ここ14年間、日本国内の貨物輸送量は微減傾向です。それに対して、世界の国際コンテナの取り扱い量は増加を続けています。一体これは何が起きているのでしょうか?
貿易大国は過去の話に
「日本は加工貿易」、「貿易大国」と学校で習った方は多いでしょう。しかし、それは過去の話になったようです。コンテナ取扱量のランキングを見ると、日本最大の東京港は世界46位で、シンガポール、韓国、台湾、マレーシア、タイ、ベトナム、フィリピンなどのアジア各国よりも少なく、日本は貿易後進国となってしまったようです。
頭越しに抜かれた日本
実は日本の港の取扱量は減っていません。この30年間に急成長した国際物流に取り残され、アジア各国にも頭越しに追い越されてしまったのです。このため、神戸港は取扱量を増やしたにも関わらず、世界5位から72位に大転落してしまいました。
世界最大の北米航路に面する日本
日本の場所が悪いのでしょうか?いいえ、日本は世界最大で一日あたり6万TEU(コンテナを縦に並べたら366kmに相当)という莫大な貨物が動いている北米航路に面する絶好の位置にあります。にもかかわらず、日本の港は隣の韓国 釜山港(図の中央 青丸)に大きく差を付けられています。(下の図はコンテナ取扱量に応じて港の丸印の直径や線の太さを変えています)
規模の経済を追求し発展する世界の物流
世界の物流は「規模の経済」を追求しています。これは規模が大きくなるほど、コンテナ1つあたりの輸送コストが下がるので、船や港を巨大化させているのです。書籍「コンテナ物語」では、マッキンゼー社のレポートが紹介されています。
コンテナ輸送は近い将来ごく少数の海運会社に集中し、規格サイズのコンテナのみを満載した巨大な専用船で行われるようになるだろう。船、鉄道、トラックを結ぶコンテナの高速かつシームレスな輸送を実現し規模の経済を生かすためには、港の大型化が必須である。コンテナリゼーションの結果、海上貨物輸送に伴うコストは半分に減ると予想される。ただし、コスト削減が実現できるのは、どこか巨大な港一港に北米からの貨物を集中させ、国内の他の都市とは専用列車でコンテナを輸送する体制を整えた場合に限られる。
マッキンゼー社 (1965年) マルク レビンソン著 コンテナ物語 日経BP社より
このレポートは59年前に作られましたが、見事に今の国際コンテナ輸送の状況を言い当てています。そして著者のマルクレビンソンは、輸送コストの急減が貿易の伸びに影響したと言います。各国はコンテナ輸送により物流を効率化し、輸送コストが下がり貿易が活発化しました。はたして日本の物流は効率化され、コストは大幅に下がったのでしょうか?
コンテナが世界的に普及してから10年後の1966年には世界の工業製品貿易の伸びは、工業生産高の伸びの2倍、GDPで見た世界経済成長率の2.5倍を記録した。、、経済成長以外の何かが貿易を加速させた。この時期は石油ショックがあり景気は世界的に低迷していたにも関わらず、何かが、、輸送コストの急減が世界経済の統合に大きな役割を果たした可能性を見落とすべきではあるまい
(コンテナ物語より)
韓国と日本の戦略の違い
1990年、韓国は、マッキンゼーのレポートの通り、北米航路に最も近い釜山港に貨物を集中させ、鉄道と直結させました。一方、なぜか日本は真逆の道を行きます。コンテナ港を全国60港に分散させ、港と鉄道を分断させてきました。また、日本海側を通る北米航路から離れた太平洋側の港を「国際戦略港湾」として重視し続けています。釜山以外にも、黄海には世界最大の上海港や2000万TEUを超える天津港、青島港などがあり、規模の経済を追求する国際基幹航路を引き寄せています。果たして貨物量が小さく遠回りとなる太平洋側の港に船は来るのでしょうか?
現実は冷酷で、日本への寄港だけが減少しています。特に最も重要な北米航路の寄港が減り続けています。なぜ、日本が教科書と真逆な戦略をとっているのか?実はよくわかりません。
妄想、「もし日本が教科書通りの戦略をとったなら?」
さまざまな制約があるので今は妄想に過ぎませんが、もし日本が教科書通りの戦略をとると、北米航路に最も近い港に貨物を集中させることになるので、津軽海峡に港を作り貨物を集中させることになります。これが成功すると世界10位以内の取扱量となり、日本の貿易は再び世界に返り咲くかもしれません。また、津軽海峡はアジア・北米・南米を一直線で結ぶ大圏航路上で、ユーラシア大陸を横断する鉄道輸送路「シベリアランドブリッジ」や「中央班列」の分岐点にも当たるので地政学的にも要衝です。そして、もし京浜港の貨物を鉄道で運ぶとしたら、11分間隔で貨物列車を走らせ続ける量になり、並行在来線は線路使用料で相当潤うと予想され、なかなか面白いことになります。
韓国に負けるのは本来おかしい
冷静に考えると日本が韓国に負けるのは異常な状況です。経済規模は日本の方が大きく国内発着貨物も多いですし、地政学的に要衝の津軽海峡を持っていますし、鉄道網・港湾・内航ネットワークが整備されており、鉄道コンテナ輸送も1960年代から始まり先行しており全貨車に海上コンテナを搭載できるツイストロックも装備済です。ロサンゼルス商船三井TraPacターミナルなど、港湾の自動化技術も先行していました。韓国の港はここ30年ほどの投資に過ぎず、過去からの蓄積ではありません。韓国が釜山港を巨大化できたのに、日本はこれができず負け続けているのは一体なぜなのでしょうか?
今はまだ妄想にすぎませんが、日本の物流や貿易が再生するかは、これからの日本の将来に大きく影響すると考えられます。この問題について、一緒に研究・推進いただける方を求めています。ぜひご連絡ください。
この記事は、日本物流学会中部部会の講演から一部を抜粋しています。