の社会課題解決のためのインフラとして共同で支えるモデルです。

  • 論点: 事業費の5〜15%程度を調整管理費(バックボーン経費)として各事業から拠出させるルールを、資金提供者(ドナー)とあらかじめ合意します。

② 社会的インパクト投資・成果連動型委託(SIB/PFS)

社会課題の解決による将来の行政コスト削減分から、BB組織の運営費を支払う仕組みです。

  • 手法: 日本でも導入が進むPFS(成果連動型民間委託契約)を用い、BB組織が調整した結果、再犯率や介護認定率が下がった際、その成果報酬をBB組織の運営に充てます。

③ 伴走支援・コンサルティングの有償化

BB組織が蓄積したデータ分析力やファシリテーションスキルを、地域外や他組織に提供することで収益を得るモデルです。

  • 手法: 企業向けに地域の課題を解決する新規事業開発のフィールドコーディネートや、CSR/SDGs活動のインパクト評価を請け負います。

④ 会費・寄付による信頼資本の蓄積

特定のセクターに依存しないよう、地域住民や地元企業からの少額の会費を集めます。

  • 論点: これは単なる集金ではなく、BB組織の中立性と正当性(レジティマシー)を担保するための投票としての意味を持ちます。

実装のステップ:負担を減らし、資金を得るためのマトリクス

優先度 データ収集(負担軽減) 財政基盤(持続性)
短期 既存データの再活用、項目の絞り込み 行政・財団との調整費交渉
中期 入力と同時に可視化されるアプリの導入 伴走支援や研修の有償化
長期 データのオープン化による官民協働 成果連動型(SIB)への移行

総括

バックボーン組織の成功は、どれだけ現場の手間を省き、どれだけ現場に価値(資金・情報)を戻せるかにかかっています。データの収集も資金の確保も、手段であって目的ではありません。

特に日本においては、行政がBB組織を下請けの事務局と見なす傾向がありますが、これを打破するためには、BB組織自らがデータに基づく政策提言力を持ち、対等なパートナーとしての地位を確立することが解決への最短ルートとなります。

組織間のパワーバランス

コレクティブ・インパクトを推進する際、最も困難なのが組織間のパワーバランスの偏りをどう管理し、対等な連携を維持するかという点です。資金力の強い行政や大企業、あるいは声の大きい特定団体が主導権を握りすぎると、他の参加主体の意欲が減退し、連携は形骸化します。
政策学における協働ガバナンス(Collaborative Governance)の理論に基づき、公平性と実効性を両立させるガバナンス設計の要点を整理します。

意思決定の重層構造化(マルチレイヤー・ガバナンス)

すべての議題を全員で話し合うのは非効率であり、一方でトップだけで決めるのは独裁的です。権限を適切に分散させる階層設計が必要です。

運営委員会(ステアリング・コミッティ): 各セクターの代表者で構成。全体の戦略策定、資源配分、紛争解決といった大きな方向性を決定します。
作業部会(ワーキング・グループ): 現場の実務者で構成。具体的な活動(例:学習支援、就労支援など)に特化して、迅速な意思決定と実行を担います。

バックボーン組織(事務局): 委員会と作業部会の間を繋ぎ、情報の循環と規律を維持します。

公平性を担保するグラウンド・ルールの明文化

あうんの呼吸に頼らず、組織間の力関係をフラットにするための合意事項を文書化します。

  • 1組織1票制の原則: 拠出金の多寡にかかわらず、重要な意思決定においては各組織が対等な一票を持つことを規定します。
  • 情報の同時公開: 特定の組織だけが先に情報を知ることを防ぎ、すべてのデータや進捗を共有プラットフォーム上で同時に公開します。
  • 脱退と参入のルール: 組織の入れ替わりを前提とし、特定の組織が抜けても活動が止まらない、あるいは新しい視点が常に入る仕組みを整えます。

対等な立場を作るためのリソース交換設計

弱い立場にある組織(小さなNPOや市民団体)が、強い組織(行政や企業)に対して対等に振る舞えるよう、リソースの非対称性を補完します。

  • 専門性のリスペクト: 行政は資金と正当性を、NPOは現場の専門知と柔軟性を、企業は技術と効率性を出すというように、何を持って貢献しているかを明確に定義し、相互に依存し合う関係を構築します。
  • キャパシティ・ビルディング支援: バックボーン組織が、小規模組織の事務能力やデータ活用能力を底上げする支援を行い、議論のテーブルに同じレベルで立てるようにします。

相互監視とフィードバックの仕組み

権力が一箇所に集中していないかをチェックする機能を組み込みます。

  • 定期的なガバナンス評価: 一部の意見ばかりが通っていないかバックボーン組織は中立かを、全参加組織が匿名で評価し合う機会を設けます。
  • 外部アドバイザリー・ボードの設置: 地域外の専門家や有識者が客観的に運営をモニタリングし、偏りがある場合に是正勧告を行う仕組みを作ります。

日本の文脈におけるガバナンスの課題と配慮

日本の公的な協議会モデルにおいて、特に配慮すべき弱点は以下の通りです。

  • 行政の事務局化からの脱却: 行政が資金を出し、事務局も兼ねると、どうしても行政の意向が強まります。民間主導のバックボーン組織を育成し、行政はメンバーの一員として参画する勇気が求められます。
  • シャンシャン総会の回避: 形だけの合意形成ではなく、建設的な対立(コンフリクト)を歓迎し、異なる意見を統合して新しい解を生む熟議の時間を確保することが、真のガバナンスには不可欠です。

ガバナンス設計のチェックリスト

  • 透明性 会議録やデータは全参加組織がいつでも閲覧できるか?
  • 包摂性 規模の小さな団体の意見が、意思決定に反映される仕組みがあるか?
  • 中立性 バックボーン組織は、特定の団体の利益に加担していないか?
  • 応答性 現場の作業部会からの提案が、速やかに運営委員会で検討されるか?

総括

ガバナンス設計のゴールは、参加組織がコントロールされていると感じるのではなく、自分たちの力でこの連携を動かしているというオーナーシップ(当事者意識)を共有することにあります。力の偏りを技術的に是正することで、初めて多様な主体の知性が集合(コレクティブ)されるのです。

出典・文献

コレクティブ・インパクト(CI)は、ビジネスコンサルティングの知見と社会変革の現場が融合して生まれた概念であるため、主要な出典は学術誌だけでなく、実務家向けのレビュー誌にも多く存在します。

概念の原典(バイブル)

コレクティブ・インパクトという言葉を世界に広めた、最も重要な論文です。

  • Kania, J., & Kramer, M. (2011). “Collective Impact.” Stanford Social Innovation Review (SSIR), 9(1), 36–41.
    内容: CIの5つの条件(共通のアジェンダ、共通の測定システム、互いに補強し合う活動、継続的なコミュニケーション、バックボーン組織)を初めて定義した論文です。従来の個別的インパクト(Isolated Impact)との違いを明確に打ち出しました。
    重要性: すべてのCI実践者が必ず参照する、理論の出発点です。

概念の進化とアップデート

初期モデルへの批判や現場での気づきを経て、概念が洗練されてきた過程を示す文献です。

  • Hanleybrown, F., Kania, J., & Kramer, M. (2012). “Channeling Change: Making Collective Impact Work.” SSIR.
    内容: CIを実際に立ち上げるための3つのフェーズ(準備、計画、実行)について、より実務的なステップを解説しています。
  • Kania, J., et al. (2021). “Centering Equity in Collective Impact.” SSIR.
    内容: CI 3.0とも呼ばれる最新の潮流。初期モデルに欠けていた公平性(Equity)をどのように中心に据え、構造的な人種差別や格差に立ち向かうかを説いています。

日本における主要な文献

日本の文脈(行政との連携や地域課題)に即してCIを解説している資料です。

  • 日本財団・社会的投資推進財団 (編) (2017). 『コレクティブ・インパクト:持続可能な社会変革のための新しい手法』
    内容: 海外の事例紹介に加え、日本国内での適用可能性や課題についてまとめられた、日本におけるCIの教科書的な資料です。
  • 小林立明 (2015). コレクティブ・インパクト:社会課題解決に向けた新たなアプローチ『社会イノベーション研究』
    内容: 日本の公共政策やNPOセクターの視点から、CIの意義と限界を学術的に整理しています。

成功事例の深掘り(ケーススタディ)

理論がどのように具現化されたかを知るための文献です。

  • Turner, S., et al. (2012). “Understanding the Value of Backbone Organizations in Collective Impact.” SSIR.
    内容: CIの要であるバックボーン組織が具体的にどのような機能を果たし、いかに価値を生むのかを、Striveなどの事例をもとに分析しています。

アドバイス

コレクティブ・インパクトを深く学ぶなら、まずは Kania & Kramer (2011) を読み込み、その後に Kania et al. (2021) で公平性の視点を取り入れるのがベストです。理論(5つの条件)が、いかに現実のシステムチェンジ(構造改革)に繋がっているかを意識して読み解くことで、単なる協力関係ではない、CIの本質が見えてきます。

注意

以上の文書はAI Geminiが生成したものを加筆修正しており、誤りが含まれる場合があります。

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参照

市民活動の組織間連携・協調