合同会社日本鉄道マーケティング

由利高原鉄道での実績

由利高原鉄道

本社:秋田県由利本荘市矢島町

テーマ

運輸外収入の増加、鉄道経営企画の習得

実施概要

以下の活動をおよそ1年半にわたり実施

  • 情報基盤の拡充(webページ 自社サービスだけでなく地域発信も充実させ、乗車誘導だけでなくネットショップのグッズ販売)
  • 拡散基盤の拡充(広報支援、facebook、メルマガ、応援団)
  • 由利高原鉄道応援団立ち上げ(都心部に於ける企画・販売・プロモーションを鉄道ファンを主体で運用する仕組み)
  • 商品開発(地酒旅情セット:オリジナルラベルの日本酒と車窓動画のセット、鉄道模型、座席モケットクッション、キャラクター)
  • 鉄道写真家に協力を仰ぎ、写真素材を収集。そのお礼として現地で写真展を開催。
  • 日本鉄道省応募の支援(最終選考に残る)

日本鉄道賞2013 (最終選考)

経営施策については前年に就任された春田啓郎社長が進められていました。これを理解した上でITアドバイザーとしての支援をしつつ、日本鉄道賞応募に向けてわかりやすく図解しました。本件は最終選考まで残りました。

全文はこちらよりご覧いただけます

由利高原鉄道は、2013年にはじめて「日本鉄道賞」へ応募しました。今まで陥っていた悪循環から脱却し「地域活性化と鉄道の経営健全化は一体」という考えのもと、地域と協力して業績を改善するまでの考え方、ならびに具体的な施策をまとめたものです。同じ苦労をされている事業者の参考になればとの想いから作成いたしました。

由利高原鉄道日本鉄道省2014表紙

由利高原鉄道が陥っていた縮小均衡の罠

「旅客が減ったならコストを下げよう」「コスト減らすために列車を減らそう。地域の要望も断ろう」これがかつて由利高原鉄道が陥っていた罠でした。お客様が減ったならば増やす努力をすべきなのに、コストを減らす事のみ進め更にお客様を減らしていたのです。また、社内でも前向きな提案が断られ、士気も低下していました。業績を改善するには、この悪循環を断ち切る事が必要でした。

由利高原鉄道日本鉄道省2014縮小均衡の罠

スパイラルアップ戦略

長年続けて来て習慣となってしまった悪循環。これを脱するために大事だった事は、うまくいかなかった時の価値観や作戦の建て方を変える事でした。
まず「列車を走らせさえすれば良い」という意識を「地域に役立たなければならない」と変える意識改革が必要でした。「鉄道を残したい」という地域の気持ちの元にある「地域を寂れさせたく無い、活性化したい」に応える事が大事です。そして、日本最悪の鉄道環境でも経営健全化を行える戦略を作りました。自社の強みと弱みSWOTを踏まえて作戦を立てます。条件が違えば手段も変わります。首都圏に近い鉄道を物真似してもうまくいきません。
そして、活動が息切れしないように基盤を作り、その上で継続拡大するスパイラルアップの仕掛けを作りました。この一連の流れを「スパイラルアップ戦略」と名付けました。

長年続けて来て習慣となってしまった悪循環。これを脱するために大事だった事は、うまくいかなかった時の価値観や作戦の建て方を変える事でした。  まず「列車を走らせさえすれば良い」という意識を「地域に役立たなければならない」と変える意識改革が必要でした。由利高原鉄道日本鉄道省2014スパイラルアップ

春田啓郎公募社長による道筋作り

「列車を動かす」から「地域の役に立つ」とミッションが変わったとはいえ、それを実現できなければ意味がありません。人・物・金 何も無い状況では開き直って周囲の助けを得るしかありません。また、沿線人口が減り続けるならば外からお客様を連れて来る、それが地域の活性化にもつながるという仕組み作りが必要です。また、今までやってきた事がうまくいかなかった訳なので、リスクを含む新しい事を始める必要があります。民間ではあたり前と思える事ですが、悪循環に陥っていた由利高原鉄道ではその発想自体が無かったのでした。こうして道筋が作られたら、次は中身です。

由利高原鉄道日本鉄道省2014スパイラルアップ公募社長

 

送客基盤、企画・営業基盤作り

お客様を外から連れて来るための基盤作り。ここは春田社長の旅行業の経験が最大に活かされました。旅行業では「送客手数料」を旅行業者に支払う事で送客を受ける「船車券契約」がビジネスモデルの基本となっています。ですから、送客したくなる先に由利高原鉄道を選んでいただくために、船車券契約を各旅行会社と結んだのです。「手数料を払うのはコスト増だ」と嫌う鉄道事業者は多いのですが、旅行業者の送客基盤を使え営業に必要なコストと割り切れば良い訳ですし、外部からの旅行者が増えるので既存の運賃収入を脅かす事はありません。また、自社で県外からのツアーも催行できるよう旅行業免許も二種を取得しました。

旅行先に選んでいただくために、列車アテンダントも増員し接遇を向上させました。また、アテンダントはイベント企画・広報・営業にも活躍しています。

こうして、お客様を迎える基盤を作った上で、積極的に地域内外への営業を行い、お客様を外からお迎えできるようになりました。

由利高原鉄道日本鉄道省2014送客基盤作り

イベント広報

送客(集客)基盤、企画・営業基盤ができた事で、イベント列車を数多く企画し集客し続ける事ができるようになりました。これをさらにパワーアップさせたのが、広報との連動です。まずは公共空間である列車を使い、ユニークなイベントを次々に打ち出し、市外からの定期外客を誘致します。さらにイベントにメディアを取材誘致し公共性と話題性により、イベントを報道してもらいます。そして取材に来られたメディアの方々とオフ会「由利鉄きしゃ倶楽部」などを開催し、継続的な関係を作り、特集などに取り上げられる様な情報を磨き続けています。こうしてイベントを重ねるにつれ、定期外客と報道するメディアも増え続けていきます。一発花火的にイベントを起こすのではなく、1つ1つのイベントが成長の糧となるように仕組まれているのです。

由利高原鉄道日本鉄道省2014イベント広報

ITアドバイザー(現 日本鉄道マーケティング)との契約

導入効果

ITとマーケティングに詳しい山田(現日本鉄道マーケティング代表)を「ITアドバイザー」として契約しました。その成果は右の表の通り、webアクセスは3倍、facebook の定期購読者は1200人以上、webショップやメール便りが立ち上がり、旅情商品も企画されました。また首都圏の広報活動も行っているため、雑誌媒体との関係も強化されました。
特にfacebookページは強力で、毎日2−6件の記事を配信し由利高原鉄道のファンを国内外に広めており、週間リーチは7000人を越えています。定期購読者は6月20日現在で1206人でその友人合計は17万9千人にものぼっています。これらの成果を昨年の8月から10ヶ月弱で実現しています。 閉鎖的に社内だけで事を進めるのではなく、プロフェッショナルな外部の力を積極的に使う事で、成果を上げるスピードを加速できたのです。

由利高原鉄道日本鉄道省2014ITアドバイザー

情報基盤

ITアドバイザーがてがけた事で最も効果が大きかったのは情報基盤と拡散基盤です。
今まで由利高原鉄道は無名だったため、お客様には前提知識が無く、基礎的な情報を一から伝える必要がありました。そのためWEBページを刷新して、お客様が必要とするあらゆる情報を網羅するようにしました。首都圏から遠い由利高原鉄道までのアクセス方法、推奨列車、現地のみどころやアクティビティ、主要な宿泊施設、そして鉄道の魅力を網羅し紹介するページを精力的に作り、2013年時点で150ページと書籍並みのボリュームに至りました。これだけの分量になると整理しないと必要な情報をみつけられなくなるため、メニューを構造化し検索機能を付けるといった操作性の向上も図りました。
また、急速に増加しているスマートフォンやタブレットに対応するため、最新の「レスポンシブルデザイン」を採用し、あらゆる画面サイズに1つのデータ、同じ操作性で対応できるようにしてあります。当時スマートフォンからのアクセスは3割を越し有効性が実証されています。当時「レスポンシブルデザイン」を採用している鉄道会社はJRグループでもまだ無く、鉄道業界では最先端を行くwebサイトでした。これらは閲覧されるお客様の立場に立ってみれば必要な事ばかりですが、ここまで実現している地域鉄道会社は他に例を見ませんでした。
また、WEBには最新のオープンソースブログソフトWordpressを採用しているため、低コストで運用できる上にブログと同じ感覚でページを更新する事ができ、ITスキルに薄い社員でも自ら更新ができ、利用者にも事業者にも優しいシステムとなっています。

当時の由利高原鉄道web

zirei 2

拡散基盤

WEBを充実しただけで知見は広まりません。そこで拡散基盤として、facebookページ、メール便り、メディア報道を活用しました。その日その時に応じた最適なトピックを新聞のように配信する事で、注目を集め、詳細情報はWEBを見るように毎日誘導をし、アクセスを増やし続けています。また、広報活動ではお客様が参照する必要な詳細情報はwebに掲載し、プレスリリースを簡潔に読みやすく配信するなどして成果を上げています。またサーチエンジン対策(SEO)としては、ページ更新を頻繁にする事やネット系メディアの広報を強化し、良質なリンクを得る事を心がけています。WEBの全ページはfacebookで拡散できるように「いいね!」ボタンがつけられています。また、ビジュアルな情報を日々発信するfacebookにより由利高原鉄道を深く知る人が増え、ロイヤリティが引き上がった事でコミュニティの形成も図れるようになり、応援団結成への足がかりともなりました。さらに、facebookのアカウントを持っていない方向けに月に一度由利高原鉄道の情報を伝えるメール便りを配信しました。このメール便りも詳細情報はwebを参照しアクセスの増加を図っています。このように「作っておしまい」のwebではなく、変わり続け拡大し続ける情報基盤のwebと拡散基盤のfacebookやメール便りの組み合わせで由利高原鉄道のファンとお客様を増やし続けています。そして、クレジットカード決済が可能なWEBショップを開設しているので、webに流入したお客様を漏らさず購買に結びつけられるようにし、増収に結びつけています。
由利高原鉄道日本鉄道省2014情報基盤作り
項目 導入成果
web月間訪問者 11.782人+200%(H25.10)
SNS固定読者 Facebook 1.987人(その友人 推定300.000人)
通販売上 月間100万円 (25.11)
企画商品 旅情セット、座席クッション、ペーパークラフトHO模型、キャラクター商品
首都圏マスコミ 定例記者会での発表プレスリリース(5ヶ月間で7件)ブロガーコンタクト
顧客リサーチ Facebook日次配信、「メール便り」毎月更新

車窓旅情セット

首都圏からは遠いので、なかなか来られない方にはこちらからお届けしようと「由利鉄に乗りたくなる商品」も販売しています。美しい車窓を肴においしい燗酒を楽しんでいただく「車窓旅情セット」、鳥海山の残雪と出来立ての生酒を楽しんでいただく「残雪旅情セット」などを企画しました。社長のサイン入り挨拶状、切符、絵葉書なども入れ旅情をかき立てます。列車の旅でお酒を飲む「飲み鉄」の楽しさも改めて啓蒙したいという想いもありました。鉄道会社が物珍しいお酒の売り方をするという事で、マスコミにも取り上げていただき、多くのお客様にお買い上げ頂きました。そして、お買い上げて頂いたお客様にリピート購入を頂ける商品を開発し、メール便りも送付し一回限りでない関係を築いています。こうして「いつかは由利鉄に乗りにいきたい」と思って頂けるお客様を増やし続けています。
写真中黒い部分はこちらの2つ動画になります。

由利高原鉄道日本鉄道省2014車窓旅情セット

アーティストの活用

高品質な写真や絵画は「いつかは由利高原鉄道に乗ってみたい」と読者の心を動かす力を持っています。この効果は絶大で、webやfacebookを見た方からは「日々、由利高原鉄道の美しい風景に癒されている」「いつかは乗りたい」「ついに乗りに行った!」という声が国内外から寄せられています。

しかし、毎日webやfacebookで発信を行うには社内のリソースだけではとても賄い切れません。そのため、外部の写真家や画家と提携し、高品質な写真や絵画などのアートを提供いただき活用しています。さらにこれらのアートをプロモーションビデオやグッズ(絵葉書)などに二次利用する事で効果を高めていますし、雑誌媒体の記事などにも活用されています。

このように写真や絵画を提供いただいたアーティストからは作品の発表場所として社会的信頼のある鉄道会社のwebサイトはとても魅力的なため、互助関係が出来上がっています。

応援団の立ち上げ

また、ファンを組織化して応援団とする事で、イベントの企画や運営の力となっています。応援団は年齢層が高い事もあり企業の要職を勤められている方も多く、その知識や人脈はイベントの企画や運営に大きな力となっています。これらの人達をつなぐのに、web、facebookは重要な基盤となっています。こうしてアーティストや応援団の助けによって由利高原鉄道の利用が増えるのは皆の喜びとなり、更なる次の活動への糧となっています。

由利高原鉄道日本鉄道省2014応援団

 

ファンの関心を捉え続ける

目新しい事に挑戦し続ける事は、ファンの形成と拡大にも役立っています。今年3月に新車が愛知から秋田まで甲種輸送された際は、その行程をwebでも公開し、ファンの方々の見送りや撮影を促しました。撮り鉄の皆さんもマナーを守り、和気あいあいと撮影をたのしまれていた風景が印象的でした。多数の方々が撮影された写真や動画をオフィシャルwebに掲載する事で、900kmもの行程を1つの軌跡として公表する事で、更なる盛り上がりを作る事ができました。

また、JR時刻表50周年記念ヘッドマークを定期列車に装着する事で、相互宣伝を実現するなど、目新しい事に面倒がらず挑戦し続けファンの関心を捉え続けています。

このようにファンの関心を捉える事でファン自身がブログやfacebookで由利高原鉄道を話題にし、注目するファンが増え、次に新しい事を行った際に更に拡散されていきます。すべてを新しくする必要は無く、毎年新しい企画を数回織り交ぜるだけで、関心を引き続ける事は十分できます。また、社長自らが応援団のオフ会に参加するなど、顔の見える鉄道会社としてファンから親しみを持っていただく活動を精力的に行っています。

最近鉄道ファンのマナーが問題になっているのは、主に駅や鉄道などの廃止でにわかに現れるマナーを知らない野次馬的な人達なので、しっかりとしたファンとの関係づくりはこういったマナーを知らない野次馬の抑制にもつながっています。

由利高原鉄道日本鉄道省2014ファンの関心

新車導入に伴う甲種回送を「嫁入り道中」として宣伝

由利高原鉄道日本鉄道省2014

観光開発

由利高原鉄道は地域の方々が「鉄道を残したい」との思いで設立された第三セクターです。地域の方々は「駅愛好会」を結成し駅の清掃や整備など絶大な協力を頂いています。この愛好会の方々に、「こいのぼり列車」のこいのぼり提供と設置、「かかし列車」のかかし作りなどのご協力を頂いています。子どもの成長を願ったこいのぼりを持ち寄り鉄道を育てるイベントに使う、子どもと高齢者が協力してかかしを作るなど、地域のつながり強化にも役立ち、鉄道を利用されるお客様の目を楽しませ、乗車の動機付けとなっています。

また、自治体と協力して観光開発を行い、2013年度はワンデーワンコインツアーを開発しました。二次交通が消えてしまった地域に500円で参加できる一日ツアーを催行し、バスで巡るものです。自家用車による観光とちがい、植物の持ち帰りなどの自然破壊のリスクも低く、携帯電話が通じない野生動物も出現する地域で安全安心に観光を楽しめるという、自然にも観光にも優しいツアーとなっています。そして、観光案内人の「まつ子」さんによる「さくら茶」の暖かいおもてなしと熱烈な列車の見送りは、心の安らぎを求めている方々に強烈な印象として残り、リピート訪問につながっています。また、テレビなどの取材でも必ずとりあげられる名物となっています。

このように地域に支えられている強みを活かし、地域と連携した観光開発により地域を活性化し、これが地域経済の発展につながれば、鉄道の利用増加にもつなげさらなる開発につなげる事ができるようになります。これにより、地域の方々にとっても「おらほの鉄道」という意識が強まり、次の世代にも受け継がれていきます。

由利高原鉄道日本鉄道省2014観光開発

社員・地域の企画を積極採用

由利高原鉄道は「溢れるアイデアに驚かされる」とよく言われます。もし社長一人だけが頑張っても多数のアイデアを考え出し実現する事はできません。また、社員のモチベーションが低ければ良いアイデアも出てきません。

そこで社員が提案したコストのかからないアイデアは積極的に採用する事にしています。このため、次々と新しい施策を打ち出す事ができるのです。中にはうまくいかない物もありあますが、自分のアイデアをなんとか成功させようと頑張るので、大抵はうまくいきますし、ダメならすぐに止めて損失を防止します。こうして成功・失敗体験が積み重なる事で、社員からさらに良いアイデアが次々に生み出されるため、常に新しい企画を打ち出せるのです。

また、地域からの要望も極力受ける様にする事で、地域からの信頼を勝ち得て「頼りにされる鉄道」と認められる様になっています。その代表例が、警察の要望で実現した「運転免許返納者半額割引:おばこ楽得」や、法人会青年部の要望で実現した小学生向けの税の勉強会「租税列車」などです。

スパイラルアップの実現

ここまでご紹介してきたスパイラルアップ戦略により全長23km,所有車両 わずか6両の本当に小さな由利高原鉄道はV字回復を遂げる事ができました。
環境はそれぞれ異なりますので、取るべき小手先の手段は鉄道路線によってそれぞれ変わってくるはずですが、基本的な考え方は応用いただけるものと確信しております。当社より環境が悪い鉄道はなかなか無いかと思いますので、皆様のご参考になれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

由利高原鉄道日本鉄道省2014スパイラルアップ実現

お気軽にお問い合わせください。 TEL 080-6717-0448 受付時間 9:00~18:00(土・日・祝日除く)

メールでお問い合わせはこちら
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • お問い合わせ
  • お電話でのお問い合わせはこちら
    TEL 080-6717-0448
    受付時間 9:00~18:00(土・日・祝日除く)
  • facebook
Follow on LinkedIn
  • お問い合わせ
  • お電話でのお問い合わせはこちら
    TEL 080-6717-0448
    受付時間 9:00~18:00(土・日・祝日除く)
Copyright © 合同会社日本鉄道マーケティング All Rights Reserved.