日本鉄道マーケティングでは、月に1度、活動や業界の情報についてお送りします。

10年ぶりに業務を再開いたしました

日本鉄道マーケティングは2024年4月1日より業務を再開いたしました。4月のお知らせでは、これまでの振り返りと今後の抱負をお伝えしたいと思います。2014年9月、若桜鉄道の公募社長に就任しこれに専念するため、日本鉄道マーケティングの業務は休業いたしました。そこから10年間については、事業実績ページをご参照いただけましたら幸いです。

事業実績

SL走行社会実験

忍者高速船

4フォーラム

10年間の蓄積

上記実績以外にも10年間で得られたものは小さくありませんでした。
1)ご縁の拡がり

10年の間に鳥取、岡山、三重、滋賀に住み、青森、宮城、福島でも仕事をし、8,000人以上の方々と名刺交換し、実績と経験を積むことができました。

2)学びと経験

大阪の再生塾・名古屋大学の講座などで公共交通の政策・制度と理論を学び、日本ロジステイックス協会に入会し物流の基礎知識を学び、別途国際コンテナ輸送について勉強し、物流関係の資格も取得しました。鉄道マーケティングに加え、行政折衝、安全安定運航に向けたオペレーション改善、インバウンド振興、地域間交流促進、予約発券システム導入、営業部門改革、市民活動推進など様々な業務経験も積め引き出しも増えました。

3)一生精進

また、地域特性を知るために歴史、文化も興味が湧き、近江ARSを通じて日本の思想やスタイルも学びつつあります。学べば学ぶほど未知の領域が広がるので、一生精進だと思い知らされています。

10年間の社会変化

地域公共交通に関しては、地方創生の開始、インバウンドの拡大、活性化再生法改定、新型コロナウィルスの流行による移動制限と減少、ウクライナ危機による物資不足と燃料高騰そしてリ・デザインと、激変の10年でした。その都度、その場所でできる限りの対策を取りましたが、地域公共交通の状況は一層厳しくなりました。

公共交通と2024年問題

そして、今直面している脅威は2024年問題です。もともとは過労死レベルの労働はやめましょうと制定され、トラック業界は5年の猶予を経て今年適用されました。その結果、13% ドライバーが不足すると言われています。

https://www1.logistics.or.jp/2024/

「それはトラックの話では?」と思われたかもしれません。トラックの台数はバスに比べおよそ13倍(*1)あり、そこで14%も不足するということは、バスの運転手全員がトラックに転向してもまだ足りないということです。路線バスは収支が取れない路線が多く待遇の引き上げは難しいのに対し、荷物は運べないと経済が止まるので報酬を引き上げて運転手の確保を図ります。その結果、もともと持続性が厳しかった地域公共交通が、物流業界の激変で労働者を奪われ運行が止まりかねない。その様な危機が始まっています。

*1 平成元年 バス台数109,545台(乗合61,542台、貸切48,003)、貨物自動車1,456,155台、貨物自動車:バス=13.29倍

2024年問題の背景

トラック運転手の過労死レベルの労働が続くのは、好ましいことではありません。その原因は、運賃のダンピングと多重下請け構造にあります。仕事を取るために無理して安く請ける。労働単価が低くなり人員確保ができないので下請けに出す。これが多重化して、さらに労働者の手取りが下がるという悪循環が働いています。また、労働単価が安く抑えられているので労働集約形態のまま近代化投資が進まない構造もあります。これを解決するには、貸切バスと同様に最低運賃を法制化して多重下請けを解消し労働環境の改善を図ることと、装置産業化への投資が必要と思えます。物流の装置産業化は海上コンテナ輸送が究極の姿で、労働集約だった船積が機械化・情報化され、コンテナは20ftと40ftにほぼ統一され、輸送手続きも標準化されています。釜山港・シンガポール港・LA/ロングビーチ港のコンテナターミナルと日本の荷積み現場を見比べればその差は歴然ですので、ぜひ一度ご覧いただくことをお勧めいたします。一方、日本の陸運は荷主の要求に応じて個別サービスを提供し続けた結果、パレットは200種類以上、荷積みなど付帯サービスのメニューも無く、荷主ごとに輸送手順と管理手法が異なるので共同輸送の調整にも数年を要するなど効率化を阻む壁が高いのが特徴です。

今後の抱負

物流を良くしたい

かつて日本は海洋国家でした。今や日本の港に国際コンテナ幹線航路が日本に立ち寄らなくなり、あたかもローカル線の終着駅のように釜山や上海からの支線航路が細々と繋がっているという凋落は、ここ30年で起きています。神戸港のコンテナ取り扱い量は世界第5位から73位に転落しています。取扱量は微増していまるのですが、中国・東南アジアの取扱量が急伸して追い越されてしまいました。個別縦割り業界保護の改善策が並ぶ現状はなんとかしたい所です。物流は経済の血流を支えていますので、国全体で物流の効率が最大となる仕組みにし、日本の競争力を上げることで国民の暮らしを良くすることを実現していきたいと思います。

改善と改革

今のままでは持続せず、改善でも効果が上がらない場合、一度根本に立ち返って「この事業は何のためにやっているのか?」「おなじ役割を実現するにはゼロから作るならどんな仕組みが考えられるか?」と位置付けと仕組みを見直す改革が必要な場面があります。

地域と地域鉄道を輝かせたい

地域鉄道はもともと稼ぐ収益事業としては成り立ちづらく、地域の振興を目的に建設・運行されているケースがほとんどです。それならば収益事業として運輸収入と投資・経費をバランスさせることに腐心するよりも、鉄道を使っていかに地域を振興させるかを考えるのが本来のあり方のはずです。道路や公共施設は収支は問われません。いかかに地域を発展させるかという観点で建設・運営されています。地域鉄道もそれと同様の考え方で活かし方を考えるのが本筋で、欧米ではそのように運営されています。日本だけ例外的に収益事業扱いされているという辺りが頑固に変わらないのは不思議なのですが、地域の方々がこれに気づくと鉄道の活用も変わって行きます。若桜鉄道・近江鉄道でそれぞれ改革に成功した経験から、各地の鉄道にこれを展開していきたいと思います。

無料デイ彦根駅

東京への気付き

3年間ご一緒した近江鉄道の皆様と一緒に大変なことを乗り越え、本当に感謝しております。3月中は補助金の報告業務などもあり、慌ただしく彦根を引き払い、東京に拠点を移しました。毎月来てはいましたが、東京に住むのは10年ぶりです。東京を出るまでは当たり前と思っていた、人が多いこと、バスの利用者が多いこと、電車で立つことなど、地方から来ると「そうだよね、違うな」と思えることも多いです。その眼が変わる前に、書き留めていきたく思います。

近江鉄道卒業