「渋滞をなくすには道路を広げるしかない」―私たちが信じて疑わないこの常識は、実は大きな間違いかもしれません。最新の都市経済学が導き出した「道路混雑の基本法則」は、道路の供給がさらなる渋滞を呼ぶという皮肉な現実を暴き出しました。本連載では、鉄道大国である日本において、なぜ米国以上にこの法則が深刻に機能してしまうのか。そのメカニズムと、世界が注目する「賢い解決策」について解説します。

スライド資料(13ページ)

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音声解説(14分)

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道路を広げると渋滞が悪化する日本の真実

第1回:道路を広げるほど渋滞が増える!?12年前に判明していた「基本法則」の衝撃

「渋滞がひどいから、車線を増やしてほしい」 「新しいバイパスができれば、この混雑も解消されるはず」

私たちは当たり前のようにそう考えます。しかし、交通経済学の世界には、そんな私たちの直感を根底から覆す「基本法則(Fundamental Law)」が存在します。

驚くべきことに、今から12年前、2014年の研究では「道路を広げれば広げるほど、むしろ渋滞はひどくなる」という、悪夢のような現実が浮き彫りになってきたのです。

「作れば、埋まる」という冷徹なルール

2011年、ペンシルベニア大学のジル・デュラントン教授らが、米国の膨大なデータからある法則を導き出しました。それは、「高速道路の容量(車線数)を1%増やすと、交通量もきっかり1%増える」というものです。

これを「道路混雑の基本法則」と呼びます。せっかく道路を広げても、その分だけ新しい車がどこからともなく湧いてきて、結局混雑率は変わらない。つまり、道路建設による渋滞解消は「徒労」に終わるという衝撃的な内容でした。

鉄道大国・日本で起きた「さらに最悪な事態」

「それは車社会の米国だけの話だろう。日本は鉄道が発達しているから違うはずだ」

そう考えたのが、経済学者のHsu(シュー)氏とZhang(ジャン)氏です。彼らは2014年、日本の高速道路データを網羅的に分析し、日本版の「基本法則」を検証しました。その結果は、米国の事例以上にショッキングなものでした。

なんと日本における交通量の弾力性は、1.0どころか1.2〜1.3という数値を叩き出したのです。

10%広げると、13%増える!?

この「1.3」という数字が何を意味するか分かりますか?もし渋滞対策のために道路を10%拡張したとしたら、交通量はそれを上回る13%も増えてしまうということです。つまり、「良かれと思って道路を広げた結果、工事前よりも渋滞がひどくなる」という逆転現象が起きているのです。

第2回:鉄道大国・日本こそ「道路の誘発需要」が凄かった

なぜ、これほどまでに交通量が爆発してしまうのでしょうか。その裏側には、日本ならではの「3つのワナ」が隠されていました。

1. 「電車でいいや」を「車にしよう」に変えてしまう

日本と米国の決定的な違いは、公共交通機関の充実度です。日本の場合、強力なライバルである「鉄道」が存在します。「電車は時間が正確だけど、駅から歩くのが面倒だな……」そう思っていた人が、道路が少しでも広くなって「スイスイ走れそうだ」と感じた瞬間、鉄道から車へ一気にシフト(転換)してしまうのです。

2. 「点」と「点」が繋がった瞬間の爆発力

単なる車線の拡幅よりも**「路線の延伸(ネットワークの拡大)」**の影響が深刻です。日本の高速道路網は、まだ未整備区間が多く残っています。これまで諦めていた長距離移動が、たった数キロの延伸によって「繋がった!車で行ける!」と顕在化し、交通量を押し上げます。

3. トラック物流の「道路依存」

日本は島国であり、国内物流の主役はトラックです。道路が整備されると、企業はより効率的な配送ルートを組み直します。個人のレジャーだけでなく、日本の経済活動そのものが「増えた道路」をすぐに使い切ってしまうのです。

第3回:世界はこう解いている!ロンドン・シンガポールの「賢い」戦略

「基本法則」という絶望的なループから抜け出すために、世界の主要都市は「道路を増やす」という発想を捨て、「道路を賢く使う」というルールに切り替えました。

1. シンガポールの「動く料金所」

シンガポールでは、渋滞の状況に合わせて、料金が30分単位でリアルタイムに変わります。ドライバーは「少し時間をずらせば安くなる」と考え、自然と交通量が分散されます。

2. ロンドンを中心部に入るだけで「2,800円」

ロンドン中心部に車で進入するだけで、高い料金(約2,800円)を課しました。

  • 交通量が約15%減少、渋滞が30%緩和。
  • バスの走行スピードが向上し、収益は公共交通の改善に投資。

道路のスペースは限られた**「貴重な資源」**です。混雑税はこの「目に見えないコスト」を料金として可視化することで、「本当に今、車で通る必要がある人」だけがスムーズに走れる環境を整える仕組みなのです。

第4回:日本の渋滞を「ゼロ」にするための、未来への提言

Hsu & Zhang (2014) の研究成果を、これからの日本はどう生かすべきでしょうか。

1. 「道路は無料」という常識を疑う

渋滞は、一人ひとりが「自分一人が道路に入っても影響はないだろう」と考えることで発生する「共有地の悲劇」です。海外の事例が証明したように、価格というブレーキをかけない限り、日本の旺盛な誘発需要を抑えることは不可能です。

2. 「プッシュ」と「プル」のセット運用

  • プッシュ(押し出す): 混雑時の料金を、渋滞が消えるレベルまで引き上げる。
  • プル(引き寄せる): その収益を、鉄道の運賃値下げや利便性向上に全額投入する。

3. 既存の道路を「スマート」に使い倒す

新しい道路を作る予算があるなら、それを「今ある道路を賢く使うテクノロジー」に回すべきです。ハード(建設)ではなくソフト(制御)で、既存のインフラの能力を120%引き出す。これが、これからのインフラ投資の正解です。

【エビデンス・データ資料】

1. 弾力性の比較(道路1%増加に対する交通量の増加率)

調査対象 推定弾力性(Elasticity) 出典
日本 (全高速道路) 1.24 〜 1.34 Hsu & Zhang (2014)
米国 (都市部) 1.03 Duranton & Turner (2011)

2. ロードプライシング導入後の変化

都市名 交通量変化 平均速度の変化
ロンドン 約15% 減少 約30% 向上 (遅延減)
シンガポール 約10〜15% 減少 時速30km以上を維持

3. 参考文献

  • Hsu, W.-T., & Zhang, H. (2014). “The fundamental law of highway congestion revisited: Evidence from national expressways in Japan.” Journal of Urban Economics, 81, 65–76.
  • Duranton, G., & Turner, M. A. (2011). “The Fundamental Law of Road Congestion: Evidence from US Cities.” American Economic Review, 101(6), 2616–52.

注意

以上の文書はAI Geminiが生成したものを加筆修正しており、誤りが含まれる場合があります。

参考

渋滞対策は広げるより賢く使う:交通需要マネジメント(TDM)が拓く社会のデザイン

道路から考える、暮らしやすいまちづくり(輪学 2025年度 第2回)

英国サッチャーが作った自動車こそが自由という幻想の崩壊

 

交通理論体系整理の試み